SAKANAMONが新たな旅路のはじまりを告げた“東名阪までイッテcue!”ツアーファイナル
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SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
SAKANAMONワンマンツアー “東名阪までイッテcue!” 2017.7.23 渋谷WWW X
「これで良いアルバムが完成したと思います! ありがとう!」
ミニアルバム『cue』のリリースを記念した東名阪ツアーのファイナル・渋谷WWW X公演にて、藤森元生(Vo/Gt)がオーディエンスへそう伝えていたのが印象に残っている。10周年目前、結成9周年のタイミングでレコード会社&事務所を移籍することとなったSAKANAMON。『cue』はバンドに訪れた“転機”をテーマとし、これまでと同じ環境に居たままではできなかったようなトライが含まれていたこと、そして6曲ともすべてSAKANAMONというバンド自身のことを唄っているような内容であることが特徴的だったが、実際に藤森からこのような言葉が出てきたということは、それらを直接ファンに伝えることによって初めて『cue』という作品が意味を持つのだ、という想いがバンドの中にあったということだろう。
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
「練習していたらもうひと味ほしいなと思って」「音源をちゃんと再現したかったから」という理由から曲によってはサポートメンバーも参加、通常の3人編成とは一味違う響きを見せてくれたこの日。『cue』の1曲目である「CATCHY」とリンクするようなSEが流れると、オーディエンスによる手拍子に迎えられるようにして、藤森、森野光晴(Ba)、木村浩大 (Dr)、そしてサポートギターの荒川慎一郎(VELTPUNCH)が登場、「踊るもよし、唄うもよし、何もしなくてもよし! 好きなように楽しんでください!」とそのまま同曲に突入した。途中のブレイクで不意に「かえるのうた」を弾いてみせたものの、おふざけが過ぎたのか、直後の歌詞を飛ばしてしまう藤森。何とも彼らしいこの感じに、フロアから笑いが起き、場内の空気がふっと和らぐ。
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
「幼気な少女」「マジックアワー」と続くなかでとにかく印象的だったのは、客席からの歓声&歌声の凄まじさである。メンバーの見せ場が訪れる度に歓声が起き、それに駆り立てられてか、藤森や森野は何度もお立ち台の上でプレイをし、それを見てまたさらに歓声が起き……という無限ループの中でどんどんボルテージが上がっていくような状態。「マジックアワー」にて「お願いしますぅうう!」と藤森がシンガロングを促した時も、その音量の大きさに驚かされた。バンドにとって再出発のタイミング&久々の東京ワンマンということでオーディエンスの感情が最初から一気に溢れ出したのだろう。それ以外にも例えば、時間差ゼロで互いの熱量が伝わるWWW Xという会場のキャパシティ、オーディエンスの心をすぐさま解くようなメンバーの飾らない性格、このバンドが日本語詞にこだわり続けてきたからこそみんながそれを口ずさめるという事実など、その光景は様々な要素が絡まり合いながら生み出されているもの。“ライブは生き物”とはもはや常套句のように言われている言葉だが、バンドのキャラクターを交差させながらその魔法をもう一度輝かせるような展開に、早くもグッときてしまった。6曲目「君の○○を××したい」を終えたところで一旦3人編成に、ということでここで改めてメンバー紹介。このメンバー紹介はSAKANAMONのライブでは恒例となっているのだが、
森野:カレー大好き→基本的にカレーが好き
木村:ファミチキ大好き→ファミチキ好きだけど最近食べられなくなってきた
藤森:ビール大好き→最近はビールをこのぐらい(数cm)しか飲めないらしい
と加齢に伴う消化器官事情を踏まえた内容に変更されていて、フロアもザワついていた。
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
「かなり懐かしい曲」と紹介された「SAKANAMON THE WORLD」(2011年リリースのミニアルバム『浮遊ギミック』収録)。バンドのマスコットキャラクター・サカなもんの形をしたヘルメットをかぶった藤森が不可解なダンスを披露した「TACHNOMUSIC」。計3曲のイントロのドラムパートを木村が演奏、その中から人気の高かった曲をバンドで演奏する、という流れで披露された「ケセラセラ」(かなりマニアックなクイズなのに、オーディエンスが分かっている様子だったのがすごい)。そして、「渋谷、盛りアガっていけますか!?」(木村)と「アゲッ」のコール&レスポンス(木村曰く、言葉のドッヂボール)を経て突入した「AGEINST」では、ビードを同期に任せ、木村がステージ前方へ躍り出る場面もあった。ここで藤森がまた謎のダンスを踊り、「みんなもやっていいよ」なんて言っていたが、それにオーディエンスが全然応じないのもこのバンドらしくて良い。この日の始めに藤森が投げかけていた「踊るもよし、唄うもよし、何もしなくてもよし!」というのはいろいろなバンドがよく言うことだが、単なる社交辞令ではなく、バンドもオーディエンスも素直な気持ちで楽しんでいるのだということが、こういう場面から伝わってくるものだ。
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
ここまではわりといつも通りだったが、大きな変化があったのはライブ定番曲「TSUMANNE」の最中。ちょっと真面目な話なんですけど、と前置きしつつ、藤森が「結構長いこと(バンドを)やってるけど、いろいろありまして……この曲にはそういうのも込められてるんですよ。(万人に)受け入れられる曲を書いていればいいんだけど、でもそんなんじゃ面白くない!って思いながら書いた曲なんですよね。だからみなさんも我慢を解き放って? いや、振りほどいて? 自分の好きなことをやってみてください!」と語り始めたのだ。インタビューならともかく、曲に込めた想いについて彼がライブでここまで語るのは珍しい。そしてそれに応えるかのように、フロアからの「つまんねぇよ」コールはまた一段と力強くなっていく。
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
森野と出会った当初はお互い人見知りをしていたこと、そこから木村とパンクバンドを組むことになったこと。そのバンドの解散後、宮崎に帰ってニートになろうかと思っていたらこの3人でSAKANAMONを組むことになり、帰郷できなくなったこと。バンド結成までの道のりを振り返りながら、「大きな転機ではあったけど、もちろん解散の危機もあったし、楽しいこともあったし、それまでにもいろいろなことがありました」「2人に出会えたことで、10年後にこんなステージに立つことができました」と藤森は話していた。素直を通り越して捻くれた性格をしているバンドだが、転機&周年目前というタイミングである現在、彼らはその歌を誰に届けるべきか、本当に大切なものが一体何なのか、しっかりと分かっているはずだ。その後、ゲストに飯野桃子(テスラは泣かない。/Key)を迎えた5人編成で届けられたのは、「テヲフル」。<空回りして許りだった 後悔を重ねた今までも/幾つもの喜びが或った 全てが間違いじゃ無かっただろ>というフレーズは、SAKANAMONとその音楽に勇気づけられてきた私たちの9年間を、大きく抱きしめてくれるものだ。
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
「女子!」「男子!」「来年の10周年もライブに来てくれる人!」という藤森の呼びかけにオーディエンスが応えた「TOWER」で本編を終了。アンコールでは11月から『SAKANAMONの9な帰省ですみま10ツアー 』を開催することが発表され、その後の活動に関しても「来年はデッカいところでも……」(藤森)などとほのめかしていた。「今日で(このツアーは)最後ですけど、我々、10周年とはいわず、ずっとライブをやっていきたいと思ってるので! ずっとみなさんと、僕たちが好きな音楽を共有していきたいと思ってます!」と藤森。ぶん投げられたサカなもんが宙を舞うなか、まるで新たな旅のオープニングテーマのように「クダラナインサイド」が炸裂したのだった。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=Taku Fujii
SAKANAMON 撮影=Taku Fujii
2.幼気な少女
3.マジックアワー
4.不明確な正解
5.ヘソマガリアの地底人
6.君の○○を××したい
7.害虫
8.SAKANAMON THE WORLD
9.TACHNOMUSIC
10.ケセラセラ
11.花色の美少女
12.ARTSTAR
13.lyrics
14.AGEINST
15.UTAGE
16.ミュージックプランクトン
17.TSUMANNE
18.テヲフル
19.TOWER
[ENCORE]
20.ハロ
21.クダラナインサイド