新コンビで贈る宝塚王道の二本立て公演! 宝塚花組公演『邪馬台国の風』『Sante !!』
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充実の時を迎えているトップスター明日海りおに、新トップ娘役となった仙名彩世の新たなコンビを中心とした宝塚花組公演古代ロマン『邪馬台国の風』レビュー・ファンタスティ—ク『Sante !!~最高級ワインをあなたに~』が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(27日まで)。
古代ロマン『邪馬台国の風』は、今から約1800年前の古代日本に女王卑弥呼が治める国があったという、その伝承だけが世に広く知られている女王卑弥呼を足掛かりに、想像の翼を広げたオリジナル作品となっている。
【物語】
3世紀半ばの古代日本──日本列島が「倭」と呼ばれ「王」を指導者とする幾つものクニと、クニとの争いが長く続いている時代。クニグニの連合の中心である邪馬台国と、対抗勢力の狗奴国との勢力争いは日増しに激しさを増し、民の苦しみが続いていた。その一人であり狗奴国との戦で両親を失い天涯孤独の身となっていた少年タケヒコ(華優希)は、大陸から渡来してきた李淵(高翔みず希)に助けられ、彼の元で戦術と生きる術を学ぶ。時が経ち、戦術にも長け凛々しい青年に成長したタケヒコ(明日海りお)は、李淵からもう教えることはない、旅立つ時が来たと諭された折も折、狗奴国の将クコチヒコ(芹香斗亜)の率いる兵に李淵を殺され、新たな運命へと足を踏み出す日を迎える。
ある日タケヒコは、やはり狗奴国の兵に襲われていた娘マナ(仙名彩世)を助ける。神の声を聞く霊力を持つマナは、巫女となる為に邪馬台の里に向かう途中で、マナはタケヒコがいつか海を渡り、遠いクニに行くこと、タケヒコと自分は遠い昔に出会い、再び巡り合う日を誓い合っていたと告げる。不思議な運命を感じた二人はたちまちにして惹かれ合うが、マナは自分の霊力を人々が平和な暮らしを取り戻す為に役立てたいと語り、邪馬台の里へと向かう。マナを迎えに来た邪馬台国の兵の長アシラ(鳳月杏)は、タケヒコの優れた武術を認め、邪馬台国の兵となることを勧める。
邪馬台国の平和に尽力することは、亡き両親、李淵、更にマナを守ることにもなると決意したタケヒコは邪馬台国の兵となり、ツブラメ(水美舞斗)フルドリ(柚香光)イサカ(城妃美怜)ら、仲間を得て更に力を発揮するようになる。
ちょうどその頃、倭国連合の中心となる邪馬台国の王が亡くなり、諸王たちは次の王を誰に定めるかを議論するが、我こそがその任に相応しいと自負する奴国の王ヨリヒク(瀬戸かずや)の思惑は諸王の支持を得られず、大巫女(美穂圭子)より、次の大巫女に指名されたマナを、女王卑弥呼として即位させる案が決着する。だが、ヨリヒクはこれに憤慨し、同じように自分こそが女王となるべきだと考える邪馬台国の亡き王の娘アケヒ(花野じゅりあ)の讒言に乗り、狗奴国の王ヒミクコ(星条海斗)に通じ、狗奴国に邪馬台国を攻めさせ、卑弥呼を追い落としその地位にとって代わろうと企てる。
そうした策謀が渦巻いているとは露知らぬまま、マナは女王卑弥呼として即位。その宴の席でタケヒコは初めて新しい女王が、あの日運命の相手だと感じたマナその人だと知る。遠く身分を隔ててしまった二人。だが、互いを想う気持ちは変わらず、二人は禁じられた逢瀬の時を持つ。だがそれこそが、女王卑弥呼の失墜を狙う者たちの計略に他ならず……
古代日本に女王卑弥呼がいたという伝承は、その人となりはもちろん、邪馬台国が日本のどこにあったのかという議論にも決着がついていない、神秘のペールに包まれたものだ。それだけに、女王卑弥呼は常に歴史上の女性の中でも大きな人気を博しているし、ある意味で1つも正解がない、創作のし甲斐のある時代であり、人物だと言えるだろう。
実際、この『邪馬台国の風』でも、髪型や装束を文献に頼らず自由なビジュアルを選択したことにはじまって、どちらかと言えば劇画よりの世界観が、宝塚の男役と娘役を引き立てる要素となっている。これは作・演出の中村暁の賢い選択だったと思うし、少年タケヒコと入れ替わり、青年タケヒコが登場する演出や、女王となった卑弥呼が鏡を手に舞台中央高見に現れる場など、如何にも雅で、古式ゆかしい宝塚ロマンの香りが漂う各場面には、懐かしさも覚えた。
だから、このゆったりした展開が宝塚ならではの「古代ロマン」を目指している故のことなのは十分伝わるのだが、その為にドラマの筋運びも淡々と緩やかなものになっていて、やや時間切れの印象も残る。特に主人公二人が、運命の恋よりも邪馬台国の平安を願うという、崇高な思いに帰結するドラマの、最大の山場であろう邪馬台国と狗奴国との頂上決戦が描かれず、効果音だけの演出になったのはもったいない。
もちろんこれによって舞台上の山場が卑弥呼が日蝕を預言した神秘の場に集約される効果はあったのだが、卑弥呼=マナを守ろうとするタケヒコ、そのタケヒコを守ろうとして倒れた戦友のツブラメ、フルドリ、イサカ、更には最大の脅威であるはずの狗奴国の権威を唱え続けたクコチヒコの死が、ドラマの中でどうしてもあっさりと過ぎていってしまったのが惜しまれる。
もちろんこうした優雅な世界観は宝塚に似つかわしいし、ポスタービジュアルから感じたワクワクした気持ちが、出演者たちが動き出すことで更に増幅されてもいたので、その優雅さを損なわない程度に、舞台機構を利用するなどして、全体をもう少しアップテンポすると、更に見応えのある作品になり得たのではないか。東京公演に際してラストシーンにタケヒコの旅立ちを描くなど、ブラッシュアップされた部分は多々あり、作家の意欲は感じるので、また様々な可能性を掘り下げていって欲しい。
そのポスタービジュアルで、まず見る者を惹きつけたタケヒコの明日海りおは、こと改めて言うことではないかも知れないが、それでも本人からあふれでる「華」に圧倒される。特にプロローグを経て、少年タケヒコからの入れ替わりで、ドラマ部分として初登場した時の明るい笑顔がなんとも爽やかで、物語の展開に期待を抱かせるに十分。登場人物の多くがタケヒコに惹かれていく展開を、ものの見事に納得させる好漢ぶりが際立った。和洋折衷のビジュアルもよく似合い、古代のヒーローに瑞々しい現代性を与える力ともなっていた。
不思議な霊力を持つ少女マナの仙名彩世は、この公演から花組トップ娘役の地位に就いた。大劇場ヒロインデビューが伝説の女王卑弥呼というのは、これまで大人の女性を演じた経験も豊富な仙名にとって与しやすい役柄だったと思うし、事実さすがの位取りと押し出しを見せてくれているが、恐らくこの人が経てきた道程で敢えて封印してきたのだろう少女性が、マナの造形からこぼれ出てきたのが面白かった。必ずしもヒロイン候補ではなかった実力派がこうして大きな地位を得て、更に意外な魅力を発揮していることは喜ばしく、良い披露となったのは何よりのことだ。
狗奴国の将クコチヒコの芹香斗亜は、本人の抜群のプロポーションと、花組の二番手男役として培ってきた存在感ひとつに賭けて、役柄を支えたのが天晴れ。クコチヒコという人物には、個人のドラマと言えるものがほとんど描かれていず、それでいて主人公に対峙する強敵として在ることが求められている、作品の中でも難役中の難役だが、それがかえって、黒装束の美しさと威圧感とで全編を押し切った芹香の自力を改めて感じる場となっていた。大劇場公演としてはこれを最後に宙組に転出することが発表されたが、新天地でも大きな戦力となることだろう。期待したい。
タケヒコの戦友たちの中では、フルドリの柚香光に明るさと柔らかさが増してきたのが目を引いた。元々の個性に鋭さがある怜悧な美貌の持ち主だが、その外見の中に実はある本人の茶目っ気や、少年性に通じる個性が、伸びやかに現れるようになってきているのは、二枚目男役として価値ある成長と言える。芹香転出で更に大きな責任を負うことになるのは必至だから、この変化は組にとっても喜ばしいことだ。
また、ツブラメの水美舞斗は、言葉を発することができないという非常に難しい、だからこそ舞台上で強烈な印象を残せる役柄に巡り合い、存分にスターとしての輝きを発揮しているし、イサカの城妃美怜も男勝りの女兵士が心に秘めるタケヒコへの想いを健気に描き出して見応えがある。アシラの鳳月杏はやはりその存在感で役を大きく見せているし、イサカと同じくタケヒコに想いを寄せるフルヒの桜咲彩花のたおやかさも良い。ツブラメに片思いしているトヨの朝月希和、卑弥呼付の女官イヨの音くり寿、少年タケヒコの華優希など、期待の娘役たちを上手く見せたのをはじめ、羽立光来、優波慧、綺城ひか理、矢吹世奈、等、歌える人が歌い、踊れる人が踊る中村の目配りはなかなかに周到だ。
敵方としては奴王ヨリヒクの瀬戸かずや、アケヒの花野じゅりあに、何故卑弥呼に敵対するかがわかりやすい理由が、きちんと描かれているのが好走してインパクトがあるし、大巫女の美穂圭子、狗奴王ヒミクコの星条海斗の専科勢はびっくりするほど贅沢な起用法で、作品の濃いアクセントとなっている。いつもながらの天真みちるの芸達者ぶりも楽しめるし、この公演が退団公演となる夕霧らい、梅咲衣舞の、花組の貴重な人材を大切に扱っているのにも好感が持てた。
全体に、神の声、予知、盟神探湯の儀式など、古代ならではのしつらえのそれぞれは印象的で、宝塚ならではの世界観が描かれている舞台だった。
そんな雅で緩やかな世界から一転、「ワインを飲んでみる数々の夢」をテーマに繰り広げられる華やかなレビュー、レビュー・ファンタスティ—ク『Sante !!~最高級ワインをあなたに~』は藤井大介の作。ワインの香り、更にシャンパンの泡が弾けるような、ちょっと大人で、畳みかける怒涛のスピード感あふれるレビューになっている。
特に、「ボルドーの5大ワイン」と称して、芹香、柚香、瀬戸、鳳月、水美が女役で登場する冒頭から、藤井好みの世界が炸裂。観客と「Sante !!」という客席下りも含んだ賑やかなシーンから、明日海、仙名を筆頭に、花男、花娘と称される、こだわりの美学が詰まった花組ならではの場面が立て続き、もうすべてがあっという間。あまりに盛りだくさんで目が足りないという気持ちにさせられる贅沢感が良い。
中でも、美穂のエディット・ピアフと星条のマルセル・セルダンという専科メンバーのこれぞ!というシーンが用意されていたり、瀬戸と、女性役に回った水美に、和海しゅうという贅沢な「オペラ座」の1場面など、アクセントを挟みつつ、明日海の出番もたっぷりという構成が良くできていて、宝塚を花組を長く観ている人ならば、涙を禁じえないだろう「乾杯」による大階段のダンスも美しく揃い、新トップコンビのデュエットダンスまで、「これぞ花組!」を感じさせる充実したレビューとなっている。
初日を前に囲み取材が行われ、花組トップコンビ明日海りおと仙名彩世が記者の質問に答えて公演への抱負を語った。
まず明日海が「今日はお忙しい中お集まりくださいましてまして、ありがとうございます。本当に暑い中の公演になりますが体調に気をつけて、心して頑張りたいと思います。よろしくお願いします」と挨拶。
続いて仙名が「本日はお集まり頂きまして、ありがとうございます。東京の皆様に楽しんで頂けるように精一杯頑張っていきたいと思います」
と述べて、それぞれが公演への想いを語った。
その中で、作品の見どころは?との質問に、「お芝居は東京にくるにあたりおのおのブラッシュアップを重ねて、立ち廻りやお芝居も、より楽しんで頂けるものになっているのでは」と明日海が語ると、仙名も「セットや曲やお衣装や全て揃うととても神聖な感じがして想像を膨らませている」と、更なる意気込みを感じさせる力強い言葉が聞かれた。
またショーは、「花組ならではの熱いショー、藤井大介先生ならではのチョイワルという感じのショーです」と明日海が表現すると、仙名も「明日海さんもおっしゃった通りちょいワルな感じもする、てもゴージャスでオシャレなショーです」と言葉を揃え、早くもコンビとしての息があった回答となった。
更に、どんなトップコンビになっていきたかという問いには、「こういうトップコンビになりたいです!、と言ってしまうと、それにしかなれないような気がするので、作品ごとにお客様に新鮮に映るようなトップコンビでいたいです」と語った明日海が「あ…言っちゃいましたね」と思わず言って、場の笑いを誘うなど終始和やかな雰囲気の会見で、新たな花組トップコンビに対する期待の高まる時間となっていた。
尚、囲み取材の詳細は舞台写真の別カットと共に、9月9日発売の「えんぶ」10月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!
【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】