如月小春のCDアルバム『都会の生活』を題材に、ダンサー・森下真樹が宮崎の演劇人たちと創作
森下真樹 写真提供:宮崎県立芸術劇場
(公財)宮崎県立芸術劇場が2016年にスタートさせた「トライアル・シアター」。気鋭の演出家、振付家、音楽家が宮崎に滞在し、一般参加の出演者らと約1週間の創作期間で舞台作品を作り上げる企画だ。テキスト(台本)を用いながらパフォーミングアーツ(舞台芸術)という視点に立って、新たな表現にトライ(挑戦)するとのコンセプトで、昨年は唐十郎の『改訂の巻「秘密の花園」』をもとに、 FUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介が演出を手がけた。今年は、ダンサーの森下真樹が構成・振付・演出を担当する。
題材は2000年に44歳で急逝した劇作・演出家で劇団「NOISE」を主宰していた如月小春で、テキストとして取り上げるは、如月が高橋悠治、坂本龍一、高橋鮎生、近藤達郎、伊東信介、清水一登らのミュージシャンたちとリリースしたアブストラクト(抽象的)な楽曲が並ぶCDアルバム「都会の生活」だ。また、戯曲『MORAL』も一部抜粋して使用する。
劇場の担当者はこのセレクトの理由を「森下さんとの打合せのなかで、テキストを戯曲に限定するのではなく、“ことば”としてとらえることで、テキストと身体表現の可能性を探ることになった。また、如月小春さんを宮崎の人たちに紹介するにあたって、劇作家、演出家としての姿はもちろん、音楽にも造けいが深く、ジャンルを超えた活動をなさっていたことを知ってほしいという思いもあった」と語る。都市に暮らし、都会の生活のあるがままをクールに見つめた如月は、演劇の枠を飛び越えて音楽や美術、映像にその活動の枠をひろげ、またエッセイスト、司会者、コメンテーター、パーソナリティとしても活躍。晩年は文化・教育への政策提言や「アジア女性演劇会議」にもかかわった。まさに生き急いだ時代の寵児だった。詳しい話を森下から聞いた。
『都会の生活』稽古の様子 写真提供:宮崎県立芸術劇場
「このままでいいのか?!」と聞こえてくる如月さんの悲鳴と、いまを生きる出演者や私との接点を探る。
ーー森下さんはもともと九州出身でいらっしゃいますよね。宮崎県立芸術劇場からのオファーということで、なにかDNAがうずくことはありましたか?
森下 九州の中では唯一行ったことのないところだったので「やったー!」と声に出してしまいました。私は本籍は熊本、出生地は大分で(でも九州には住んだことは無いのですが…)宮崎は隣の県ですが、なかなかこれまでに上陸するチャンスがありませんでした。近くて遠いというイメージがありました。でも、宮崎に通っているうちに、熊本まで来たのならついでに足をのばして宮崎へ行ってみよう……と、もうすでにご近所な感覚になっています。きっとこの舞台が終わってもまた遊びに来るでしょう!
ーー如月小春さんのCDアルバム『都会の生活』を劇場側から題材にと提案されたそうですね。森下さんは、如月さんの作品に直接触れる機会はありましたか。『都会の生活』から感じる如月小春像を感じることはありましたか?
森下 CDアルバム『都会の生活』を聴いて、この時代(80年代半ば)に、きっと新しい風を吹かせたんだろうなと感じさせる、とんがっているけど、どこか懐かしいような気持ちになりました。坂本龍一さんや高橋悠治さんらが作曲、如月小春さんご自身が作詞やボーカルをされています。いろいろなアーティストと接点を持ち、演劇の表現にとどまらない幅広い表現をされていたことがとても興味深いです。私もジャンルにとらわれずさまざまなアーティストとのコラボレーションに挑戦していますし、この先もしていきたいと思っています。そして私もCDアルバム出しています、ボーカルやってます、locolocodeというバンドで……(笑)。演劇や音楽やダンスや……あらゆるものをつかって表現されていたというところでは共通するところがあるかもしれません。このアルバムが出たころ私は10歳前後で、残念ながらリアルタイムで如月小春さんの作品や活動を肌で感じることができませんでした。
ーーこのCDの音楽であり言葉から感じられるものをどう舞台化しようと考えていらっしゃいますか。またどんな作品が立ち上がってきそうな気がしていますか?
森下 「このままでいいのか?! 何かわからないけど、何か間違っている! 心が引き裂かれる思いがする!」という如月さんの悲鳴が聞こえてきます。葛藤や焦燥感や違和感を燃料に作品がつくられていると感じます。どの時代にも、時代や社会へ向けての違和感を表現している表現者がいると思いますが、如月さんもそのひとりだと思います。そこで如月小春さんの作品と、いまを生きる出演者や私との接点はどこにあるのかを探しています。如月さんの言葉にならない声のようなものだったり、言葉にはおさまらない言葉や、もどかしいカラダや、まとわりつく気配のようなものと、今の私たちを照らし合わせ、見えてくるものは何なのか?
『都会の生活』稽古の様子 写真提供:宮崎県立芸術劇場
『都会の生活』稽古の様子 写真提供:宮崎県立芸術劇場
15人の出演者が届ける、「これでいいの? 何か忘れていない!」の“何か”
ーープレ稽古で感じた出演者のみなさんの印象を教えてください。
森下 どんな無茶ブリをしても、「それはできません」と言う前に「やってみます!」と動じず積極的で、その前のめりな姿勢に毎回感心しています。また、「こんなオトナもいるんだ、ひとそれぞれの表現があっていいんだ……」と思わせてくれるムードメーカー的存在の年配のオトナたちがハッチャケている姿が印象的で、それに引っ張られ、引っ張っていってくれる若者たちのパワーも凄いです!
ーー劇場のシーズンテーマとして「呼吸をととのえる」が掲げられていますが、森下さんは、どのように解釈しますか?
森下 イライラしているひとが多いなぁ、と最近周りを見て感じます。もちろん私自身も。もしかしたら呼吸が止まっているかも?と思うくらい力が入っていたりします。如月小春さんからも「これでいいの? 何か忘れていることない?」と言われているような気がします。一度立ち止まって深呼吸をしたいものです。
『都会の生活』稽古の様子 写真提供:宮崎県立芸術劇場
『都会の生活』稽古の様子 写真提供:宮崎県立芸術劇場
ーー最後に意気込みをお願いします。
森下 15人15様の出演者の好奇心と勇気に感謝しています。全員が同じところを目指して全力になっている姿に心打たれます。「これでいいの? 何か忘れていない!」の「何か」を15人が感じさせてくれるのではないかと思っています。「何か」を肌で感じていただけると幸いです。ぜひご覧ください!
『都会の生活』稽古の様子 写真提供:宮崎県立芸術劇場
《森下真樹》本籍熊本、出生地大分。幼少期に転勤族に育ち、転校先の友達づくりで開発した遊びがダンスのルーツ。これまでに10か国30都市以上でソロ作品を上演。長塚圭史演出作品の振付や矢野顕子(yanokami)ライブ出演、漫画家・しりあがり寿や作家・大宮エリーなどさまざまな分野のアーティストとコラボレーションをし活動の場を広げる。また「100人100様」をモットーに全国各地にて幅広い世代へ向けたワークショップも盛んに行う。周囲を一気に巻き込み、独特な「間」からくる予測不可能、奇想天外な動きで展開されるユニークでパワフルなワールドが特徴。2013年、現代美術家束芋との作品『錆からでた実』を青山円形劇場にて発表し、第8回日本ダンスフォーラム賞を受賞。2015年度より(公財)セゾン文化財団シニア・フェロー。
取材・文=いまいこういち
■日時:8月26日(土)19:00・8月27日(日)14:00 ※27日(日)は完売
■会場:メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)演劇ホール舞台上舞台
■原作:如月小春
■構成・振付・演出:森下真樹
■出演:
大谷憲史 小倉鉄夫 片山敦郎 (FLAG/富む平原) 片山優花 川越彩子 久保田杏海(FLAG) 黒田吉郎
佐田麻佑花 島田理央(みやざき演劇若手の会) 進藤綾乃 (みやざき演劇若手の会) 平真子(宮崎公立大学演劇部) 林田真依(みやざき演劇若手の会) 松山章子 宮本日温 吉田達哉 (宮崎大宮高校演劇部)
■料金【全席自由】一般1,500円/当日2,000円、U25割1,000円 ※未就学児入場不可
※27日(日)は終演後にアフタートークあり
■問合せ:公益財団法人宮崎県立芸術劇場 Tel.0985-28-3208
■メディキット県民文化センター公式サイト http://www.miyazaki-ac.jp/