設立10周年ツアー中の「マームとジプシー」の藤田貴大が大阪で会見
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マームとジプシー『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと――』(過去公演より) ©橋本倫史
「“演劇はこういう風に新しくなっている”ということを見せたいです」
次世代の日本演劇シーンを担う存在として注目される、作・演出家の藤田貴大が主宰する演劇集団「マームとジプシー」が、現在設立10周年を記念した全国ツアーを行っている。2012年に「第56回岸田國士戯曲賞」を受賞した作品を再編集した『ΛΛΛ(ラムダラムダラムダ) かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと──』を始めとする数作品を持っていき、観客に好きな作品を選んで(あるいは全部)見てもらうという趣向になっている。そのツアーの最中に、藤田が公演最終地となる関西で会見を実施。今回伊丹で上演する作品や自らの作風に加え、戯曲賞受賞から来るプレッシャーをいかに解消したかなど、様々な話が飛び出した。
※参考記事→結成10周年を記念して全国ツアーをおこなうマームとジプシー主宰・藤田貴大にインタビュー
藤田貴大(マームとジプシー) [撮影]吉永美和子
全エリアで上演する『ΛΛΛ』は、岸田國士戯曲賞を受賞した『帰りの合図、』『待ってた食卓、』に別作品を加えて再編集し、2014年に上演した作品。藤田の記憶をモチーフに、家や家族について言及した内容だ。
「僕は北海道出身と言ってますが、生まれたのは群馬で、その群馬の祖母の家が区画整理で取り壊された記憶をモチーフにしました。震災のあった2011年以降“帰る”という言葉の意味合いが変わったと思うのですが、実際に“帰る場所がなくなる”というのはどういうことだろう? ということを、基礎だけになった家を見て思い描いた作品です。今まで“家”というモチーフはいろんな形で挑戦してきましたが、(一作品だけの中で)満足して語れたことが実はないという気がしていて。もっと深く考えたかったことを、今の自分たちのポテンシャルで再編集するとどうなるか? ということで、今回取り組みました」
あわせて上演する『あっこのはなし』(北九州では上演なし)は、ある女優が演劇活動を辞めていた時期を元にした物語だ。藤田が30歳になった時に、30代女性のリアルなエピソードを織り交ぜる形で、他の作品とは全く違うモードで作り直したという。自らの地元にいた18歳までの記憶や、20代の時間をモチーフにすることが多かった藤田にとっては、新たな挑戦とも言える一作だ。
「彼女が大学卒業後に一回演劇を辞めて、実家に帰って一年ぐらいそこで悶々と暮らして、また演劇を志すまでの話です。20代まではノスタルジーと言われてもしょうがないことをやっていたけど、これは現代の30代のリアリティを描いた作品。その世代の独身女性ならではの悩みを、ずっとクチャクチャしゃべってるという感じです。タイトルに句読点が打たれる……「あっ、このはなし」「あっこのは、なし」など、点が動くことでプロットが組まれるという仕掛け。僕も30代になって、どんどん子どもの頃の記憶が遠くなってきたので、多分これからの新作はそういう(思い出を描く)風には書かないだろうなあと思います」
マームとジプシー『あっこのはなし』(過去公演より) ©橋本倫史
首都圏では、演劇好きの人はほとんど観ているであろうマームとジプシーだが、関西では番外的かつ突発的な企画が多いこともあってか「ツイッターを見ると、3ヶ月に1回は絶対誰かが『マームは関西に来てくれない』とつぶやいている(苦笑)」というほど、まだレアな感じが否めない。そこで改めて、藤田作品の大きな特徴である「リフレイン」が生まれたきっかけと、その狙いについて語ってもらった。
「稽古中に同じ所を執拗にリピートしたら、ある女優が泣き始めて。それを見て、演技を繰り返したことで感情が助長されたんじゃないかと思ったのが、リフレインが生まれたきっかけです。ただ後で聞いたら、その女優は本当に稽古が辛くて泣いただけだったんですが(笑)。あとは舞台俳優の演技が、繰り返されることで良くなっていくということを、観客にも見せたくなったんです。稽古場で繰り返し作っていくことでシーンが成立していく感動ってやっぱりあるし、何回か演じてもらったことで、やっと自分で自分が書いたことの意味がわかったりすることもありますから。従来の演劇だと、観客は繰り返しの最終地点を観るだけだけど、その繰り返しの始めから終わりまでを生で観て、(リフレインごとに)感情の出方が違ってくるのを観察してもらうのは、演劇でしかできない表現じゃないかな、と。ただ表現のスタイルはちょっと現代的かもしれないけど、扱っているテーマは家族とかの結構普遍的な、どの世代でも見られるようなものだと思っています」
北九州・豊橋で上演する、マームとジプシー『クラゲノココロ モモノパノラマ ヒダリメノヒダ』(過去公演より) ©三田村亮
ここ最近は、芥川賞作家の川上未映子やミュージシャンの大友良英など、演劇以外の才能とコラボした作品が目立つ藤田。それは同時に「岸田國士戯曲賞後は、実はめっちゃ追い込まれた」という自分の創作活動を今一度見直し、新たな道を見つけ出すきっかけになったという。
「受賞自体はもちろん感謝しているんですけど、それまでの自分の言葉はもう多分みんな楽しんだんじゃないかなという気分になったんです。“そこまでのことは評価したから、次のを見せてよ”という感じ。もっと自分が熟成した時に取っても良かったんじゃないかと、その時に人生は途方もなく長いと思いました(笑)。でもそこで自分でもカンが良かったと思うのは、自分の言葉じゃない言葉と出会おうとしたことです。自分の作品だけを強化するんじゃなくて、いろんな他ジャンルとのコラボレーションに費やすことで“あ、こういう書き方もできる”などの様々なことを、制作面も含めて学んでいって。演劇でやれることを外側から増やしていったことで、それでまた(演劇が)楽しくなってきたというのはあります」
マームとジプシー『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと――』(過去公演より) ©井上佐由紀
10周年以降の活動について「いろんな人のいろんなジャンルとやれることが演劇の強みだと思うので、これからの10年はそれを吸収しながら自分の言葉を強めていきたい。今は自分の言葉じゃない所から、また自分の言葉に戻ってきたという感じがあります」と語った藤田。一風変わった演技スタイルに大きな刺激を受けると同時に、繰り返しの果てから浮かんでくる遠く切ない記憶(あるいは現代的かつ等身大の悩み)の話は、忘れていたはずの過去と、この瞬間も“過去”に変換されていく“今”を愛しく思う、一つのきっかけとなるに違いない。
取材・文=吉永美和子
■演目:
Ⅰ『クラゲノココロ モモノパノラマ ヒダリメノヒダ』
Ⅱ『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと――』
Ⅲ『夜、さよなら 夜が明けないまま、朝 Kと真夜中のほとりで』
Ⅳ『あっこのはなし』
<北九州公演>
■日程:2017年9月2日(土)・3日(日)
■会場:北九州芸術劇場 小劇場
※2日マチネは「Ⅰ」、その他は「Ⅱ」を上演。
■日程:2017年9月8日(金)~10日(日)
■会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
※8日は「Ⅰ」、9日マチネは「Ⅱ」、9日ソワレは「Ⅳ」、10日は「Ⅲ」を上演。
■日程:2017年9月13日(水)・16日(土)・17日(日)
■会場:AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
※13日は「Ⅳ」、その他は「Ⅱ」を上演。
■作・演出:藤田貴大
■公演特設サイト:https://www.10th-mum.com/