森麻季はじめ豪華キャスト出演オペラ『ポッペアの戴冠』記者会見レポート~美しいバロック音楽に脈打つ熱い血潮を感じて欲しい

2017.9.15
レポート
クラシック

歌劇『ポッペアの戴冠』

荘厳なバロック音楽の中に息づく生き生きとしたドラマ、時にドロドロした人間の熱い血潮。モンテヴェルディが作り上げたバロックオペラの傑作『ポッペアの戴冠』が、11月に東京と神奈川にて演奏会形式で行われる。森麻季主演、鈴木優人指揮、バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏で贈るこの会について、9月13日(水)に都内にて記者会見が行われた。

出席したのは、鈴木優人(指揮)、森麻季(ポッペア)、波多野睦美(オッターヴィア)、森谷真理(ドゥルジッラ)、藤木大地(アルナルタ・乳母)、櫻田亮(ルカーノ)、小林沙羅(アモーレ)、田尾下哲(舞台構成)の8名。

本作は、W不倫の果ての観客唖然、勧悪懲善を描いた物語。武将オットーネの妻ポッペアは、夫の不在中に皇帝ネローネと愛し合うようになる。それを知ったオットーネと皇后オッターヴィアは、苦悩の末ポッペアを殺そうとするが、それが皇帝にばれ、二人は追放される。ポッペアは新しい妃となり、ネローネとポッペアの喜びの二重唱で幕となる…といういささかとんでもない話。

女主人公のモデルは、古代ローマに実在した女性ポッペア・サビナで、彼女は皇帝ネロ(オペラではネローネ)の妃となる野望を抱き、その邪魔になった皇后オッターヴィアと自分の夫オト(オペラではオットーネ)を追放させた極悪女…とも言われている。

会見では、そんなポッペアを演じる森が「(史実はともかく、このオペラでは)ポッペアは、自分の愛を遂げるために誰かを殺そうとしたり、策略にはめて自分の欲望を貫こうとは決してしていません。愛の神様の力を信じ、自分の命も顧みず愛を選んだ。ポッペアが本当の愛をネローネに捧げたからこそ、ネローネもそれに応えたいと思ってくれたのかなと。」と、“純愛”を読み解く。

森麻季

指揮の鈴木も「ポッペアは、そこにいるだけで人殺しの策略が周囲で起こり、妬みが渦巻いていく人物です。しかし本人は、本当に天真爛漫で輝き続けていた。そういう観点から、森さんがさらに自分のものとしたポッペア像を、私も楽しみにしています」と、言葉を寄せた。また鈴木は、この公演を前にヴェネツィアにあるモンテヴェルディの墓を訪れたことも明かした。

鈴木優人

歌劇『ポッペアの戴冠』

バロックの音楽といえば、形式にのっとった美しく荘厳なイメージだが、実はとても生き生きとした人間の感情やドラマにあふれている、と出演者たちは口を揃える。悲運の皇后オッターヴィアを演じるメゾソプラノの波多野は語る。「オッターヴィアの最初のアリアが『絶望のアリア』、最後に歌うのが『さらばローマ』と別れを告げるアリアで、どちらも救いや楽しい部分は一切ないです。それでも、私はオペラの作曲家の中で、モンテヴェルディが一番好きです。(彼のオペラには)血が通っていて、全員が一瞬一瞬を生きているので、見る方は(登場人物の)誰かに自分を投影する瞬間がたくさんあるオペラだと思います」

波多野睦美

またネローネの友人ルカーノは、ネローネがセネカという忠臣を殺すことに成功した時「ついにセネカは死んだ!」という非常に不謹慎な喜びのアリアを歌う。そんなルカーノを含む数役をこなす櫻田は、「(演出によってネローネとルカーノは)単なるお友達ではない、もっと深い関係として描かれるパターンもあります。今回、演出構成を手掛ける田尾下さんがルカーノ役をどのように料理されるのか、楽しみです」と期待を寄せていた。

櫻田亮

ヨーロッパで、本作のほかに現存するモンテヴェルディの二つのオペラ『ウリッセの帰還』『オルフェオ』にも出演し、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)との共演も数多く務め高い評価を得ている櫻田。モンテヴェルディの作品について「現代にも通用するようなドラマを内包した音楽だと思います。そういったものにすごく感動し、演奏家として、演奏するたびに豊かな時間を過ごすことのできる作曲家の一人です」とその魅力を語った。

モーツァルトのオペラ『魔笛』の夜の女王役で世界中のオペラハウスを席捲した森谷も、バロックオペラの全幕公演には初挑戦だが、「バロック音楽というのは時にロマン派のオペラよりもより生々しく人間の感情や人間模様が表現されている」、同じくバロックオペラ全幕公演は初めてとなる小林も「バロックは思っていたイメージよりもっと生き生きして人間らしくて、おもしろいなと感じました」と、それぞれ印象を抱いたという。

森谷真理

小林沙羅

指揮の鈴木によると、このオペラには25以上の役があり、作曲された当時から出演者が一人でいくつもの役を兼任し歌っていたそうだ。カウンターテナーの藤木は、なんとポッペアの乳母アルナルタとオッターヴィアの乳母の二役を演じる。「楽譜を見ると、アルナルタの出番が終わって(ページを)めくったら、もう(オッターヴィアの)乳母が出てくるんです。田尾下さんはこれをどうするんだろうと…。どんなアイディアが飛び出すんだろうと思っています」今回も、役の演じ分けが注目ポイントになりそうだ。

藤木大地

舞台構成について、田尾下は「師匠のミヒャエル・ハンペ(ドイツのオペラ演出家)に教えられたオペラの演出で大切なことは、指揮者との良いコラボレーション。とことん指揮者に教えてもらい、ちゃんと耳を澄まし、ちゃんと勉強してドラマに活かす。今回は、ストレートフォワードにやりたいと思っています。表現としては、真実、ドラマを求めたい。そして、音楽に寄り添いたい。最後の『Pur ti miro』(ポッペアとネローネの愛の二重)をどんな風にお客様に届けたいのか、逆算して作っていきたいと思います」と構想を明かした。

田尾下哲

演奏するバッハ・コレギウム・ジャパンは、国内・海外から一流のコンティヌオ奏者を集め、満を持して今回の公演を迎える。美しい古楽器の調べと、歌手たちの美声に込められた生々しい人間ドラマと、熱い思い。ぜひ、コンサート会場で体験してみて欲しい。

取材・文=月島ゆみ、撮影=M.T

公演情報
モンテヴェルディ:歌劇『ポッペアの戴冠』(演奏会形式)​

■日時・会場:
2017年11月23日(木・祝) 東京オペラシティ コンサートホール   
2017年11月25日(土) 神奈川県立音楽堂

■出演:森麻季(ポッペア)、波多野睦美(オッターヴィア)、森谷真理(ドゥルジッラ)、藤木大地(アルナルタ・乳母)、櫻田亮(ルカーノ)、小林沙羅(アモーレ)ほか

■指揮:鈴木優人
■舞台構成:田尾下哲
■『ポッペアの戴冠』特設サイト:http://www.japanarts.co.jp/poppea_special/