ハッピーな魔法をにじませる高速会話劇~『ミッドナイト・イン・バリ~史上最悪の結婚前夜~』観劇記

2017.9.19
レポート
舞台


結婚式前夜。マリッジブルーよりももっと切羽詰まった感情が渦巻くこの究極のタイミングに、新婦の新郎への不満が熱を帯び、親たちも巻き込んで壮絶な言い合いを繰り広げる-。現在NHKで放送中の連続テレビ小説「ひよっこ」も手掛ける岡田惠和が脚本を書き下ろした舞台『ミッドナイト・イン・バリ~史上最悪の結婚前夜~』が東京・日比谷のシアタークリエで開幕。ジェットコースターのような高速会話劇の中に、心にじんわり染みわたるようなハッピーな魔法をにじませて、人生の不可思議さに思わず微笑みが漏れる作品に仕上がっていた。演出は『白夜行』『神様のカルテ』などで知られる映画監督の深川栄洋。

舞台は、結婚式を挙げるバリ島のコテージの一室。楽園のバリなのに、外は暴風雨。新婦の加賀美幸子(栗山千明)は、母の敏子(浅田美代子)や新郎の木暮治(溝端淳平)とともに、遅れて到着する治の父、久男(中村雅俊)を待っていた。しかし、幸子は小説家を目指している治への不満や、自分への不安で不機嫌モード。攻撃的に当たり散らし、別室で寝ていた敏子も起き出して来て、そもそも反対だったこの結婚をやめさせようとし始め、治は防戦一方だ。この雰囲気を一変させるだけの能天気さを持った久男の到着で事態は好転するかと思われたが、久男と敏子の何十年も前の意外すぎるつながりが分かって、ますます複雑に絡まり合ってしまう。まるで修羅場だが、会話の応酬が生む不思議な引力によって物語は若いふたりの心の深層にまでたどり着き、親同士の未来にまで粋な贈り物をもたらす。

人生の機微を感じさせるせりふの数々は、多くのドラマで「会話劇の達人」との評価を高めてきた岡田の面目躍如の筆さばきの賜物。深川の演出も、登場人物同士が互いの熱を上げていく演劇ならではのリアルな感情の交換が鮮やかだ。

栗山は、感情が制御できない幸子の苦悩と、本当は誰よりも優しい幸子の心根を説得力を持って感じさせるだけの表現力に満ちている。溝端は一見弱気なように見せて、その実包容力の大きさを持つ治のキャラクター造型が秀逸。中村が「陽」のオーラを発散する中に、本当の思いやりとは何かを問い続けてきた久男の男としての魅力を充満させれば、浅田は人生を問い直すかのような一夜を経験して、着実に成長していく敏子の可愛らしさを感じさせ、いずれもキャリアに裏付けられた演技を見せた。音楽劇ではないものの、4人の歌声やダンスが楽しめるのもちょっと得した気分になる。

ピアノ、ギター、パーカッションからなる楽隊がシーンごとに様々な音楽を奏で、千々に乱れていく舞台上の人々の心情を彩っていく。舞台上部にしつらえられた3体の人形が楽しげに体を揺らすのも、まるで運命をつかさどるバリの神様が人間たちのほほえましい営みを祝福しているようで、おしゃれな仕掛けだった。

文/エンタメ批評家・阪清和

公演情報
『ミッドナイト・イン・バリ~史上最悪の結婚前夜~』
 
■日程・会場
9月15日(金)~9月29日(金)東京 シアタークリエ
10月03日(火)静岡 富士市文化会館 ロゼシアター 
10月05日(木)愛知 愛知県芸術劇場 
10月07日(土)~08日(日)大阪 サンケイホールブリーゼ
10月10日(火)福岡 久留米シティプラザ 
10月12日(木)鹿児島 鹿児島市民文化ホール第2 
10月14日(土)山口 ルネッサながと
10月17日(火)岡山 岡山市民会館
10月19日(木)愛知 豊川市文化会館
10月22日(日)新潟 りゅーとぴあ
10月24日(火)岩手 岩手県民会館
10月29日(日)千葉 印西市文化ホール
10月31日(火)~11月01日(水)金沢 北國新聞赤羽ホール
 
■脚本:岡田惠和
■演出:深川栄洋
■音楽・演奏:荻野清子

■出演:栗山千明 溝端淳平 浅田美代子 中村雅俊 
ピアノ=荻野清子 ギター=阿部寛 パーカッション=藤井珠緒 
 

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