潟(ラグーン)を舞台の芸術祭に行ってきた
新潟市では、今年で3回目となる「水と土の芸術祭」が開催中だ。
新潟市は日本一の長さを誇る信濃川、さらに日本一の河川水流量の阿賀野川の二大河川を有する古くからの港町で、日本一の米どころでもある。肥沃な大地ではあるが、ひとびとは古来よりその河川の氾濫に立ち向かい、かつ共存し続けてきた。今回の芸術祭は、その名の通り「水」と「土」の象徴である「潟」をメインの会場として展開されている。
潟というのは、「新潟」という地名が示すように市内にある4つの潟(福島潟、鳥屋野潟、佐潟、上堰潟)だ。それぞれ成因は異なるが、福島潟が天然記念物オオヒシクイの日本一の越冬地であるなど、貴重な湿地帯として保たれている。
佐潟ではアトリエ・ワン、福島潟ではドット・アーキテクツ、といったように建築家とのプロジェクトが潟のほとりで行われている。
海抜0mの福島潟
野鳥が多数飛来する
《潟の浮橋》 ドットアーキテクツ(家成俊勝+赤代武志+土井亘)
コサギが夕方帰巣している
地平線への日没とともに野鳥が潟の巣へ帰っていく
《つぎつぎきんつぎ》(2009) 岸本真之
前回でも亀田の浄水場跡地で発表した作品が清五郎潟横の天寿園へ移設されている。
《BOAT HOUSE DOCK YARD [船の家 造船所]》サテライト 日比野克彦
《清五郎さん》宮内由梨
宮内由梨の《清五郎さん》は、潟の伝説になぞらえ、お六さんが清五郎を潟のどこかにいないか探す姿だ。
今回の芸術祭のベースキャンプとして、昨年まで現役だった市内の旧二葉中学校が使われている。
実はこの中学校の中の作品に《清五郎さん》がつながっていて、伸びていった首がベースキャンプの一室に現れている。
《WHERE HAVE YOU GONE?》宮内由梨
首を伸ばして清五郎さんを探していたお六が見たのは、暗く瞬く、かつて金属加工で栄えた新潟の産業の空間だ。場所をまたいでの作品は、潟そのものが持つ自然と人々の生業の連関を想起させ、また芸術祭としての醍醐味のひとつでもある。
《11 Brides》丸山純子×深沢アート研究所緑化研究室 カブ
《培養都市 COLONY》吉原悠博
東京で使われている電力は実は新潟からも賄われていることを、送電線を追う映像作品で示している。
《原生―立つ土》関根哲男
潟とベースキャンプのほかにも、芸術祭の見どころは市民プロジェクトが活発で多数ある。
白根アートプロジェクト KiKiKo
古い町家で水引が風にたなびき、西陽が差し込む。
《生まれたての時間》飯沢康輔
《その土地の記憶を汲む》吉野祥太郎
味方アートプロジェクト《太陽をさがす》小原典子
近辺に繁殖する40種の「昆虫」が倉庫の中で多様な色に明滅する。
《信濃川》南条嘉毅(水と土の芸術祭2012展示作品の再構成展示)
《縞あかり》鈴木泰人
内野 新川ほたる(8月15日までで終了)
東京から新幹線でおよそ2時間の新潟市、1泊2日でもメイン会場はゆったり回ることができる。芸術祭の移動手段としては、古町「NEXT21」からツアーバスやシャトル便も出ている。乗車するにはガイドブック(500円で販売)が必要。ただし、それぞれ会場が離れているためすべて効率よく見て回るには、乗用車の活用が必須だ。残暑の季節の熱中症対策や虫よけ対策も万全にしたい。
これから初秋にかけて、自然とともにうつりゆく潟の風景、そして市民プロジェクトの醸成も進んでいく。
佐潟から上堰潟に移動していく「潟るカフェ」も予約して、食の文化も合わせて楽しみたい。
水と土の芸術祭は10月12日まで、作品の観覧は全て無料。