人ってさぁ…の「…」を問いかける~濱田めぐみが語る、『メンフィス』とは

インタビュー
舞台
2017.11.19
濱田めぐみ (撮影:中田智章)

濱田めぐみ (撮影:中田智章)


ミュージカル『メンフィス』が新演出で2年ぶりに上演される。1950年代、テネシー州メンフィスで黒人音楽を愛した白人DJヒューイ・カルフーンと、彼と恋に落ちた黒人歌手フェリシアの物語だ。初演に引き続きフェリシアを演じるのは、濱田めぐみ。彼女に話を聞いた。

-- 初演を拝見して、めぐさんはソウルフルな雰囲気がフェリシアに似合うなぁと驚きました。

舞台稽古でメイクをしたら、共演キャストに「すごく似合う!」と大絶賛されましたね。吉原光夫さんが「めぐ、いいよ!」って。『デスノート』でレムを演じてわかったのは、白いメイクって少し塗るだけで真っ白に見えるんです。塗りすぎると濃淡がなくなる。なので、白は肌の色が透けるくらい、ちょんちょんと乗せるだけで十分なんです。その点、フェリシアのメイクは塩梅が難しくて。ミュージカル『ビューティフル』のような黒人役が出るミュージカルを見ても、舞台上で見ると光で飛ぶなぁとか……そういう視点で見ていました(笑)。パッと見て黒人とわかるメイクが、今回の『メンフィス』での課題のひとつかな、と。

-- 前回、フェリシア役を演られて、気づきや変化はありましたか。

その時代の女性たちは、女性解放運動みたいに突き抜けた思想を案外、持っているものかなと思っていたんです。でも『メンフィス』をやってわかったのは、みんな保守的だったこと。そんな考えは毛頭も持てないくらいの環境だったんでしょうね。物語にはフェリシア以外にも黒人の女の子が出てきますが、突き抜けて当然という感覚は全くないんです。プライドは高いし馬鹿にされるのは嫌だけど、それはそれ、私たちは私たちと思っている。でもフェリシアは、この状況はおかしいと気づくんです。そんな彼女の気質、そしてヒューイとの出会いにより、時代の先をいく感覚が磨かれて爆発的なエネルギーとなる。彼女の感覚は、一般的な女性のものではなかったな、と実感したわけです。

そこで『カルメン』の主人公カルメンを思い出しました。疑問を持った女性たち。同じ人間の体をして、肌の色が違うだけなのに、これおかしくない?という発想、ひらめきを持つこと自体が奇跡です。そのひらめきを持ったのが、カルメンであり、フェリシアだった。『ボニー&クライド』のボニーも近いところはあるけれども、エキセントリックな気質で時代に対抗していた面が強い。人種差別とは違うところにいましたしね。

カルメンは常に恐怖と怒りを持ち、人種差別だけでなく、動物として生きるとは?という、生死の問題や根源的なルーツに遡る。一方、フェリシアにはキング牧師や公民権運動につながる人権を考えさせられます。いろんな人間を演じて、中から外を見ると、ほぉ!って思う発見がたくさんありますね。

-- 白人であるヒューイを好きになるのも、そういう魂を持っているからこそなんでしょうね。

しかもヒューイを好きだと認識して、それを​兄デルレイにも言えてしまう。兄はもちろん反対しますけど。それでもフェリシアは白人の町にあるヒューイの家まで出向いていくわけです。バスの座席も白人黒人で差別されていた時代に、考えられないことですよね。

-- ヒューイとフェリシアは似ているんでしょうね。恋の力とはいえ、垣根を越える力がある。

その点、ヒューイのほうが本能的なんです。フェリシアはスターになりたいという打算があって、そこは女性ならではかな。感情的な部分で引き付けて、でも自分の目標を達成するためにヒューイを置いて、ニューヨークに行ってしまう。ヒューイは純粋に、本能に従って僕の街はここだと「Memphis Lives in Me」を歌うわけです。男女の違いを感じるというか、人種差別を越えたところで、フェリシアは強い!

-- しかも故郷に残って落ちぶれたヒューイと、スターになったフェリシアは再会するわけですから。

フェリシアはツアーの最中、「来て欲しいの」とヒューイを呼び出す。たまらないですよね。

-- そのくらいフェリシアは自己が強い女性。もしかしたらヒューイに会って、その騒動で強くなったから、スターになれたのかも。

確かにアメリカン・ドリームを掴んだ女性スターたちは誰もがフェリシア的な感性がないと難しいかもしれませんね。何かを犠牲にしてでも自分の夢を優先させることがない限り、トップにはいけないでしょうから。初演時にはそんなことも考えました。フェリシアがどれだけ孤独な日々を涙を流しながらマンハッタンで過ごしたのだろうと想像すると、やはり強い!と思います

-- 先ほど話に出た『ビューティフル』も1950年代から始まる話で、時代が近いんですよね。ちょうど黒人音楽が台頭してきた時代。もちろん、『ビューティフル』は白人のショービズ界を描いているわけですけど。

そう。『ビューティフル』を観ながら、この世界にフェリシアは飛び込んでいったんだなと思うと、すごい勇気の持ち主だと思いました。止められない衝動もあったでしょうね。あとタイミング。黒人音楽が流行しだして、その波に乗れるかどうか。フェリシアは乗れたんですね。ヒューイも、もしかしたら乗れたはずなのに、ねぇ。

-- しかし白人DJヒューイが黒人音楽のレコードをかけたことがその流行の土台となったわけですから。こういった突き抜ける人たちが世界を変えてきたのでしょう。

そう思います。ある意味、その使命を全うするために生まれてきた人たちともいえるでしょう。時代を切り裂く人もいれば、その綻びを繕う人、なめして元に戻す人もいる。

-- めぐさんの「Colored Woman」の熱唱は心に残りました。お稽古でも皆さんが感動していたと演出のジェフリー・ページさんから聞きました。

あの時、ジェフリーは「いろいろ考えずに、君が思うままにやってみなよ」と言ってくれました。え?いいの?って思いました。だって、自分は日本人で、単一民族の島国育ち。日本のミュージカル役者が黒人であるジェフリーの前で、差別の話を演じる、その引け目みたいなものがありました。例えば、​外国の方が歌舞伎役者の前で日本舞踊を踊る、みたいなものでしょう?

そこでジェフリーは「この曲の魂を全身で叫べばいいんだよ。バッグはそのための小道具だよ」と。フェリシアはバッグを持って歌うのですが、私はそのバッグを手にかけて歌っていて、何かやりづらさを感じていたんです。すると「バッグは女性の象徴として手に持って歌うことによって、力強さが出る。振り回しても、投げても、抱きしめてもいい。バッグを自分の味方として使ってみて」と。それを聞いたら、自由にバッグを操れるようになって、やっとOKが出たんです​。ブロードウェイ版ではバッグを持っていなかったのに、そうか、あえて持たされていたのか、と。それ以降、バッグがあったほうが歌いやすくなりました。女性の象徴であるバッグを味方として、抱きしめて弱さを出し、手に持って仁王立ちになって強さを出す。ジェフリー、天才!って思いました。

-- 今回もジェフリーさんが演出・振付。主演の山本耕史さんとダブル演出となり、新演出というところもワクワクします。

ジェフリーはこの『メンフィス』をすごく大事に思ってくださっています。多分、彼が前回やりたくてできなかったことがいっぱいあるはず。そこに耕史さんがやってみたいことと合わせて、今回の挑戦になるでしょう。ラッキーなことに、今回は余裕があるので、丁寧に丁寧に時間をかけて構築していきたいですね。セットも一新されますし、私も楽しみです。

-- めぐさんが改めて考える、『メンフィス』の魅力とは?

人ってさぁ…という、この「…」が表された作品だと思います。こうありたい、こうしてあげたいという気持ちは誰にでもあるじゃないですか。お年寄りがいたら椅子を譲りたいけど、なぜかできない自分がいる。その言えない部分の琴線を弾く作品だと。こういう人でありたいけど…、優しさやいたわりの中で生きていきたいけど…の、「…」を問いかける。あと、ヒューイの生き方がひたむきで純粋すぎて、見ていて涙が出ます。一生懸命だけどうまくいかない、その不器用さ。デューイ・フィリップスという実在のモデルがいたことも大きいですね。「Memphis Lives in Me」は本当にいいバラードで涙してしまう。生まれ育った土地で生きる、その覚悟が胸を打ちます。

-- しんみりさせるバラードがありながら、ダンスナンバーも満載。この時代ならではのグルーヴ感を楽しめるのも楽しいところ。

そう、今回はダンスもステップから細かく、ニュアンスや動きも時間をとって突き詰めたいですね。また吉川徹さんが作ってくださった歌詞を噛み砕いて、彼がどんな思いで書いたのかを掘り下げたいと考えています。

-- (故・吉川徹さんが)遺してくださったもの、ですね。

いろんな思いの中で、『メンフィス』の歌詞を書いてくださったのではないかと思うんですよね。台詞や歌詞の端々で、垣間見えるものがあるのではないか。そこを漏らさず、こぼさず、ちゃんと汲み取って観客の皆さんにお届けしたい。それは耕史さんとも話しました。

-- 『メリー・ポピンズ』が発表になりましたが、めぐさんのメリーも期待大! オーディションはどんな様子でしたか。

オーディションではメリー・ポピンズの動きを要求されました。背中や首のラインが決まっていて。メリー・ポピンズとしてまっすぐ立って!と言われて、何かを見つけた、見に行く、思っていたのと違う、スタスタと戻ってくる、という一連の流れを演じたり。手の仕草にしても中途半端な動きは一切しないんです。手を出して、動作し終わったらしっかり戻す。手の形、足の形が決まっていて、これで3時間演じきるのは大変だなと。今からドキドキしています​。

-- では、その前に、とことん人間臭い『メンフィス』。公演を楽しみにしています。

はい。頑張ります!

取材・文=三浦真紀  写真撮影=中田智章

公演情報
ミュージカル『メンフィス』
 
■日時:2017年12月2日(土)〜17日(日)
■会場:新国立劇場 中劇場
■出演:
山本耕史/濱田めぐみ/ジェロ/米倉利紀/伊礼彼方/栗原英雄/根岸季衣
ICHI/風間由次郎/上條駿/当銀大輔/遠山裕介/富永雄翔/水野栄治/渡辺崇人 
飯野めぐみ/岩崎ルリ子/ダンドイ舞莉花/増田朱紀/森加織/吉田理恵 
■演出・振付:ジェフリー・ページ/演出・主演:山本耕史 
■脚本・作詞:ジョー・ディピエトロ 
■音楽・作詞:デヴィッド・ブライアン 
■翻訳・訳詞:吉川徹
■公式サイト:http://hpot.jp/stage/memphis2017

 
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