橋爪彩による、ポーラ美術館への鮮やかな祝砲 『Girls Start the Riot』展をレポート
-
ポスト -
シェア - 送る
神奈川・箱根のポーラ美術館は2017年10月1日に、ポーラ美術振興財団が助成した若手現代美術の作家を支援する現代美術のスペース・アトリウムギャラリーをオープンした。そのオープニングを飾るのは、ポーラ美術振興財団在外研修員として欧米に滞在し、帰国した橋爪彩による『Girls Start the Riot』展(会期:2017年10月1日~2018年1月8日)。彼女が帰国してすぐに発表したマニュフェスト的な作品《Girls Start the Riot》をそのまま展覧会名に掲げ、祝砲代わりの「Gift」を新ギャラリーに贈る。
展覧会場風景
ポーラの現代美術の支援とその応答の「Gift」
ポーラ美術振興財団は、例年17~18名ほどのアーティストを在外研修という形で助成してきた。ポーラ美術館に収蔵されている作品の多くは近代美術の名品だが、現代美術ギャラリー新設の背景にはそういった財団による助成事業の流れがある。金銭面の支援だけではなく、よりコアな支援として在外研修を終えたアーティストの成果発表の場として、現代美術のギャラリーも併設することを決めたのだ。
当面は研修を終えたアーティストの成果発表する場とし、3ヶ月ごとに展示替えをするとのことで、今回その皮切りとして橋爪彩が選ばれた。
Girls Start the Riot ©Sai HASHIZUME
橋爪彩は欧州から戻ってきた2010年に、その渡欧生活での違和感をもとに《Girls Start the Riot》を描いている。そこから本展で紹介される「After Image」シリーズが始まるのだが、この「After Image」は「残像」を意味し、ヨーロッパが未だに過去の偉大な芸術作品の亡霊に縛られているような、その残像があり続ける違和感への「Riot=暴動」のシリーズともいえる。
近代ヨーロッパの名作コレクションを多く収蔵するポーラ美術館の新ギャラリーのオープニングに、あえてこの作品を持ち込みこの作品名をタイトルにしたことについて、橋爪は英語で「贈り物」だがドイツ語では「毒」を意味する「Gift」だとしている。
La fille de l’homme ©Sai HASHIZUME
名画の歴史の先にある「After Image」
そんな挑発的な作品を生み出す橋爪だが、彼女は「(ポーラ美術館コレクションのような歴史的名画の)時代の連綿とした積み重ねの中に現代はある」と語る。過去の偉大な名画へ対するネガティヴな感情ではなく、むしろ現代との接続の問題として本作を提示しているのだ。今回出展された9点の「After Image」シリーズは、みれば誰もが想起できる名画がある。展覧会冒頭を飾る《Girls Start the Riot》で3人の少女が暴れるテーブルとりんごの様子に、ポール・セザンヌの名画を思い出しはしないだろうか? 《Esther》はピサネッロを彷彿とさせないだろうか?
しかしその一方で、描かれる少女たちの身に着ける衣装や装飾品は身近なものだ。橋爪いわく、それらは主にファストファッションブランドのもので、そういった鑑賞者自身となじみのある流行のものを歴史的名画の構図のなかに仕込むことで、歴史と今の距離を見失わせているのだという。
Esther ©Sai HASHIZUME
同館では同時期に『100点の名画でめぐる100年の旅』(会期:2017年10月1日~2018年3月11日)を開催し、およそ1860年代から1970年代までの西洋と日本の名画100点を展示している。橋爪はこの企画展にも触れ、「『100点の名画でめぐる100年の旅』をみてから本展をみることで、時代の連綿としたなかの現代というものを感じてもらえたら」と語った。
「After Image」シリーズ最新作は、日本画家の洋画のアップデート
このオープニング展で発表された新作《Princess at Work》は「After Image」シリーズ初の日本人の画家による作品のアップデートだ。それも、先ほど言及した『100点の名画でめぐる100年の旅』でも展示されているポーラ美術館コレクションのひとつ・黒田清輝《野辺》に描かれた女性の手を中指をたてるポーズにアップデートした。非常に挑発的な作品といえる。
《野辺》黒田清輝
橋爪は学生のころにポーラ美術館でこの《野辺》を実際に見たという。その際に聞いた男性客の「きれいだね」という言葉・眼差しに含みを感じ、その記憶とこの《野辺》という作品が切り離せないと語った。「今回ポーラ美術館の新設ギャラリーのために描くにはこの作品だ」として、アイマスクをして眠る絵の中の女性に中指をたてさせた。
女性はどうしても「見られる」側であることが多い。しかしただ「見られる」側で終わりたくない、「見られる」ことに対し一言言っておきたい――。そう切実に語った橋爪の分身のように、中指をたてて眠る絵の中の女性はしたたかで、痛快だ。
印象派を中心としたコレクションを収蔵しながらも現代美術の若手作家を応援してきたポーラ美術振興財団だからこそできたのがこの『100点の名画でめぐる100年の旅』と『Girls Start the Riot』の同時開催という挑戦的な配置であろう。『Girls Start the Riot』展は来年1月8日まで。この秋や冬休みに箱根を訪れる際には是非、あわせて味わってもらいたい。
Princess at Work ©Sai HASHIZUME
会期:2017年10月1日(日)〜2018年1月8日(月・祝) ※会期中無休
開館時間:9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
会場:ポーラ美術館 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285 0460-84-2111
http://www.polamuseum.or.jp/