ポーラ美術館による“挑戦的”なコレクション展 『100点の名画でめぐる100年の旅』をレポート
-
ポスト -
シェア - 送る
アンリ・マティス《リュート》1943年
神奈川・箱根のポーラ美術館では現在、開館15周年記念展として『100点の名画でめぐる100年の旅』(会期:2017年10月1日~2018年3月11日)が開催されている。印象派を中心とする近代の名作を多数コレクションに持つポーラ美術館が、地域ではなく時代性を重視して100点の作品を厳選。それらによる「時間の旅」を企画したのが本展覧会だ。普段とは違った目線での名作巡りを演出している。
チャレンジングな展示法で魅せる、ポーラ美術館自慢のコレクション
「ポーラ美術館のコレクションがこれだけ一堂に会するのは稀」と、ポーラ美術館学芸員の岩﨑余帆子氏は語る。それら豪華な作品群が、西洋のものも日本のものも同じ部屋に配されるという今回の展示法は、ポーラ美術館でも初の試みとのこと。そのチャレンジングな展示方法により、西洋に追いつこうとしてきた日本の絵画史と西洋の絵画史の歴史もみることができる。
クロード・モネ《サン=ラザール駅の線路》1877年
今回扱われる「100年」とは、西洋絵画史ではエドゥアール・マネ《草上の昼食》が物議を醸し、日本ではまだ明治維新が起こる少し前の1860年代から、東京オリンピックが開催される1960年代までを指す。この間には二度の世界大戦があり、激動の時代を生きた作家たちの作品の変遷をその歴史とともに知ることができる構成となっている。
100の多様な作品は20のテーマに分けられている。美術展の構成としては異例の多さだが、「これ以上減らせないほど、多様な作品が集まっている」と岩﨑氏。その多様な作品を一堂に会し見せるためには、たくさんの工夫が凝らされている。
名画のなかに「まぎれこむ」という観賞方法
今回のこの企画では、各界で活躍する計17名による「この絵が名画である理由」をテーマにしたコメントも紹介。美術を題材にした小説を多く書く原田マハや、美術館館長や芸術系雑誌の編集長・ジャーナリスト、フランス美術留学時代のエッセイも出版したフリーキャスターの雨宮塔子、ミュージシャンのグローバーなど、コメントを寄せた人々の絵画との関係性も多様だ。ときには個人の思い出も含まれながら解説される「それぞれの絵の魅力」を読むと、また違った視点で絵と向かい合うことができる。
また、ポーラ美術館では4年前から「じっくり」という普段とは異なる絵画鑑賞の機会を与える企画を継続してやっており、その9回目となるものも本展の中に組み込まれている。カンディンスキーの《支えなし》の作品の空間を体感し、自分もモチーフの一部になる「まぎれこむ」という今回の企画もまた、作品の鑑賞に別の目線を促す興味深い試みであった。
じっくり09「まぎれこむ」 ワシリー・カンディンスキー《支え無し》1923年
じっくり09「まぎれこむ」 カンディンスキーの《支え無し》の作品内に鑑賞者が入ることができる
「悲劇の時代を画家たちがどう生きたか」
1860年代では差が歴然としていた西洋美術史と日本美術史。それらは、多くの日本の画家がパリへ留学した1910年代、岡田三郎助らが西洋技法を学びつつ「日本の(アジアの)美人画」を確立しようとした1920年代を経て、1930年代のシュルレアリスムでついに交差する。そのクロスポイントへ至る経緯を、美術の教科書のように、それでいて教科書では見られない光景とともに辿る旅が、この展覧会の大きな魅力の一つだろう。
岡田三郎助《あやめの衣》
さらに1940年代、戦争によって翻弄されるなかでも画家たちは独自の道を切り拓いていく。レオナール・フジタこと藤田嗣治は戦争画を描いたことを非難され、日本の画壇を去りアメリカに渡ったのちにフランス・パリへ向かう。日本の画壇への批判とフランスへの愛着、その二つがあいまった複雑な心境があらわれた《ラ・フォンテーヌ頌》も本展では見ることができる。
木島俊介館長は開会式にて、同館で今年の9月24日まで開催していた『ピカソとシャガール展』にも言及。戦争というものに反応した画家、また翻弄された画家への思いを語った。ほかにもパリ万博など、この1860年代~1970年代の100年の間にはさまざまな社会の動きがあり、多くの画家が翻弄されるなかで芸術をアップデートしてきた。
「悲劇の時代を画家たちがどう生きたか」。木島館長のその言葉に、本展のコンセプトが凝縮されているように思う。その大きな激動の時代に西洋も日本もない。あるいは、それほど日本が西洋に憧れ、世界と干渉した時代であったともいえる。そのことが美術の歴史に直結していることが、この展示で改めて痛感させられることだろう。
『100点の名画でめぐる100年の旅』は来年3月11日まで。箱根を訪れる際には、激動の時代を生きた画家たちとともに時間の旅も楽しんでみてはいかがだろうか。
佐伯裕三《アンドレ ド リュー ド シャトー》
会期:2017年10月1日(日)~2018年3月11日(日)
休館日:会期中無休
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
会場:ポーラ美術館 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285 TEL:0460-84-2111
http://www.polamuseum.or.jp/