青島広志&小野勉(テノール)にインタビュー ~渋谷のカフェで「ちょっと早いクリスマス」

2017.10.27
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クラシック

青島広志、小野勉(テノール)


作曲家、指揮者、ピアニスト、大学教師、イラストレーター、そして少女漫画研究家……。多彩な活動を繰り広げる青島広志が11月29日、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGに登場する。題して『ひろし君のお部屋Ⅴol.1~青島流 ちょっと早いクリスマス~』。定番のクリスマスソングから、テノールの小野勉による「アヴェ・マリア」の聴き比べ、冬にちなんだ名曲まで、盛りだくさんのプログラムを用意しているという。青島と小野から話を聞いた。


――公演に先立って、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGを訪ねられたそうですね。

青島 はい。お客様一人ひとりの顔が見える空間だと思いました。私は大きなコンサートホールでやる時も、できるだけ客席に下りて皆さんに話しかけるようにしていますが、大きな場所ではやはり全体を意識せざるを得ません。eplus LIVING ROOM CAFÉなら、お客様一人ひとりに向かっておしゃべりできるのではないかと思います。小野さんはどうですか?

小野 小さな空間ですとお客様と一緒になれるような気がします。息遣いまで伝わりますからね。お客様の空気感がこちらに伝わってくるのも楽しそうだな、と思っています。

青島 演奏中は私はピアノから離れられませんが、小野さんは動き回ることができます。この間も一緒に小学校で演奏会をやりましたが、お子さんはそういった仕掛けをとても喜んでくれます。小野さん、お客様の近くに行って歌うのって面白いですか?

小野 お子さんたちは確かに喜んでくれますね。大人の場合は相手の様子を見ながらです。「私のところには来ないで」という顔をされる人もいますから、そのあたりは表情を読んで臨機応変にやっています(笑)。

――曲目を選ぶ際、空間の特色を意識されましたか。

青島 そうですね。普通の音楽会場より天井が低いので、力で押しまくるようなフォルテシモの曲は今回は取り上げません。オーケストラでいえば、小さな編成に向いたモーツァルトやハイドンの曲、どちらかという女性的な作品が向いていると思います。

私がeplusさんと一緒にやらせていただいている『世界まるごとクラシック』は、たとえば東京では、国際フォーラムのホールAというキャパ5000人の所でやっています。シアターオーケストラトーキョー(熊川哲也主宰「Kバレエカンパニー」所属)と組んだシリーズで、2017年で10回目を迎えましたが、そこではバレエ音楽のほか、空間を生かした大がかりな曲を取り上げてきました。たとえば、チャイコフスキーの序曲「1812年」ですとか、レスピーギの「ローマの松」といった非常に男性的な曲ですね。こういった曲に取り組むのは初めてだったのですが、新しい課題に挑むことによって、私もオーケストラも成長してきたなと思います。

青島広志

――今回のテーマは「ちょっと早いクリスマス」ということですが。

青島 ちょうどクリスマスに向かっていく時期ですからね。早くやる分にはいいと思うのですよ。クリスマスソングというのは、ヨーロッパの音楽の中でも一番いい部分が集まっていて、讃美歌にも「もろびとこぞりて」や「きよしこの夜」のようにきれいなものが多い。アメリカのものなら「赤鼻のトナカイ」や「ジングルベル」「ママがサンタにキスをした」、ドイツなら「モミの木」、フランスだったら「オー・ホーリー・ナイト」といった感じですね。それだけでコンサートが埋まってしまうぐらい良い曲がたくさんありますが、今回は8曲程を予定しています。

――「アヴェ・マリア」の聴き比べでは、シューベルトとバッハ/グノー、そしてマスカーニの3つを取り上げるということですが、カッチーニの有名な「アヴェ・マリア」を外された理由をお聞かせいただけませんか。

青島 カッチーニに関しては、19世紀のロシアの作曲家が「カッチーニ」と偽って書いたことが今日では暴露されているので避けました。その辺りのいきさつなどについても、コンサートでお話しできればと思っています。実は本当の意味で「アヴェ・マリア」(聖母マリアへの祈祷)として書かれたものは、今回取り上げる3曲の中にはないのですよ。バッハ/グノーに関しては、バッハの「平均律クラヴィーア曲集」第一巻の最初の曲を伴奏にしてグノーが完成させたものです。少し大味な気もしますが、小野さん、いかがですか?

小野 いい声をひけらかすにはもってこいの曲かも知れませんね(笑)。

青島 なるほど(笑)。それから、マスカーニ作品ですが、これはオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」のとても美しい間奏曲に、後から歌詞がつけられたものです。つまり「アヴェ・マリア」ではありません。中で一番、「アヴェ・マリア」に近いのはシューベルト作品でしょうか。元々はウォルター・スコットの詩による「エレンの歌」という歌曲ですが、エレンという女性が、岩上の聖母マリアに向かって祈る姿を描いていますからね。これも小野さんに歌っていただきます。それから二月にフィンランドに行って、現地のサンタクロースに会ったりしてきたので、そういった写真や自分が書いた絵などをスクリーンに投影し、目でも楽しんでいただきながら展開できたらと考えています。

――文字通り、eplus LIVING ROOM CAFE&DININGの空間を生かした演出になりそうで、楽しみですね。ご自身の書かれたクリスマスの歌も演奏されるということですが。

青島 何年か前に書いた「クリスマスの夜」という曲を取り上げます。少女の視点で書いた作品で、その子にはもうすぐ弟か妹が生まれる予定なのですが、お姉さんになるのがいや、という設定。ただ、クリスマスでキリストも生まれたわけだし、仕方なく受け入れるという話を物語仕立てで描いています。

私はカトリック系の幼稚園に通っていたので、クリスマスに関する思い出がいっぱいあるのです。「欲しいプレゼントを書くように」と幼稚園で言われて書いたら、ある日、毛筆で「おばあちゃんの言うことを聞いたら……」と書かれた返事が来た。父親がサンタになったつもりで書いてくれたんですね。当時私は「毛筆っていうのは問題があるな」と思ったのですが、ある朝、枕元に硬いものが置いてあって、欲しかったオルゴールが入っていたのです。今もそのオルゴールがピアノの脇に置いてあります。

――とても鮮明に覚えてらっしゃるんですね。

青島 おそらく今と同じ感性を持っていました。当時のことも含め、今回もいろいろエピソードをお話しできたらと思っています。小野さん、引き出し役になってくださいね。

小野 先生はこちらが聞く前にお喋りになるから大丈夫です(笑)。以前、先生の喉の調子が良くなくて私が代わりに説明することになっていた時も、途中からどんどん早口でお喋りになっていらしたでしょう。

青島 早口は私の癖のひとつなのですが、今回はできるだけゆっくり喋ろうと思っています。私がテレビに出させていただくきっかけになったのが黒柳徹子さんとの出会いだったのですが、あの方の早口は女性だから聞き取れるのですね。男性は女性より1オクターブ低いから聞き取りにくい。ゆっくり喋らないといけませんね(笑)。

小野 トークは先生に頑張っていただいて(笑)、私はしっかり歌を歌います。

小野勉(テノール)

――コンサート後半の「泰西名画集」もご自身の作品ということですが。

青島 1990年代に雑誌「ショパン」に連載した作品です。私は絵が好きなので、ムソルグスキーの「展覧会の絵」のように絵に基づいた曲を書きたい、ということでやらせてもらったのですが、全24曲の中から今回はクリスマスを意識して、「楽園追放」「シバの女王の乗船」「受胎告知」「降誕」を選びました。「楽園追放」は、アダムとイブがリンゴを食べたためにエデンの園から追放されるところを描いたルネサンスの画家マサッチオの絵をもとにしています。「シバの女王の乗船」は、シバの女王が難題解決のためにソロモン王を訪ねる場面を描いたクロード・ロランの絵がモチーフ。あとの二つは聖母マリアがキリスト妊娠を天使ガブリエルによって伝えられるフラ・アンジェリコの「受胎告知」、そしてピエロ・デラ・フランチェスカの「キリストの降誕」です。クロード・ロラン以外は、私の大好きなルネサンスの画家の絵です。

――「冬」をテーマにした曲も披露されるそうですね。

青島 これも本当に多いのですが、まずは「たきび」や文部省唱歌の「冬の夜」といったおなじみの曲が入ってきます。それから、有名な曲としては小野さんが得意にしておられるシューベルトの歌曲「冬の旅」。今回はその中から、「菩提樹」などを歌っていただけたなと考えています。

どんなお客様が来て下さるか分かりませんが、私のファンの方って、80代以上の方が多いのです。今回は場所が渋谷で、奥に松濤というお屋敷町を控えていますから、そちらにお住まいの方も来てくださるのではないでしょうか。その方々が生まれた頃にできた曲を演奏したり、一緒に歌ったりできればいいなと思っています。それから、私は渋谷のオーチャードホールをホームグラウンドにしていることもあって、よく隣の美術館(Bunkamuraザ・ミュージアム)に行くんですけど、美術館って音がないでしょ。ですから美術館の帰りに寄って、音楽を聴いていただけるとうれしいですね。食べたり飲んだりしながら、楽しんでいただけるようなコンサートになるよう工夫したいと思っています。

――今回が『ひろし君のお部屋Ⅴol.1』。ということは、次の展開も考えておられるということでしょうか。

青島 モーツァルトやハイドンの小編成に向いた曲も合うでしょうし、私には得意にしている絵の世界がありますので、絵との関係でもライブができたらいいですね。たとえば少女漫画を題材にした歌もありますので、そういったものもできたらいいなと思っています。

【動画メッセージ】青島広志、小野勉(テノール)

 

(取材・文・撮影=刑部圭)

公演情報
ひろし君のお部屋Vol.1 ~青島流 ちょっと早いクリスマス~
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE&DINING 
■日時:2017年11月29日(水)open 18:30/start 19:30
■出演:青島広志、小野勉(テノール)
※未就学児童入場不可
※お席は相席となる場合がございます
※別途1FOOD、1DRINKのオーダー必須
■一般発売:2017年10月15日(日)10:00~
■料金:全席指定 4,500円 当日5,000円(税込、飲食代1フード1ドリンク別途)
■公式サイト:https://livingroomcafe.jp/

 
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