横山大観は、実は奇天烈で大胆!? 100年ぶりの作品もお目見えする『生誕150年 横山大観展』記者発表会レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
近代日本画壇の巨匠、横山大観(1868~1958年)。その生誕150年、没後60年という節目である来年2018年に、大観の大回顧展が東京と京都にやってくる。本展に先駆けて開かれた記者発表会から、その見どころを紹介しよう。
ちょっと変わった大観作品
今回の回顧展は、「『明治』の大観」「『大正』の大観」「『昭和』の大観」の3章からなる展示構成。「皆さんの期待に応えられるよう、厳選した名品も集めていますが、その隙間、隙間にちょっとした“遊び”を交えています」と、本展を担当する東京国立近代美術館の鶴見香織主任研究員は何やら楽しそうだ。“遊び”とは、出展される機会の少ない明治時代の大観作品のこと。そんな明治期の作品集めに奔走する中で、いくつかの新出作品も見つけ出したという。
記者発表会スライドより、《ガンヂスの水》(1906年、シーピー化成株式会社蔵)
その一つ、《ガンヂスの水》(1906年、シーピー化成株式会社蔵)は、菱田春草と共にインドを訪れた際に見たであろう、ガンジス川の景色を描いた作品。朦朧体のような輪郭線のない表現が大観らしい。
記者発表会スライドより、《白衣観音》(1908年、個人蔵)
こちらも新出となる《白衣観音》(1908年、個人蔵)は縦140㎝×横113.4㎝という大作で、インドの女性のような観音様を描いた。大観にとってインド訪問はかなり影響を受けた出来事だったのだろう。
ところで、この《白衣観音》、パッと見て違和感をおぼえずにはいられないはずだ。足が何だか短く、全体的にバランスが悪い。「観音様が岩に座っているように見えずに、まるで『シェー』のポーズをしているよう」と鶴見主任研究員。
記者発表会スライドより、《白衣観音》(部分)
一方、細かい部分をよくよく見ると、凹凸感のある岩場の影、観音様の顔や装飾品をかなり細密に描いており、大観の努力の跡がうかがえる。「当時の大観は春草の真似をするだけでなく、自分なりの表現方法を探していたのでしょう。この作品では、朦朧体と揶揄された画風からの離脱を試みているようです」と鶴見主任研究員は推測する。
絵筆すら握ったことがないところから、東京美術学校に入り、画家となった大観。明治期の作品には、そんな大観のさまざまな創意工夫の跡が見られるという。
水墨画で描いたハレー彗星も
記者発表会スライドより、《彗星》(1912年頃、個人蔵)
もう一つ、面白い新出作品が出展される。《彗星》(1912年頃、個人蔵)だ。これは1910年のハレー彗星の接近を描いた作品。当時、ハレー彗星の話題で持ち切りだったとしても、それを画家が描くことはかなり突飛なことだったに違いない。大観は、薄墨で描いた夜空に、胡粉で彗星の核を、墨の塗り残しで彗星の尾を表現。常人には彗星というモチーフと水墨画という技法を結びつけることができないが、大観は大胆にも水墨画にしてしまった。大観には、そうした伝統的な技法とモチーフの組み合わせを切り離し、新たなものと組み合わせられる特別な才能があったという。
記者発表会スライドより、《瀑布(ナイアガラの滝・万里の長城)》(1911年頃、佐野東石美術館蔵)
《瀑布(ナイアガラの滝・万里の長城)》(1911年頃、佐野東石美術館蔵)も、そんな才能が遺憾なく発揮されている作品だ。タイトルが語るように、ナイアガラの滝と万里の長城がモチーフとなっているのだが、大観は金屏風にこの2つをやまと絵の技法で描いた。これだけでも、日本画の重鎮という大観のイメージが変わってくる。
レア作品を通じて知る、大観の新たな一面
記者発表会スライドより、全長40メートルもの《生々流転》(1923年、東京国立近代美術館蔵)
もちろん、代表作の展示にも抜かりはない。40メートルもの長さの画巻《生々流転》(1923年、東京国立近代美術館蔵、重要文化財)を、東京展では一挙公開(京都展では巻き替えあり)。水の一生を描いた物語を始まりから終わりまで楽しめる。
記者発表会スライドより、《夜桜》(1929年、大倉集古館蔵)
そして、想像するだけできらびやかな展示空間になりそうなのが、《夜桜》(1929年、大倉集古館蔵)と《紅葉》(1931年、足立美術館蔵)の共演だ(東京展5/8~5/27、京都展6/8~7/1展示予定)。この2作が同時に揃うのはめったにないという。
記者発表会スライドより、《夕顔》(1929年、個人蔵)
さらに、1930年に開かれた伊・ローマでの日本美術展(ローマ展)に出品されて以来、ほとんど公開されなかった《夕顔》(1929年、個人蔵)と《飛泉》(1929年、京都国立近代美術館蔵)も久しぶりにお目見え。もともと軸装だった《飛泉》は、ローマ展以降、個人の手に渡った際に額装となったが、大観がしつらえた軸は残っていたため、今回はローマ展の時と同じ姿の軸装に復元して展示するという。
記者発表会スライドより、《飛泉》(1929年、京都国立近代美術館蔵)
東京展は2018年4月13日(金)~5月27日(日)に東京国立近代美術館で、京都展はその後6月8日(金)~7月22日(日)に京都国立近代美術館で開催。大作の中に混じる、ちょっと変わった作品がスパイスとなって、私たちが抱く大観像をいい意味で壊してくれる展示になりそうだ。大観の型にはまらない奇天烈さ、自由さをぜひ自分の目でお確かめあれ。
【東京展】
会期:2018年4月13日(金)~5月27日(日)
会場:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園)
開館時間:10:00~17:00(金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月30日は開館)
【京都展】
会期:2018年6月8日(金)~7月22日(日)
会場:京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町)
開館時間:9:30~17:00
(6月8日~6月30日の金・土曜日は20:00まで、7月6日~7月21日の金・土曜日は21:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし7月16日(月)は開館、7月17日(火)は休館)
観覧料:一般1,500(1,300)円、大学生1,100(900)円、高校生600(400)円
※( )内は前売りおよび20名以上の団体料金、いずれも消費税込
※中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料
それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障がい者手帳等を提示
公式サイト:http://taikan2018.exhn.jp/