一曲一曲に凝縮された濃厚な人間ドラマ! 『Concierto del Tango ─タンゴのすべて─』レポート
日本の裏側アルゼンチンで生まれたタンゴ。その情熱を秘めたメロディーと退廃的なダンスは世界の人々を魅了してきた。日本でも60年以上前にタンゴブームが沸き起こり、以来、愛好家を多く生んで親しまれている。
そんなアルゼンチンタンゴの魅力を、更に深く濃く知らせようと、2018年アルゼンチンと日本が国交を樹立して120年を迎える節目を記念して、宝塚OGをはじめとした、数多くの著名シンガーが参加してタンゴの名曲を歌ったアルバム『Todos del Tango』が、2017年10月25日に発売。
そのアルバム発売に合わせて、日亜修好120周年記念特別公演CD『Todos del Tango』発売記念コンサート『Concierto del Tango ─タンゴのすべて─』が、東京目黒のめぐろパーシモンホール 大ホールで24日、アルゼンチン共和国駐日大使アラン・ベロー氏も駆けつける中、華やかに開幕した(25日 12時、16時半公演もあり)。
2部構成のステージは、アルゼンチンで生まれたタンゴの歴史を綴りながら進んでいく。はじめはまだ歌われることはなく踊る音楽としてはじまったタンゴが、歌を得て、更に大きく発展していった流れが、このステージを観ているだけでよく伝わってくる。
ダンスを担当するのは、星奈優里を筆頭に、牧勢海、月央和沙、美翔かずきの元宝塚OGの女性陣と、クリスティアン・ロペス、ダニエル・ボウホン、セサル・カニサレス、8月の「タンゴ世界選手権」ステージ部門で優勝を果たしたアクセル・アラカキ、GYU nagaiの男性陣。ここに、タンゴのダンス公演に取り組み、タンゴの修練を積んだ水夏希が加わるスペシャルさは必見。更に、7月に宝塚を退団したばかりの鳳翔大が、男役で踊る謂わばボーナス・トラックのようなプレゼントもあって、抜群のプロポーションで魅了する。
そして歌手の面々がまた多士済々。アルベルト城間、伊礼彼方、岡田浩暉、それぞれの豊かな声量は圧倒的で、特にアルゼンチン出身の伊礼は、日亜の友好を記念したこのコンサートを象徴する如くの見事なスペイン語で楽曲を披露。アルゼンチンで生まれたタンゴの魅力をダイレクトに届けてくれる。
一方篠井英介は、情感あふれる詩の朗読と、その延長線上にあるような味わい深い歌唱で、人間ドラマが1曲、1曲に凝縮されたタンゴの神髄を表現。情感あふれるという点では、久野綾希子、クミコも他の追随を許さない。片やミュージカル女優として、片や歌手として培ってきたものの豊かさが、ステージにあふれでるようだ。
また、宝塚OGは、在団時から歌に優れたトップスターとして定評があり、退団後も主にボーカリストとしての活動を続けている姿月あさとが、時に凛々しく、時に柔らかく性別を超えてそれぞれの楽曲を表現する様が、この人ならでは。可憐なトップ娘役として愛された彩乃かなみが、艶やかさと同時に強さも秘めた、女優としての経験が花開いた歌唱を披露すれば、やはり7月に宝塚歌劇団を退団したばかりの元トップ娘役咲妃みゆも、タンゴが紡ぐドラマの中に入り込み、全く別の女性が憑依したかのような、迫力の歌唱で宝塚退団後の初ステージを務めあげた。宝塚時代から天性の演技者の片りんを見せてきた人だが、女優としての大きな可能性を早くも感じさせてくれている。
さらに、見事なダンスで魅了した水も「アルゼンチンよ泣かないで」を、ミュージカルの一場面のように披露し、歌唱面の充実を印象づける。そして、誰よりも劇的に登場したのが渡辺えり。タンゴを聞かない日はないという言葉通りの、ドラマチックでダイナミックでパワフルな歌唱に、会場中が渡辺ワールドに包まれた。
三枝伸太郎とグランオルケスタ・ティピカによる、豪華な生演奏の醍醐味もあり、休憩込み2時間半を超えるステージは熱いボルテージの中、、最後はスタンディングオベーションによる、鳴りやまぬ拍手に送られて幕を閉じた。哀愁と、情熱と、人間ドラマに彩られた圧巻のステージだった。
引き続き興奮冷めやらぬ舞台上で、在日アルゼンチン共和国大使館駐日大使アラン・ベロー氏、ステージの構成・演出・訳詞も手掛けたプロデューサー高橋正人氏、出演者を代表して渡辺えりが、囲み取材に応えてこの豪華なステージへの想いを語った。
高橋氏は日本でタンゴが爆発的に愛されたのは60年以上前になるが、再びタンゴの素晴らしさを知らせたいという思いで、アルバム、そしてコンサートを企画したという経緯を説明。「タンゴ歌手という方は1人もいらっしゃらないステージですが、皆さん見事な歌唱、見事なダンスを披露してくれました。タンゴにとっても、日本とアルゼンチンの友好にとっても、今日が記念すべき日になったのではないでしょうか」と感慨深く語った。
コンサートを鑑賞したアラン・ベロー中日大使は「アーティスト、ダンサーのすべてが素晴らしく、見事なコーディネイトをしてくださった高橋氏に感謝を申し上げたい。何より今日のコンサートがどれだけ素晴らしいものだったかは、観客の皆さんが贈られた温かく大きな拍手で明らかなのではないでしょうか」と賛辞を贈り「アルゼンチンと日本は地球の反対側という場所に位置していて尚、アルゼンチンのタンゴが日本で長く愛されていることを心から嬉しく思います。それはアルゼンチンタンゴの素晴らしさが証明されたことでもあります。このコンサートを通じて、また新しいタンゴを愛好する人たちが増えていく、その契機となれば」と期待を込めた。
また、圧巻のパフォーマンスを見せた渡辺は子供の頃からタンゴを愛してきて、自分の作る舞台にもよくタンゴを使っていたと話し「タンゴは日本人に合っていると思います。日々のストレスで鬱屈したものが、タンゴを歌い踊ることで発散できる。このパワーは絶大で、タンゴを聞いているとじっとしていられなくなる」と、熱く魅力を語った。またコンサートで披露した2曲の歌詞も自身が書いたものだそうで「まさか舞台でタンゴを歌わせて頂く日がくるとは思ってもいなかったので、大感激でしたが、ステージで出番を待っている時は緊張のあまり口から心臓が飛び出そうで、第一声で歌詞を間違えました。でも自分で書いた歌詞なので誰にもわからないのですが(笑)。自分で動揺して、もっと踊ろうと思っていたのに身体がこわばってしまいました」と、自ら失敗談を披露。「では、ぜひ明日はもっと踊ってください!」というリクエストも飛ぶなど、和やかな時間となっていた。
取材・文・撮影=橘涼香
『Concierto del Tango ─タンゴのすべて─』
■日時:2017年10月24日(火)18:30、10月25日(水) 12:00・18:30
■会場:めぐろパーシモンホール 大ホール めぐろ区民キャンパス内
■出演:彩乃かなみ、久野綾希子、クミコ、咲妃みゆ、姿月あさと、鳳翔大、星奈優里、真琴つばさ(25日昼のみ)、水夏希、渡辺えり、アルベルト城間、伊礼彼方、岡田浩暉、篠井英介
【ダンサー】GYU nagai/クリスティアン・ロペス/セサル・カニサレス/アクセル・アラカキ/ダニエル・ボウホン/牧勢海/月央和沙/美翔かずき
【演奏】三枝伸太郎(P)/鈴木崇朗・北村 聡・早川 純(Bn)/会田桃子・吉田篤貴・江藤有希(Vn)/吉岡里紗(Acco)/河村泉(Vla)/内田麒麟(Ce)/田辺和弘(Bs)
■構成・演出・訳詞:高橋まさひと
■音楽監督:三枝伸太郎
■訳詞:三木章雄・小林香
■公式サイト:http://concierto-del-tango.com/
・発売日:2017年10月25 日(水)
・価格:3,240 円(税込)
・品番:UICZ-4409
2018 年に日亜修好 120 年を迎えるのを記念し、宝塚出身者を始めとする多くの著名シンガーが参加。
長きにわたり日本人に愛されてきたタンゴの名曲の数々を歌い継ぐ素晴しいアルバム。
演奏は三枝伸太郎とグランオルケスタ・ティピカが担当。哀愁と情熱に満ちあふれたタンゴの真髄を聴かせる。
01. (レシタ―ド)ラ・クンパルシータ / 鳳稀かなめ / La cumparsita
02. カミニート / 久野綾希子 / Caminito
03. エル・チョクロ / 戸田恵子 / El choclo
04. 歌いながら / 鳳稀かなめ / Cantand
05. ビダ・ミーア / 彩乃かなみ / Vida mia
06. (レシタード)恋人もなく / 真琴つばさ / Nunca Tuvo Novio
07. (レシタード)傷あと / 水 夏希 / Cicatrices
08. 首の差で / アルベルト城間 / Por una cabeza
09. 追憶 / 岡田浩暉 / Remembranza
10. 淡き光に / 鳳翔 大 / A media luz
11. ポエマ / 篠井英介 / Poema
12. 今もなお君を愛す / 伊礼彼方 / Y todavia te quiero
13. ウノ / 姿月あさと / Uno
14. 灰色の午後 / 咲妃みゆ / En esta tarde gris
15. 愛せしがゆえに / 石井一孝 / Por que la quise tanto
16. インスト / Corriendo tristezas
17. 巡礼 / インスト / Peregrinacion
18. 時計 / 姿月あさと / El Reloj
19. チキリン・デ・バチン / クミコ / Chiquilin de Bachin
20. 失われし小鳥たち / 真琴つばさ / Los pajaros perdidos
21. ロコへのバラード / 渡辺えり / Balada para un loco
22. アルゼンチンよ、泣かないで / 水 夏希 / Don't Cry for Me Argentina