Neruが語った、新作『マイネームイズラヴソング』の全貌とは
キャッチーでありながら鋭いロック/メタル調のサウンドで、孤独や焦燥など少年~青年期に誰もが抱えるような心情を見事に描ききるNeru。ボーカロイドシーンにおいて確固たる存在を築く彼の、およそ2年半ぶりとなる新作『マイネームイズラヴソング』でその音世界はさらなる広がりを見せる。また前作には無かったような前向きな言葉が並ぶ楽曲も収録されているのも特筆すべき点だろう。リリースを間近に控えるNeruが語った、今作で表現したものとは。
――2年以上ぶりとなる2ndアルバム『マイネームイズラヴソング』がリリースされますが、Neruさんの中では前作(『世界征服』)から地続きの作品でしょうか。それともガラッと変わった部分のある作品ですか?
「地続きの部分もありつつ、そこにプラスアルファをしていったんですけど……って考えるとやっぱり地続きっていうことですね(笑)。ベーシックは残しつつ、「尖らせていこう」みたいな考えはありましたけど」
――Neruさんのベーシックの部分って、言葉にするとしたら何になりますか?
「サウンド面でいうと、ロックですね。そこにこだわっているわけではないんですが……曲を作るときにPCの中でコードとメロディを先に作って後からギターを乗せるやり方なんですけど、僕はギターが下手くそなので(苦笑)、あまり複雑なテクニックを要する曲調にはできないっていうのがあります」
――まず頭の中に浮かんだ曲を打ち込んでいくと。
「そうですね。設計図的なものをパソコンで作って、そこに肉付けしていく、みたいな感じです」
――ちなみに普段はロック系をよく聴くんですか?
「いや、そんなこともなくて。周りの友達がロックを聴いてるので惰性で聴いたりはしますけど(笑)。普段はあまり聴かない、主食ではない感じなんですよ。最近だとボサノヴァばっかり聴いていたりとか、元々はメタルが好きだったりします」
――作られる曲からしてメタルは分かる気がしますけど、ボサノヴァは意外です(笑)。というところで、今作のサウンド面で新たに挑戦した部分はどのあたりだったんでしょうか?
「うーん、とりあえずもっと「尖っていきたいな」と思って。何かに対するヘイトだったりを書きたくて、そういう曲にしました。それは前作になかった要素なので、新しい部分かもしれないですね。曲調の部分は意図的には変えていないんですけど、純粋に僕の好みが変わってきているから、変わった部分はあるかもしれないですね。多分ここ1~2年、ボサノヴァを聴いているせいもあって(笑)」
――それは無意識のうちに曲に反映はしてそうですね。
「ですね。あ、あと最近はEDMも聴いてます! 派手な感じのものを。……その要素は多分アルバムには入っていないですけどね(一同笑)」
――歌詞の部分でいうと「ばいばい、ノスタルジーカ」や「マイネームイズラヴソング」なんかは、今までと比較して変わった部分も大きいのかなと思ったりしました。そこも含めて詞の部分の変化についてもお訊きしたいです。
「今まで暗い歌詞をたくさん書いてきたと思うんですけど、なんていうか……そういう表現の仕方を「チャラいな」って思うようになったんです。逆にハッピーな歌詞を書いた方が、(シーンの)周りにそういう歌詞を書く人もいないし、格好良いかなって(笑)」
――でも元々ご自身の中にそういう要素があったから出てきたんでしょうね。
「そうですね、僕は元々結構ハッピーな人間なので。元々あった暗い感じというか、尖りみたいな部分ももちろんあるんですけど、向いてる方向とか尖り方は変わったのかなという感じはします」
――曲の視点なんかも変わってますしね。年齢が上がった感じというか。
「それはあるでしょうね。僕自身の年齢が上がりましたし、丸くなったというか腰を据えた部分はあるかもしれないなって。まぁそれはしょうがないのかなと思ってます(笑)」
――「腰を据えた」感は出てないですよ、全然尖ってますし(笑)。その他にご自身の中で変化した部分は感じていますか?
「初回特典のCDなんかは、前作のときの僕だったらやらなかったと思いますね。自分の楽曲を自分の名義で世に出すときに、「他人に頼りたくないな」って1stの頃だったら考えたと思うんですけど、今はそうは思っていないから」
――歌い手さんが歌うことによって、Neruさんの曲が色を変えることもありますよね。そこに対してはどう感じますか。
「許容できるようになったし、「こういうアプローチがあるんだ」っていう発見もさせてもらえてます。リミックスに関しても同じで、「濃い」メンバーが揃ったし、出来上がった曲を聴いたときは「だいぶみんなぶっ飛んでるな」と思いました(笑)。150Pさんの「延命治療」なんかは本当にクレイジーな仕上がりですし、経験のなせる業ですよね」
――特典の“歌ってみた”の方では特にお気に入りの収録曲はありますか?
「「テロル」は新しい発見がありましたね。僕はこの曲ってすごく可愛い曲だと思っていて、実際に“歌ってみた”動画で上がっているのも可愛いアレンジばかりなんですけど、96猫さんの「テロル」だけすごくミステリアスな……『コナン』の曲みたいな(笑)」
――色っぽい感じもしますしね。アルバムに関してもう一つ、ジャケットについても訊きたいんですが、こちらのイラストはどのようなオーダーをされたんでしょうか。
「基本的にはしづさんにお任せしているんですけど、「廃墟っぽくしたい」とか「男の子と女の子、2人欲しい」「ポストを描いてほしい」とかは僕がお願いして。プロットみたいなものを文字にして送ったんです」
――前作のイラストと比べると、緑が入っていたり、赤が挿し色になっていたり、どことなく「生命感」を感じるんですけど、そのあたりはNeruさんの意図ですか?
「そこはわりと、しづさんのアドリブですね。実際に完成してきたイラストを見て、キャラクターもかわいいし、「すごいな、化学反応したな」って思いました。その頃は曲を制作中の段階だったんですけど、音源が間に合わなくて何も渡さずに描いていただいたんです。結果としてアルバムの中身とうまくリンクしているし……良い化学反応ですね」
――その通りだと思います。今のお話から察するに曲の制作が難航されていたんですか?
「僕はいつも時間の許す限り、ギリギリまでかかってしまうんですよね」
――そもそも曲作り自体は、本能みたいな部分からスタートするんでしょうか。
「そうですね。特に「こういう曲を書きたいな」とかは考えないで作っているので――嫌いなんですよね、リファレンスみたいなのが。だから「この曲はどういう思いで?」みたいに聞かれても答えられないんですよね(苦笑)。アレンジも作りながら足して/消してって感じです」
――すごく感覚派だったり。
「いや、実は理論派です。なんか……脳みそが理系なので、積み上げて作っていくのが好きなんだと思うんですよ。土台は本能的に思いついたものですけど、そこから先は一個一個の音に意味を持たせたいというか。何だかよくわからない音を乗せてみたら良くなった、みたいなことはやっていないです。「最近聴いたこの曲が良かったから、同じようなことをやってみよう」みたいなことも無いですし」
――ちなみに歌詞も理論に則って書いていますか?
「歌詞もそうですね。たとえば「ハリボテ」とかはまさにそうで、この曲って譜割が細かくない曲なんですけど、そういう譜割に日本語の一文字一文字を入れていくとリズムが「のっぺり」するんですね。それに対して一音の中に無声音を含む2文字を入れる――シラブルっていうんですけど、そうすることによって日本語の「のっぺり感」を取り除くことができるっていうのが作詞法の中に存在するんです。歌詞でいうと<プライド>だったらイが無声音だし、<才能>だったらイとウが無声で発音できるじゃないですか。だからこの曲のサビはシラブルで発音できる歌詞しか持ってきていないんですよね。メロディ自体を鍵盤で鳴らしたらものすごくシンプルなメロディなんですけど、実際に発音して歌ったときにはスピード感が出るように工夫しました」
――なるほどなぁ。考えてみたら最近の邦楽ロックとかもそのパターンが多い気がしますね。
「はい。落とすときはモーラ的にあえて「のっぺり」とさせたり、スピード感を稼ぎたいときはシラブルでいったりっていうのは、邦楽ロックでもすごく考えられているのかなって。だから編曲の領域に関わってくるような部分にも作詞の段階で計算してて、もちろんメッセージは込めますけど、その良い落としどころみたいなのは考える派ですね」
――なるほど。今回もアルバム用に曲を書き下ろしていますけど、そのあたりに注目して聴いてみたいですね……という3曲に対する簡単なセルフレビューをお願いできればと思います。いま「ハリボテ」に関しては伺ったので、ほかの2曲はどうでしょう。
「「洗脳」は「ハリボテ」とは逆で、わざと「のっぺり」聴かせたかったんです。「のっぺり」した歌詞って、主観じゃなくて俯瞰の歌詞に向いている気がしていて、この曲に関しては俯瞰的に聴かせる曲にしたかったんですよね。だから歌詞も、中から見た景色じゃなくて外から見たときに出てくるであろう日本語を入れています」
――もう一曲の「マイネームイズラヴソング」はアルバムタイトルにもなっていますが。
「これは最初からタイトルにするつもりで作った曲ですね。時期的にアルバムタイトルを決めないといけないタイミングだったこともあるんですけど(笑)、まずはタイトルを決めて……そもそも2ndを作るときに「僕が言わなそうなことを言ってみたいな」と思ったんです。皆が思うNeru像を考えたときに一番遠い言葉をテーマにアルバムを作りたいというところで、まず出てきたのが「ラヴソング」で。ただ、それをストレートにやるだけじゃなくて、Neruとして成立させるからこそ格好良い曲になると思ったんですよ。……90年代とか2000年代の初めくらいに音楽シーンがラヴソングだらけになった時期があったじゃないですか。それをやりすぎた結果、リスナーの人にとって「ラヴソング=商業音楽」みたいな図式が出来ちゃった気がしていて。だから逆に今の人たちってラヴソングを求めていなさすぎると思うんですけど、それに対して「そうじゃないだろ」っていう思いもあって、今作ではラヴソングをテーマにしてみました」
――その思いを「Neruの楽曲」として表現したわけですね。
「はい。それを自分の言葉で言えたらアルバムのテーマ的にもカッチリハマるんじゃないかと思って。聴いた方にもそう思ってもらえたら嬉しいです」
インタビュー=風間大洋
発売日:2015年9月30日
品番・価格:
【初回限定盤 (CD+特典CD)】GNCL-1258/税抜価格\3,000
【通常盤 (CD only)】GNCL-1259/税抜価格\2,000
収録曲:
01. 世界を壊している
02. 人生は吠える
03. イドラのサーカス
04. アノニマス御中
05. ばいばい、ノスタルジーカ
06. ハリボテ
07. FPS
08. 脱獄
09. 洗脳
10. テロル
11. マイネームイズラヴソング
<特典CD INDEX>(※ 初回限定盤のみ)
01. 再教育/まふまふ×un:c
02. 世界を壊している/そらる
03. 東京テディベア/+α/あるふぁきゅん。
04. テロル/96猫
05. ばいばい、ノスタルジーカ/un:c
06. ハウトゥー世界征服[PinocchioP remix]
07. かなしみのなみにおぼれる[n-buna rearrange]
08. 延命治療[150P giga orchestric arrange]
09. 少年少女カメレオンシンプトム[おさむらいさん rearrange]