菜月チョビにインタビュー! 名作戯曲の“再発見”シリーズが始動 ~第1弾は鴻上尚史の名作舞台『パレード旅団』
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劇団鹿殺し・菜月チョビ(撮影/石橋法子)
劇団鹿殺しの菜月チョビが、鴻上尚史の初期の名作『パレード旅団』を個性的な客演陣らと共に上演する。過去の名作戯曲を掘り起こす「リボーン・シリーズ」第1弾。作者の鴻上が言う「家族を解散して未来を探ろうとする親子と、いじめられた中学生達が集まって『何か』しようとしている物語」を初演から30年を経た今、どのように演出するのか。本作が「初の演劇体験だった」と話す演出の菜月チョビに、本作の魅力と新シリーズ発足に込めた思いを単独インタビューで訊いた。
「今後色んな作品を『見逃さずに観たい!』というお客さんが増えたら嬉しい」
ーー過去の名作を上演する、新シリーズが始動しました。発足のきっかけは?
以前から何となく演劇をやっている側や観てくださるお客さん側からも「新作史上主義」なところを感じていて、プレッシャーに思う部分もありました。でも、お芝居って期間限定なので見逃したらもう観られない。それはもったいないことだなと。もっと作品と出合うチャンスを増やしたいという思いが、ずっとありました。
ーー「リボーン・シリーズ」で上演作品を選ぶポイントは?
自分が見逃していたので「もう一度観たい」と思うもの。私基準です(笑)。とくに有名な作家や何かの受賞作品ということではないですね。そもそも自分が同時代につかこうへいさんの芝居を生で観ることができず、想像の中のつかさんの芝居を実際に作りたくて劇団を立ち上げた部分もあったので。このシリーズでも観たことはないけど、「きっとこんな感じで、すごく面白かったのだろう」というものを具現化していきたい。
ーー演出家としても挑戦に満ちた試みになりそうです。
そうですね。違う作家さんが創りあげた世界を演出してみたいという思いがあります。劇団の公演だと書いている時点で、ある程度(仕上がりが)見えている。でも、すでに出来上がった作品だと、後は自由に演出できるという感覚があるので、それがリボーン・シリーズならではかなと。
ーーシリーズの最終的な目標や、ゴールみたいなものはありますか?
やっぱりお芝居は一期一会で、こんなにも良い作品を見逃していたんだ!と残念がってもらえるように、面白い作品を上演していきたい。その上で、これから上演されるたくさんの作品に対して「見逃さずに観たい」と思ってくれるお客さんが増えると、凄く嬉しいなと思います。
ーー第1弾『パレード旅団』は大学生だった18歳の頃に、人生で初めて観た「演劇」だったそうですね。厳密には、通っていた大学の演劇サークルの通し稽古で、メンバーには後に劇団を一緒に立ち上げる丸尾丸一郎さんもいらしたとか。
当時はお芝居をやってみようとか1ミリも考えていない、まったくの演劇経験ゼロの状態だったので。同世代の人がやっている演劇とは、どんなものなんだろうと。みんな恥ずかしげもなく、どんな顔して人前でしゃべっているのかが気になって(笑)。それは通し稽古だったのでセットも衣装もない中、普段の自分と同じように生きている感じの人たちが、覚えた台詞を話したりしている姿を観ていると、その役にだんだん見えてくるもんだなと。
ーー今までにない体験ですよね。
それは演じている人たちが凄いってことだけじゃなく、観ている側も知らない間に自分の想像力を使うことで「見えてくる」、それが凄く不思議で。世界が変わったと見ようとしている自分に気づいたときに面白いなと。これが演劇を観るとか、やるということなんだなって。
ーー初観劇の時点で、そんな気付きがあったのですね。
あ、そういうものかと。初めて観ると本当に何してんのか分からないじゃないですか。とくに今回の戯曲は、ふたつの世界が重層的に描かれる作品なので、同じ人なのに何の説明もないままに、パッと役替わりする。最初は何してんのか分からないんですが、そこからだんだんと自分でも「分かろう」としていく、その心の働きを知っていく感じでした。
ーー今回、演出するにあたって一番挑戦してみたいことは?
役替わりの瞬間、役者はどうやって気持ちを切り替えているのだろうとか。改めて、お芝居とそうじゃないものの違いや、お芝居のルールというものを新鮮に感じながらやろうと思います。「これってお芝居にしかないことだよね」ということを、一つずつ味わうというか。私の中では初めて観た先輩たちの『パレード旅団』が「演劇とはこういうものだ」というふうに刷り込まれている部分が結構あるので。あの感じを今の自分が演出するとどうなるんだろうと。そこへの興味が、この作品を一番に選んだ最初の動機でした。自分も18歳の頃に戻りながら「演劇って面白いな」って楽しみたい。
ーー物語としての面白味については。
当時はふたつの世界を行き来することが初めてで、追い切れない部分もありました。でもふとした瞬間に“分かる台詞”が出て来る。例えば「カレーを作って、待っててよ」と息子がお母さんに話す台詞とか。筋は分からないけど、その感情は「分かる」。それって良いものだなと。パッと気持ちがシンクロする瞬間が、どの芝居にもあると思うんですけど、鴻上さんの作品にはキュンとくる台詞や、突然自分に言われているように感じる台詞が瞬間的に出てくる。そういうグイっと心が捕まれる感じが演劇的で、鴻上作品ならではなのかなと思います。
写真/江森康之
「自分も健康でいたいとか、明るく元気な気持ちになれるのが演劇の良さだと思う」
ーー菜月さんは「演劇にこだわったエンタメ作品を作っていきたい」と発言されていますが、演劇の何を信じているのでしょう。
私は観客に近い感覚なので、お芝居とはこういうものだというのは、あまり隅々までは分からない。観劇中も筋が分からない時間が長くて、察しが悪いタイプ。集中力もないし。それでも、誰にでも分かる瞬間というのはあって、そのことを信じている感じです。
ーー誰にでも分かる瞬間ですか。
例えば、大きな音に驚いてビクッとなった瞬間に、お母さんが子供に手を差し述べている場面を目にすると、お芝居とかを飛び越えて誰もが微笑んじゃう。きっちり説明されると斜に構えちゃうような人も、一瞬の驚きの中に滑り込まされると、素直に胸がキュンとしちゃうと思うんです。そういうのを作り出したい。それが、目の前で人間が何かするっていう意味なのかなと。人間ってそんな(言葉以上の)ことが出来るんだと思うと「健康でいたいな」って思います。そういうことも感じて貰えるのが、お芝居かなと。
ーー「健康に」とは、斬新な発想に聞こえます。
例えば私はシルク・ドゥ・ソレイユが好きなのですが、彼らの公演を観ると「人間ってこんなこんなことを考えつくんだ。私も色んなことを考え付けるように、元気でいたいな」と思える。緻密な戯曲を観客がそれぞれの解釈で楽しむお芝居があるとすれば、私がやりたいお芝居はまたちょっと違うかも。観劇後に自分も健康でいたいとか、明るく元気な気持ちになれるのが演劇の良さだなと思っています。
ーー今回の『パレード旅団』は「中学生のいじめ」や「崩壊寸前の家族」といったシリアスな題材です。
これは鴻上さんも言及されていることですが、ここで描かれている寂しさや虚しさって、どんなことにも通じるものだと。劇中「今日かぎり、父さんは父さんをやめようと思う」という有名な台詞があるのですが、家族のなかでも知らないうちに相手が望む自分を演じている。いじめっ子といじめられっ子という「役割」もそうだし、役者が役を演じることも同じかもしれない。いつから自分は自分じゃなくなったのだろうと。反面、個人だと寂しくて「役割」をつけて繋がり合おうとする、集まる幸せもあるから。バラバラな個人が集まって、集まったら「役」がのし掛かってきて離れたくなる、でも寂しいから…の繰り返し。結局、プラスの方向にしか歩めない、人間そのものを描いている作品にしていきたいなと思います。
ーー誰の物語でもあり、劇団そのものにも投影できる題材だと。
当時の鴻上さんは「劇団が第三形態になろうとしている」と発言されていて。みんなでギュット団結して劇団でやるぞ!という時代から、個々の活躍が増えて、でも集まったら団結するという時期を経て、いまは集まってもギュッとならない、緩やかな繋がりになりつつある時代だと。私たちも劇団をやっているから分かるんですけど、劇団っていつまでも同じ形態ではいられない。アメーバみたいに形態を変えていかないと続けられなくて。メンバーは外部公演に出る機会もあるけど、自分の劇団だと真ん中から動けない。みんなの距離が変わっていく、そのギリギリの所で強がっている時期は凄く寂しかっただろうなと。だからこそ、「こういう繋がり方もある」と、人間のつながりたいという気持ちを信じたかったんじゃないかな……と、勝手に共感しているんですけど。
ーー今回の座組についてはいかがですか。
客演陣は、みなさん初めましての方ばかりで、育ちもノリも全然違ったので予想がつかない。私が人見知りなこともあって、雑談すらあんまり噛み合わなかったので(笑)。そういうことすら楽しめるような人間に、この一ヶ月の稽古期間中はなってみようと思います。
ーーこれから、なんですね(笑)。
(取材時では)週明けから稽古なので、ドキドキ感をも楽しみたいです。貧乏性なので客演の方には特技は全部披露して頂こうと思っています。私が演じる犬役は梅棒の伊藤今人さんとのWキャスト。体格や性別からして違うので、見た目からも楽しんで頂ければ。それぞれ、お楽しみのシーンがきっとあると思います。
ーー昨年は15周年の節目を祝う一年でした。2017年はどんな1年でしたか。
15周年では電車二部作(『電車は血で走る』『無休電車』)を一挙同時上演し、みんな限界まで無理したんですよね。大きな山を一緒に乗り越えたことで、劇団としての結束力が強まりました。それまでの自分は常に新しいビジョンを見せてみんなを引っ張っていくんだ、という思いが強かったのですが、電車二部作では自分でも初めて行く先が見えない状況に陥りました。ある程度メンバーに任せざるを得ない部分も増え、それによりメンバーとの距離も縮まりみんなを信じられるようになった。もうみんな大人なんだなって。どうしても劇団員は自分の子供のような感覚があったので。それぞれが外部で活動するのを見に行く機会も多かったので、微笑ましく温かい気持ちになれる1年でした。
ーー2017年の締め括りとなる本作でも、新たな魅力が見られそうです。
私にとって初めてのプロデュース公演として、大きな一歩を踏み出します。お芝居ってどいうことだろう?という作品にもしたいので、初めて演劇体験としてもぜひ観て頂けたら嬉しいですね。
取材・文・撮影=石橋法子
写真/江森康之
■演出:菜月チョビ(劇団鹿殺し)
■音楽:オレノグラフィティ
■アートワーク:入交星士
■出演:蕨野友也、松浦司、佐藤祐吾、橘輝、鷺沼恵美子、椙山さと美、メガマスミ、葉丸あすか(柿喰う客)、伊藤今人(梅棒/ゲキバカ)、菜月チョビ
【日替わり婚約者】七味まゆ味(柿喰う客/七味の一味)、ファーストサマーウイカ、有田杏子(劇団鹿殺し)
<東京公演>
2017年12月7日(木)~17日(日)
■会場:新宿シアターサンモール
<大阪公演>
2017年12月21日(木)~24日(日)
■会場:ABCホール
■公式サイト:http://shika564.com/parade/