『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』はスタッフ全員から日本の皆さんへ贈るラブレター! スタジオライカ アニメーションスーパーバイザー ブラッド・シフインタビュー

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2017.11.15

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2017年11月18日(土)より日本公開となるストップモーションアニメ『KUBO//クボ 二本の弦の秘密』が10月29日、第30回東京国際映画祭の特別招待作品として上映された。古き日本を舞台に、三味線の音色で折り紙に命を与える不思議な力を持つ少年・クボが戦いを通して成長していくストーリー。膨大な数のパーツを付け替えながら、形を少しずつ動かして撮影していくストップモーションアニメを手掛けたのは、『コララインとボタンの魔女』『ティム・バートンのコープスブライド』などで知られる米スタジオライカ。3DCGアニメ全盛の中で、昔からの技術と新しい技術を組み合わせた手法に、情熱を注ぎ込んで製作した渾身の作品である。

ストップモーションアニメの最高峰・スタジオライカが作り上げた本作は、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞をはじめ、アニメ映画界のアカデミー賞とも呼ばれるアニー賞にもノミネートされ、数々の映画賞を総なめにした話題作。今回の映画祭上映に合わせて、スタジオライカのCFOであるブラッド・ヴァルド氏、プロダクションコンサルタントの後藤太郎氏とともに来日した、アニメーション・スーパーバイザーのブラッド・シフ氏に作品に込めた思いや、製作秘話などについて語ってもらった。

【目や表情から気持ちが伝わるように】

――クボが見ていると思うと、ちょっぴり緊張してしまいますが…。今にも動き出しそうですよね。

まさに、そうなんです。今にも動き出しそうという活き活きとした雰囲気を感じ取ってもらえたのはすごくうれしいです。目だけでなく表情からも感情が分かるように作っています。このように、マグネットでポコッとハマるように設計されています。これは現場のアニメーターにとってとても大切なポイントです。顔を付け替えるたびに、ズレてしまったり外れやすくなってしまっては、手間が増えてしまいます。ぴたっとくっつくマグネットはとても便利なんです。触ってもらうと分かるように、顔のパーツはとても固いんです。「目は心の窓」というように、目からキャラクターの心情が分かるようにと考え、目とまぶたが独立して動くような設計にしました。

――クボの表情を作るのにどのくらいのパーツが必要だったのですか?

顔のパーツは、眉と頬が動かせる鼻から上と口の部分と上下2つに分けています。試行錯誤の中で、ここのラインで分けることが、上限の幅が一番広がると発見しました。クボでいうと、8000個の口、8000個の眉のパーツがあり、組み合わせると4800万通りの表情を作ることができました。

――(シフ氏がクボの顔のパーツを変える様子を見ながら)クボの顔のパーツは能のお面のようですね。

なるほど。まさに闇の姉妹の顔がお面ですね。彼女たちはパーツの付け替えがほとんどなかったので、楽でした。なので闇の姉妹、大好きです(笑)。

――着物の動きがとても美しかったですし、リアルに感じました。表現にどのような工夫をされましたか?

褒めてもらえるととてもうれしいです。ありがとうございます。着物の表現は本当に難しかったです。ストップモーションは基本的に生地が身体にぴったりくっついているのが普通です。それが楽な作り方だったからというのが理由のひとつなのですが、今回は、舞台は日本、時代は江戸ということもあり、衣装は着物にするというのは外せないものでしたので、動きが自然に見えるようにするための工夫に苦労しました。

クボの衣装でいうと、袖にワイヤーとアルミホイルみたいなものが入っています。風に吹かれているときのそよぐ袖、走っているときになびく袖をテストしていく中で分かったのは、“重み”が大切ということです。パペットの大きさにあった重みがないと、人形のように見えてしまいます。常に意識したのは、人間が着たとき着物はどう見えるかをイメージすることです。布は軽く見えなければいけないけれど、パペットのサイズに合うなびき方を考えると、ある程度の重みが必要。重さと軽さの両方を表現することが大切だったのです。

――クボが三味線を弾いたり、折り紙を織るシーンでの指の動きがとても滑らかで感動しました。また、お母さんがクボの元へと這っていくシーンでは、指に人間らしいツヤがあるようにも見えました。

細かく見てくれてありがとうございます。とてもうれしいです。実は、シリコンでできています。触ってみてください。指にワイヤーが入っているので、関節で自由に折り曲げることができます。これで、さまざまなポーズがとれるようになりました。お母さんの着物の表現はとても大変でした。洞穴と海の中のシーンでは、着物の状態が違います。片方は、風にそよぐ感じが必要ですし、もう一方では濡れて重みが出ている様子を表現しなければいけない。この2つの着物のシーンをぜひ、見比べて欲しいと思います。

【人々の佇まいや物腰は黒澤作品からリサーチ】

――こういう作品が日本からではなく、アメリカから生まれたということに少しジェラシーを感じてしまいました。日本、そして、日本の文化への敬意が、作品から伝わってきます。ものすごいリサーチをされたと伺っていますが、一番惹かれた伝統文化はありますか?

すべてです。今回リサーチした日本の文化はどれも素晴らしく、私を含めて全スタッフが没入していました。風景、建物、衣装などそれぞれの分野でリサーチを進めていたのですが、私はアニメーターなので、物腰や動きを研究する必要がありました。参考にしたのは黒澤映画です。人々の佇まいや所作などを徹底的にリサーチしました。

この作品を通して感じられることのひとつに、“日本の美術”という要素があります。特に木版画家の斉藤清の影響を感じられるはずです。僕らが名付けた“斉藤ステンシル”というデザインがあって、絵具やローラー式のスポンジなどを使って外観に直接色を塗ってみたりしました。実際の作り方とは違っていても、斉藤清作品を感じてもらうことはできると思います。

また、村の地面には、砕いたクルミを使って質感を出しました。人の温もりや手触りを感じられるようにしています。さまざまな日本の文化を学ぶ中で、すべてを参考にして作っていったという感じです。なので、この作品は“私たちから日本の文化すべてに贈るラブレター”といえます。

――この作品を見て、日本人である私たちが、日本の文化に改めて興味を持つ、学びたいと思うきっかけとなるかもしれない!とも感じました。

それはおもしろい。だけど、そうなってくれたら本当にうれしく思います。

――落ち葉の船の上で、魚をさばいて食べるシーンがありますよね。漁師飯!という感じで、あのシーンにも日本らしさを感じました。

日本といえば、寿司や刺身ですから。あのシーンでも日本らしさを感じてもらえたのは、とてもうれしいです。こだわったのは、リアルに見せることです。マグロの艶感とかとても大切にしました。

――プレスに記載されている数字のトリビアなのですが、「使われた綿棒の総数…177,187本」とありますが、何に使用したのか教えていただけますか?

アハハハ。パペットたちのクリーニングに使いました。撮影後にホコリを取ったり、アニメーターたちが汚い脂のついた指で触った後をキレイに拭き取らなければならなかったので(笑)。それにしても、誰が数えてたのだろう?

【大好きなジブリ作品は『千と千尋の神隠し』】

――日本に来るのは今回が初めてということですが、どこか行きたい場所はありますか?

本当は、フラフラ探索がしてみたいです。日本にいることを感じるというか…。ただ、今回は、たった2日間しかいられないということで諦めようかとおもったのですが、ボスにお願いして、なんとか1日だけオフをもらうことができました。1カ所だけ行きたい場所が選べるということで、“ジブリ美術館”をリクエストしました。ジブリ作品は本当に大好きで、中でも『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』『もののけ姫』がお気に入りです。『となりのトトロ』は娘も大好きな作品です。

――公開を楽しみにしている日本のファンにひとことお願いします。

スタジオライカが目指すのは、いつまでも残る作品、きちんと意味のある作品を作ることです。敬意を持って作り出した作品が、普遍的にたくさんの方に共感を持ってもらえることを願っています。私たちが楽しみながら作り上げたこの作品を、今度は皆さんが観ることで楽しんで欲しいと願っています。

映画『KUBO//クボ 二本の弦の秘密』は11月18日(土)より新宿バルト9ほかで全国公開。

ブラッド・シフ(アニメーションスーパーバイザー)
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』のアニメーションスーパーバイザーを務める。
MTVの「セレブリティ・デスマッチ」「The PJs and Gary & Mike(原題)」をはじめ、数々のテレビ番組で経験を積んだのち、2001年に「The PJs and Gary & Mike(原題)」でエミー賞のアニメーション特別貢献賞を受賞する。またアニメ製作以外にも、任天堂、FOX、サムスングループ等のCMも手掛ける。その他の作品として、『ティム・バートンのコープス ブライド』(05)、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(12)、『ファンタスティック Mr.FOX』(09)などがある。

インタビュー・文:田中しのぶ 撮影:加東岳史

作品情報
KUBO/クボ 二本の弦の秘密​

2017年11月18日ロードショー

監督:トラヴィス・ナイト
声の出演:アート・パーキンソン(クボ)、シャーリーズ・セロン(サル)、マシュー・マコノヒー(クワガタ)、ルーニー・マーラ(闇の姉妹)、レイフ・ファインズ(月の帝)
原題:Kubo and the two strings/2016/アメリカ/カラー/シネスコ/
5.1chデジタル/字幕翻訳:石田泰子
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