SIRUPが語る「SIRUP EP」あらゆる枠を取っぱらって、好きなことをありのままに

インタビュー
音楽
2017.11.28
SIRUP 撮影=森好弘

SIRUP 撮影=森好弘

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「おまえは歌がうまいから、シンガーになったら?」 実の兄の言葉に背中を押され、関西を拠点にクラブシンガーとしてキャリアをスタートしたKYOtaroは、2012年のファースト・アルバム『HEARTBEAT』以降コンスタントにリリースを重ね、そのしなやかな歌声でR&B/SOULファンを魅了してきた。拠点を東京へ移してから4年、KYOtaroからSIRUPへと名を改めた彼は、新名義として初めての配信シングル『Synapse』で鮮やかな変貌を遂げ、「この曲を歌っているのは誰?」と話題を呼んだ。そして、今年11月に満を持して発表した「SIRUP EP」では、日本語と英語、歌とラップを流れるように行き来し、洗練されたトラックを自在に乗りこなす彼の新たな魅力が発揮されている。このインタビューでは、ブラック・ミュージックをこよなく愛する彼のルーツや、KYOtaroからSIRUPへの変化、EP収録曲の制作秘話などを余すことなく語ってもらった。

SIRUP 撮影=森好弘

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ーー SIRUPさんがシンガーを志すきっかけになった音楽を教えてください。

高校1年生のころ、所属していた吹奏楽部のOBでR&Bを歌っている先輩が、スティーヴィー・ワンダーのベストアルバムを貸してくれたんです。同時にアリシア・キーズにも出会って、『If I Ain't Got You』に衝撃を受けて。この2人の周辺の音楽に触れるうちに、1990年代後半〜2000年代のR&Bだったり、ミュージック・ソウルチャイルドなどのネオソウルも聴くようになって、こういう音楽をやりたいと思うきっかけになりましたね。

ーー 学生時代は吹奏楽部でトロンボーンを吹かれていたそうですが、音楽を続けるにあたって「歌」を選んだ理由はなんだったのでしょう。

中学、高校の部活動と、卒業してからも吹奏楽団に入ってトロンボーンを吹いていたんですが、当時クラブでイベントをやっていた兄とカラオケに行ったときにスティーヴィー・ワンダーを歌ったら、兄が笑いながら「おまえは難なく歌ってるけど、普通はこんな曲歌えないよ! シンガーになったら?」と言われて。「じゃあ、歌をやろうかな」と思って、本格的に歌い始めました。

ーー SIRUPさんの英語の発音がナチュラルなのは、聴き続けてきた海外のアーティストの影響なのでしょうか。

僕、今まで海外に行ったことがないので、喋れないんですけど(笑)。 聴いていた音楽の影響もありますし、発音とグルーブの関係が昔から気になっていたので、大学のゼミでブラック・ミュージックを勉強したり、発音の授業をたくさんとったりしていたことはあります。

ーー 以前のKYOtaro名義での初めての作品は2012年のミニアルバム『HEARTBEAT』ですが、どういった経緯でリリースに至ったのでしょうか。

このまま歌を続けるにあたってもっと気合いをいれないとと一念発起したのと、単純に自分の楽曲はアルバムなどの音源としてしっかり形にしたいという思いがあって。それまで作っていたオリジナルの楽曲を全てリアレンジして、この『HEARTBEAT』をリリースすることになりました。​

ーー そこからKYOtaroとして長く活動されて、SIRUPに改名されたキッカケは何かあったのですか?

4年前に拠点を東京に移してから、シンプルな歌とメロディーなのにグッとくるような素晴らしいシンガーにたくさん出会って、僕もシンプルなのに胸に響く“歌ヂカラ”がもっと欲しいと思ったんです。そこを何年も突き詰めて、KYOtaroとして最後のアコースティック・ミニアルバム『ROOM』では、歌とギターだけで勝負しました。そこから「次はなにをしよう?」と考えたときに、「より好きなことをたくさんやろう!」と思ったんですが、そうするとこれまでとガラッと音楽性が変わったんですよね。KYOtaroという名前は、見ただけで「男性のシンガーでブラックミュージックをやっている」とかなんとなくイメージできると思うのですが、そういう枠組みも取っぱらって幅広い音楽を表現したかったんです。シンガーとしては10年目だし心機一転、名前を変えようかと思ったときに、ちょうどマネージャーやスタッフさんからも「変えてみたら?」という提案があって、タイミングがすごく良かったですね。

SIRUP 撮影=森好弘

SIRUP 撮影=森好弘

ーー SINGとRAPを組み合わせたSIRUPとなってからの作品は、歌とラップを流動的に行き来する表現が印象的ですが、具体的に意識したアーティストはいますか?

デモの段階では以前からこういう歌いかたもしていましたし、特定のアーティストに影響を受けたわけではないんですが、昔からヒップホップは聴いていました。今年いちばん聴いたのはSminoとGoldlinkです。

ーー SIRUPとしてはさまざまなクリエイターとコラボレーションされています。「SIRUP EP」のリードシングル「Synapse」は、小袋成彬さん率いるTokyo Recordingsがプロデュースされた楽曲ですね。

そうなんです。環ROYさんの「ゆめのあと」という曲に小袋くんがフィーチャリングで参加していたのを聴いて、「小袋くんとやってみたいし、Tokyo Recordingsも面白そうだなぁ」と思っていたら、小袋くんが宇多田ヒカルさんのアルバムにも大抜擢されて、「うわぁ!すごい!」と思って。それで一緒に曲を作れないかとオファーしてみたら、「やりましょう」という返事をくれました。スタジオで初めて会ったんですけど意外にめっちゃ面白いひとで、たくさん色んな話をしましたね。

ーー 「Synapse」はどのようなアイデアをもとに作っていきましたか?

僕がディスコっぽいダンスチューンの簡単なデモを作って、Tokyo Recordings側にこのデモとレファレンスを聴いてもらったんですが、「ここからカッコ良いのが思いついたら、本当に自由に作ってもらって大丈夫です」と言って投げてみたんですね。そうして返ってきたのが全部英語の歌詞だったので、グルーヴと韻が失われないように日本語をハメていきました。

ーー メロディーについている英語を日本語に置き換える作業は、難しそうに思います。

それが、めちゃくちゃ楽しかったですよ。「送ったデモがすごい曲になって返ってきた! じゃあ俺も面白い歌詞を書いて返そう」となって。お互いに刺激になるのが音楽作りの楽しさなんだろうなと思います。「Synapse」には《プラグイン》という歌詞があるんですけど、それは『攻殻機動隊』のアニメを観ながら筋トレをしていたときに思いつきました。実際に電脳にプラグを挿して情報共有ができたら、何をするにも仕事がめちゃくちゃ早いだろうし、気持ちよさそうだなぁと思ったり。僕がアニメや漫画が好きなところからもアイデアを引っぱって、面白い歌詞にできたと思います。今までは、「KYOtaroはこういう曲とかこういう曲しか出しちゃいけない」みたいな、凝り固まった『KYOtaro像』が僕の中にあったんですが、今回はそれを取っぱらって作れました。

SIRUP 撮影=森好弘

SIRUP 撮影=森好弘

ーー 筋トレをしているときに音楽のアイデアが生まれることがよくあるのですか?

筋トレと、お風呂と、ランニングをしているときにアイデアが出てくることが多いです。お風呂はシャワー派なんで時間は短いんですけど、鼻歌をうたっているとすぐ出てきます。

ーー メロディーが思いついたら浴室を出てボイスレコーダーに吹き込んだり?!

それめっちゃやりますね。部屋ビショビショになる(笑)

ーー ははは(笑)。 筋トレから歌詞が生まれた「Synapse」のほか、SIRUPさんが所属するクリエイティブ集団 Soulflexのトラックメイカー Zentaro Moriさんがプロデュースされた「バンドエイド」と「SWIM」も収録されています。

Zentaroとはファーストアルバムから一緒にやっているのですが、お互いにスムーズに曲を作るためのマナーみたいなものをここ数年で覚えて、今回はそれがうまくハマりました。彼は結構チェックが厳しいので、中々OKが出ないんですけど、今回は「最高」って言ってくれました(笑)。

SIRUP 撮影=森好弘

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ーー 個人的に「バンドエイド」が大好きなんですが、Zentaroさんとイメージを共有するために、参考にしたアーティストや楽曲はありますか?

曲調が近いわけではないんですけど、Zentaroから送られてきたのは、Leebadaという韓国人の女の子の曲でした。僕もトラップミュージックというか、ハイハットがチキチキいっている曲をやったことがなかったので、やってみたくて。詳しいジャンルはわからないんですけど、自分の中での「踊れる音楽」がわりとスロウだったので、作ってみたらこんな感じになりました。

ーー スロウな曲調と少し気だるい歌声から、「諦め」みたいなものを感じました。

「バンドエイド」は、「もう壊してしまいたい」という破壊衝動の歌なんです。愛しかたを知らないが故に激しく傷つけ合ってしまう、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスと恋人のナンシー・スパンゲンみたいな。

ーー 本当にいろんなものからインスパイアを受けていらっしゃるのですね。そして「SWIM」は、厚いコーラスやブラスの音が印象的です。グラミー賞を受賞したChance The Rapperのミックステープ「Coloring Book」以降のトレンドでもある、ゴスペルサウンドですね。

そうですね。でもChance The Rapperは、『Coloring Book』よりも前の『Acid Rap』から聴いています。2013年にJames Blakeとフィーチャリングしていて、それがきっかけで知りました。

ーー さすが、早いですね。普段、どんな方法で音楽を聴いて、好きな楽曲やアーティストに出会っていますか?

CDももちろんですが、最近はストリーミングで聴くことが多いです。Apple Musicに登録してすぐのころ、トロントやシカゴなど地域のアーティストを集めたプレイリストを聴いてみたんですが、「この地域はこういうサウンドで、最近このプロデューサーが活躍してるんだな」というのがすぐわかって、そういった部分はストリーミングの面白いところかなと思います。

ーー なるほど。音楽はもちろん、アニメなど幅広いカルチャーからのインプットがあって、完成した「SIRUP EP」。KYOtaroから積み重ねてきたものやクリエイターたちとの繋がりを反映しつつ、より自由で新しい表現が詰まった作品ですので、SIRUPとしてのライブがどんなものになるのか楽しみです。

東京と大阪で行うワンマンライブはSoulflexのバンドメンバーがサポートしてくれるのですが、生音だけど同期も使ってコーラスなどの上モノを足してみたり、シカゴっぽいサウンドをみんなでイメージしています。

SIRUP 撮影=森好弘

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ーー 「SIRUP EP」の収録曲で踊るのが楽しみです! 最後に、これからSIRUPとして発信する音楽は、どんな場所で流れてほしいですか?

SIRUPとして初めてのEPはいろいろな「好きなもの」を詰め込んだので、曲調も歌詞の内容もさまざまなんですけど、やっぱりクラブや音楽が好きな人たちが集まるところで流れた嬉しいですね。1曲が1曲が色んなシチュエーションにはまると思うので、とにかくこのアルバムが皆さんの日常の一部になってもらえたら一番嬉しいです。

ーー 季節と場所を問わず、毎日をいっしょに過ごしたくなる1枚です。スタートしたばかりの「SIRUP」、これからが楽しみです! 本日はありがとうございました。

取材・文=Natsumi.K 撮影=森好弘

ライブ情報
SIRUP ワンマンライブ 『BTTF』
▶︎2017年11月25日(土) 【東京】南青山 Future Seven
▶︎2017年12月02日(土) 【大阪】大阪難波 Flamingo the Arusha
   開場18:00 / 開演 19:00
   前売り¥3,500 / 当日 ¥3,800
▶︎お問い合わせ
 【東京】株式会社Styrism / Suppage Records TEL : 03-6452-3172 / Mail : info@suppage.tokyo
 【大阪】サウンドクリエーター TEL : 06-6357-4400

 

リリース情報
1st EP『SIRUP EP』
01. Synapse (Music: OBKR / Yaffle)
02. LMN (Music: KYOtaro / Chocoholic)
03. Last Lover (Music: KYOtaro / Shingo.S)
04. 一瞬 (Music: KYOtaro / Kent.Aro)
05. バンドエイド (Music: KYOtaro / Zentaro Mori〔soulflex〕)
06. SWIM (Music: KYOtaro / Zentaro Mori〔soulflex〕)
07. Synapse (Chocoholic Remix)
 
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