HEY-SMITH × オーソリティ・ゼロ 日米パンクスの雄が海を越えて惹かれ合う理由
HEY-SMITH・猪狩秀平 / オーソリティ・ゼロ・ジェイソン・デヴォア 撮影=風間大洋
HEY-SMITHと米国アリゾナ州出身のパンクバンド・オーソリティ・ゼロ。国こそ違えど、USレゲエパンクを共通点にして、すでに10年以上も交流がある彼らは、ここ数年、毎年のように互いの国を行き来しながら対バンを繰り広げている。11月にはHEY-SMITHが所属するパンクレーベル・CAFFEINE BOMB RECORDSの15周年を記念した『CAFFEINE BOMB TOUR 2017』に日本のバンドに交じってオーソリティ・ゼロも参戦。いままで以上に親交を深めたタイミングで、今回はフロントマン猪狩秀平(Gt/Vo)とジェイソン・デヴォア(Vo)の対談が実現した。『CAFFEINE BOMB TOUR 2017』も残すところあと1日という、ツアーの最終盤で行なった取材ということもあり、別れを惜しむふたりのやりとりからは、国境を越えて繋がり合うバンドマンの強い絆を感じるものとなった。
――昨日の夜は一緒に温泉宿に行かれたそうですね。
猪狩:一緒に風呂に入ったけど、何も喋ることもなくボーッとしてました(笑)。
ジェイソン:海を眺めてね。(猪狩とは)2007年に初めて日本のツアーに来たときに会ったから、もう10年ぐらいの付き合いなんだけど、いまでも友だちなんだよ。
猪狩:オーソリティは(レーベル社長の)MOPPYさんが来日させてくれたんだけど。そのとき、まだ俺はMOPPYさんとは知り合ってなくて。その来日がきっかけで俺はMOPPYさんとも知り合えたし、いまのレーベルに入ることにもなったんです。
ジェイソン:それからずっと家族のような感じだよ。
猪狩:本当にそう思う。いまはバイバイするのが寂しいなあって思い始めてるし。
ジェイソン:今回のツアーはすごく早かったよね。
――ここ最近はHEY-SMITHとオーソリティは毎年のようにライブもやってますけど、国を越えて、これだけ数多く対バンをするって珍しいことじゃないですか?
ジェイソン:たしかに。今年2月にはHEY-SMITHがアメリカに来てくれたしね。彼らのホーンセクションが、俺たちのバンドで弾いてくれたりして。
猪狩:あとは福岡ではダンが俺らの曲を弾いてくれたり。
――何を演奏したんですか?
猪狩:「Come back my dog」っていう曲だったんですけど、クソ盛り上がりましたね。あれは自分でも忘れられないぐらい良い瞬間になりました。
ジェイソン:でも歌詞を覚えられないから、腕に書いて歌ってたんだよ(笑)。彼らの曲をやると、みんな喜んでくれるし、感謝してくれてるのが伝わってきたよ。
HEY-SMITH・猪狩秀平 / オーソリティ・ゼロ・ジェイソン・デヴォア 撮影=風間大洋
――10年間も交流が続くほど、お互いに惹かれ合うのはどういう部分なんですか?
ジェイソン:(猪狩は)イケメンだから。髪型が変わったのも、すごく好きだよ(笑)。
猪狩:あはははは! 髪を切ったからね。
ジェイソン:というのは冗談だけど、いちばん好きなのは彼の性格だね。すごく良いエネルギーを持ってる。一緒にいると幸せな感じがするんだ。
猪狩:俺も(ジェイソンの)性格が好き。誰にでも態度が変わらないんですよ。俺の友だちを紹介しても、ファンと接してても、ジェイソンはずーっと同じテンション。人とちゃんと向き合ってるから尊敬できますね。俺はそのへんは適当にやっちゃうときがあるから(笑)。
ジェイソン:あはははは!
猪狩:あとは日本でライブするとき、自分が求められてるものに対応するのが速いから、すごくプロフェッショナルだと思う。プレイがとにかく良いし、飲んでてグチャグチャになるとか絶対にないし(笑)。
――いま一緒に回っているツアーで思い出に残ったエピソードはありますか?
ジェイソン:昨日の夜だね。いままでのキャリアでもいちばん思い出に残る出来事だった。
猪狩:俺もそうだなあ。
ジェイソン:すごく楽しかったし、海の側で良い景色だったし。
猪狩:昨日はシチュエーションも良かったけど、みんなで“コ”の字になって好きな音楽を聴いたんですよ。「ここが良い!」とか言い合ったりして。
――どういう音楽を聴いたんですか?
ジェイソン:パンクロックとかスカ、レゲエ、メタルとか、共通して好きなものがあるから、そのあたりかな。あとはHEY-SMITHと同じような日本の音楽の要素を取り入れてる曲とかね。音がダイナミックで折衷的な要素を持ってる音楽は面白いと思う。
猪狩:あれは楽しかったね。
ジェイソン:あとシュウ(猪狩)が曲を書いてくれたから、みんなでそれを演奏したんだよ。
――それはすごいですね!
猪狩:ふたりでお風呂に入ったときにふっとメロディが出てきたから、「いける!」と思ったんですよね。それで夕食の時間までに作ったんです。
ジェイソン:あれはすごく良かった。あとは、どの会場でもオーディエンスに熱気があって、俺たちのことを迎え入れてくれたのもすごく良い思い出だよ。それはメンバーみんな同じ気持ちだと思うから、バンドを代表して伝えておきたいことだね。
HEY-SMITH・猪狩秀平 撮影=風間大洋
――今回のツアーで久しぶりにお互いのライブを見て、変化を感じる部分はありましたか?
ジェイソン:いちばん最初のツアーから比べると、すごく成長してるよね。大人にもなってるし、音楽的にも進歩してる。
猪狩:演奏もそうだけど、俺らがライブで出していくパッションみたいなものも、昔とは全然違うものになってると思いますね。特にオーソリティと対バンをすると、うちのメンバーは全員熱くなるんですよ。対バン相手によって、メンバーの誰かと誰かが仲が良い人っていうのはあるけど、オーソリティは全員と仲が良いから。良いテンションになりますね。
ジェイソン:良いチームだよね。
猪狩:だからオーソリティとのライブは飽きないんです。
ジェイソン:僕もだよ。
――さっきお互いのキャラクターが好きっていうのは伺いましたけど、音楽的なところでリスペクトできるのはどういうところですか?
ジェイソン:声だね。いろいろな方法で喉をケアしてるから、そこを尊敬してるよ。
猪狩:ケアグッズをあげたりしてるからね(笑)。
ジェイソン:アイシングをする道具とかマヌカハニーとかね。俺もウォーミングアップとクールダウンは絶対にやってるし、温かい紅茶を飲むとか、やってることはあったんだけど、シュウのほうが良いアイディアをいっぱい持ってるんだ。
猪狩:そうだね(笑)。
ジェイソン:あとシュウはギターのテクニックもすごく良いと思う。ギター1本しかないのに、すごくいっぱい音が鳴ってるように聴こえるのがクールだね。
猪狩:ありがとう。俺はジェイソンの声を初めて聴いたときに、マジで聴いたことがないような個性的な声だなと思ったから、そこがいちばん好きですね。
ジェイソン:この声を保てるのは君のおかげだよ?
猪狩:(笑)。
――何度もお互いの国に行き合って対バンツアーをしてますけど、国を越えてライブをする魅力ってどんなところですか?
ジェイソン:違う文化を経験するのはすごく楽しいんだ。あとは彼らのホームで、彼らが、どういうふうに観客とやり合ってるのかを見るのも面白い。彼らがお客さんをすごくリスペクトしてるのは勉強になるね。彼らがアメリカに来ることによって、彼らのことを知らない人にも知ってもらえるから、それも良い機会なんじゃないかな。
猪狩:俺が重要視してるのもまさにそこですね。やっぱり知らない人の前でやりたいんですよ。それはアメリカだけじゃなくて、俺は大阪の出身だけど、たとえば初めて東京に行くとか、福岡に行くとか、そういうのと一緒なんです。
ジェイソン:いろいろなところを経験すると、バンドは成長できるからね。
オーソリティ・ゼロ・ジェイソン・デヴォア 撮影=風間大洋
――もともと猪狩さんはランシドとかNOFXとかアメリカのパンクシーンに憧れて、バンドを組んだんですよね?
猪狩:そうですね。
ジェイソン:どれぐらいギターをやってるの?
猪狩:高校生ぐらいからだから……15年ぐらいかな。
ジェイソン:誰に影響されて音楽をやりたいと思ったの?
猪狩:NOFXとか、日本のバンドだとHi-STANDARDとか。
ジェイソン:Hi-STANDARDも長くやってるよね。一緒に対バンツアーをしたよ。
――いまオーソリティも含めて憧れていたアメリカのバンドと一緒にライブをできる状況はどういうふうに感じますか?
猪狩:こないだNOFXとも共演できたから、どんどん夢が叶ってるのは嬉しいですよ。でも、俺の場合はこれ以外にやりたいことも、やれることもないからやってる感じですけど。
ジェイソン:俺も同じだね。音楽に選ばれたような感じはしてる。もちろん俺が音楽を選んだんだけど。どっちかと言うと、最初はスケートボーダーになりたかったんだよ。だけど、スケートボードの道に進むことができなくなったときに、音楽以外でやりたいことがなかったんだ。だからいまシュウが言ったことは自分に近いものを感じてるよ。
――思いもよらず選んだ音楽の道だけど、いまは若い日本のリスナーにも影響を与えているわけだから、この道を選んで良かったですね。
ジェイソン:素晴らしいことだよね。日本のファンがメッセージをくれたり、似顔絵を描いてくれたりするんだよ。それが、すごく似てるんだ(笑)。
猪狩:俺、けっこう日本のお客さんに「オーソリティに出会わせてくれてありがとう」って言われる。今回のツアーでも何回か言われましたね。
ジェイソン:俺たちは良い関係だよね。
――ふたりがここまで国境を越えてつながることができるのは、音楽のなかでもやっぱりパンクロックが好きな者同士だから、と言える部分もありませんか?
ジェイソン:たしかにロックンロールとか、他のジャンルの音楽は他のバンドとのつながりが薄い感じがするから、こういう音楽ジャンルだから親しくなれたのかもしれないね。
猪狩:正直、パンクしか通ってないから他のジャンルのことはわからないけど、日本のフェスに出たときに、パンクとかロックの人とは一緒にいられるけど、なぜかポップスの人とは話せないんですよね(笑)。それは俺の性格もあるのかもしれないけど。
ジェイソン:違うシーンだからね。
猪狩:パンクロックっていうのは、もちろん音楽のジャンルでもあるんだけど、人間性とか生活感と一緒にあるものだと思うんですよね。
ジェイソン:たしかにそのとおりだね。
HEY-SMITH・猪狩秀平 / オーソリティ・ゼロ・ジェイソン・デヴォア 撮影=風間大洋
――いま新しい音楽がどんどん生まれてるじゃないですか。EDMブームも終わって、次には何だ?とも言われるなかで、ふたりが変わらずにパンクを愛し続ける理由は何ですか?
猪狩:変わらないとはいえ、オールドスクールなパンクだけじゃなくて、いままで誰も聴いたことがない音楽も発信したいなとは思ってるし、そこに楽しさを感じてるからかな。
ジェイソン:常に実験しながら進歩していきたいと思ってるんだよね。あと……俺はEDMというか、電子音楽みたいなものはわからないんだよ。
猪狩:EDMを否定するわけじゃないけど、自分で演奏しない音楽に興味がないよね。
ジェイソン:そうだね。実際に楽器を弾いている音楽が好きだから。
猪狩:あいつら、30分のステージで1回ポンッてボタンを押してるだけですよ?
ジェイソン:アメリカのコメディでそういうのがあるんだよ。DJが「かかるよ、かかるよ」って焦らして、みんな待ってるんだけど、全然違う音楽がかかったりするっていう。
――ブラックユーモアですね(笑)。それにしてもふたりの話を聞いてると、やはり国は違えど、フィーリングが合う部分が多そうです。
猪狩:うん、本当にそう思います。
――間もなく、いまのツアーは終わりますけど、この先ふたりで一緒に何かしたいことはありますか?
ジェイソン:たぶんこの先もそれぞれ音楽を作ったり、常にツアーはしてるだろうから、また一緒にライブをやりたいなっていうのはあるよね。一緒にバンドを組んでもいいし。
――それいいですね! パートはどうしますか?
猪狩:ジェイソンがボーカルでしょう?
ジェイソン:シュウはボタンを押すだけでいいんじゃない?
猪狩:嫌だっ!!
ジェイソン:あはははは!
猪狩:これは絶対に実現するわけじゃないけど、このあいだはウェストコーストのツアーをやったから、今度はイーストコーストでツアーをやってみたい。
ジェイソン:そうだね。もうちょっとアメリカを回ってほしいな。
猪狩:あとは俺たちがやってるフェス(2014年から毎年9月に大阪の泉大津フェニックスで開催している『HAZIKETEMAZARE FESTIVAL』)にも出てほしいですね。
取材・文=秦理絵 撮影=風間大洋
HEY-SMITH・猪狩秀平 / オーソリティ・ゼロ・ジェイソン・デヴォア 撮影=風間大洋