オイスターズの新作『君のそれはなんだ』に迫る! 三重を皮切りに東京・伊丹・松本ツアーを敢行
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左から・平塚直隆、芝原啓成、田内康介、鈴木亜由子、川上珠来
シンプルに向かうがゆえにハードルはさらに高く。新作ツアーはその高みを超えられるか
昨秋、三鷹で東京初ロングラン公演を行った作品『ここはカナダじゃない』が第61回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされ、自身が支部長を務める日本劇作家協会東海支部のイベント『劇王Ⅺ~アジア大会~』では海外参加チームを含む12団体の挑戦を退け、短編演劇コンテストの頂点【劇王】の座を防衛(詳細はこちらの記事を参照)するなど、平塚直隆及びオイスターズにとって躍進の一年となった今年。その締めくくりとしてまもなく12月9日(土)から開幕する新作公演『君のそれはなんだ』も、さらに先を目指す、新たな歩みが感じられるものになっている。
オイスターズ『君のそれはなんだ』チラシ表
今作でオイスターズは、三重・東京・伊丹・松本の4都市でツアーを行うが、そのスタートとなる「三重県文化会館」での公演は《Mゲキ→ネクスト2017》参加作品である。これは、同会館が2015年に創設したアーティスト・イン・レジデンス(滞在製作)企画で、「「三重県文化会館」小ホールに2週間滞在し新作を創作・上演する」「滞在期間中に積極的な県民との交流プログラムを実施する」という2つのミッションを条件に、毎年参加団体を募集。そこから選出した1団体の会場費や劇場までの往復交通費、現地宣伝費などを劇場が負担し、舞台制作費として50万円を支給するというもの。
これまで匿名劇壇(大阪)と夕暮れ社 弱男ユニット(京都)がレジデンスを行い、3回目の今年は応募16団体の中からオイスターズが選出されたのだ。「三重県文化会館」(以下、三重文)は、いま注目の団体を全国から招聘するほか、《Mゲキ…》など次代を担う若手~中堅を応援・育成するプログロムの実施、地域に密着した演劇イベントの開催など魅力的なラインナップを精力的に展開し続け、創り手からの信頼も厚い。平塚もその一人で、
「なにしろ話題の作品がよく上演されているから気になっていましたし、いつかここで公演したいと思っていたんですよね」と。
念願叶って今回その機会を得たわけだが、平塚にとっては“過去最悪に書けない”苦しみも味わうことに。
「三重文のお客さんは目が肥えているかな、という気もするので頑張りたいんですけどね」と、プレッシャーも少々感じている様子。そして創作に対する思いも、前述の《MITAKA“Next” Selection 17th》参加作品『ここはカナダじゃない』の際に変化があったようだ。
「東京からも客演を呼んで、東京でロングラン公演をするのも初めてだったし、それがたまたま岸田戯曲賞にも残って、もう一段階上がりたいなっていう気持ちになりましたね。もっと話題になっていってもいんじゃないのかなって。それまではあまり自信もなかったし、東京に行ってもお客さんもそんなに入らないし、これからどうやっていったらいいのかなと思っていた時の公演だったので。
わかりやすく、とにかく誰でも楽しめるようなお芝居がしたいんですよ、最近。マニアックな笑いとかじゃなくて間口の広い芝居をやりたいんです。そう思いはじめたのは、三鷹の時からかもしれない。上手い人の作品を見てると、深かったりするけど簡単なんですよね、話が。何も難しくない。ダメなのは、土俵でしっかり相撲取りたいんだけど、腕力がないから小難しくしちゃったり取り繕っちゃってるんだな、と思って。そうやって僕のホンを考えると、不条理な笑いでナントカだの思わせてるけど、どこかちょっとわかりにくいなと思って。『ここは…』は、わかりやすくそのままのことを書いたんですけど、そしたらわりと評価も良かったので「あぁ、やっぱりそういう風にしていかなくちゃいけないんだな」と。今はそれがやりたいなって思う」
取材時の様子。まだ台本がなく、平塚の問いかけにメンバーが答える形で方向性を決めていく台本会議が行われていた
会話の面白さを追求し続ける平塚にとっては、いかに魅力的なシチュエーションのアイデアを生み出せるかがポイントとなり、当然、その核の強度が会話の描き方にも影響してくる。
「ずっとワンアイデアで書いてきてるので、それが弱かったらもはや何を頼りにしていけばいいんだっていうのがあって。何が面白いのか、っていうことをまず観ている人にわからせたいんです。その上でこんな会話をしているんだと。『劇王Ⅺ…』の時に上演した『救急車を呼びました』もそうなんですけど、できるだけ何もないところで、特に何も起こってないんだけど会話のズレから何かが起こっちゃう、みたいなことがやりたいんですけど、今回は何回書いても自分でアイデアを消していっちゃってるんですよ。もっとあるだろう、もっとあるだろう、って」
当初はチラシでも少し触れられていた冒険活劇を描く予定だったというが、幾度とない書き直しを経て、タクシーと乗客の話に落ち着いたようだ。
「普通の人を出したいなぁと思って書き出したのが、明け方に田舎の方の道を走っているタクシーが客を乗せる、っていう話です。「君のそれはなんだ」って言える状況を作っていきたいだけなんですけど。なんか不穏な設定だし、お客さんが何かを持ってたりしたら、「君のそれはなんだ」っていうのがボンって出るかなと。そこからこうなるんじゃないの?っていう道を示しておいて、それをズラしていったり。何も起こってないのに何かが起こっちゃった、っていうことをやっぱりやりたいんですよね」
平塚のかつてない難産と共に、オイスターズ初のレジデンス製作も体験した本作。三重文での成果はもちろん、この後、「アゴラ劇場」「AI・HALL」、そして松本出身の劇団員による企画書持ち込みによって実現したという初公演地「まつもと市民芸術館」と、作品がどう変化していくのかも気になるところだ。オイスターズが目指す現状の一歩先。その進化を各地へ追いかけて目撃してみるのも。
取材・文=望月勝美
■作・演出:平塚直隆
■出演:田内康介、川上珠来、芝原啓成、平塚直隆、鈴木亜由子(星の女子さん/FAAN)
<三重公演>
■日時:2017年12月9日(土)18:00、10日(日)14:00 ※9日は終演後、ゲストに鳴海康平を招いてアフタートークを開催。
■会場:三重県文化会館小ホール(三重県津市一身田上津部田1234 三重県総合文化センター)
■料金:一般2,000円(当日2,500円) 25歳以下1,000円(当日1,500円) ※25歳以下は当日証明書を提示
■アクセス:近鉄名古屋線・JR紀勢本線・伊勢鉄道「津」駅西口から徒歩約25分または三重交通バスで約5分
<東京公演>
■日時:2017年12月22日(金)19:30、23日(土)15:00・19:00、24日(日)15:00
■会場:こまばアゴラ劇場(東京都目黒区駒場1-11-13)
■料金:一般3,000円 25歳以下1,500円 高校生以下1,000円 ※前売・当日同料金、25歳以下・高校生以下は当日証明書を提示
■アクセス:京王井の頭線「駒場東大前」駅東口から徒歩3分
<伊丹公演>
■日時:2018年2月9日(金)~11日(日)
■会場:AI・HALL(兵庫県伊丹市伊丹2-4-1)
■料金:一般3,000円 25歳以下1,500円 高校生以下1,000円 ※前売・当日同料金、25歳以下・高校生以下は当日証明書を提示
■アクセス:JR「伊丹」駅下車すぐ。または阪急「伊丹」駅下車、東へ徒歩約10分
<松本公演>
■日時:2018年2月24日(土)・25日(日)
■会場:まつもと市民芸術館(長野県松本市深志3-10-1)
■料金:一般3,000円 25歳以下1,500円 高校生以下1,000円 ※前売・当日同料金、25歳以下・高校生以下は当日証明書を提示
■アクセス:JR中央線・篠ノ井線「松本」駅から東へ徒歩10分
■問い合わせ:オイスターズ 090-1860-2149(10:00~22:00) theatrical_unit_oysters@yahoo.co.jp
■公式サイト:http://www.geocities.jp/theatrical_unit_oysters/index.html