ミシェル・ロドリゲスインタビュー “強い女性”を演じ続けるのは「ある意味悲しいこと」「兄貴」と呼ばれた女優のこれまでとこれから
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「女に改造されても、弾丸(タマ)はある」2018年1月6日から公開される映画『レディ・ガイ』は、そのキャッチコピーどおり、凄腕の殺し屋フランク・キッチンがある日突然強制的に女性に性転換され、復讐に立ち上がる異色のクライム・アクションだ。『ストリート・オブ・ファイアー』『48時間』のウォルター・ヒル監督のもと、主演のミシェル・ロドリゲスは男性時代のフランクをも自ら演じ、“女性の身体になること”で人間性を獲得していく複雑な役柄を演じている。これまで、『ワイルド・スピード』のような大作アクション映画で“戦う強い女性”を演じ続けてきたロドリゲス。日本の一部ファンから「兄貴」などと呼ばれてきた彼女が、インディペンデントで挑戦的な作品に出演した理由とは? これまでの役柄から、これからの目標まで電話インタビューで訊いた。
“違うミシェル・ロドリゲス”になるための作品
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――ここしばらくは、『ワイルド・スピード』シリーズのような大作への出演が続いていました。今回のようなインディペンデントで挑戦的な作品に出演した理由を教えてください。
16年近く同じような役を演じてきていて、「これから自分の人生のために、他に何ができるのか?」と考えて転換を図りたいと思っていたんですが、私はとても極端な人間なので極端なところまでいってしまいました(笑)。男社会の中で生きるキャラクターに、自分ではちょっと空っぽな感じというか、もったいなさを感じていたんです。男勝りというか、いわゆるトムボーイ(ボーイッシュな女性)を演じる現場が多かったんですけど、そうではなく自分の中の女らしさを追求したいな、と思ったんです。ここからは、“違うミシェル・ロドリゲス”になります。つまり私にとって、いままでの自分は幕を閉じた。そういう意味(の作品)なんです。
――「男性が女性に改造されて復讐する」というプロットだけを聞いて、B級映画、あるいはトランスジェンダーのメッセージが強い作品なのでは、と思っていました。実際にはそうではなくて驚いたのですが。最初に脚本を読まれたときの感想を聞かせてください。
脚本を読んだときには本当に気に入って、「やるしかない!」と思いました。ただ、感情の描き方がちょっと欠落しているということも同時に感じたんです。私は、「愛なしには何も成立しない」と思っているので。例えばそれが戦争映画だったり、闘うアクションものだったり、国のために死ぬような作品でも、そこには愛があると思うんです。それでもオファーを受けたのは、とにかくクールな作品になりそうだと思ったからです。
――男性時代のフランクを演じることも、脚本の段階から決まっていたのでしょうか?
フランクを私が演じるということは決まっていました。最初はCGIを施すという話になっていたんですが、私が希望して特殊メイクで演じることにしてもらったんです。というのも、私が自分で感じたかったから。メイクアップをして、自分が(男性の容姿を)身につけるという過程がすごく役作りに役立ったんです。別の身体を体感することで“女性性”を強く感じたし、何とも表現しづらい感情のようなものを経験することが出来たと思います。
――具体的には、ヒル監督に「男性器をできるだけ大きく」というリクエストをされたそうですが。
4時間かけて、胸をつけて、男性器もそうですけど、顎、鼻も少し加えて加工してもらいました。だから、すごく中東っぽい見た目でしょ? (男性器については)大きさがどうというより、つけていることによってパフォーマンスというか、動きだったり、すべてに影響があると思うんです。つねに自分が男性であるということを思い起こさせるし、コレがあることによって切り離せなくなる。そういった意味で、演じる上ではすごく影響しました。
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――ほかにフランクを演じるうえで意識したことはありますか?
フランクはすごく冷たくて、感情の無い人間。ウォルター監督が言うには、「彼は殺しをしていくなかで感情の無い人間になっていった」そうです。ただ、さっき言ったように、私に言わせれば物語が機能するには“愛”が必要。憎しみに満ちた人間でも、憎しみを持つその根底には“愛”という気持ちがあるわけですから。だから、自分から距離のあるフランクという人物を忠実に演じるのは、非常に難しい課題でした。ただ、フランクにも、“復讐する”という欲望がありますよね。私にとって、“感情が無い”という心理を理解することは無理なので、監督とはそのあたりを話し合って、二人の意見の着地点を見つけていきました。
――作中では描かれていない裏設定のようなものもあるんでしょうか?
フランクはヘビのような、冷血動物のような冷たい面もあるけれど、背景としてはマイアミで生きてきて、マフィアの殺し屋になった人物です。『Iceman: Confessions of Mafia Hitman』(編注:100人以上を殺害したとされる殺し屋・リチャード・ククリンスキーのドキュメンタリー)という映画でそういう殺し屋は知られていますよね。マイアミはギャンブルが盛んな土地ですが、わたしの出身地のニュージャージーはマイアミの東海岸バージョンといった感じで、イタリア系やロシア系のマフィアがいる地域なので、監督が考えるフランクがどんな世界で生きてきたかがなんとなくわかりました。そういう意味では、フランクの過去については、監督とある程度一致した背景をイメージしていました。
――フランクに共感できる部分はありましたか?
フランクについて私が理解できるのは、“正義がなされていないこと”への怒りであったり、正義を求める強い感情ですね。ただ、私は復讐というものは、汚物のような感情、理性のないものだと思っているので、そこには共感できない。「自分が正当に扱われていない」ということへの怒りだったり、正義を求める気持ちは理解できるので、そこに重ねて演じた部分はあります。
――この作品の後、フランクはどう生きていくと思いますか?
やっぱり、これからいろいろ経験して、ホルモンも打ち続けていって、エストロゲンが増えていきますよね。たぶん、より人間味のある人になっていくんじゃないかな、と思います。逆に、自分でこれからどう生きていこうかということを問いかけて女性を守るような、そういう人になるんじゃないかな。自分が女性の立場になったこと、自分のマッチョ度が下がることによって変わっていくんじゃないか、と推測しますね。
“強い女性”を演じ続けてきたのは「ある意味悲しいこと」
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――シガニー・ウィーバーさんとの共演はいかがでしたか?
シガニーとの共演はすごくいい経験だったし、彼女を人としてすごく尊敬しています。私が思うに、この業界には男性と女性の両方の要素を持った俳優がいると思うんです。アンジェリーナ・ジョリーとかもそうですし、ジョニー・デップにもそういう要素があると思います。シガニーも両方の要素を兼ね備えていて、女性でありながら男性的なものを醸し出すことができる。例えば彼女は歩き方であったり、話し方であったり、そういう面で両方の要素を自分の中で持ち合わせているし、取り込むことができるんです。ただ、もちろん彼女の演じるキャラクターとご本人は全然違うんですよね。色々なキャラクターを演じることが出来る人で、すごくセクシーな役を演じられるのも知っているので、素晴らしい役者だと思います。そのギャップを生み出すマジックが、スクリーンに表れているんだと思います。
――シガニーさんの演じたドクター・ジェーンは、ある目的のためにフランクを女性に改造してしまう異常な人物です。個性の強いキャラクターですが、そばで観ていていかがでしたか?
ドクター・ジェーンはすごくいい役ですよね。自分の妄想にとり憑かれているというか、自分の世界、自分のルール、自分の視点ですべてを見ている。ドクター・ジェーンについて言えば、すごくトラウマを抱えていて、自分の考える理想の医療技術のためだったり、自分の世界で正しいと思ったことに基づいて行動する。非常に男性的な要素を持った、ドナルド・トランプを彷彿とさせるキャラクターですね。
――ヒル監督はご一緒された中でもかなりベテランです。彼の現場で印象に残っていることはありますか?
彼の演出、仕事の仕方、そして撮影全体には古き良き時代の匂いがありました。もう70歳を越えていてらっしゃいますし。すごくいい経験だと思ったのは、彼が一人ひとりをすごく気にかけてくれるところです。機械的じゃなく、ひとつのコミュニティ、家族のようなものが出来ていて、とても品性がある感じがするんです。それが“古き良き”ということなんだと思います。とても予算の大きな作品ばかりに出ていると、企業的というか、やり方をビジネスライクに感じることが多いんです。今回の作品はインディペンデントで、エネルギーというか、あり方が違う。芸術をみんなで作っている、手作り感があったんです。それは最終的な作品の出来にも表れていると思います。
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――ヒル監督に、ご自身が「銃の扱いが一番うまい女優」とおっしゃったと聞きました。
私は本当にすごく銃が好きで、指の動きひとつだけで何かをブッ壊せるとか、そういうところに魅せられているんです。なぜこんなに趣味で銃を練習したり、好きなのかというと……自分の中にすごく秘めたバイオレンスな部分があるからなのかな、と思うんです。よく考えてみると、ある意味それは脆さや弱さの裏返しだと思います。たぶん、女性である、無防備であるということを、これ(銃)によって補おうとしているんだ、と。例えば男性優位な社会で、男性の持つ存在感とかそういうものを、私は銃によって守ろうとしているのかな、と思いました。
――肉体的、精神的に強い役柄を演じられることが多いですね。そういった役はオファーされることが多いんでしょうか? それともご自分で選ばれているんでしょうか?
自分で選択して選んだ役柄です。これまで私が演じてきたような、肉体的にも精神的にも強いキャラクター以外の選択肢にはどういうものがあるか? そう考えると、男性のお飾り的なキャラクター、恋人の男性がいなくなって泣いてしまう女性、あるいはガンになって死んで男性が苦しむだとか……女性が主人公でも、“男性がいての彼女”という関係性しかないんです。そこには女性の自由がない。「男性うんぬんではなく、自由に」ということを考えると、どうしても“アクション映画”といった選択になってしまう。これは、ある意味悲しいことですけど。だから、これまでのような役を選んできたんです。
――なるほど。
ただ、その選択肢も増えてきていると思います。女性の監督だったり、女優だったり、あるいはどういった脚本なのか……そういったことを色々と探して選択するということも大事だと思っています。それから、今後は製作にも関わっていきたいと思っているんです。今はテレビの仕事にも関わっているんですが、テレビの世界では色んな新しいことが起きていて、映画よりも自由なこともあります。これからは色んな選択肢を探していきたいですね。
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――最後に日本の印象を聞かせてください。来日していただけると、日本のファンは嬉しいのですが。
最後に日本に行ったのは、12年~15年くらい前かもしれないですね。その後行っていないのは、やっぱりシーシェパードのメンバーになったからです。聞くところによると、シーシェパードのメンバーだと国に入れないらしいので……実際のところは大使館に聞かないとわからないんですけど。すごく日本のことには興味があるし、素晴らしいテクノロジーや、いいクラブがある、ということも色々と聞いているんですけど……ちょっと、そのあたりは要確認ですね。というのも、せっかく日本に行っても、入るときに止められたら嫌だからなあ。
『レディ・ガイ』は2018年1月6日(土)新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー。
取材・文=藤本 洋輔
映画『レディ・ガイ』
英題:THE ASSIGNMENT