名作映画世界初の美しき舞台化『ライムライト』

 
チャップリン名作映画の舞台化
 
喜劇王チャールズ・チャップリン晩年の傑作『ライムライト』を、世界で初めて舞台化するという大きな挑戦を果たした意欲作、音楽劇『ライムライト』が日比谷のシアタークリエで上演中だ(15日まで。のち全国公演もあり)。
 
世界中の演劇関係者が熱望してきたチャップリン映画の舞台化。それは一つの究極の夢であり、けれどもあまりに困難な挑戦でもあった。喜劇王チャールズ・チャップリンという存在がすでにして偉大な「スタイル」ともなっている中で、改めて新たなキャストで舞台化することが必要であり、可能なのか?が、常に疑問視されていたからだ。
 
そんな高い山に挑む権利を得たのが、チャップリンが愛した我が日本だった。作品は、チャップリンが初めて素顔を見せて撮影した、自伝的な側面を持った一本としても知られる映画『ライムライト』。チャップリン映画の最高峰であり、自身が作曲した不朽の名作「テリーのテーマ」と共に、今なお愛され続けている傑作の舞台化が遂に叶った。
 

 
物語は、かつて一世を風靡した喜劇スターでありながら年老いて世に忘れられたカルヴェロ(石丸幹二)が、荒んだ暮らしをしているアパートで、自殺しかけた若きバレリーナ・テリー(野々すみ花)を助けるところからはじまる。テリーは自分がバレエを続ける為に、姉が街娼をしていたことにショックを受け、足が動かなくなり人生を悲観したのだ。
 
カルヴェロはテリーを献身的に介護し、生きる意欲を取り戻させる。その甲斐あって歩けるようになったテリーは、やがて再び舞台に立ち、脚光を浴びるようになっていく。今度は自分がカルヴェロを助ける番だと彼に求婚するテリー。だが、カルヴェロは若いテリーが愛情と感謝と同情を混同していると察し、かつて彼女がほのかな思いを寄せ、今は新進作曲家として注目を集め、テリーに求愛しているネヴィル(良知真次)と結ばれることを願って、自身はテリーの前から姿を消す。必死にカルヴェロを探し続けたテリーは、遂に再会したカルヴェロにもう一度喜劇役者として舞台に立って欲しいと懇願するが……。
 

 
上演台本を執筆したのはチャップリン研究の第一人者として知られる大野裕之で、チャップリンによる日本未発表の小説「フットライト」のエピソードも加味して、原作映画の登場人物たちに深みと奥行を与えることに成功している。更に、そんな台本を演出した荻田浩一がモノクロの映画の世界に、豊かな色彩と幻想性を与えて、重層的な舞台を具現した様が素晴らしい。
 
登場人物たちは、それぞれの主たる役柄ばかりでなく、アンサンブルとして、またオーディエンスとして常に舞台上にあり、着替えや転換を含めたすべてがひと時も途切れない。その滑らかな流れの中で、カルヴェロが、テリーが、そしてすべての人々が互いを思い合う心が音楽と共にあふれ出る美しさはどうだろう。ましてや、この舞台には悪人がいない。主軸となる切ないラブストーリーだけでなく、登場人物たちはそれぞれの立場で互い尊重し、情を持ち、心を寄せ合っている。その描写が絵空事に倒れるのではなく、人生の哀歓を謳い上げる美質として描かれきっていて、まさに圧巻だった。たった8人の出演者と4人の演奏家たちで、これだけ豊潤な舞台を紡ぎあげる、「荻田マジック」の力は相変わらず絶大だ。
 

 
そんな美しき舞台の中心になった石丸幹二が、見事に映画の世界ではなく、舞台の世界に立つカルヴェロを表出している。チャップリンの演じた役柄は、それが大スターのものであるだけに、どうしてもまずチャップリンというスタイルありきで語られることが避けられない。だが、そんな高い壁に果敢に挑んだ石丸が、老いた芸人のプライドの哀しさ、そしてそのプライドさえもが愛によって昇華される過程を十二分に演じきっている。数々のナンバーも、場面に応じてある時は語るように、またある時は切なく表情豊かに歌い分けられていて、だからこそ終幕の熱唱に胸が熱くなった。石丸の実年齢からすると、役柄にまだまだ、これから先の可能性があり、是非ライフワークとして演じ続けて欲しいと願わずにはいられない。それに値する演技であり、また作品でもあると思う。
 
ヒロイン、テリーの野々すみ花は、舞台上の美しさが群を抜いている。宝塚時代からそうだったのだが、この人が役柄に憑依していく力には比類のないものがあり、テリーの絶望が希望に変わり、やがて愛を知る過程を鮮やかに印象づけた。バレエシーンも堂々とこなし、改めてなんとヒロイン力の高い人かと感心させられた。
 


ネヴィルの良知真次は、真っ直ぐな演技と持ち前の涼やかな二枚目ぶりが役どころにベストマッチ。カルヴェロが彼にテリーを託すことを望む心情を、素直に理解できる存在感が抜群だった。カルヴェロとテリーが暮らすアパートの大家オルソップ夫人の保坂知寿は、はじめ小うるさい存在かと思わせて、実は人情に溢れる気の良い女主人ぶりで場に温かな風を振りまいた。この人が入ることによって舞台に与える安心感には、常に大きなものがある。劇場支配人のポスタントの吉野圭吾は、セリフ回しに工夫をこらして、やはり厳しい人物然として登場しながら、温情ある支配人役を好演。相変わらず長身の二枚目だが、役者として着実に幅を広げていて頼もしい。演出家ボダリングの植本潤は、とにかく登場ごとに強い印象的を残して場をさらう。それでいながら決して舞台で出すぎることがなく、ポイントの笑いを巧みに作り出してなんとも魅力的。演出家にとっても得難い存在であったことだろう。また、主に美しいバレエダンサーとして舞台を彩った佐藤洋介、舞城のどかを含めた良知ほか6人は、これら主たる役どころ以外に実に様々な役柄を演じ分けて舞台を彩り、作品の重層性をより一層際立たせていた。

総じて、チャップリン映画の舞台化という尊くも難しい課題に取り組んだこの舞台が、比類なき美しさを有していたことが嬉しく、舞台作品ならではの『ライムライト』として、強い輝きを放っていた。長く上演され続けて欲しい珠玉の舞台が生まれ出たことを喜びたい。

[取材・文/橘涼香 写真提供/東宝演劇部]

『ライムライト』​​

原作・音楽◇チャールズ・チャップリン
上演台本◇大野裕之 
演出◇荻田浩一
出演◇石丸幹二、野々すみ花
良知真次、吉野圭吾、植本潤、保坂知寿  ほか
●7/5~15◎シアタークリエ
〈料金〉¥10,500(全席指定・税込) 
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
●7/18~20◎梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 06-6377-3888
●7/23◎福岡市民会館
〈お問い合わせ〉ピクニックチケットセンター 050-3539-8330
●7/24◎佐世保 アルカスSASEBO
〈お問い合わせ〉KTNテレビ長崎 095-827-3400
●7/26◎鹿児島 宝山ホール(鹿児島県文化センター)
〈お問い合わせ〉鹿児島音協 099-226-3465
●7/28~29◎愛知県芸術劇場 大ホール
〈お問い合わせ〉キョードー東海 052-972-7466
●7/31◎富山県民会館
〈お問い合わせ〉FOB金沢 076-232-2424
●8/1◎長野 ホクト文化ホール(中)
〈お問い合わせ〉FOB新潟  025-229-5000 
演劇キック - 宝塚ジャーナル
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