中島みゆきの最新アルバム『相聞』のLP盤が発売、ロングインタビューが公開に
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――「秘密の花園」と一変した二曲目の「小春日和」。「アメリカンポップスの次の「月の夜に」はどこか和風で密やか。このふり幅がアルバムの面白さでしょうね。
中島:上がり下がりということで言うと私、飽きっぽいんだね。「移動性低気圧」みたいなのを10曲も続けられない。一曲で良いんじゃない~みたいになる(笑)。「月の夜に」みたいな情景の見えるのは瀬尾さん得意だし。今、月はどこにあるのかって説明するもん。前方にあって下に海が広がっていて、そこに道が映ってる、見えた?とか(笑)
――お主にはこの情景が見えぬのか(笑)。
中島:つるっと聞いていると気づかないでしょうけど、ミュージシャンは心臓がバクバクだった曲ですよ。奇数小節、偶数小節が入れ替わり入れ替わりしてるんで、誰かが置いて行かれると大変なことになる。数えるのに必死なレコーデイングでした。
――情景どころじゃないですね(笑)。
中島:これもちょっと不思議感があるのはそこだと思いますよ。ノリだけで演奏できない。デモテープを録る時、キーボードの信吾さんが「プログレだあ~」ってケバ立ってた。そんなに難しく聴こえないんですけどね。
――内容は不倫のようにも思えましたが。
中島:え、そう?そう?そうか、“元の生活”というのが女房との生活と取れたんだね。これは“私”と出会う前の生活ということですね。私なんかと出会わなきゃ良かったのにね、
私を知らぬ人になる。家出する時に、私を忘れてください、と言って去るわけです。
――すみません、読解力不足。もっといじらしい女性の歌でした(笑)。「ねこちぐら」は、相手のいる恋愛でありながらちょっと違いますね。歌もどこかあどけない。
中島:こっちはそこに次の猫がいちゃうんですね。違いますね。大人のアルバムと言いながら、この歌ですもんね。鉄板焼きをお出しする前に酢の物をお出しするみたいな感じでしょうね(笑)。この前には天ぷらもあったんで続けるとくどいかなという箸休めね(笑)
――「アリア-Air-」は鉄板焼きですか(笑)。平原さんのアルバム『LOVE』で聞いた時に、ご自分で歌われるんだろうかと思いましたけど。あの時にはもうお決めになってたんでしょうか。
中島:この先何年も経ってからじゃ忘れてしまうだろうから、早目に入れておこうとは思いましたね。歌の内容は合わないことないし。でも彼女ほどの音域はないからちょっとずるして直したけど(笑)。あんな声、出ないよ。瀬尾さんは平原さんのを録った時、もうこっちのアレンジを考えてたよ。こっちで録る時にはもうちょっとシンプルにするからって。「あ、ビンボーにするってことね」(笑)
――テーマは「歌とは何か」という大命題でしょうし。「ララバイSINGER」を思い浮かべましたけど、更に深く踏み込んでますもんね。核心を歌ってる。
中島:彼女のはあの歌い方のすごみが出たんでしょうけど、ワシが歌う時は二律背反、アンビバレンツなつもりで歌ってます。「アリア」って独唱でしょ。オペラなんかでも一人だけで歌うパートですよね。二人で歌うパートがあったり4人で歌ったりコーラスがあったりする中で一人で歌うのがアリア、ソロ―パートですよ。それでいて“一人では歌えない”と言ってるというこの二律背反。そういうつもりで歌ってます。何のためにアリアを歌ってるんだ、ということですよね。
―― 一人で歌うパートなのに“一人では歌えない”と言っている。まさに相反する。二律背反、核心ですね。
中島:アリアをキチっと歌えるのはどこかで自分のアリアを歌っている人と出会った時でしょう。受け合うのね。受け合った時に波が生まれる。それが「相聞」ですよ。そのために歌わなきゃだめだ。それぞれの「アリア」が共鳴した時に人と人の関係が生まれる。それが「相聞」。聴かせっぱなしじゃだめなんです。
――独唱なんだけれど自分だけのために歌うのではない。響き合う相手の歌と共鳴するために自分の歌をうたう。
中島:だから“響き合う波を探して”と歌ってるの。響き合うために相手もアリアを歌ってなければダメ。それぞれが自分のアリアを精一杯歌って響き合う。それが「相聞」だと思う。一人で歌っていることが目的だったら誰もいない野原で歌ってればいい。人前で歌っている必要はない。孤独という闇から自由になりたいがために歌うんだったら、出会う歌をキチンと探す、ということなんですね。
――ということは、「アリア-Air-」が出来た時には「相聞」というタイトルは決まってたということですか。
中島:そういうことを日本語に置き換えると「相聞」だなと思っただけね。日本には昔からこういう言葉があるじゃん。ほらほら、もうすでにあるんですよ、みたいな気分で付けたんですね。日本の古典には、何だもうここで言われてる、みたいなことが結構ありますもん。敵いませんね(笑)
――「アリア-Air-」が鉄板焼きだとしたら「希(ねが)い」は何でしょう。
中島:闇鍋が出てきちゃった(笑)。この曲は前の方には持っていけないからね。今回、アナログ盤もあるんです。二枚組。両開き。贅沢でしょ(笑)。皿にする時、どこで切るか悩んだ悩んだ。二枚組ですからABCDと面が四つあるわけでしょ。入れようと思えば3曲も4曲も入りますけど、二枚目のB面は「希(ねが)い」と「慕情」だけなんです。何も入ってない面もあるの。最後は「慕情」でやすらいで頂こうということで、その前に闇鍋を(笑)
――「希(ねが)い」と「慕情」を聞いた時に、こんなに「無私」なアルバムがあっただろうかと。
中島:あら、そう(笑)。そうね、そう言えば、あれちょうだいこれちょうだいって言ってないな(笑)
――劇的な曲の展開とストレートな言葉。三連のリズムが醸し出す緊張感。「希(ねが)い」は涙ぐみそうでした。
中島:ミュージシャンも必死でした(笑)。最初はもっと平和に弾いてた。アレンジはもっと平和で美しかったの。もっと切羽詰まってください、ということでミュージシャンそれぞれが自分を追い込んだ中で出てきた演奏がこれですね。そういう詞ですし。ちょっと社会的な意味のところもあるので。反感を買うかもしれないという曲ですね
――反感を買いますか。
中島:“強く希えば叶うだなんて 子供に嘘はいけませんね”。強く願えば叶うと子供に教えますよね。そうですか、と大人に訊きたいね。強い方が叶うんですか。そうなのね。それって突き詰めればどういう考えに行くのかなと
――どんなアルバムになるのだろうと思った中に、一昨年のツアー「一会」の後だ、ということがあったんです。ひょっとしてあの時の選曲のようにリアルなものになるのかとも。その予測は外れましたけど、「秘密の花園」と「希(ねが)い」には、そういう要素もあるように思いましたよ。
中島:集約するという意味ではね。鍋は〆、ですから(笑)。
で、鍋の後にデザート。大盛デザート(笑)
――胃の薬も入ってますね(笑)。
中島:やすらぎパフェ、胃薬トッピング(笑)
――それにしても「希(ねが)い」の“私のすべての未来を引き替えに”もそうですし「慕情」の“ただあなたに尽くしたい”にしても、こんなに犠牲的なみゆきさんを聴くのは初めてじゃないでしょうか。
中島:それは倉本マジックでしょう。倉本さんは自分の中にない絵空事では書かないからね。あの人は自分の骨を削って書きますから。自分の骨を削ったペンでお書きになる。そういう人に嘘はつけませんからね。私も嘘は書いてないよ。倉本さんに嘘はつけない。真剣で来る者には真剣で返さないと失礼よね」
――「慕情」の“もいちどはじめから”は、みゆきさんがずっと歌ってきている「転生」でしょうし。でも、ここまで突き詰めて歌ってしまって、この後、何を歌うんだろうとも思いました。瀬尾さんは「まだまだ何が出てくるか分からないよ」と言われてましたけど。
中島:どうなんでしょう。成仏しちゃったりしてね(笑)。ここまで歌わせたのは倉本さんでしょうね、今回に関して言うと
インタビューワー:田家秀樹
中島みゆき『相聞』LP盤
■発売日:2018年1月10日
■品番:YCJW-10009~10
■形態:アナログ(12インチ)
■定価:5,000円(本体価格)+税
■Amazon(特典あり):http://www.amazon.co.jp/dp/B0779XMTR3/
■Amazon(特典なし):http://www.amazon.co.jp/dp/B0779VFCRT/
■収録曲数:全10曲
■収録内容:
Side-A
1. 秘密の花園
2. 小春日和
3. マンハッタン ナイト ライン
4. 人生の素人(しろうと)
Side-C
1. 移動性低気圧
2. 月の夜に
3. ねこちぐら
4. アリア -Air- *2016年 平原綾香への提供曲のセルフカバー
Side-D
1. 希(ねが)い
2. 慕情
*今作品のSide-B(B面)には音声は収録されません。
1月09日(火)大阪府・フェスティバルホール
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1月25日(木)東京都・Bunkamura オーチャードホール
1月26日(金)東京都・Bunkamura オーチャードホール
1月30日(火)東京都・Bunkamura オーチャードホール
2月01日(木)東京都・Bunkamura オーチャードホール
2月02日(金)東京都・Bunkamura オーチャードホール
2月17日(土)愛知県・愛知県芸術劇場 大ホール
2月18日(日)愛知県・愛知県芸術劇場 大ホール