畦地亜耶加にインタヴュー~細川俊夫のオペラ『松風』(新国立劇場)で踊る、サシャ・ヴァルツ&ゲスツのダンサー
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オペラ『松風』モネ劇場公演より ©Bernd Uhlig モネ劇場公演
オペラ『松風』(ドイツ語上演/字幕つき)は、楽曲『ヒロシマ・レクイエム』などでも著名な作曲家の細川俊夫が、世阿弥の能「松風」を題材に、『ディドとエネアス』などの“コレオグラフィック・オペラ”を発表していた旧知のアーティスト、サシャ・ヴァルツに演出・振付を依頼して創作された。2018年2月16日(金)~18日(日)、新国立劇場オペラパレスで上演される(日本初演)。
美術家・塩田千春による無数の紐(ひも)を用いたインスタレ-ションの中、4人の歌手と7人のヴォーカル・アンサンブル達と共に、「サシャ・ヴァルツ&ゲスツ」の男女15人のダンサー達が出演し、松風と村雨の姉妹が亡き在原行平(ありわらのゆきひら)を慕う〈恋物語〉を紡いで行く。その出演ダンサーの一人、畦地亜耶加(あぜちあやか)に、話しを聞いた。
畦地亜耶加
――このたび、オペラとダンスが融合する『松風』の初来日公演に、カンパニ-のメンバ-として御出演されるのは、どのような気持ちですか?
2009年に渡独し11年目にして日本での公演は初めてのことなので、とても嬉しいですし、海外で作られた日本の能を題材にした作品が、日本の方々にどう映るのかが楽しみです。一般的なオペラ作品では見ることのできないダンサーと歌手が対等な位置にあるこの作品を楽しんでいただきたいです。
――『松風』は、2011年にブリュッセルの「モネ劇場」(ベルギ-)で初演されたのですね。作品は「ルクセンブルク大劇場」「ポ-ランド国立劇場」の共同制作で、「ベルリン州立歌劇場」の協力もあり、まず、それらの劇場を廻ったそうですね。そして、フランス、香港でも上演されました。畦地さんは、それらにも御出演されたのですか?
私は、2014年の「リ-ル歌劇場」(フランス)から出演しています。その後も、ベルリン、ブリュッセル、ワルシャワで再演があり、参加しました。
――この作品についての感想や解説をお聞かせ下さい。
細川さんの音楽が、舞台上にさまざまな情景を表わすのと同時に、私は踊っていて何だか懐かしいと言うか、とても心地のよい風に吹かれながら踊っている、そんな印象を持ちました。テ-マが日本の能ですから、やはり故郷の日本を思いますし、イメ-ジが浮かびやすいです。またどれかが装飾になるのではなく、音楽、美術、歌、ダンスが、こんなに贅沢に盛り込まれたオペラ作品は、なかなかないと思います。男女15名が出演しますが、日本人では和田淳子さんも一緒です。
――衣装や、塩田さんの舞台美術については、どうでしょうか?
上演中、4つの衣装に着替えますが、袴(はかま)や着物のような形をしているものもあり、生地も柔らかくて体になじみ、断然に着心地がいいです。
また塩田さんの作品については、以前に小さいサイズの繊細なオブジェを拝見して、感銘を受けたことがありました。ところが『松風』の舞台美術となったのは、演者が中に入り、登れる強度を持つ大型の作品で、その迫力には大いに驚かされました。そして登るためには、結構テクニックが必要です。毛糸をうまく掴み、全身を運んで行き、無数の糸の中にある穴を見つけ、その中に身体を埋め込ませたりもします。
――「サシャ・ヴァルツ&ゲスツ」に入団したきっかけを教えて下さい。
ベルリンへは2009年に文化庁の在外研究員として来ました。自分の作品の創作と発表、また、さまざまなア-ティストとのコラボレ-ションも行ないました。
そして「サシャ・ヴァルツ&ゲスツ」には、2009年にベルリンに改築された「Neues Museum(新博物館)」の、オ-プニング企画の「Dialoge 09」で始めて参加したことがきっかけでその後も様々な企画に出演しています。この博物館は第2次世界大戦で深刻な被害を受けたのですが、ようやく70年にわたる修復工事を終えたのです。その開館前の、まだ展示作品が何もない空っぽの建物の中で踊りました。一日に一万人が来館した日もあったのですが、お客さん達は自由に部屋を行き来して、見て廻ることができました。
――ベルリンでの生活は、いかがですか?
東京と比べて、ア-トの敷居が低く、人と人の距離が縮まるのも早いと思います。初めて行った病院の先生が、私が出演したサシャ・ヴァルツの作品を偶然に見て、自主公演を小さな劇場でした時に、ひょっこり知らない男性が面白そうだからと見に来て、終演後に私を描いた絵をいただいたりしたこともあります。移民が増えたことも影響しているのか変化の激しい昨今ですが、とても生活がしやすい町だと思います。昨年の4月に生まれた息子との新しい生活でも、町の人達に本当によく助けられていることを実感しています。
――最後に、サシャ・ヴァルツさんは、畦地さんにとって、どのような方でしょうか?
好奇心が強く、求めたものが見つかってもさらに探求し続け掘り下げていく方です。ダンサーに身体的なテクニックを求める以前に、まず個人個人を尊重しその存在そのものを見つめている方だと思います。私は彼女から多くのことを学びましたが、自分の感情も身体の一部にあり動きの原動力になること、その逆のアプローチも学びました。心も含めた身体そのものに対しての可能性や魅力を探求し続けている方です。
――では、そのような皆さんで、日本で初演されるオペラ『松風』を楽しみにしています。
取材・文=原田広美
全1幕〈ドイツ語上演/字幕付〉
■会場:新国立劇場 オペラパレス
■指揮:デヴィッド・ロバート・コールマン
■演出・振付:サシャ・ヴァルツ
■美術:ピア・マイヤー=シュリーヴァー、塩田千春
■衣裳:クリスティーネ・ビルクレ
■照明:マルティン・ハウク
■ドラマツルグ:イルカ・ザイフェルト
松風:イルゼ・エーレンス
村雨:シャルロッテ・ヘッレカント
旅の僧:グリゴリー・シュカルパ
須磨の浦人:萩原 潤
ヴォーカル・アンサンブル:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団
ダンス:サシャ・ヴァルツ&ゲスツ
日時:2月17日(土)公演終了後 オペラパレス
出演:細川俊夫、サシャ・ヴァルツ
入場方法:本公演