新国立劇場2018/2019シーズンラインアップ説明会で新芸術監督を迎えた野心的なプログラムを発表

2018.1.13
レポート
クラシック
舞台

(左から)小川絵梨子、大野和士、大原永子

2018年1月11日(木)、新国立劇場が主催する公演の2018/2019シーズンラインアップ説明会が開催された。登壇したのは新シーズンからオペラ芸術監督に就任する、指揮者・音楽監督として世界的に活躍する大野和士、2018/2019シーズンで5期目を迎える舞踊芸術監督の大原永子、歴代最年少で演劇芸術監督に抜擢された小川絵梨子の3人。この日発表されたのは同劇場にて上演されているオペラ、バレエ&ダンス、演劇の3ジャンル。このうちオペラ10演目中4演目が新制作、バレエでは世界中で活躍する振付家クリストファー・ウィールドンの人気演目である『不思議の国のアリス』をオーストラリア・バレエとの共同制作で日本初上演、演劇は2本が新作、新訳上演3作、日本初演1作という野心的な内容になっている。

■オペラ

まず、大野が、オペラ芸術監督として目指す5つの目標を挙げた。第1にレパートリーの拡充。そのために、これまで1シーズンに3演目だった新制作を4演目に増やす。また、これまでは海外の劇場からレンタル公演をした場合、その時限りでレパートリーの蓄積につながらなかったが、今後は上演権を買い取るなどして再演を可能にしていく等の方策をとる。

第2に、日本人作曲家委嘱作品シリーズの開始。重唱を多用したオペラ的なオペラを創作。日本発オペラの海外への発信を目指す。第3に、ダブルビル(1回の公演で1幕物のオペラを2作上演すること)の新制作と、バロック・オペラの新制作を1年おきに行う。2018/2019シーズンには『ジャンニ・スキッキ』と『フィレンツェの悲劇』のダブルビルを上演。このダブルビルは一方をほかの演目と組み合わせることもできるため、大野は「将来的なレパートリーの拡充につながる」と語った。

第4は旬の演出家・歌手の起用。「奇をてらった演出ではなく音楽に寄り添った演出で、オペラの世界で視覚的にこんなことができるという舞台を届けたい」という考えに加え、海外からの招聘歌手ばかりでなく、誇るべきレベルにある日本人歌手も積極的に登用し「イタリア人歌手ならスカラ座に、アメリカ人歌手ならMETの舞台に立つことに憧れるように、日本の歌手が新国立の舞台に立ちたい、と思うようになって欲しい」とビジョンを明かした。

第5には、他の劇場とのコラボレーションを掲げ、新国立劇場で著名な演出家によるワールド・プレミアを行い、海外の劇場との共同制作を通し日本発のオペラ新演出を世界に発信していくことを目指すという。ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場、パリ・オペラ座など世界の名だたる歌劇場やコンサートホールで活躍する大野和士新芸術監督が、新国立劇場オペラをどんな新時代に導いてくれるのか、楽しみである。

大野和士

■バレエ&ダンス

舞踊芸術監督として5期目を迎える大原は、芸術監督としての目標は最初から変わることなく、観客動員・公演スタンダードの高さ・ダンサー強化の3つを挙げた。現在の新国立劇場バレエ団ダンサーたちのプリンシパルから群舞に至るまでのレベルの高さ、安定した集客力を見れば、大原の言葉を借りれば「必勝のハチマキを巻いて」尽くしてきた努力の成果は明らかだ。4期目の今シーズンは古典作品の上演が多く、一部からは批判も受けたそうだが、古典作品を踊ることが何よりもダンサーたちの技術的・精神的な成長を大きく促したと言う。

そして2018/2019シーズンは、2011年に英国ロイヤル・バレエで初演されて以来、国際的に注目され話題となっている『不思議の国のアリス』が開幕を飾る。世界中の子どもたちに親しまれているルイス・キャロル原作のお話を元に、巨大で華やかなセット、テクノロジーを駆使した演出、色彩豊かな衣裳に加え、テクニック的にも難しいステップや、ジャズダンスやタップダンスの要素まで入った、エンターテイメント性と芸術性を兼ね備えた本作では、主なキャストの選定に振付家のクリストファー・ウィールドンも加わり、ちょっと意外なキャスティングもあるとのこと。

また2019年1月のニューイヤー・バレエでは『レ・シルフィード』『火の鳥』『ペトルーシュ』の3作品を上演するが、そのうち『火の鳥』は日本の舞踊界を牽引する中村恩恵による新振付。中村は2017年に新国立劇場バレエ団のために振り付けた全幕ダンス作品『ベートーヴェン・ソナタ』でも彼女の人柄がにじみ出たような繊細で美しい振付が好評を博しており、新作への期待が高まる。また、中村は新たなコンテンポラリー作品を生み出す『DANCE to the Future 2019』でも2016年に続きアドバイザーを務めている。

大原永子

■演劇

そして、2018/2019シーズンから演劇芸術監督に就任する小川。小川は、今年39歳という若さながら、演出でも翻訳でも数々の賞を受賞しており、2018/2019シーズンの新国立劇場でも『スカイライト』と野木萌葱の新作の演出、『かもめ』の翻訳を手がける。

小川は芸術監督としての今後4年間の大きな方針として、3つの柱を考えている。1つ目は、幅広い観客層に演劇を届けること。子どもも大人も楽しめる企画や作品、地方公演も積極的に行う。

2つ目は、演劇システムの実験と開拓として、オーディション企画と「こつこつプロジェクト」を始動。オーディション企画では、すべてのキャストをオーディションで決めることにより、作り手が本当に必要とする俳優を見つけることを目的とする。また「こつこつプロジェクト」と銘打った企画では、ディベロップメントとして、1年という時間をかけた作品作りを目指す。小川は「海外では常に200ぐらいプロジェクトが動いており、機が熟した時に上演するというやり方をしている国立劇場もある。このプロジェクトでは、そのような実験と開拓を重ね、演劇を発展させていきたい」と考えを明かした。なお、新シーズンでは2019年3月に演出に大澤遊、西悟志、西沢栄治を迎えたリーディング公演を、「こつこつプロジェクト」の第1弾として上演する。

3つ目に挙げたのは、横のつながり。国内外の演劇団体と交流、招聘を行い「海外の劇場との関係も、10年、20年と持続していきたい」と語った。新シーズンでは、小川自身も大ファンだという、天野天街が主宰する名古屋の劇団「少年王者舘」を招聘する。

小川絵梨子

3人の芸術監督はそれぞれ、日本の観客の要望や需要を見据えながら、海外との交流、海外への発信も視野に入れていた。野心的でバラエティに富んだ新シーズンの開幕が待たれる。

新国立劇場主催公演2018/2019シーズンラインアップは、下記のとおり。

☆オペラ(計10演目) ※すべてオペラハウスにて上演
『魔笛(新制作)』2018年10月
『カルメン』2018年11~12月
『ファルスタッフ』2018年12月
『タンホイザー』2019年1~2月
『紫苑物語(新制作)(創作委嘱作品・世界初演)』2019年2月
『ウェルテル』2019年3月
『フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ(新制作)』2019年4月
『ドン・ジョヴァンニ』2019年5月
『蝶々夫人』2019年6月
オペラ夏の祭典 2019-20 Japan⇔Tokyo⇔World『トゥーランドット(新制作)』2019年7月

☆バレエ(計6演目) ※すべてオペラハウスにて上演
『不思議の国のアリス(新制作)』2018年11月
『くるみ割り人形』2018年12月
『ニューイヤー・バレエ』2019年1月
『ラ・バヤデール』2019年3月
『シンデレラ』2019年4~5月
『アラジン』2019年6月

☆ダンス(計4演目)
JAPON dance project 2018×新国立劇場バレエ団『Summer/Night/Dream』2018年8月 中劇場
『ダンス・アーカイヴ in JAPAN 2018』2018年11月 中劇場
新国立劇場バレエ団『DANCE to the Future 2019』2019年3月 小劇場
森山開次『NINJA』2019年5~6月 小劇場

☆演劇(計8演目)
『誤解(新訳上演)』2018年10月 小劇場
『誰もいない国』2018年11月 小劇場
『スカイライト(新訳上演)』2018年12月 小劇場
フルオーディション1『かもめ(新訳上演)』2019年4月 小劇場
少年王者舘『1001(イチゼロゼロイチ)(仮題)(新作)』2019年5月 小劇場
『オレステイア(日本初演)』2019年6月 中劇場
『野木萌葱 新作』2019年7月 小劇場
こつこつプロジェクト―ディベロップメント― リーディング公演
『スペインの芝居』『マクベス』『あーぶくたった、にぃたった』2019年3月 小劇場

★平成30年度公演
青少年を対象とした公演

高校生のためのオペラ鑑賞教室
『トスカ』2018年7月 オペラパレス

高校生のためのオペラ鑑賞教室・関西公演 ロームシアター京都
『魔笛』2018年10月 メインホール

こどものためのバレエ劇場
『シンデレラ』2018年7月 オペラパレス

(取材・文・撮影/月島ゆみ)