5代目幸四郎も登場! 『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち~』世田谷・静嘉堂文庫美術館で開幕
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静嘉堂文庫美術館『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち』(会期:2018年1月20日~3月25日)
銀座・歌舞伎座で十代目松本幸四郎の襲名披露興行が注目される中、世田谷区・静嘉堂文庫の『歌川国貞展』では、"五代目松本幸四郎"がお目見えしている。
1月20日(土)より開催中の『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち~』は、静嘉堂文庫美術館が所蔵する歌川国貞(1786-1864)の作品を、8年ぶりに一挙公開する展覧会だ。国貞は、江戸時代の後期から末期に活躍した浮世絵師。美人画と役者絵の名手と称され、当時、北斎や広重を凌ぐ人気があったとも言われている。そんな国貞の魅力を、注目作品とともに紹介しよう。
『古今俳優似顔大全 松本家系譜』文久3年(展示期間は、2月25日まで) 静嘉堂文庫美術館『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち』(会期:2018年1月20日~3月25日)
錦絵とは、錦のように美しい浮世絵
一般的に、江戸時代にはじまった浮世(現世)をモチーフにした絵のジャンルを「浮世絵」と言い、中でも多色摺りを用いた木版画を「錦絵」と呼ぶ。作品によっては、10版以上の色を重ねて摺られている。その色鮮やかさが「錦のように美しい」ことから、「錦絵」の名がついたそうだ。
本展担当司書の成澤麻子氏は、「知名度が高いのは絵師ですが、錦絵は絵師・彫師・摺師の三者の力で完成」することを強調した。錦絵の制作にいかに多くの人が関わっていたかは、士農工商がモチーフの『今様見立士農工商』というシリーズで見ることができる。
『今様見立士農工商』 左より「商人」「職人」 静嘉堂文庫美術館『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち』(会期:2018年1月20日~3月25日)
まさに錦絵を、作る職人と売る商人が描かれている。登場人物全員が女性に置き換えられているところに、国貞の遊び心を感じる。成澤氏は、「商人」の中に、買ったばかりの絵を筒状に丸めて持つ子供が描かれていることに注目する。
「錦絵が、庶民にとっていかに身近な存在であったかがわかります。(今の感覚でいうと)写真や広告、ブロマイドのようなメディア。だからこそ皆さんにも作品鑑賞という感覚ではなく、“江戸の町に行き、そこで自分たちと同じような女性に会った”というような感覚で、楽しんでいただければと思います」
『卯の花月』江戸時代末期(展示期間は、2月25日まで) 静嘉堂文庫美術館『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち』(会期:2018年1月20日~3月25日)
少女から花魁まで、江戸の女性を生き生きと
美人画は、国貞が得意としたジャンルのひとつ。『今風化粧鏡』というシリーズは、通常の大首絵(バストアップのもの)とは一味違う。まず、紙いっぱいに丸い鏡があり、その鏡の中に女性の顔が描かれている。大胆な構図が目をひくが、成澤氏は「全体の構図だけではなく、細部をじーっと観てほしい」「ひとつの絵からどんなことを読みとるかは、こちら次第」と、楽しみ方をアドバイスした。
『今風化粧鏡』文政6年(展示期間は、2月25日まで) 静嘉堂文庫美術館『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち』(会期:2018年1月20日~3月25日)
たとえば、『今風化粧鏡(眉かくし)』の女性は、手習い(習字のけいこ)の最中に細い紙で自分の眉毛を隠している。
「当時、女性は結婚すると眉を剃る習慣がありましたが、この子は金魚のかんざしをしていることから、まだ小学生から中学生ぐらいの女の子だと思われます。『自分が結婚したらどんな感じかな』と試しているところなのです」
現代の感覚でも微笑ましいと感じられる光景だ。同じ展示室には、ポーラ文化研究所より、当時の化粧道具も出品されている。錦絵の中の女性が使うのと同じ牡丹刷毛や柄鏡(えかがみ)は、江戸を生きた女性たちをより身近に感じさせてくれるだろう。
『星の霜当世風俗(行燈)』文政2年(展示期間は、2月25日まで) 静嘉堂文庫美術館『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち』(会期:2018年1月20日~3月25日)
『星の霜当世風俗(行燈)』では、行燈から広がる光のグラデーションや、S字型の体にそった襦袢のたわみに、あたたかさと柔らかさを感じさせる作品だ。成澤氏が注目するのは、背景に描かれた小物。お盆に置かれたふたつの茶碗や屏風に掛けられた着物が、すぐそばにいる“もう一人の誰か”を想像させる。
掛け声も聞こえてきそうな、迫力の役者絵
国貞は、美人画と並び役者絵も得意とした。ここで紹介するのは、『仁木弾正左衛門直則 五代目松本幸四郎 秋野亭錦升 後 錦紅』(展示は、2月25日まで。後期は複製を展示)。
静嘉堂文庫美術館『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち』(会期:2018年1月20日~3月25日)
仁木弾正(にっきだんじょう)は、歌舞伎を代表する極悪非道の敵役だ。「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」に登場する人気のヒールで、五代目松本幸四郎の最大の当たり役として知られている。高い鼻と左眉にあるほくろは、五代目幸四郎の特徴。現在でも、仁木弾正役を務める役者は、左眉の横にほくろを描く。
この作品には、摺師の技術力を感じるのに絶好のポイントがふたつある。それは、鬘(かつら)と衿元だ。鬘は、艶墨と地墨、2種類の墨の使い分けで立体感を出しているのだそう。白い衿に見える細かい柄は、彩色ではなく、エンボス加工のような手法で表現されている。
『芝居町 新吉原 風俗絵鑑(車引き)』(展示期間は、2月25日まで) 静嘉堂文庫美術館『歌川国貞展~錦絵に見る江戸の粋な仲間たち』(会期:2018年1月20日~3月25日)
上掲の作品は、『芝居町 新吉原 風俗絵鑑』のうち「車引き」。お祭り騒ぎの賑やかな芝居小屋(市村座)の様子が、細部に至るまで描きこまれている。上演中の『菅原伝授手習鑑「車引き」』の役者は、五代目幸四郎、五代目海老蔵、四代目三津五郎、そして沢村訥升の似顔絵になっているのだそう。
会期中、水仙や梅の花も楽しめる静嘉堂文庫美術館は、二子玉川駅、または成城学園前駅から一足伸ばした場所にある。3月25日までの開催だが、前期と後期ですべての錦絵が入れ替わるので、気になる作品がある方はぜひ事前の確認を。
ミュージアムショップには、歌舞伎役者の一門にゆかりある柄の手ぬぐいも
■会期:2018年1月20日(土)~3月25日(日)
<前期>2018年1月20日(土)~2月25日(日)
<後期>2018年2月27日(火)~3月25日(日)
■休館日:月曜日(2月12日は開館)、2月13日(火)
■会場:静嘉堂文庫美術館
http://www.seikado.or.jp/exhibition/next.html