“あいみょん、椎木知仁は優しいロックスターになれるのか” 2人の歌い手による年初め弾き語りライブ公演
新春! サンクリ特別興行~石の上にも41年~
1月16日、大阪・心斎橋Music Club JANUSにて、あいみょん、椎木知仁(My Hiar is Bad)が出演する弾き語りライブイベント『新春! サンクリ特別興行~石の上にも41年~』が開催された。これまでになかった組合せでの対バンイベントを楽しめるとあって、用意された約200枚のは早々に完売。この日の会場は着席スタイルでの公演で、歌い手の声の深み、楽曲の世界観をよりじっくりと感じとれる内容となっていた。両者ともにこの日がライブ初め、いつもとは違う弾き語りでのライブはどんな盛り上がりを見せたのか、その模様をお届けしたい。
あいみょん 撮影=森好弘
まずトップバッターにはあいみょんが登場。「よろしくお願いします」と短い挨拶を交わし、1曲目「ハッピー」へ。アコギ1本での弾き語りは楽曲の世界観や声の深み、彼女が打ち出す全てのものをじっくりと感じ取ることができるのが良い。吐息が漏れる音どころか、体温の上昇も感じ得るほど音の浸透率は高く、空間に瞬時に引き込まれる観客たち。彼女の歌声は生命力が強く、詠う世界には強く刺さる言葉が溢れている。続く「君はロックを聴かない」、昨年一番歌った曲というだけあり、深く入りこむ歌声や恋焦がれるノスタルジックな世界は馴染みがよく、オーディエンスはじっくりと身をゆだねている。
あいみょん 撮影=森好弘
「風のささやき」では次々に吐き出される言葉に思わず身震いしてしまった。《僕のことまるで知ってるように笑うなよ 頑張れなんて言うなよクソが 死に物狂いで生きてんだ そう簡単に言わないでおくれ》、ドロ臭い青春の焦りを孕んだ世界、歌声は楽曲が進むにつれて色彩豊かに変化していく。歌う眼差しは鋭くも楽曲毎に違った表情を見せていくので、ステージから一時も目が離せない。潔くて雄々しい、女性シンガーなのにそんな印象を感じてしまう。
あいみょん 撮影=森好弘
MCでは地元関西で2018年の歌い初めを迎えられたこと、さらに昨年も同じ会場で歌い初めができたことに感謝の言葉を伝えつつ、「お正月っていつまでがお正月なん?」など、関西弁の軽妙なトークで観客らを和ませていく。
あいみょん 撮影=森好弘
ステージ後半、「生きていたんだよな」で会場の空気は一変する。坦々と吐き出される言葉は過激だが、鬼気迫るそれらは彼女の感情的な歌声を以て、無機物なものから血が注がれて生命を得たように動きだす。かと思えば、「ふたりの世界」では、“女”のズルさや夢見がちな一面を打ち出した楽曲を抜群のメロディセンスで歌い上げる。その後も「tower of the sun」「愛を伝えたいだとか」と、“あいみょん”という1人の人間から見える世界を音に替え続け、全10曲のステージが終了した。
椎木知仁(My Hiar Bad) 撮影=森好弘
続いて登場した椎木知仁は「時間の許す限り、楽しんでもらえたら。60分間よろしくお願いします」と、「今日はゆっくり寝よう」から力強い歌声を響かせていく。My Hair is Badで見せる姿とは違う、高い熱量の中にも柔らかさを感じさせるステージは観る者の集中力をぐっと高め、楽曲の世界観をより高い密度で満たしていく。続く新曲、日々を生きる中で感じたとりとめもない感情を書き留めたような詞世界はなんとも生々しく、思わず背筋がゾクリとする。そして、その生々しさは「ヒモと女」でさらに倍増していく。軽快なメロに乗せ、歪な愛情やどうしようもない恋愛観を謳う椎木。アンサーソングでもある「元ヒモとして」では、歪かと思われた恋模様が昇華されていく様になんとも言えぬむず痒さを感じてしまう。
この日のライブが椎木にとっても2018年の歌い初めであると語り、あいみょんのステージでは地元トークで和む場面もあったが、彼は相変わらずの“椎木節”で観客を楽しませる。ひねくれた感性は相変わらず冴えまくっているようだ。
椎木知仁(My Hiar Bad) 撮影=森好弘
ステージでは何度も「私事な歌を歌います」と、椎木自身の生きざまを映した楽曲であることを語る。それらはどれも生々しく、赤裸々なものばかり。しかもその生々しさには女々しさも加わっている。ドロリとした感情は悲哀や憂俱を感じさせ、バンドを追いかける女性ファンの感情を謳った「ハイエースに乗って」では、なんとも言えない愛情表現に思わず息を飲んでしまう。かと思えば、「いつか結婚しても」(My Hair is Bad)では純粋な恋の世界に胸を熱くさせられる。
椎木知仁(My Hiar Bad) 撮影=森好弘
ライブはラストに向けて、より強い思いが吐き出されていく。「あの頃のバンド、2つ目のバイト」で荒んでいた過去の自分を詠い、シンプルながらも強い思いを打ち出すと、「最後。本気で歌って最後にします」と、10代の頃に初めて作った弾き語り曲だという「ビール飲んで寝る」へ。臆することなく思いを吐露し、鬱憤を晴らすように歌う椎木の姿に魅入る観客たち。救いのない、どうしようもない言葉たちは人間臭さに溢れ、“私事”がいつの間にか自分自身にも投影されているようで、ステージが終わる頃にはなんとも言えない充実感に満ちていた。
椎木知仁(My Hiar Bad) 撮影=森好弘
あいみょんと椎木知仁、2人の個性溢れる弾き語りライブはアンコールやセッションもなく、すっきりとした終わり方で幕を閉じた。全くタイプの違う2人の音楽は交わることなく完結することのほうが、それぞれの音楽をより深く観客に知らしめることができたのではないだろうか。
レポートの最後にはなるが、実はこの日のライブには気になる点が2つほどあった。ひとつは、あいみょんと椎木知仁、「なぜこの2人による対バンが実現したのか」ということ。MCでも互いに話をしていたが、実は2人はこれまで一度も共演したことはなく、挨拶を交わしたのも一度きりだと言う。それがなぜこうやって、この日のイベントが開催されることになったのか。そして、もうひとつは開場中のBGMの選曲について。開場時、BGMには忌野清志郎とRCサクセションの楽曲だけが流れていた。「キモちE」「Love Me Tender」などの名曲はどれも素晴らしく、ライブ前のテンションが程良く高められていく。けれども、忌野清志郎の歌はこの日の出演者であるあいみょんや椎木知仁はもちろん、観客らの世代とはいささか離れている気もする……。
終演後、主催であるサウンドクリエーター・北岡氏に尋ねたところ、その答えに全ての合点がいった。
「2人に対バンでの出演をお願いしたのは、5年、10年先の日本の音楽シーンを引っ張ってくれるであろう歌い手だと信じているから。昨年、サウンドクリエーターの創業40周年を記念するイベントとして、大阪城ホールで松山千春や藤井フミヤ、TUBE、BEGINなどが出演する盛大なお祭りを開催しました。これはいわゆるサウンドクリエーターを“育ててくれた”大物たち。節目を越えた今年、音楽シーンはもちろん、今後のサウンドクリエーターを引っ張っていただきたいという期待を込めて、この二人に一緒に出てもらいたかったんです。BGMに忌野清志郎さんの曲を流したのはサウンドクリエーターとの繋がりがあるのはもちろん、“誰よりも優しいロックスター”だった清志郎さんの姿が、2人の存在にもハマるんじゃないかと思ったんです。それと、10代や20代のお客さんにも、清志郎さんの音楽を伝えたかった。「Love Me Tender」のようなメッセージ性とユーモアを持つ楽曲を、いつかこの2人も歌ってくれるんじゃないかなと思うんです。あと、椎木知仁の楽曲に垣間見える“女々しい”世界観と、あいみょんの楽曲に垣間見える“男っぽい”世界観。この「性別」ということへの独特の捉え方と表現を、両方からの目線で体感してほしかったんです」
あいみょんはライブ中、「星占いでは、2018年は3月生まれのうお座が人気者になれる年」だと話していた。あいみょんも椎木も互いに3月生まれのうお座。この2人が今後どんな歌い手となり、どんな活躍を見せるのか。新年早々、期待高まるステージに遭遇できた気がする。
レポート・文=黒田奈保子 撮影=森好弘
2018年1月16日(火)
大阪府 Music Club JANUS
<出演者>
あいみょん/椎木知仁(My Hair is Bad)