「角川映画シネマ・コンサート」大野雄二インタビュー by 高木大地(金属恵比須)
-
ポスト -
シェア - 送る
大野雄二氏 (PHOTO:木場 ヨシヒト)
2018年4月に東京国際フォーラム ホールAにて「角川映画シネマ・コンサート」が開催される。ジャズ・ミュージシャンにして、アニメ『ルパン三世』など数多くの傑作を手掛ける映像音楽の巨匠・大野雄二氏が、特別編成のスペシャル・ジャズ・オーケストラ&バンドを率いて、角川映画初期3作品のハイライト映像と共に生演奏を行うのだ。
かつて日本映画界に旋風を巻き起こした角川映画。その中で大野氏が音楽を担当した初期の3作『犬神家の一族』(1976年)、『人間の証明』(1977年)、『野性の証明』(1978年)の名シーンを特別に編集して上映するのが今回のシネマ・コンサートである。これはもう完全に「金田一さん、事件です!」(『犬神家の一族』のキャッチコピー)と叫ばずにはいられない。しかも二部構成で、一部は『犬神家』、二部は『人間』と『野性』である。これは完全に「お父さん、こわいよ! なにか来るよ」(『野性の証明』のキャッチコピー)と戦慄してしまう。
大野雄二氏(PHOTO:木場 ヨシヒト)
全く別物? 映画音楽とサウンドトラック盤の秘密
まずは大ヒットした角川映画第一作目の『犬神家の一族』サウンドトラック盤について。今までテレビ音楽(CM含む)を手掛けてきた大野氏は『犬神家の一族』の音楽を手掛けるまで映画音楽が未経験だったという。
「当時、角川書店の社長だった角川春樹さんが、自ら映画を製作して、横溝正史さん(『犬神家の一族』の著者。推理小説作家)を盛り上げようとしていた。その時、音楽担当として僕に声をかけてくれたんだ。今まで映画音楽をやっていた人よりも、僕のような未経験者の方がインパクトあると思ったんだろうね」
そのとき、映画製作が未経験だった角川氏だからこそ思いついたアイデアが「メディアミックス」だった。
「映画の封切時に、小説も、サウンドトラック盤も同時に発売するという“三位一体”のメディアミックスを初めて行なったわけ」
これが大ヒットの要因となった。しかし、
「普通、音楽を映画につけるのは、映像の編集が終わった後で、一番最後の工程なんだよ。でも、そうするとアルバムの発売が映画の封切りに間に合わない」
となると、発売用のサウンドトラック・アルバムはどのように作られたのか?
「映画とは別にイメージアルバムとして(映画で使用する音楽とは別に)録音したよ。それが当時は画期的なことだったんだ」
大野雄二氏(PHOTO:木場 ヨシヒト)
つまり、映画で流れている音とサウンドトラック・アルバムとは全く別物として作られていたのだ。
「もうちょっと叱ってよ!」市川崑監督と佐藤純彌監督の違い
では、実際『犬神家の一族』の映画本編に音をつけるのは、どのような作業だったのか。
「市川崑監督は、(大野氏が作曲したものを映像に合わせて)音を出すと全部『違う』とか、なんでもかんでも『ダメ』っていうんだ(笑)」
大野氏が笑いながら語る言葉の中に、市川監督のこだわりの一端を垣間見た気がした。映画用に録音する時は、監督の指示で最終的にアレンジの変わったものが少なくないという。従って楽譜もその場でどんどん書き換えられ、最終決定校が残っていないのだそうだ。ならば、今回のコンサートでは如何にしてそれらの音楽を再現するのだろうか。
「僕が映像からまた音をコピーしなきゃいけないんだよ(笑)」
まるで筆者のような大野雄二ファンがやるようなことを、氏自らがやっているのである。涙ぐましい努力。頭が上がらない。
さて音楽に対しても細かくチェックを入れる『犬神家の一族』の市川崑監督に較べて、『人間の証明』『野性の証明』の佐藤純彌監督の場合はどうだったのだろうか。
「“ド”がつくほど、市川監督とは違う。佐藤監督は“放し飼い”……どころではなく、もうすべて“おまかせ”。『ああしろ!』『こうしろ!』という指示型ではなく、みんなに好きなことをさせてからまとめる調整型タイプだったね」
なるほど。だから『人間の証明』のサントラ盤では、どこを切っても「大野節」ともいうべき大野氏特有のフュージョン音楽が炸裂していたのか。要するに、自由な音楽制作が許されたのだ。そこにはもはや不満などあるはずもなさそうだが……。
「いや、『犬神家の一族』とは、映画制作の姿勢に違いがありすぎて、なんかちょっとねぇ、物足りなかったというか、佐藤監督には『もうちょっと叱ってよ!』なんて思ったね(笑)」
大野雄二氏(PHOTO:木場 ヨシヒト)
一同爆笑。マゾヒスティックなジョークでインタビュー現場を和ませるのも大野氏のお人柄。
石坂浩二氏に「えー!! 石坂浩二って武藤兵吉だったのー!!」
さて、それらの大ヒット映画音楽を、今回のシネマ・コンサートではどのように演奏するのだろうか。
「公演全部が“映像を流して演奏しました”だとつまらないから、映像を流さずに音だけを聞いてもらう部分も少しは入れようと考えているよ」
大野氏には、あくまでも「音楽のコンサートだから」という強い認識があり、音楽中心に楽しめる内容になるという。また、自身もピアノ演奏を楽しむために、指揮者は別に立てて、プレイに専念するという意気込みようだ。
演奏者は約50名のビッグ・バンドになるが、「同じことをやることが嫌い」と公言してやまない大野氏のアレンジのこだわりは何だろうか。楽譜できっちりとアレンジを確定させることを“法律”という譬えを用いて、こう述べた。
「約50名の演奏者がいるし、映像と合わせることもあるので、“法律”で縛るところもある一方で、“法律”のゆるいところ(=あえてアレンジを確定せず、演奏者が自由に演奏できる部分)も用意するつもり。だから、公演1日目と2日目で微妙に演奏の違うところも出てくると思うよ」
ということは、筆者のような熱心なリスナーにとっては、2日間とも聴きに行ったほうがよさそうだ。まあ、もとよりそのつもりではあったが。
ところで今回は、ゲストボーカルの松崎しげる氏による「戦士の休息」や、またダイアモンド☆ユカイ氏による「人間の証明のテーマ」歌唱が予定されている他、私立探偵・金田一耕助役として最も有名な石坂浩二氏がスペシャル・トークゲストとして出演することも決して見過ごすことはできない。石坂氏は大野氏と慶應義塾の高校~大学で同級生でもあった。
「彼の本名は武藤兵吉っていうんです。同級生時代は、もちろん本名しか知らなかった。その後、僕がお菓子メーカーのコマーシャルの音楽を作っていた時、ナレーションの人がスタジオに現れた。『石坂浩二さんです』と紹介されたその人の顔を見たら、『えー!!石坂浩二って武藤兵吉だったのー!!』って(笑)」
大野雄二氏(PHOTO:木場 ヨシヒト)
その辺りの話も公演当日に会場でさらに深く聞けることだろう。
禁忌?『犬神家』とピンク・フロイドの相似
筆者のようなプログレッシヴ・ロック・ファンの間では、『犬神家の一族』サウンドトラックに収められた「憎しみのテーマ」が、ピンク・フロイド「狂ったダイヤモンド」のイメージに非常に近いというのが、昔からお馴染みの話題であった。非常に畏れ多かったが、この際なので、勇気を振り絞って尋ねてみた。
高木「大野さんのサントラが大好きでよく聴かせてもらっているのですが、1976年発表の『犬神家の一族』には、非常にロックの、とりわけ当時まだ隆盛を極めていたプログレッシヴ・ロックのエッセンスが感じられます」
大野「そうだね」
高木「特に『憎しみのテーマ』とか……いわゆる、ピンク・フロイドっぽいところがあるかな……と。ピンク・フロイドの曲は1975年に発表されており……その翌年にそれを取り入れてるって、ものすごく早いなァと感心させられまして……」
大野「いや、僕はそういうのあんまり聴いてないよ。あの頃に参加していたミュージシャンたちが影響受けていただけじゃないかな?色々なロック物は聴いてはいたけどね」
大野雄二氏(PHOTO:木場 ヨシヒト)
なんと、大野氏の主導ではなかったのか!
「ほかの才能で助けてもらいたい」大野雄二から学ぶマネジメント論
さきの発言にもあったように、大野氏は自身の曲の演奏に際して、ミュージシャンたちの自由を尊重するタイプのようだ。
「僕は基本的にアルバムを作るとき、縛りを出来るだけなくすアレンジをして、ミュージシャンたちを“放し飼い”にしたいんだ。ガチガチに縛ることは簡単だけど、それははっきりいって、つまらない」
市川崑監督と真逆なことをサウンドトラックにおいて実践していたのだ。
「指示通りに演奏できる人がいればそれはそれでOKなんだけど、僕は欲張りだからもうワンランク上を目指したいの。ミュージシャンのプラスアルファの才能で僕を助けてもらいたいんだよ(笑)。僕の書いた曲やアレンジを理解してくれた上で、ミュージシャン一人一人から助けていただきたいなと。方向性が間違ってないかぎり、僕が思ってたことと違うことをやったとしても、それが良かったらそちらに変更しちゃう(笑)。今回のコンサートには約50名の演奏者がいるから、その人たちみんなにちょっとづつ助けてもらいたい」
まるでビジネス本。管理職を狙う若きサラリーマンや、或いはバンドを主宰する筆者自身にとっても有効な教訓になりうる、マネジメントのカガミのような考え方である。すなわち佐藤純彌監督的“放し飼い”の思想が氏の音楽の中に生きていると見た。“放し飼い”とはつまり固定化されていない流動性を意味する。だから「角川シネマ・コンサート」は、当日に会場でその演奏を聴くまでどんなものになるか見当もつかないのだ。
これはやはり「金田一さん、事件です!」。
大野雄二氏(PHOTO:木場 ヨシヒト)
取材・文=高木大地(金属恵比須)
2018年4月13日(金)開場 18:00 / 開演 19:00
2018年4月14日(土)開場 13:00 / 開演 14:00
■会場:東京国際フォーラム ホールA
■料金:全席指定 ¥9,800(税込)※未就学児入場不可
■上演作品:「犬神家の一族」「人間の証明」「野性の証明」
※各映画の上映は全編上映ではございません。各映画のオリジナル映像を元に特別に編集された ハイライト映像に合わせて生演奏の音楽でお楽しみ頂く、最新のライブ・エンタテインメント= シネマ・コンサート形式で上演致します。予めご了承ください。
■出演
◇演奏:大野雄二と“SUKE-KIYO”オーケストラ
大野雄二(音楽監督・Piano, Keyboards) 市原 康(Drums) ミッチー長岡(Bass) 松島啓之(Trumpet) 鈴木央紹(Sax) 和泉聡志(Guitar) 宮川純(Organ) 佐々木久美(Vocal, Chorus) Lyn(Vocal, Chorus)佐々木詩織(Vocal, Chorus)MiMi(Hammered Dulcimer) 他
◇ゲストボーカル:松崎しげる(「戦士の休息」歌唱)、ダイアモンド☆ユカイ(「人間の証明のテーマ」歌唱)
◇スペシャル・トークゲスト:石坂浩二
※都合により出演者が変更になる場合がございます。予め御了承ください。
■問い合わせ:ディスクガレージ 050-5533-0888(平日12:00-19:00)
■公式サイト:http://kadokawaeiga-concert.com/