ロックにハマった書店員がオススメするロックマンガの傑作

コラム
アニメ/ゲーム
2018.2.9

『BECK(1)』ハロルド作石 / 講談社
https://ebookstore.sony.jp/item/LT000033071000432443/


ロックやポップスだけでも世界中に数え切れないほどの新作がリリースされ、それぞれに名盤から隠れた珍品まで無数の音源が存在し、現役のミュージシャンたちは今日も各地でツアーやコンサートで演奏している。クラシックやジャズ、テクノといったロック、ポップス以外のジャンルでも同様です。そんなふうにして宇宙的に広がっていく音楽を描くマンガも、やっぱり多種多様。今回は音楽とりわけロックを描いた傑作を紹介したいと思います。

僕が中学生の頃、L'Arc-en-CielやGLAYを筆頭としたバンドブームが巻き起こっていました。それがきっかけでどんどん音楽にのめり込むようになり、今では好きなバンドは数え切れないほどになりました。今も変わらずにずっと好きなバンドは、アイスランド出身のSigur Rós。3ピースとは思えない壮大で流麗なサウンドと彼ら独自の造語による詞世界が相まって、もはや音楽というより宇宙です。(そういえば彼らの4thアルバム「Takk…」に収録されている「Hoppípolla」という曲が映画版の『宇宙兄弟』の挿入歌に使われていたので、あながち宇宙という表現は間違いではないのかも。)2016年のFuji Rock初日のヘッドライナーがSigur Rosでしたが、霧雨に煙る大自然の中で観た幻想的なステージは一生の思い出になりました。 ライブはワンマンよりも野外フェスみたいなイベントが好き。できるだけ色んなバンドを聴きたいし、そういうイベントでまだ知らないバンドに出会うのも音楽の楽しみ方だと思います。みんな思い思いに自然を満喫しながら音楽を楽しむスタンスが良いですね。屋台も美味いですし。

<全34巻を繰り返し読ませる名作の力>

ロックマンガで一番好きなのはやっぱりハロルド作石先生の『BECK』。これを読んで洋楽を聴くようになりました。王道と言われればそうかもしれないんですが、支持される漫画にはそれほどの面白さがあるんだということを痛感します。30巻以上ある長編なのに、何度も読み返してしまう。主人公たちの成長にとって重要な役割を果たすバンドとしてRadioheadやLimp Bizkitなんかをモデルにしてるバンドも登場するけど、基本的にこの作中に登場するのは全部架空のバンド。ただ、Red Hot Chili PeppersだとかNirvanaとか、レジェンド級のバンドは実名で登場する。現実のバンドと架空のバンドが混在している、そこが自分の中で引っかかったのかもしれません。聴いたことのないバンドが登場すると、どんな音楽なのか、キャラクター達がどういう音楽とぶつかってきたのかというのが気になってそれを掘り下げたくなってくる。そうこうするうちに、いまでは自分で自分の好きな音楽を探すようになりました。

他にも、登場人物が色んな実在するバンドTシャツを着ていたり、CDアルバムのジャケットを扉絵にオマージュしていたりと小ネタ満載なので、それを見つけるのも『BECK』の楽しみ方の一つかもしれません。

この作品の中で1番好きなシーンはストーリー序盤の集大成とも言える10巻のこのシーン。

BECKの5人がグレイトフルサウンドという野外音楽フェス(現実世界でいうところのFuji Rock)で演奏している見開きのシーンです。漫画を読んでいて初めて頭の中でロックが聴こえた瞬間でした。

他の音楽マンガでは演奏シーンで歌詞とか音符みたいな記号を使うのが一般的だと思いますがこの場面ではちがう。余計な情報は排除して演奏シーンだけで魅せた音楽マンガは上條淳士先生の『TO-Y』が一番最初だと言われていますが、自分にとっては『BECK』がそうでした。

『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん 1巻』長田悠幸 町田一八 / スクウェア・エニックス
https://ebookstore.sony.jp/item/BT000029100100100101/

<連載中の傑作ロックマンガ>

連載中の作品から傑作を挙げるとすれば、「ビッグガンガン」で連載してる長田悠幸先生&町田一八先生の『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん』がオススメ。ロックに興味のない人でも名前だけは必ずどこかで聞いたことがある伝説のギタリスト“ジミヘン”ことジミ・ヘンドリックスが、地味な女性教師に取り憑いてバンドをさせる…というストーリー。奇想天外な音楽ギャグ漫画かと思いきや、音楽を通して色々な悩みや葛藤を乗り越えていく軽音部メンバーの成長する姿や、心象風景をダイナミックに盛り込んで描かれたライブシーンは『BECK』とはまた違った良さがあるので一見の価値ありです。また、ロックファンなら誰もが夢見るジミヘンとカート・コバーンが一緒にセッションするシーンは震えました。物語もこれからが本番という感じで、27クラブと呼ばれているいわゆる27歳で亡くなった伝説のロックミュージシャンたち(ブライアン・ジョーンズ、ジム・モリソン、ジャニス・ジョプリンなど)が次々と登場するような展開になりそうなので、今後が楽しみな作品です。

『ハレルヤオーバードライブ!(1)』高田康太郎 / 小学館
https://ebookstore.sony.jp/item/LT000006586000283099/

<今からでも読んでほしいもうひとつの傑作>

完結した作品でもうひとつ、高田康太郎先生の『ハレルヤオーバードライブ!』もオススメです。正直なところ最初はよくある青春恋愛バンドマンガかなと思っていたのですが、右肩上がりで面白くなっていくストーリー、登場人物たちの気になる恋の行方、どんどん洗練されていくカラフルでポップな画力に気づいたら最終巻まで一気読みでした。

魅力的な女性キャラが多いのも本作の特徴の一つ。ちなみに僕が一番好きなのはベースを弾いている“たんぽぽ”です。何故楽器をやっている女のコは3割増しでかわいく見えるのでしょうか…。

そして、最初はヘタレだった主人公が物語終盤で言うこのセリフに(図版)、音楽の核心が全て詰まっていると思わされました。

もし序盤で読むのをやめてしまった人がいたら、今からでも読んで損はない!と強めにオススメしたくなります。 君は音楽の魔法を信じるかい?

僕は『BECK』を読んで洋楽を聴くようになりました。例えば作中によく登場するバンドにThe Beatlesがいます。The Beatles の曲は知らなくてもCM、映画、街中、どこかしらで耳にしたことがあると思います。彼らのアルバムをちゃんと聴くまではキャッチーなメロディーのポップバンドというイメージでしたが、実験的な曲がたくさんあったり、中でも荒々しいギターとポール・マッカートニーの激しいシャウトが際立つ「Helter Skelter」という曲を聴いてそれまでのThe Beatlesのイメージが一変しました。

そこからUKロックを中心に、The LibertinesやThe Strokesなどのガレージ、The ClashやRamonesなどのパンク、Sonic YouthやThe Smashing Pumpkinsなどのグランジ、My Bloody ValentineやRIDEなどのシューゲイザー、SlipknotやLinkin Parkなどのミクスチャー、といろんなジャンルのバンドを聞きあさり音楽の世界が一気に開けた気がします。

『BECK』と出会っていなかったらこういう発見もなかったですし、洋楽に興味を持つこともなかったと思うので自分の人生に大きな影響を与えてくれたマンガです。『BECK』の良いところは、音楽の知識がないビギナーでも楽しめて、ギターなどを弾いていて音楽に造詣が深い人が読んでも楽しめるところにあると思います。読んだことがない人はきっと音楽が好きになるだろうし、単行本で読んでいた人は電子書籍で読み返してみたらまた新しい発見があるかもしれません。

これからもまだ僕の知らない面白いロックマンガに出会えるのだろうと思うとわくわくします。

書店員プロフィール

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むろやん

『DRAGON BALL』を読んで漫画家を目指し、『SLAM DUNK』を読んでバスケットボール部に入り、『BECK』を読んでバンドを組んだり…と、

バファリンの半分が優しさでできているのと同じように、人生の半分がマンガでできているReader Store書店員。

60'sのモッズカルチャーの影響で毎日なにかしらFRED PERRYを着ています。

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