『A FLOOD OF CIRCUS 2018』 未来への狼煙を高らかにあげたロックンロール・サーカス・ショウ
a flood of circle
A FLOOD OF CIRCUS 2018
2018.2.17 TSUTAYA O-EAST
a flood of circleが打ち上げる、年に一度の大ロックンロールサーカス『A FLOOD OF CIRCUS 2018』。2度目となる今年は、全国のライブハウスをサーカス会場に塗り替えた『A FLOOD OF CIRCUS 大巡業 2018』を経ての開催。随一の技を持つロックンローラーが一堂に会する、非常に華やかで、特別な1日となった。
SIX LOUNGE
佐々木亮介(Vo/Gt)による開幕宣言を受け、トップバッターを任されたのは、SIX LOUNGE。「俺たちが始めるぞ!」という一吠えと共に口火を切れば、熱気をまとったステージングで集まったオーディエンスの心臓をのっけから昂ぶらせていく。音に信念をこめるように「STARSHIP」、「ふたりでこのまま」と立て続けに楽曲を放ち、「トップバッターを任された意味を理解しつつ、俺らは俺らの音楽を演る」と「メリールー」へ。フラッドに愛を込めて、と演奏された同曲にはストレートな愛情が示されていた。a flood of circleというバンドが生粋のロックバンドだからこそ、集まっているのは高水準のロックンロール・ショウを味わい慣れた観客だ。それにも関わらず<今夜は俺らについて来い!>と叫ぶように歌ったヤマグチユウモリ(Vo/Gt)に呼応するように声が上がるのは、彼らもまた、生粋のロックンローラーだからこそ。内に秘めた熱の強さでバンドとしての矜持を示す、とびっきりの幕開けだった。
The Hosomes
サーカスにサプライズはつきもの。そういう意味で、佐々木を中心にYasu(Ba/DOES)、キョウスケ(Gt/爆弾ジョニー)、ジェットセイヤ(Dr/go!go!vanillas)から成るバンド・The Hosomesは観客にとって最高のサプライズだっただろう。黒の革ジャンを着込んだ4人がステージに現れると佐々木が「Are you ready to rock 'n' roll?」と一声。挨拶がわりに軽快なロックナンバーである「The Hosomesのテーマ」をドロップすると、ジェットセイヤのムードメーカーっぷりを活かした「Ready Steady go!go!」、楽曲に命を吹き込むようなプレイに惚れる「修羅」、そして思い思いに自分たちの音を響かせるロック賛歌のような「終わりなき午後の冒険者」と各自の持ち味を存分に発揮しながら迷いのないステージを繰り広げていく。情熱があり、それを伝える技術も持ち合わせている。そんなプレイヤーが集って、最高の演奏にならないはずがない。ホストバンドでもあるa flood of circleの「The Beautiful Monkeys」を演奏し「またね」と言い残した佐々木。彼らを見送る視線は、次回公演への期待で満ち溢れていた。
髭
お茶目さは残したまま、バシッと音楽は決めてみせる。そんなステージングをでフロアを魅せたのは、髭。「もっとすげーすげー」、「ネヴァーランド・クルージング」……と尻尾を捉えたと思えば、次の瞬間には形を変えるメロディーが翻弄するように飛び交うライブハウスは、奇術師の術にかけられているかのよう。その中心で時折ステップを踏みながら揺れる須藤寿(Vo/Gt)は、フロアの心を華麗に奪いながらにやりと笑ってみせる。a flood of circleは「気づいた時にはもう居た」という感覚を持つほど、付き合いの長いバンドだという須藤。「この前書いたばかりの新曲を演ります。つまり、何が言いたいって……間違うと思う」という前振りを経て、仮タイトルの段階だという「謝謝」を披露し、最後にはグラスを重ねるような気さくさで「テキーラ!テキーラ!」をプレイ。気づいた時にはその人柄も込みで彼らのことを好きになっている、まるで音楽を介して心を通わせ合うようなひと時だった。
CHAI
続くTiger STAGEにはCHAIが登場。ライブを重ねる度に評判が上がっていくという、実力も折り紙つきの彼女たちだから、観客の期待度も高かったことだろう。声の微かな揺れまでシンクロさせたコーラスワークが絶妙な「Sound&Stomach」で完璧な掴みを果たすと、CHAIワールドを全開にしながら続けざまに楽曲を届けていく。甘くて、柔らかい雰囲気を持ちつつも、決して夢見がちになるのではなく、はっきりとした意思を持ち、自分の言葉で話していく4人。彼女たちのパフォーマンスがキュートだと言われるのは、そこに真性の少女像を見いだすからなのかもしれない。<かわいいだけの私じゃつまらない>と言い切る強さに、彼女たちの魅力の根源を見たような気がした。
a flood of circleが共に戦ってきた同志と認めるバンドUNISON SQUARE GARDEN。彼らは勿論、その信頼に応えてみせた。SEをかき消すような勢いで爽やかなフレーズを掻き鳴らせば、浴びた期待を高揚感に変えて、フロアを軽やかに踊らせていく3人。楽曲に合わせて纏う色を自由に変えていく彼らは、その時々に産まれる感情の1番輝いている部分をオーディエンスから引き出していくようにも思える。スタイリッシュな印象の強い彼らだが、MCでは佐々木がバイトしていたバーガーショップに斎藤宏介(Vo/Gt)が彼の声真似をしながら冷やかしに行った……という意外な一面を覗かせる瞬間も。楽器を置いた素顔が垣間見えるのも、付き合いの長いバンド同士ならではだ。大歓声と共に幕明けた「MIDNIGHT JUNGLE」、華やかなサウンドが晴れの日を彩った「君の瞳に恋してない」と新曲も織り交ぜながら最新モードを存分に魅せ、「シュガーソングとビターステップ」の晴れやかなメロディーと共に文句無しのフィナーレへ。拍手の大きさが、彼らがフラッドに残した想いの大きさを物語っているように映った。
Large House Satisfaction
「A FLOOD OF CIRCUSにワルさをしにやってきました!」という負けん気満々の宣言からTiger STAGEのトリであるLarge House Satisfactionのライブがスタート。彼らのことは“ダミ声兄弟”だと佐々木も紹介していたが、声以上に、彼らとフラッドは堂々と自分たちの音を鳴らしきるという基本姿勢が非常によく似ている。そんな彼らを観客が放っておくはずもなく「Phantom」が終わる頃にはステージに詰め寄るオーディエンスでモッシュが発生。ライブハウスを熱くたぎらせたかと思えば、振り絞るような叫びで会場の動きすらも止めてしまう瞬間も。一本芯の通った音楽は最高のバトンとなり、a flood of circleへと繋がれた。
a flood of circle
a flood of circle
a flood of circle
様々な技が飛び出したサーカスも、遂に終幕。最後を飾るのは本日の主役、a flood of circle。佐々木が「おはようございます、a flood of circleです!」と言い放てば、湧き上がった歓声をガソリンに、火を噴きそうなほどの激しさを孕んだ声で「フェルディナン・グリフォン・サーカス」をドロップ。ここまでにかけた時間や想いの集大成がこのステージな訳だが、既に遥か彼方にある未来を見据えているからだろうか。彼らの音に浮ついたところは少しもなく、むしろ地に足をしっかりとつけて突き進んでいくような意思の強さを感じさせられた。演奏の端々からもそれは受け取れたが、はっきりとそれが現れていたのが暗がりを切り裂くようなギターラインから飛び込んだ「New Tribe」。「今日が最高だと言えなければこの先ヤバいこと出来ないから、今日は絶対にすごい夜にする」と佐々木自身も話していたように、あくまで“この先”への衝動を宿したプレイが聴き手の胸を焦がし、結果的にライブハウス全体の温度を上げていくのだ。共に未来を見据える観客を前に「大好きだぜ」と「Honey Moon Song」を披露。田淵プロデュースの新曲「ミッドナイト・クローラー」を皮切りに、淡々と撃ち出される言葉がアジテーション効果を生み出した「Black Eye Blues」、そして、ラストにはフロアが発したエネルギーを全て音に変えながら、不可能すら全て可能へとひっくり返すように「Flyer's Waltz」をぶち上げる。想いと熱が繋いできたバトンをぎゅっと握りしめ、最高速で未来へと駆け抜けていく、今の彼らの勢いを濃縮したようなステージだった。
a flood of circle
a flood of circle
a flood of circle
拍手に応えて登場したアンコールで、この日1番の嬉しいサプライズが待っていた。出演してくれたバンドへの想いを口にした佐々木は、そのまま今までバンドを共に作り上げてきた過去のメンバーの名前を1人ずつ呼び「最後にこいつと出会いました。アオキテツです」と、とても優しい表情で告げる。一般公募でバンドへと飛び込んだ彼は、a flood of circleの可愛い弟分として、楽しくて堪らないといった表情でグルーヴの中に確かな居場所を築いてきた。その過程を見てきたファンにもa flood of circleを愛する同志として認められ、だからこそ、“彼なら、きっと”とこの瞬間を心待ちにしていた人も多かったに違いない。「一般公募の時はざっくりギタリスト募集って言ってたけど……入る?」とさり気なさを装って問いかけた佐々木に、「……軽いよ! 入るよ!」と一瞬驚きながらも破顔したアオキ。この日1番の大歓声に包まれながら歌い鳴らした<夜空に響け 俺たちの歌>(「Blood &Bones」)というフレーズは、紛れもなくバンドの新章がここに幕を開けたことを高らかに告げていた。「a flood of circleのギターは俺で終わり!」というアオキの宣言を受け、ラストを飾ったのは、ここからの快進撃を象徴するように思えた「ベストライド」。a flood of circleのベストは、これからも塗り替えられ続けていくのだろう。4人になった彼らにもう、敵はいない。
取材・文=渡辺真綾
a flood of circle