『ROCKIN' QUARTET TOUR 2018』レポ 弦楽四重奏とともに歌われたACIDMAN・大木伸夫の死生観、そして愛
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大木伸夫 / NAOTO QUARTET 撮影=高田梓
JALCARD presents ROCKIN' QUARTET TOUR 2018
“琴線に触れる”、まさにそんな言葉が相応しい一夜だった。
去る2月20日、Billboard Live TOKYOにて『JALCARD presents ROCKIN' QUARTET TOUR 2018』ツアーファイナル東京公演が大盛況にて幕を閉じた。
このイベントは、ロックアーティストとヴァイオリニストのNAOTO率いる弦楽四重奏の融合をテーマに、昨年6月にも同会場にてACIDMAN・大木伸夫を迎え開催され、即日ソールドアウト。本来は一夜限りのプレミアムナイトであったが、多くの追加公演依頼を受けたことで、東名阪ツアーとして大木伸夫とNAOTO QUARTETのタッグが再び実現した。
この日もまた即日完売。満員御礼の中、照明が暗転し登場SEとして流れてきたのはビートルズ「Eleanor Rigby」だ。ポール・マッカトニーがヴィヴァルディを意識してジョージ・マーティンに編曲を依頼したという、ストリングスが全面に押し出されたこの曲をSEに使用することで『ROCKIN' QUARTET』とは何なのか、そのルーツやコンセプトを高らかに宣言しているように映る。
半世紀経っても色褪せない名曲を背に、先んじてNAOTO率いるカルテットが登場。SEが終わると同時にカルテットが調弦を始めると、SEが静かにフェードアウトしていく。吸い込まれるような弦の音色に思わず息を飲む。一瞬の静寂の後、一呼吸おいて『ROCKIN' QUARTET』が奏で始めたのはACIDMANのインスト・ナンバー「彩 -SAI-(前編)」だった。NAOTO QUARTETによって更に情景豊かなアレンジとなっている。
大木伸夫 撮影=高田梓
一曲弾き終えた後、大木が登場。拍手で迎えられながら、扇形に座るカルテットの中央にゆっくりと腰を掛ける。固唾を飲んで見守るオーディエンス。その空間を包み込むように歌い始めたのは「ミレニアム」。昨年の『ROCKIN' QUARTET』のライブ後にリリースされた曲を一曲目に持ってくるとは、何ともファン想いな選曲である。サビで縦横無尽に駆け巡るストリングスは圧巻だ。続いて披露された「式日」では、少しずつ体を動かして歌う大木の姿にオーディエンスも自然と体を揺らす。普段、リッケンバッカーを片手に歌う姿とは打って変わってハンドマイク片手に歌う姿が観られるのも『ROCKIN' QUARTET』ならではだろう。
NAOTO 撮影=高田梓
「一夜限りで終わらせたくなかったから東名阪ツアーを行いました。今日がファイナル。これが見納めです。しっかり見ておいて下さい」と大木が語り「赤橙」へ。赤とオレンジのライトに照らされながら、優しく歌い上げる大木。NAOTOのタッピング奏法が楽曲にリズムを吹き込む。アウトロのソロも実に華麗だった。「FREE STAR」では、大木の多彩なボーカル表現に心打たれる。カルテットに囲まれながら一音一音を丁寧に歌う姿と、サビで熱量高く声を張る姿。この両極のコントラストはまさに大木伸夫の真骨頂だ。
大木とNAOTOが名古屋・大阪のライブを経てすっかり仲の良い関係となったことが垣間見える、何とも微笑ましいMCを経て、「NAOTOさんが斬新なアレンジをしてくれました」(大木)と「ある証明」を披露。ACIDMANのライブでは欠かせないロック・ナンバーだが、静と動の“動”の部分を前面に押し出された鬼気迫るストリングスに思わず鳥肌が立つ。カルテットの音色の上にライブハウスでの大木伸夫の姿がまるでトレースされたようで、目の前で繰り広げられる音像に心を掴まれる。
NAOTO QUARTET 撮影=高田梓
前半を終え大木が一旦中座すると、NAOTOのソロ・ナンバー「strings shower」を演奏。多様で自由なストリングスの表現がとても印象的だ。NAOTOから柳原有弥(2nd Violin)、松本有理(Viola)、向井航(Cello)のカルテットのメンバー紹介があった後、「後半はよりゴージャスに」ということでピアノの呉服隆一が迎え入れられた。そして大木を呼び込み、中島みゆき「時代」のカバーから後半戦がスタート。2人が聴いて育った昭和歌謡へのリスペクトが存分に込められたカバーは本当に素晴らしく思わずため息が漏れる。ちなみに、昨年は美空ひばり「愛燦燦」のカバーを、そしてこの日の第一部では、大木の詩の世界観に親しい北野武作詞、玉置浩二作曲の「嘲笑」が演奏されていた。いずれのカバーも、一言一句大切に歌う大木の姿から、名曲を歌い繋いでいくことの大切さがひしひしと伝わってくる。
間髪入れずに「アルケミスト」へと繋ぎ、ピアノの伴奏を追い風に、さらに優雅で伸びやかになるカルテット。そして、光を掴むかのように手を目の前に伸ばしシャウトする大木。オーディエンスは誰一人ステージから目が離せないほど惹き込まれていく。
大木伸夫 撮影=高田梓
「今を幸せなんだと思うことが全ての答えじゃないかな」と、祖母との別れを通して感じた死生観を語った大木が「名残惜しいですが最後の曲です」と言い、「愛を両手に」を披露。壮大なストリングスは、まるでMCで語られた大木の死生観への説得力を増長させているようだった。間奏でステージ後方のカーテンが開き東京の夜景が目の前に広がり、視覚と聴覚からダイレクトにステージの演奏が伝わってくる。演奏が終わると全員が一礼し、ステージを降りた。
鳴り止まない拍手の中、再びメンバー全員が登壇。「『ROCKIN' QUARTET』は今後も続いていきますが、一人目が大木くんで良かった」と、NAOTOから戦友を称えるような感謝の言葉が述べられ「ALMA」を披露した。大木との『ROCKIN' QUARTET』のステージはこれで最後だが、この日の「ALMA」は、会場にいた全ての人の目に記憶に残り続けるだろう。それくらい、あまりにも感動的だった。「ALMA」の余韻に会場全体が浸る中、メンバー全員が一列に並び深くお辞儀。この日一番の歓声を浴びながら、大木伸夫とNAOTOは強く握手と抱擁を交わしステージを後にする。最後まで鳴り止まない拍手の中『ROCKIN' QUARTET』の幕は降りた。
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17世紀頃、室内楽の完成形として確立した弦楽四重奏=カルテット。そして、1950年代に産声を上げ、1960年代にビートルズを始めとした数多くのバンドによって確立したロック。時代は現代に移り『ROCKIN' QUARTET』はその2つを高次元で融合させた。音楽の新たな可能性の扉を開いた『ROCKIN' QUARTET』だが、近々、第2弾ボーカリストが発表されるとのこと。次はどんな旋律を奏でてくれるのか、その輪の中心でマイクを握るのは誰なのか、今から楽しみで仕方がない。
余談だが“琴線に触れる”を英語では“Touch the HeartStrings”と訳すそうだ。なるほど、納得だ。
取材・文=徳田貴大 撮影=高田梓
セットリスト
1. 彩-SAI- (前編)
2. ミレニアム
3. 式日
4. 赤橙
5 . FREE STAR
6. ある証明
7. strings shower
8. 時代(中島みゆきカバー)
9. アルケミスト
10. 愛を両手に
[ENCORE]
11. ALMA
プレゼント情報
詳しくはこちら⇒https://twitter.com/rockin_quartet/status/968043565241720832