浮世絵と写真の不思議な出会いー『浮世絵から写真へー視覚の文明開化ー』展

2015.10.14
レポート
アート

浮世絵から写真へー視覚の文明開化ー

画像を全て表示(11件)

新しい時代、新しい技法のユニークな実験

装飾的な浮世絵の世界と、対象をありのまま写し出す写真の世界。そんな相容れない2つの世界が混じり合う不思議な時代が、幕末から明治初期にかけて、たしかにこの日本に存在していたようだ。10月10日(土)~12月6日(日)まで開催中の江戸東京博物館『浮世絵から写真へー視覚の文明開化ー』展では、この時代のとてもユニークな作品に出会える。

小林清親/故内務郷贈正二位右大臣大久保利通公肖像

この展示では、日本独自の美意識が磨かれた浮世絵の時代から、西欧文化とともに写真が受け入れられるまでの、さまざまな実験的作品が一堂に会す。新しいものを積極的に取り入れて楽しむ姿勢は、現代の日本人と同じだ。むしろ、間違いを怖れずに何でも試してみるチャレンジ精神は、このころの方が豊かだったようにさえ思える。見る側もそれを「おもしろい」と楽しむ余裕があり、その粋な遊び心にハッとさせられた。

“移り変わり”を楽しむ展覧会

さて、この展覧会の楽しみ方のひとつは、移り変わりを楽しむこと。その過程を象徴する浮世絵が「開化旧弊興廃くらべ」だ。明治初期のあらゆるものの新旧が擬人化されて、自分の方が優れている点を言い争っている。その中で写真は「自分はそっくりに写し出せるんだ」と言い、浮世絵は「自分はなんと言っても美しいのだ」と主張している。

歌川芳藤/開化旧弊興廃くらべ

しかし実際には、どちらをよしとするかを競うのではなく、だんだんと浮世絵と写真が混じり合っていったことが、その後の作品たちからよく分かる。写真に影響されたリアルタッチの浮世絵、浮世絵の構図を「型」として引き継いだ名所写真、浮世絵と写真の両方で人気を博した「百美人」など。それぞれの共通項を見つけていくと、互いに影響しあってゆるやかに変化していく時代のおもしろさを堪能できるのだ。

写真油絵ー鮮やかによみがえる幻の技法

西欧の文化への好奇心が高まったこの時代、さまざまな実験的表現が誕生した。なかでも写真油絵は、特許をとったものの一代で滅びてしまった「幻の技法」。その貴重な数々が見られるのも、この展覧会の見逃せない点だ。写真の写実性と油絵の彩色により、肖像画など記録写真としての重要な役割を果たしたことがわかる。そのほかに、泥絵やガラス絵といった珍しい作品からも、鮮やかな色彩と立体的なおどろきを持って、西欧文化が庶民に親しまれていったことがうかがえる。

小豆澤亮一/二代東京府知事 大木喬任

作者不詳/水辺の風景図、富士山風景図

日本人のもつ探究心が生んだ、ユニークで力強い作品たち。ぜひ誰かと連れ立って、鑑賞後にはお互いが発見したおもしろポイントについておしゃべりに花を咲かせてほしい。

イベント情報
浮世絵から写真へー視覚の文明開化ー

会期:2015年10月10日(土)~12月6日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで)
休館日:月曜日休館(月曜日が祝日または振替休日の場合は翌日)
会場:江戸東京博物館 1階特別展示室
観覧料(税込):一般 1,350円 / 大学生・専門学校生 1,080円 / 中学生(都外)・高校生・65歳以上 680円 / 小学生・中学生(都内)    680円
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館、読売新聞社