中村橋之助インタビュー 初めて尽くしの『未来座 裁(SAI)カルメン2018』に挑む
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中村橋之助
平成28年からの襲名披露興行が続く中、この4月からは父・芝翫、弟の福之助とともに『第三十四回 四国こんぴら歌舞伎大芝居』に出演する中村橋之助。襲名後、二枚目役だけでなく荒事の演技でも魅せる橋之助が日本舞踊協会主催の『未来座 裁(SAI)カルメン2018』で創作舞踊に初挑戦する。本作は、日本舞踊の固定概念を覆すべく誕生した「未来座」シリーズの第二回公演。世界的オペラ『カルメン』を題材に、運命に裁かれながらも美しく生きる男女を描く。本作で創作舞踊だけでなく、女性との舞台共演も初めてという、初めて尽くしの橋之助に、意気込みや役どころのほか、日本舞踊の魅力などについて聞いてみた。
中村橋之助
不安よりも楽しみが勝る“初めて尽くし”
――今回の出演依頼を受けたときの率直な感想を教えてください。
僕自身、日本舞踊は小さい時から大好きですし、踊り自体が好きなジャンルだったので、今回のお話をいただいた時はものすごくうれしかったです。しかも、古典の日本舞踊ではなくて、『カルメン』を題材に洋楽で踊る創作舞踊。すぐに「やりたいです」とお返事していました。
――初めての創作舞踊ですが、不安はありませんか?
間の取り方というのが一番不安な部分ではありますね。ふだん踊っている古典の日本舞踊は小さいころから慣れ親しんでいるものですから、お三味線のメロディーや鳴り物の間、唄の間というものが自分の身体にしっかり入っていて、その中で踊っている感じです。でも、今回はビゼーの『カルメン』をベースにした洋楽の中で踊るわけですから、かなり違うと思います。
僕と一緒にホセ役をダブルキャストで演じる花柳寿楽さんにはふだんから可愛がってもらっているのですが、寿楽さんとお話をした際に「カウントがすごく大事になってくるから、そこはちょっと意識した方がいい」とアドバイスをいただきました。カウントをとることに関しては、不慣れな部分ではありますけど、逆に今まで経験したことがないことなので、自分が持っていなかったもの、自分の新しい部分が出てくるかもしれないなという楽しみもありますね。
特に今回は舞踊劇ということで、セリフもなければ歌もなく、表現方法は身体だけ。踊りで身体を動かすのは得意なので、自分の力を最大限に活かせるのではないかと、今は不安よりも楽しみで仕方ありません。
――女性と一緒に舞台に立つのも初です。
そうなんです。今まで、映像のお仕事などで女性とご一緒させていただいたことはありますけれど、プロの舞台で女性と一緒になるのは本当に初めての経験です。歌舞伎の場合は男だけ。女形の役者さんを舞台の上では好きになったりしますけど、それがいざ本当の女性だとどういう感情になるんだろうと、楽しみと不安が入り交じっていて、よくわからないものがありますね。
――しかも、たくさんの女性キャストです。
そうですね。お稽古は20日間近くあると聞いていますから、本番を含めて約1ヶ月。遠慮せずに一方通行ではなく、話し合いながら一緒に作品を作り上げていければと思っています。こういった点は男女でも関係ないですよね。
ソル組とルナ組、同じ作品でも見どころの違う作品に
――今回ソル組とルナ組のダブルキャストになっていますが、演者が変わることでどんな見どころが出てきそうでしょうか?
一番の特徴としては、カルメン役とホセ役のペアが若い「ソル組」、熟練の「ルナ組」だと思っています。もちろん、僕は寿楽さんの技量には全然届かないので、寿楽さんのすごいところは吸収して頑張りたいですし、若さなど僕がいま持っているものは強みだと思うのでそこは磨いていきたいです。
お稽古もずっと一緒ではないようなので、それぞれの組の特色、得意なところがどんどん伸びていったら、同じ作品でも見どころの違う作品になると思っています。ぜひ両方を楽しみに見ていただければ、ありがたいです。
――演出の花柳輔太朗さんとは、作品についてどんなことを話されているんでしょうか?
具体的な話はまだしていません。でも、「あまり考えすぎないで、ふだん持っているものをしっかり出して、自分の得意なや、新しい試みを思いっきりやってくれればいいから」とおっしゃってくださいました。ですから、僕自身、色々なことをやらせていただけるのかなと楽しみです。
――お相手役の市川ぼたんさんも年上のお姉さんですから、ぶつかっていけますね。
そうですね。あまり遠慮せずに、ドンといきたいと思います。ホセは一途な役ですから、僕もぼたんお姉ちゃまが恥ずかしくなるくらいに思いっきり一途に演じてみたいですね。
――橋之助さんは穏やかな印象ですが、ホセのように身震いするほど嫉妬するような経験はあるんでしょうか?
どちらかというと、やきもち焼きかもしれないです。他人の才能などに関しては「上手いこと盗んじゃえ」って思いますけど、女性に関してはやきもちを焼く方だと思います。
ホセは、カルメンを好きだという気持ちはあるけど、その表現方法がわからない。愛し方を知らないけど、好きだから色々な事件を起こしてしまいます。これは中高生の思春期のころの一途な想いと同じですよね。だから、その時の気持ちを思い出しながら、身体に感情が出るように表現したいと思っています。
日本舞踊は肩の力を抜いて見てほしい
――「日本舞踊」というとどうしても難しいイメージを抱きがちですが、橋之助さんが考える日本舞踊の魅力とは何でしょうか?
僕は踊るのも大好きだし、見るのも大好きです。父や勘九郎の兄を見ていると、あんな風に踊れるようになりたい気持ちもありますが、単純にお客さんとして見ていて「気持ちいいな」「きれいだな」「かっこいいな」という感情があふれてきます。そういう感情に満たされる楽しさというか、心地よさが日本舞踊のいいところではないでしょうか。
――だとすると、やはり生でその空間を体感することが大事なんでしょうか?
そうですね。生の方が絶対いいと思います。もちろん、映像でも素晴らしい方はいらっしゃいますが、劇場の空気や間を生の空間で楽しむのも日本舞踊の醍醐味ですから。日本舞踊を知らない方は一度、体験教室やワークショップに参加してみるのも、日本舞踊を楽しむための手かもしれないですね。
――日本舞踊と接点が少ない同世代の人たちにはどのように楽しんでもらいたいですか?
僕はいま、ちょうど大学4年生で、同級生はこの4月から就職する年です。この公演が行われる6月は、同世代の人たちは就職して自分のまわりが分かってくるころだと思います。新しい環境で頑張っている同世代の皆さんには、日本舞踊に限らず、舞台の上で頑張っている僕の姿を見て共感してほしいですね。
今回の作品に関しては、日本舞踊はどうしても考えながら見る方が多いと思うのですが、理解しようと思って見ていると難しくなってしまいます。肩の力を抜いて、まずは無意識に楽しく見てほしいですね。皆さんが無意識に楽しんでいるうちに、話の筋にも感情移入できるように演じていきたいと思います。
中村橋之助
『未来座 裁(SAI)カルメン2018』は国立劇場小劇場にて2018年6月22日~6月24日まで上演。若手中心のフレッシュなソル組と、実力派のベテラン中心のルナ組のダブルキャストでお届けする本作は、舞踊劇だからこそ、それぞれの身体から生まれる表現をぜひ見比べてみてほしい。
取材・文=岩本恵美 撮影=荒川潤
公演情報
■公演日程:2018年6月22日(金)~6月24日(日)
■会場:国立劇場 小劇場
■出演
【ソル組】市川ぼたん、中村橋之助ほか
【ルナ組】水木佑歌、花柳寿楽ほか
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