顔の濃い二人(神里雄大・福原充則)が同時受賞、第62回岸田國士戯曲賞授賞式レポート

2018.4.17
レポート
舞台

(左から)福原充則・神里雄大

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第62回岸田國士戯曲賞の授賞式が2018年4月16日(月)18時より、東京・神楽坂の日本出版クラブ会館で行われた。今回の受賞者は2名、岡崎藝術座を主宰する神里雄大(受賞作『バルパライソの長い坂をくだる話』)と、ベッド&メイキングスなどを率いる福原充則(受賞作『あたらしいエクスプロージョン』)。

まず受賞者の二人に、主催社である株式会社白水社の及川直志・代表取締役社長より賞状ならびに正賞(時計)、副賞(賞金20万円)が贈呈される。

及川直志・株式会社白水社代表取締役社長

今回の選考委員は岩松了(授賞式欠席)、岡田利規、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(選考会欠席)、野田秀樹(授賞式欠席)、平田オリザ、宮沢章夫(五十音順、敬称略)の6名だったが、代表して岡田が選考過程を説明。一時「今年は受賞作なしでいいのではないか」という空気も流れたものの「それを止めたのは私です」と岡田が少々誇らしげに語ると会場から笑いと拍手が起こった。その後、議論を重ね、最終的に全員が納得する形で今回の二作品が選ばれたとのこと。

岡田利規

次に受賞者の挨拶として、まず神里が登壇。「近年日本の社会でもセクハラやパワハラの意識が高まってきている。今回権威ある賞をいただいたことで、いつの間にか自分も権力を持つ側になってしまっていたということに対して自覚しなければと思う。自分が対等に話しているつもりでも、実は相手にとってはそうじゃないということになってしまう。そのことに気をつけながら、今後は自分より強い権力に楯突きつつ、弱い立場の者を助け、社会をよりよくしていきたい。もし自分が権力を振りかざすようなことがあれば、強く叱っていただきたい。逆に皆さんが権力を振りかざすときは僕も強くいうので、そのときは素直に聞いていただきたい。ただ、素直に聞けないのが権力というものですが」と朴訥な語り口で語り、会場内の笑いを誘った。

神里雄大

続いて福原が挨拶。「演劇界では自分の顔がそこそこ濃いほうだと思ってきたが、神里さんの顔を初めて見て、上には上がいるものだと思った」と。また「尊敬する佐藤B作大先輩(ユニット「東京No.1親子」で福原が作・演出を担当)から、賞なんてものはくれるって人がいたら、カッコつけずにさらっともらえばいい、と言われた」ことを紹介。さらに「木野花大先輩(月影番外地シリーズで福原戯曲を演出)は酒に酔うと“頭の中で太鼓が鳴っている。太鼓に急かされて生きている”といつも言うのがカッコいい。誰もが木野花だったら素晴らしい。皆の心の中にある木野花という太鼓を鳴らしていきましょう」と木野花の名を執拗なまでに連呼した。

福原充則

乾杯の挨拶は、選考委員の平田。「岸田戯曲賞は、劇作家という体力の要る仕事をずっと続けていけるかどうかを頭の片隅に置きながら審査するところが他の戯曲賞とは違うところだと思っている。今回の二人はそれに値する劇作家だ。今回二人同時受賞だが、自分も鴻上尚史さんと同時受賞だった。その授賞式の来客を見て、二人は棲む世界が違うと感じた(笑)。鴻上さん側の来賓として祝辞を述べていたのが木野花さん。しかし今ではうちの劇団(青年団)の志賀廣太郎と一緒に健康飲料のCMに出ている。演劇界とはそういうもの」と、再び木野花の名が飛び出した。

平田オリザ

今回の来賓祝辞は、まず神里側として、文芸誌「新潮」(神里の小説を掲載)の矢野優編集長、詩人の大崎清夏(神里とは大学の同級生だった)が登壇。

矢野優「新潮」編集長

大崎清夏

続く福原側はこの手の式としては些か異例の人選で、福原の実父である福原充ひろ(教師)と演出助手の相田剛志(福原以外には、KERA、野田秀樹、岩松了、倉持裕、等の演出助手を務める有力スタッフ)の二人が相次いで登壇し祝辞を述べた。相田が「福原さん」というべきところを「KERAさん」と言い間違えると場内爆笑に包まれ、選考委員として居合わせたKERAが駆け寄り相田の頭をこずく場面も。

福原充則のお父さん

演出助手の相田剛志

なお、岸田戯曲賞の授賞式には恒例のパフォーマンス・コーナーがある。例年は受賞作に関係する劇団による寸劇が多いが、今年は、神里も福原も各々の事情により本人自ら一人で演じる形となった。ペルー生まれの神里は、2014年に再び出身国や南米ボリビアなどを訪れた際のことをプロジェクターを使ってプレゼンし、日本人移民が南米各地で一定の勢力を有していることを明かした(詳しくはウェブマガジン「あき地」 に連載とのこと)。

神里雄大

一方の福原は、自身の人生で二番目に書いた戯曲『謝罪』(中学校の卒業パーティで発表したもの)を一人で上演してみせた。その作風は現在に通じるものであった。ちなみに彼は今回、頭髪の半分が風になびいたようなユニークな髪型で授賞式に臨んだが「何故その髪型に?」と問うたところ、「一年前『あたらしいエクスプロージョン』の稽古の時、八嶋智人さんがなかなかセリフをおぼえてくれなかった。それでこの髪型にして驚かせたら、一気にセリフをおぼえられるようになりました」とのことだ。

福原充則

なお今回の授賞式の模様は主催社である株式会社白水社のサイトで近日動画が公開される予定。また、今回受賞した両戯曲は2018年4月19日にそれぞれ単行本として白水社より出版される。

柴幸男、白神ももこ、神里雄大、中屋敷法仁、杉原邦生

取材・文・撮影=安藤光夫

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