ピアニスト小林愛実インタビュー! ~MBS主催ピアノコンサート2Days『ならピ#6 Nara Piano Friends』出演
小林愛実 撮影=田浦ボン
2018年5月26日(土)、27日(日)、やまと郡山城ホールにて『ならピ#6♪Nara Piano Friends』が開催される。ピアノ所有率トップクラスを誇る奈良を舞台に、多彩なジャンルの人気ピアニストが集結する音楽の祭典だ。26日への出演が決まり、「クラシック以外のイベント出演は初めて」と声を弾ませるのが23歳のピアニスト小林愛実。7歳でオーケストラと共演、9歳で国際デビューを果たした“早熟の天才”で、これまでニューヨーク・カーネギーホールに4度出演。小澤征爾などマエストロからの信頼も厚く、ソリストとして数々の世界的オーケストラと共演する。2015年には、世界三大ピアノコンクールのひとつ「第17回ショパン国際ピアノ・コンクール」に挑戦する姿がMBS「情熱大陸」で放送され話題となった。現在、東京とフィラデルフィアを拠点に、世界的な活躍を見せる彼女にインタビュー。『ならピ!』への意気込みやピアノへの思い、そしてファッション、温泉、食べ歩きが大好きという等身大の素顔についても、ざっくばらんに語ってくれた。
小林愛実 撮影=田浦ボン
「死ぬまで答えを探し続けられるのが、音楽の魅力かもしれません」
ーー西村由紀江さん、伍芳(ウー・ファン)さん、大塚 愛さんらと共に『ならピ#6♪Nara Piano Friends』への出演が決定しました。
いろんなジャンルの方々と同じステージに立てることを光栄に思います。当日は、クラシックファン以外の方々もたくさん聴きに来てくださると思うので、プログラムは誰もが一度は聴いたことがあるような、耳馴染みのある曲を選びました。ショパンの「英雄ポロネーズ」、リスト「愛の夢 第3番」、ベートーヴェン「ソナタ 月光 第1楽章」、ショパン「ピアノ協奏曲第1番 第1楽章」からの抜粋です。
ーー司会はMBSアナウンサーの福島暢啓さん、豊崎由里絵さん。演奏の合間に交わされるミニインタビューも楽しみです。ちなみに、奈良とのご縁は?
奈良は中学の修学旅行以来です。大仏を見て、奈良公園で鹿に餌をあげた思い出があります。今回はリハーサルを含めて2日間の日程で伺うので、時間があれば観光もしてみたいですね。食べ歩きは大好きです。お酒も飲めます。地元でおすすめの場所があったらぜひ教えていただきたいです。
ーー小林さんがピアノを始めたのは3歳のとき。人見知りを心配されたご両親が、習い事のひとつに選ばれたそうですね。
その頃は人と話すのが苦手で、よく母の後ろに隠れていたのを覚えています。ピアノを始めてからもインタビューを受けるのが「大変だった」とは、母からもよく聞いていました。マイクを向けられても恥ずかしくて、ぐっと押し黙っちゃう。全然しゃべれませんでした。
ーーピアノ自体は1年ほどで楽しさに目覚め、10歳ぐらいまでは自信を持ってステージに立たれていたそうですね。
自信しかありませんでした(笑)。小さい頃は単純にピアノを弾くことが好きでした。人と話すことが苦手だったので、言えないこともピアノを通してなら「言える」。だから、コンサートでも恥ずかしくないですし、舞台に出ても全然緊張しない。先生たちが「こう弾いて欲しいんだな」というのが分かるから、レッスンも得意でした。怖いもの知らずだったんですね。その後、どんどん自信を失っていくんですけど……。私のピアノエピソードは、語りだしたら暗いですよ~(笑)。
ーー中学卒業後、桐朋学園大学付属高校音楽科へ進学。高校2年生だった2013年、フィラデルフィア・カーティス音楽院へ留学されます。
留学には前向きでしたが、何か目標があったというわけでもなく、「ちょっとそこまで行ってくる」ぐらいの感覚でした。
ーー決断力、行動力は長所のひとつ?
行動力とかあるのかな? でも、やりたいと思ったことはやる。やりたくないことはやらないかもしれません。音楽以外では、ですけど。やっぱり音楽にもタイミングがあって「今向き合うべきではないな」という曲や作曲家もいます。ですが、知ることで見えてくることがたくさんあるので、気は進まなくても(笑)、勉強しようと思えるようになりました。でもピアノ以外だと、多分私ずっと食べて寝ていたいかも。すごく面倒臭がり屋かもしれません。
小林愛実 撮影=田浦ボン
ーー留学を決断された頃は「なぜ、自分はピアノを弾くのか」と、迷われていた時期でもあったとか。留学して、心境に変化はありましたか。
ショパン・コンクールへの挑戦は大きかったと思います。ショパンを弾くにあたり、彼に関する本をたくさん読んだんですね。そうしたら、今まで見えなかったものがたくさん見えるようになりました。今まで自分が積み重ねてきたものの上に、さらにやらなければいけないことが、まだまだたくさんあるんだなと気づけて、音楽の視野が広がりました。
ーー具体的には?
例えば、今まではこういうハーモニーだから、こういう音が欲しいんだなというのが、直感的に分かる部分があって、演奏も自分が感じたままに弾くことで終わっていたように思います。それが、曲や作曲家の「背景を知る」というプロセスが加わることによって、自分の音楽に対する接し方が変わってきたなと、自分でも感じます。今は直感的に感じたうえで作曲家が求めるものを知って、最後にまた直感に戻るという感覚を大事にしたいなと思っています。
ーー譜面からインスピレーションを得てイキイキと奏でられた音楽も、魅力的なように感じます。
直感のままで終わっちゃえば、すごい楽なんです。聴いてくださる方にもある程度、世界観を楽しんで頂くこともできますし、逆にそっちのほうが「すごい演奏だ!」と感じられる方もいるかもしれません。でも、そこで満足しちゃったら終わりだなと。そういう音楽家には一番なりたくないかもしれません。やはり、私たちは弾き手であって、作曲家本人ではないですから。彼らが残してくれたものをどれだけ理解できるか、理解しようと努力するか。その過程を表現することが、私たちの一番の役目なのかなと思います。掘り下げようと思えば、どこまでででもいけるので、そこがやっかいでもあり楽しみでもある。死ぬまで答えを探し続けられるのが、音楽の魅力かもしれません。
ーーショパンを深く知る中で、一番好きだなと思った部分は?
やっぱり天才なところ。「なんでこんな(天才的な)音楽が作れるんだろう!」と、改めて驚かされました。また、後期の作品もそれが本当に死の間際に書かれたものだと知ると、今までとは感じ方が変わってきて、「この明るいメロディは、どうやって解釈したらいいのかな」とか、悩んだり迷ったり。感じて、知って、悩んでの繰り返し。きっと死ぬ直前になったら、作曲家の意図が分かるのかもしれません。
ーーコンサート活動と並行しての留学生活は、充実していますか。
現地での生活にも慣れた今は、楽しいですね。周りの友人たちもみんな環境が似ていて、コンサートの回数や年齢も同じくらいなので話しやすいです。ライバルですけが、ギスギスした関係ではなく、純粋に「音楽を楽しんでいる仲間」。だから、自分のコンサートのプログラムの相談に乗ってもらうこともありますし、お互いの演奏を聴いたり聴いてもらったり、意見を交換し合っています。
ーー良い刺激がありそうです。
他人の演奏だと良い悪いが分かるのに、自分の演奏だと自分の欠点に気づけない。客観的に見られなくなっちゃうのかな。私は嘘が苦手なので、よく友人から「本当にストレートに言うよね」と言われます。良いと思ったらすっごく褒めますし、気になることも素直に伝えちゃうので。でも、嘘をつくよりいいですよね(笑)。
「ヨーロッパ留学もしてみたい。また、結婚にも現実味が増してきました!?」
小林愛実 撮影=田浦ボン
ーー2018年4月4日、ワーナークラシックスとのインターナショナル契約にて、第1弾アルバム『ニュー・ステージ ~リスト&ショパンを弾く』が発売されました。14歳のメジャーデビューアルバム『デビュー!』、翌年のセカンドアルバム『熱情』に次いで、7年ぶりの新譜です。
ショパンコンクールを経て、新しくなった自分を皆さんに知って貰えたら嬉しいなと。小林愛実の“第2章”という感じです。中でも、私がリストを弾くというのは、あまりイメージになかったかもしれません。コンサートでも弾いてきませんでしたし、手が小さいのであまり自信もなかったんですね。でも今教わっている先生に変わってから、「リストだから超絶技巧的に弾かなければならない」という概念がなくなりました。もちろん、テクニックを楽しむ曲もありますが、今回私が選んだソナタ風の幻想曲「ダンテを読んで」や、「ペトラルカのソネット」はストーリー性がある曲なので。そう考えるとリストは、ダンテの長編叙事詩「神曲」からイメージを読み取って、それをピアノの特徴や良さを生かしたひとつの曲に仕上げてしまうのだから、相当に頭が良かったんだなって。
ーー曲の背景を知るほどに、作曲家への印象も変わってきたそうですね。
そうですね。リストって、イケメンで超モテたとか、そういうエピソードが多くて。超絶技巧な曲もたくさん作っていますし、一見華やかな人だと思われがち。私も当初はそういうイメージでした。だけど、晩年は宮廷楽長を辞任して聖職者になり、それに伴い、曲調も宗教的な要素を含むものが多く作られるようになりました。例えば、アルバムの最後に収録した「愛の夢」も男女の恋愛を奏でた曲じゃないんですよ。じつは「見返りを求めずに、人を愛しなさい」という詩を曲にしたものだということが分かって、曲の捉え方が180度変わりました。「愛の夢」って良い曲だったんだなって(笑)。
ーー(笑)。「愛の夢」は5月26日の『ならピ!』でも演奏されますね!
当日は「じつは恋愛ではなく、人間愛を表現した曲なんだな」と思って聴いて頂ければと思います。逆に情熱的な愛の曲が「ペトラルカのソネット」。ペトラルカという詩人が、一目惚れした女性を死ぬまで愛し続けるというドラマティックな詩を、リストが曲にしたもの。ペトラルカと女性との間には生涯何も起こらず、彼は別の女性と子供をもうけるのですが、心の中では一目惚れした瞬間から、その女性のことを死ぬまで愛し続けるという……。私にはまだハードルが高い愛の心情なんですけど(笑)。リストはひどくその詩に共感したんですね。ちょうどリストが絶賛不倫中の頃で、マリー伯爵夫人と駆け落ちするほど燃え上がっていた頃にこの詩と出合い、「ペトラルカのソネット」という曲を3曲書いたんです。
ーー「ペトラルカのソネット」全3曲はアルバムに収録されているので、ぜひ「愛の夢」とも聴き比べて欲しいですね。ピアニストとして、曲の背景を調べたり暗譜したりと、さまざまな工程がありますが、どの時間が一番お好きですか。
コンサートが一番好きですね。一瞬しか味わえないから。その日、その時を共有するお客さんとピアノとホールとの空気で、本当にその瞬間しか味わえないものがあるから。ライブの醍醐味ですね。でも、毎回が楽しいわけではないんです。たま~に来るんですよね、その瞬間が。でも、その瞬間が訪れるのは、毎回ではないんです。「心から楽しめている瞬間」というのがたまにしか来ない。だから、それを味わうためにも頑張れるんです。全然味わえないですけどね(笑)。相当に悩んで悩んで、悩み抜いた先に一瞬訪れたり。あと、いい緊張感も必要なので、それらすべての条件が重なった時に味わえるものです。でも逆に、それが良いのかなと。いつ弾いても「上手いな」と思える演奏ができたら、多分そこでピアノは止めたほうがいい。ゴールしたら、目指すものがなくなっちゃうから。
小林愛実 撮影=田浦ボン
ーー今後、挑戦してみたいことは?
ヨーロッパには留学したいなと思っているので、それはいつか実現したいですね。理由は、ドイツの作曲家が好きだから。あとは、他の楽器の方ともっとコンサートをする機会が増えたらいいなと。楽譜も見て弾けるから、というのは冗談ですけど(笑)。楽しいんですよね。例えば、ピアノで弾くとそんなに難しくないパッセージも、チェロで弾くと音程をとるのがすごく大変だったり。管楽器だと吹くまでに時間がかかりますし。そういう違いを知ることは勉強にもなります。メロディを弾く時にも、「ここでこういうため方をするんだ」「こういう音楽の作り方をするんだ」とか、他の方の演奏を想像しながら音楽を作っていけるので、そこが面白いなと。
ーー最後に、23歳の女性としてやってみたいことは?
うーん、ないです(笑)。でも、結婚したり子供ができたりする友人が回りに増えてきたので、いずれ「私もできるのかな?」とは思ったりします。自分では早いかなと思っていても、実際にそういう友達を見ていると、ぐっと結婚が現実味を増してきますね。
小林愛実 撮影=田浦ボン
終始笑顔を絶やさずフランクにインタビューに応じてくれた小林愛実さん。パワフルな演奏から長身の女性を想像するも、ご本人は150㎝と意外なほど小柄。キャンディーを含んだようにコロコロとまあるく甘い語り口もとってもキュートで印象に残りました。『ならピ!』では、そんな迫力ある演奏と人柄とのギャップも見所のひとつになりそう。チャーミングな素顔に触れれば、きっとファンにならずにはいられないはず。
インタビュー・文=石橋法子
イベント情報
【Day1】2018年5月26日(土)、 16:00 開演 ( 15:00 開場 )
■会場:DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール
■料金:大人(中学生以上)5,000円、小学生2,500円 ※全席指定、税込
■司会:福島暢啓、豊崎由里絵(MBSアナウンサー)
■監修:服部隆之
■出演:西村由紀江、伍芳(ウー・ファン)、小林愛実、大塚 愛
■演奏:ならピ♪オーケストラ
■会場:DMG MORI やまと郡山城ホール 大ホール
■料金:4,000円 ※全席指定、税込
■出演:アリス=紗良・オット(p)
■演奏曲目:グリーグ:抒情小曲集より
ショパン:スケルツォ第2番変ロ短調
シューマン:3つのロマンス(作品28)より第2番
リスト:ラ・カンパネラ(パガニーニ編)第3番嬰ト短調 ほか
※スペシャルトーク企画もあります
※曲目は変更になる場合がございます。予めご了承ください。