Sawagiのドラマー・nicoの居酒屋「まぼねん」開店一周年イベントを祝しtricot・中嶋イッキュウとTempalay・小原綾斗が集結

2018.5.7
インタビュー
音楽

Tempalay・小原綾斗 / Sawagi・nico / tricot・中嶋イッキュウ 撮影=風間大洋

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ロック、ファンク、ジャズ、エレクトロなどを貪欲に取り込みつつ、踊れる親しみやすさのあるインストバンド・Sawagi。5月23日にニューアルバム『Kabo Wabo』をリリースする――のだが、なんとリリース記念ライブは、バンドのドラマーであるnicoが店主を務める下北沢の居酒屋「まぼねん」の一周年記念ライブという、ダブルでお祝いしたい内容になっている。しかもワンマンではなく、お店ゆかりのバンドとして、韻シスト、tricot、Tempalayらが出演するという、これまでにない顔合わせも実現。そこで今回はnicoを中心に、まぼねんのお客でもあるtricotの中嶋イッキュウ、Tempalayの小原綾斗がまぼねんに集合。お店との関わり、バンド発信のイベント、バンド以外のクリエイションなど、存分に話してもらった。

――nicoさんがそもそも居酒屋をやろうと思った経緯はどういうものなんですか?

nico:もともとは全然、居酒屋やるつもりはなくて。3年前にSawagiで海外ツアーに行ったんですけど、その前後は思いっきり働いてツアー中の経費を賄う感じの生活になって、今後こういうことがもし増えてきたらって考えたら、一定の収入を得られるようにしとかないとダメだなと、ざっくりとは思ってたんです。でも、だからって居酒屋やろうとは思ってなくて。ここの物件が空くっていう話が来たとき――売上あげるのが難しい場所やって聞いてたんですけど、役者とかミュージシャンとか知り合いも多かったんで、絶対いけるやろなと思って、それで始めようと。勢いだけでした。

――下北沢も再開発でお店が変わって来ましたよね。

nico:このビル自体ももう取り壊し決まってるんです。僕らが入ったとき既に、1年4ヶ月後に潰れるから誰もやらないってことで。その話って毎年出てるらしいんですけど、出口(南口)も無くなったし、いろいろ潰すビルも確定してきてて、わりと今回は本当なんじゃないかと思うんですけど、今のところ何も言われてない。

イッキュウ:居酒屋でバイトとかしてたんですか?

nico:ずっとバイトしてた。

イッキュウ:じゃあいろいろ分かってはいたんですね。動かし方みたいな。

nico:でも勢いでしかなかった。お金も溜めてなかったから、自分らで工事した方が安いと思って、できることは自分らでしたし。

綾斗:「いまいくら儲かってるかわからん」って言ってましたよね(笑)。

nico:わからん(笑)。なんですかね?  安定感は全くないですけど、めっちゃミュージシャン来るんですよ。だからミュージシャンが来なくなったら潰れると思う(笑)。

――お二人は結構来てるんですか?

イッキュウ:私、今日で4回目ぐらいです。

綾斗:僕は今日で150回ぐらい。

――(笑)。

nico:綾斗は家賃払ってくれてるんじゃないですか?(笑)

――綾斗さんは一人で来るんですか?  メンバーと来るんですか?

綾斗:メンバーとは絶対来ないです。

nico:ほんまやな!(笑)

綾斗:プライベートですからね、ここへ来るって言ったら。一人で来ても誰かいる感じがあるんで。「1時間だけいさせてもらっていいですか?」みたいな。

Sawagi・nico 撮影=風間大洋

――この3組って過去に対バンはしてたんですか?

イッキュウSawagiは自分たちのツアーに出てもらったのが初めてで、それだけですよね。

nico:(Tempalayは)全然したことない。友達の友達みたいな。

綾斗:なんなら僕、nicoさんがバンドやってるの知らなかったんで。飲み会で知り合って、面白くて遊んでたお兄さん。

nico:なんやったら、まだ俺がドラム叩いてるの見たことない?

綾斗:見たことない。次のイベントが初めて(笑)。

nico:見てもらおうと思って誘った(笑)。

――どんな店にしようっていうイメージはありましたか?

nico:いや。4月オープンなんですけど、「店やろう」って決めたんが前の年の11月なんですよ。実質、何もやってなかった頃から5ヶ月でオープンまで持っていったんですけど、最後の1ヶ月は工事してたんで、実質3ヶ月ぐらいで「こんな店が流行ってる」とか見て回ったりして。

イッキュウ:そうめんを売ろうとしてたんですよね?

nico:あ、よう言うてくれたわ、そんなん忘れかかってたわ(笑)。この「下北そうめん」ってわざと「下北」って名前までつけたそうめんのメニューあるんです。牛すじ煮込みがかかってるにゅうめんなんですけど、もしこれがめっちゃ売れて、海老名のサービスエリアで売るようになったら、一生仕事せんでもいいやろなと思って。

イッキュウ:でも私、1年間知らなかったですよ、そうめんをウリにしようとしてたこと。

nico:最初、メニューに大きく書いてたんですけど、だんだん小っちゃくなってきた。

イッキュウ:そこ、ブレずにそうめんを1年間打ち出しておけばよかった。

nico:普通にダメ出し食らった(笑)。

イッキュウ:なんかそうめんのオブジェとか置いた方がいいんじゃないですか?  こうなってるやつ(ナポリタンの食品見本のような)。作りましょうか?  紙粘土で(笑)。

――それ見にくる人もいますよ、きっと。

イッキュウ:「中嶋イッキュウ作」ってちっちゃく書いといてくれたら。

nico:ほんまやな。

これが「下北そうめん」だ!

――イッキュウさんもバンドの他にデザインをやってますよね。

イッキュウ:そうですね。でも私も勢いです、やり始めたのは。最初はtricotのグッズを作ってたんですけど、作りたいものをどんどん挙げていくと、どんどん原価が高くなってバンド的にNG、無理になっていったんで、じゃあ外れたやつは自分でリスクを負ってやっていこうと思って。いっぱいやってって学んだことをtricotに活かせられるだけ活かして、反復してやってる感じです。

――今着てるのもそうですか?

イッキュウ:そうです。これ(ロゴ)、私の声紋なんですけど。レコーディングした時の声の波形を一部とって。

――みんなでオーダーして自分の声紋をプリントするとか良さそう。

nico:それめっちゃええ。

イッキュウ:綾斗くんの声紋Tシャツ売ります。

綾斗:めっちゃいい。特許取れるんちゃう?

イッキュウ:あと袖のQRコードは1曲1曲、ダウンロードできるようになってて、ソロの4曲が入ってるんですけど、全部Sawagiの人が弾いてます。Sawagi半分、DALLJUB STEP CLUB半々の4人でやってもらってるんで。

――綾斗さんに関しては、ドミコとフェス(『BEACH TOMATO NOODLE』)をやっていて。それこそ一昨年は勢いで始まったように見えましたけど。

綾斗:そうですね(笑)。めちゃめちゃ勢いで。勢い大事ですよね。

――あんな場所(千葉県・白浜の海辺)で野外フェスをバンド主催でやるなんて驚きませんでしたか?

nico:いや、あれはすごいですね。

綾斗:思いっきり赤字でしたけどね。

――今年もやるからビックリして。

綾斗:あまり面白いイベントないじゃないですか?  どこも同じようなイベントしかないなって思ったのがキッカケなんですけど。今年もやるってなったとき、あの場所でやることはめっちゃリスクがあるんです。とにかく遠いっていう。ただ、あそこで去年は勉強させてもらったんで、今年は成功させれると思って。

――綾斗さんはまぼねんでこんな話はしないんでしょ?

綾斗:しないですね。僕はとにかくnicoさんに一番安い酒を奢り続けるという。

nico:奢ってくれるんですよ(笑)。

綾斗:結局、別に「あんなことがあったよ」とか話しに来てるというよりは、会いに来てるだけなんで、目的ないんです。飲み屋って人だと思うんですよ。人に会いに行く。

イッキュウ:そういう人、多いような気がしますよね。nicoさんに会いに来てる人とかがほとんどじゃないですか?  でもバンドマンは嬉しいですよ。いつ来ても打ち上げやってるみたいな感じですからね(笑)。

綾斗:別に意味なくても紹介したいとかありますよ。nicoさん紹介して、その二人が繋がって何かが起きるみたいな。

――綾斗さんとしてはnicoさんと自分の知り合いが会うのが楽しい?

綾斗:楽しいですね。なんか紹介したがりなんです、多分。

イッキュウ:もしここが取り壊しになっても別のとこでやりますか?

nico:別のとこでやるつもりです。

イッキュウ:じゃ、まぼねんは不滅ってことで(笑)。

tricot中嶋イッキュウ 撮影=風間大洋

綾斗:……ていうか、“まぼねん”ってどういう意味ですか?

イッキュウ:何回も来てるのに。

綾斗:150回来てるのに(笑)。

nico:まじで?  イッキュウも知らんのか。……俺らが南アフリカにツアーで行ったとき過ごしてるヨハネスブルグにある地域の名前が、マボネン地域なんですよ。

イッキュウ・綾斗:あー!

nico:その意味を後々調べたらめっちゃいい意味で。2010年に南アフリカでワールドカップがあってんけど、代表選手を国から送り出すのに、当時、南アフリカが危なすぎて。クラブチームから「うちの選手を代表として連れて行くのやめてくれ」みたいな。あの人らものすごい稼いでるから、なんかあったりしたらほんまにヤバいし、実際に南アフリカ代表のゴールキーパーが暗殺されたり、結構危なくて。

――なんとなく開催前のこと覚えてます。

nico:それで選手が来ないかもという話になったときに、南アフリカの若い、ちょっと野心を持ってる奴らが「俺らで金を出し合って、平和なストリートを一個作ろう」って店をバーって作って、貧民街出身のやつを警備員として雇って、全部の角に立たせて。犯罪しに来た奴らと守るやつが知り合いやから、犯罪が起これへんみたいな、安全なストリートを一個作ったんですよ。俺らはいつもそこに宿とって過ごしてるんですけど、マジで通りを1本、2本離れたら、死んでもおかしくないみたいな所なんですよ。
で、なんで“まぼねん”ってつけたかというと、マボネンって「光の場所」――ここを光の場所としてストリートから平和にしていって、この国を若い力で盛り返す――みたいな意味やったらしくて。俺は全然、そんな意味とかも知らずにマボネンで過ごしてたけど、「なんかいい名前ないかな」って言ったときに、他のスタッフが「マボネン、よくないですか?」って。そこからつけた。

イッキュウ:なんでひらがなにしたんですか?

nico:なんか関西弁ぽいし。

イッキュウ:(笑)。私もなんか関西弁感があったから、どういう意味なんかな?と思って。「~ねん」のまぼねんかと思ってた。

――ところで、まぼねんやる前とやり始めてからと、バンドとの両立って意味では違ってきましたか?

nico:もともとSawagi自体、そんなにめちゃくちゃ活動的なバンドでもなかったんですけど、僕がこれ始めたことによって、さらにみんな色々自分で自分の生活を成り立たせようっていう意識に変わっていったのはあると思うんで。それはよかったですね。

――店は店で真剣にやらないと続かないじゃないですか。両方やることでバンドもよくなってる感じですか?

nico:よくなってると思います。僕ら、やめるって意識があんまないんですよね、バンドとして。やめるっていう意識はないけど、ダラダラ続けるっていうのもどうなんかな?っていう中で、音楽はやめたくないし人生の中で音楽はどっちにしろやるんやろなぁって思うと、Sawagiをやってる方がいいっていう。活動的というよりは、みんなの才能に惚れ込んで一緒にやりたいと思ってる感じなので、続ける手段が見えてきてるかなって感じですね。

Tempalay小原綾斗 撮影=風間大洋

――最近、ミュージシャン以外でもダブルワークしてる人も多いですけど、どっちの仕事も好きな人も多いし、精神衛生上いいようにお見受けします。

イッキュウ:新作(Sawagiの『Kabo Wabo』)作ってたじゃないですか?  そのときのSawagiのメンバーがめっちゃ楽しそうだったんですよ、SNS上で。見てるだけで楽しそうで、「めっちゃいいのできた、Sawagi最高」って感じのことをほとんどのメンバーが言ってたから、そういう意識の変化というか、いろんなことをやってみんなが独立してる上でバンドやることで、バンドの大事さが際立ったのかなぁと思って、すごく新作は楽しみにしてました。……なんかメンバーだけとしか会話できひんと、濁っちゃいません?  海じゃなくて湖みたいな感じになっちゃうというか。

綾斗:開けてない?

イッキュウ:そう。開けてなくてどんどん汚れていっちゃう感じがしてて。私、友達と住んでるんですけど、その子は別でバンドをやってる人で、その子としかできひん会話もあるし。メンバーとはすごい仲良しなんですけど、他のことをやってないと新しさが出て来なかったりもして。だから良いと思います、いろんなことやった方が。SawagiとかTempalayみたいに軽いフットワークで動けるって、今、大事やなと思います……知らんけど。

nico:ははは、出た関西人(笑)。

イッキュウ:いや内側知らんけど。活動見てる限り、そこが好きやなと思うし。知らんけど(笑)。

――お店ができたのは、Sawagiとしてもいいタイミングだったんじゃないですか?

nico:図らずも。いいタイミングになりましたね。

イッキュウ:……お店にSawagiのポスターとか貼ってへんのもいいですよね。

nico:そんなん全然いらんわ。あれめっちゃ下北感出るやん?

イッキュウ:貼りたいって言われたら断るんですか?

nico:めっちゃ断る。「トイレだけでも」みたいな話もあるけど、絶対、そんなんばっかりやん? 下北って。だから絶対にポスターとか貼れへんって決めて。一番最初に「ポスター貼ってくれませんか」って来たんが、〇〇さん(※編集部注:かなりネームバリューのある俳優です)で、まぁまぁ重たいところを断らなあかんことになって、めちゃくちゃ迷ったけど。

イッキュウ:そこ断れへんかったら、今頃ポスターだらけになってましたね。試されてましたね、神に(笑)。

――今回、まぼねん一周年でイベントをやろうという発想はどこから?

nico:それは完全に俺っすね。キダちゃん(tricot・キダ モティフォ)が働いてくれてるからtricotは絶対呼びたくて、韻シストは僕がもともと別で一緒にやってたメンバーがいるバンドなんですけど……開店のとき、ちっこいお店なんでお祝いの花とか今回はお断りしますって言ったんですけど、ここの建物に入らへん、パチンコ屋のオープンとかにブワッて並んでるような3mの花輪を送って来て。「置けないんですけど、どうしましょ?」って言ったら、「もうワンサイズ小さいのに変更できます」って、それでも2mぐらいあるんですけど。そういうちょっとバカなバンドなんです(笑)。

イッキュウ・綾斗:ははは!

nico:それと、ここオープンしてから店内BGMで一番かかってたバンドがbonobosかTempalayかどっちかで。めっちゃかかってたんです、両方。

綾斗:ありがとう。

nico:だからTempalayにも出てもらおうと。最初は7バンドぐらいに出てもらうつもりやったんですけど、「それお前、どういう時間計算でやるつもりやねん」「4組が限界や」って言われて、この4組に落ち着いた。……と思ったら、吉田一郎くんが「オープニングアクトでもいいからなんかやらしてや」って言うてきて。

――すごいメンツですよね。タイムテーブルはもう決めたんですか?

綾斗:まだ決まってないんですけど、Sawagiが一番目に出るとか言いやがって(笑)、僕が「それは絶対違います」って。理由聞いたら「はよ飲みたい」っていう――

nico:そうなんですよ。基本的にはSawagiが最後なんですけど、絶対無理なんですよ。見てもらったらわかる通り、酒飲もうとしてますし、綾斗とかイッキュウのライブ観るのも、楽しんで観たい。「あとで俺出番あるしな」とか「準備もしなあかんしな」みたいなのが嫌なんですよ。マジでSawagiが一番に出るって発表した方が、基本的にはお客さんも早めに来るじゃないですか?  他のバンドも観て欲しいし、一回来てもらったらこっちの勝ちやなと思って。でも綾斗に「それだと締まれへんから、最後にベロベロでもいいから1曲なんかやってください」って言われてて。

――じゃSawagiで最初に出て、最後にまた1曲Sawagiでやるとか?

nico:店のメンバーに何かやらせるっていうのも。

綾斗:ノイズでもいいんで(笑)。

イッキュウ:その方がトリ任されたバンドも気楽ですよね。

――じゃあ締めはまぼねんみたいな?

イッキュウ:もう「まぼねん」っていう合唱曲、作ったらいいんじゃないですか?(笑)


取材・文=石角友香  撮影=風間大洋

tricot中嶋イッキュウ / Sawagi・nico / Tempalay小原綾斗 撮影=風間大洋

ライブ情報

まぼねんいっしゅうねん
日時:2018年5月20日(日) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京・恵比寿 LIQUIDROOM
料金:ADV ¥3,800 (1ドリンク代別途)
出演:
Sawagi、韻シスト、Tempalay、tricot
  • イープラス
  • 韻シスト
  • Sawagiのドラマー・nicoの居酒屋「まぼねん」開店一周年イベントを祝しtricot・中嶋イッキュウとTempalay・小原綾斗が集結