『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』の見どころをレポート 愛らしくも奥深い世界を味わう

2018.5.2
レポート
アート

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

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渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで、『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』が2018年6月25日(月)まで開催中だ。今年はイギリスを代表する児童文学「パディントン」シリーズ誕生の60周年記念にあたるとともに、作者のマイケル・ボンドが2017年6月に91歳で亡くなっていることから、本展はその追悼の意も込めた企画となる。

「パディントン」はもともとロンドンの駅名だが、日本において「パディントン」といえば、ダッフルコートを着用し、フェルト帽を被ったおしゃれな子グマをまっさきに思い浮かべる方が多いだろう。それほど広く知られている「くまのパディントン」に関し、以下、プレス内覧会の様子と、充実した展示の見どころを紹介する。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

内覧会のギャラリートークでは、本展監修者である東京子ども図書館名誉理事長 松岡享子が登壇。一連の「パディントン」シリーズの翻訳者である松岡は、パディントンに携わるきっかけが、福音館書店の社長であり、児童文学者である松井直の「こんな本があるんですが、訳してみませんか?」という一言だったというエピソードを披露。当シリーズを翻訳する際、子ども向けだからといって言葉を簡単にしたり、漢字を減らしたりといったことは考えなかったそうだ。そしてこの物語には、子どもが好むようなコメディ要素と、大人だからこそ笑えるような要素が併存しているという。

また松岡は、パディントンはペルーからの移民であり、この物語は異文化の衝突と受容を扱っている点に言及。パディントンと周囲の衝突が悲劇にならないのは、彼を取り巻く人々の懐の広さとユーモアによるためだと主張した確かに、パディントンを受け入れるブラウン夫妻は生粋のイギリス人だが、友人のグルーバーはハンガリー人であるし、その他の登場人物も様々な背景を持っている。パディントンはグローバルな環境に身を置きながら、軋轢ではなく繋がりが生まれるきっかけを作っているのだ。

松岡享子

物語に生命を与える挿絵

本展では、児童文学「パディントン」シリーズの挿絵を描いたペギー・フォートナムの貴重な原画が2枚出展されているほか、フォートナムの絵の複製がストーリー仕立てで展示されており、話の内容や登場人物らの性格がわかるようになっている。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

「パディントン」シリーズは子ども向けの絵本が複数出版されており、ベストセラー絵本『ぞうのエルマー』で知られるデイビッド・マッキーや、パディントンの最初の絵本シリーズを担当したフレッド・バンベリー、児童書の挿絵も手掛けるR.W.アリーなど、様々なアーティストがパディントンを描いている。本展は、彼らの原画を同時に多数閲覧できる貴重な機会だ。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

絵本のアーティストたちは、恐らくペギー・フォートナムの世界観を参照しながらそれを再解釈しているのだろう。メルヘンタッチだったりほのぼのとした雰囲気を醸していたり、よりユーモラスで風刺の要素を強めているなど、さまざまなパディントンに出会うことができる。また、各国で出版された絵本はそれぞれ個性があるので、国や時代背景を考えながら眺めるのも面白いだろう。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

文学から漫画や映像へ 幅広い活躍

「パディントン」シリーズはもともと児童文学だったが、漫画やアニメーション、映画化もされるなど、さまざまなメディアミックスがなされた。本展では、漫画の原画やアニメーション映像、パペットアニメの小道具も紹介されており、表情豊かに生き生きと動くパディントンの姿を目にすることができる。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

また、パディントンはぬいぐるみやゲーム、文房具や食器など、多岐に渡って商品化もされている。そうしたグッズを眺めていると、彼が本の中だけを活動領域とするのではなく、人々にとって身近な存在として愛されていたのだと実感できる。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月)Bunkamura ザ・ミュージアム

本展はオリジナルグッズも充実しており、会場限定のものも多数取り揃えられている。物販コーナーを覗くのも楽しみのひとつだ。

物販コーナー

パディントンを取り巻く人々の姿が見える

パディントンの作者であるマイケル・ボンドは、店の棚に残されていたクマのぬいぐるみを買い、妻へのクリスマスプレゼントとした。そしてそのぬいぐるみにパディントンと名付け、いくつかの物語を書いたのだ。パディントンはボンドの家でかわいがられた後、本を通じて世界的に知られるところとなった。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月)Bunkamura ザ・ミュージアム

本展では、作者のボンドが語るパディントン誕生のエピソード映像や、ボンド愛用のタイプライター、執筆時に用いていた辞書、所持していたファンレターなど、本を読んでいる時には意識することのない作者の姿がわかる資料も多数揃っている。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月)Bunkamura ザ・ミュージアム

また、パディントンを日本に根付かせてイメージを広めた松岡享子と小学生のパディントンファンとの交流や、ボンドから松岡宛に送られた手紙なども展示されている。これらからは、パディントンを支える人々の心温まる交流の軌跡もうかがい知れる。

『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』 2018年4月28日(土)~6月25日(月) Bunkamura ザ・ミュージアム

幅広い年代に受け入れられている、「くまのパディントン」。年齢や国籍を問わず多くの人々を惹きつけるのは、キャラクターのキャッチ―さだけではなく、作品全体を流れるユーモアと、登場人物の織り成すストーリーの深さに由来するのだろう。松岡享子は「本は一度作者の手を離れると、読者に育てられる」と語ったが、礼儀や寛容性が欠落しがちな昨今において、パディントンのあり方は読者に強く響くのではないだろうか。

また松岡は、「展覧会だけではなく、パディントンの本を読んでほしい。英語で読む人が増えるとうれしい」とも話す。会場の出口付近には書籍も販売されているので、展示を見てから本を読むと、よりパディントンの世界を味わえるはずだ。愛らしさの中に深さと豊かさがあり、子どもも大人も楽しめる『生誕60周年記念 くまのパディントン™展』。この機会にぜひ堪能してほしい。

イベント情報

生誕60周年記念 くまのパディントン™展
【会期】2018年4月28日(土)~6月25日(月) 
※5月8日(火)・6月5日(火)は休館
【会場】Bunkamura ザ・ミュージアム
【主催】Bunkamura、 フジテレビジョン、 毎日新聞社
【入館料】(税込)
一般:1,400円/大学・高校生900円
中学・小学生600円/親子券1,500円
http://www.bunkamura.co.jp/museum/ 
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