鍛え上げられた肉体が、和太鼓や笛などの楽器を鳴り響かせながら、ダイナミックに、美しく躍動するパフォーマンス。そんな唯一無二の舞台を観客に届けるのがDRUM TAOだ。フランコ ドラオ氏の総指揮のもと、国内はもちろん、04年からは本格的に海外へ進出。これまでヨーロッパ、北米、アジアなど400以上の都市で公演し、観客動員は650万人を超える。
そのDRUM TAOの最新作が、5月10日の佐賀市文化会館を皮切りに、全国51か所を巡るツアー『百花繚乱 日本ドラム絵巻』。今回は外部の演出家を初めて迎える試みでもあり、白羽の矢が立ったのは、国際的に活躍する演出家・宮本亜門。衣装は「TAO✕JUNKO KOSHINO Contemporary Japan」でもタッグを組んでいるコシノジュンコだ。
待望の東京公演は、7月16日から26日まで天王洲 銀河劇場で行われるほか、10月26日には江戸川区総合文化センター、2016年1月14日、15日にBunkamuraオーチャードホールでも上演される。また、2016年2月11日~14日にかけてSkirball Center for the Performing Arts(NY)での上演も決まった。
東京公演にさきがけ、7月2日、都内で宮本亜門の合同取材会が行われ、まずは宮本がTAOとの出会いを語った。海外各地でTAOの公演ポスターを見かけていたが、日本のカンパニーとは知らなかった宮本。その後、公演を観て「エネルギッシュで、ショーとしてとても面白い。緊張したストイックな太鼓集団というより、大らかで楽しい太鼓集団」と感じ、その場で演出の依頼もあったという。過去の作品すべてに目を通し、「TAOの名作を合わせながら一つの作品にしたい」というイメージが膨らみ、また若い頃から日本のものが好きだったという“原点回帰”のタイミングとも重なって、演出を引き受け、阿蘇(熊本)のTAOの稽古場へ…。これが今回の経緯である。
引き続き、宮本の解説つきでプレビュー公演の映像が流れた。10分ほどの中でも、TAOの血沸き肉躍るパフォーマンスのクオリティの高さ、和太鼓、三味線、笛、木枠のない膜だけの月鼓(げっこ)といった和楽器を使いながら、洋楽のニュアンスやラテンのリズムが溶け込んだ音楽の魅力、布を大胆に使った演出、斬新な衣装、客席の興奮と熱狂…あらゆる要素が完全に融合した、圧倒的な世界が垣間見えた。その後、質疑応答に移った。
【質疑応答】
――今回の演出の上で意識したポイントは?
TAOの魅力を壊したくないというのが正直あって、ドラマを入れるのが本当に良いのか悪いのか、自問自答しました。もともとTAOがもっていた太鼓の表現がすごく面白かったのと、月鼓だけでなくいろんな太鼓があって、太鼓は一色ではなく、人間の鼓動であったり火山のマグマであったり、雷であったり、切なさであったり、水が滴るような音も全部できるんですよね。そういう情緒性を大切にしたいと思ったことと、最初に台本をどう作るか決めていなくて、阿蘇に行った時、特に若い子たちに個人的に聞いてあるいたんです。「TAOがやってきた作品でどれが好き? 自分たちが太鼓を叩いていて一番グッときたのは?」と。一番人気があったのは、ほとんど上演されていない作品で、東北の震災があった後にやった作品だったんですね。「TAOの太鼓がないと辛いです」といって作った作品なので、人を勇気づけるとか生きる活力を与えるというのがガーッと入っていたので、これがやっぱり必要なんだと。実際「ここまで人間は頑張れるんだ、熱くなれるんだ」というのは今なかなか。今の時代に、それを命を削ってやってる奴らがいるというのが必要なんじゃないかと思って、それを絶対に大切にしたいと思いました。あえて天変地異を入れたのが、日本が天変地異を繰り返してきた時期に偶然いる。今を実感しながら我々は生きていられる。自然のおかげもあるし、辛いことがあろうとも明日に向かっていけるんだという活力をこの作品に出したいというのが大きな最初のイメージですね。太鼓のエネルギー、いろいろな表現、今の時代だから観てほしい。ノンバーバルで台詞はないので、いろんな方にいろんな風に解釈してもらいながら楽しんでいただけたら。TAOは今までやってきたショーの形も上演していくだろうし、今回は違う色を敢えて出してみました。
――物語と合わせた動きというのは、どう作っていかれましたか?
太鼓を叩いている時の意味合いを全部プラスしていったということ。たとえば、マグマの爆発するところだったら、自分たちが自然になって怒りをもって叩いてごらんとか、親が死んだ後、少年の思いとか、感情を入れていったというか、説明していったんですよね。今まではそういうのは一切なくて、譜面のリズムの中で強弱、興奮してきたら中に入り込みましょう、という感じだったので、具体的なストーリーを足がかりにして感情を入れ込んでいきました。
――映像では様式的に、動きがよく揃っていますが、その辺は亜門さんが?
動きはやリズムは、彼らが基本的に作る訓練をずっとされていて、座長がそれがOKかというのが常にあって、それをまとめてきたのが今までのやり方。それは基本的に踏襲しています。今回はTAOがやってきたことをリスペクトしながら、うまくパズルを合わせ、新たに気持ちを入れていく、というのが僕の仕事だったような気がしています。
――ストーリー性が今回のポイントで、阿蘇のマグマのエネルギーも出ていると感じましたが、阿蘇らしさというのはストーリーに?
やっぱり合宿してよかったのは、あそこを訪ねた時に「こういう壮大な世界があるんだ」と、想像を絶するというか。僕は沖縄の海も大好きだし、いろいろ見てきたけど、ここはまた違うエネルギーがあるところで、その中で何の遠慮もなく、深夜から朝まで太鼓が響いている。その下には巨大なマグマが通っていて、ゴオーッとしたエネルギーがあって、その上で人間が生きているというようなことが紛れもない事実じゃないかと思ったので、常にリンクしていたほうが、太鼓の根源のエネルギーと結びつくんじゃないかと。
――コシノさんの衣装は素晴らしいですが、時代設定を江戸にしたのは、2020年のオリンピックなども含めて?
時代設定は、具体的に江戸というわけではないんですね。あくまで「日本」をイメージした設定ということで、もしかしたら日本のある田舎の現代かもしれないし、少し前の日本かもしれない。ただ後半の、コシノさんの衣装の華やかさというか、カラフル感が、いろんなものを認めていくという、五輪じゃないけど、色んな色が溢れていく世界と繋がっていくということこそが必要なんじゃないかと思ったので。どちらかというと、今までTAOは白黒の世界で、ストイックですごく美しいし、日本の太鼓の場合はだいたいストイックな、聖なるものの美しさというのがあって、僕も大好きな世界ですが、今度は違う表現。TAOのカラフルさと含めて、日本の多様性をも入れ込んでいくという意味で、カラフルな世界にもっていったという感じです。
――物語は、親を亡くした子どもが主人公?
そうです。最初、すごく楽しげな村がありました。そこに噴火が起こり、父、母、息子がいるんですが、両親を亡くしてしまう。その息子が、村人たちに助けられながら生きていって、成長していく。すると、天変地異で混乱した隣村の人間たちが襲ってくる。この村は平和に暮らしていたんだけど、対抗しようということで、戦いへの訓練を始めていく。どんどん村がキリキリしていくわけですよね。その時に少年は戸惑うわけです。みんなが両親を思ってくれるのはいいけど、戦争に向かっていこうとしている状態。そこで天女が降りてきて、何が大切かと少年に説くシーンがあり、結局「争いじゃない」と。その時、手に楽器をもつのか武器をもつのかということにして、大きな長い棒は武器で、人を突いていくもの。短い撥は太鼓を叩くものと、長さによって武器なのか楽器を叩くものかが象徴的に舞台に現れている形になっている。結果的には、人が結ばれていくのは音楽であり楽器であると。太鼓も激しく叩きつけるような音もできれば、優しさも刻むこともできるという、両面を描いているという感じです。
――花魁道中もありましたが、あれも天女の方が?
そうです。聖なるものと俗なるものの対極も認めるということになるので、みなさん「えーっ」と思われるかもしれないけど(笑)。太鼓って、女性の人たちがカンパニーにいらっしゃることが多いんだけど、男側に立ち頑張るというのではない、違う女性の魅力も出すというようにしたかったので、女性の魅力、男の魅力、お互いに魅力を交代するぐらいに競い合うのも必要だし、ああいうものが入ってよかったと思います。
――映像では、下(客席)に降りていきましたが、それがラスト?
観客全員と今の時代をともに分かち合うという感じですよね。演劇って普通は額縁の中というか、舞台の上だけで物語が完結する。これは台詞がないノンバーバルで、あくまでも生で、みなさん劇場に行くとわかるけど、太鼓の音一つがガーンと来ちゃうんです。心に響くとかじゃなく、皮膚が震える。月鼓をドーンと打つと、女性が叩くんですけど、音響の機材も僕たちもブルブルッて震えるんです。つまり、全部体感なんですよね。生(なま)体感がすごいので、額縁を超えるもの、それが生の太鼓の魅力だと思っていて。一緒に物事を展開していく、体感していくという意味では、太鼓は大変表現が面白い。作品を観るというよりは生体感として、ともに今を味わっていくという風になれればいいなと思ったので、ストーリーも少し、今の現実の日本と重ねています。
――来年はオフブロードウェイでも公演するそうですが。
三谷幸喜さんがやった劇場と同じところですね。今年の12月ぐらいにもう一回稽古して、ぐっとシェイプアップしようと思っています。今の形を基本にして、作り込んでNYにぶつけてみようかと。去年行った時も、太鼓の集団が2つやってましたね。1つは中国で、もう1つもアジア人でしたが。日本って、作ってるんだけど、なかなかそれをうまく…彼らはすごい勢いで上演していっちゃうので、やっぱりこっちから勝負かけていかないと「このままじゃもったいないね」という話もしていた時だったので、オフが決まったので、これはこれでよかったなと思うし、太鼓と物語というのは世界初だと思います。もちろん(坂東)玉三郎さんの『アマテラス』もありますが、今回は劇団が一緒に作っているというか。どういう風にNYの人が評価するか楽しみ。彼らの目も肥えている分、いい意味でギャフンと言わせたいなと思ってます(笑)。
【取材・文・撮影/内河 文(人物) 舞台写真提供/DRUM TAO】