MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第四回ゲストは阿部真央 怒りや悲しみの歌はどうやって人を救うのか
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●メジャーで仕事することについて●
アフロ:ところで女優をやろうと思ったことはある?
阿部:いや、そもそも私にはできないと思います。
アフロ:一回もよぎったことない?
阿部:ないですね。
アフロ:自分以外の誰かになって歌うことは?
阿部:ない! それなんですよ! 私、最初にデビューした時に阿部真央という仮面を被ろうと決めたことがあったんですけど、早々にやめた。辛いんですよ、自分じゃないことが。こういう業界なので良く見せることが当たり前じゃないですか。例えばインタビューの記事って、すごく良いように書いてくれることがあるでしょ? そういうのが嫌なんですよね。自分が言った言葉をちゃんと世間に伝えてほしい。だから「ここは私が言ってた言葉に直してください」って。
アフロ:そうなんだ。
阿部:今はそうじゃない人ばっかりにインタビューしてもらってますけどね。あと、スタッフが良かれと思って私が言った言葉をよく見せようとしたり、ここは辛辣だからカットしようとか、そういうのはやめてほしい。だから、原稿は全部自分でチェックするようになったし、自分が良いと思わないと嫌。世間に正しく理解されたいんです。自分というパーソナリティを正しく。だから、誰かになろうとは思えないし、あんまり思ったことがないです。
アフロ:それは強いよね。
阿部:この間、テレビでアフロさんのナレーションを聞いたんですけど。俳優もいけそうですよね。
アフロ:でも、俺は俺の役しかできないよ。
阿部:じゃあ、語り部?
アフロ:あ、それはやりたい。
阿部:ラジオでリスナーのハガキを読むときに入り込んで読むじゃないですか。だから、声の演技もできるんだと思って。だって、最近のアフロさんナレーションをたくさんやってて、すごくないですか。
アフロ:難しいよね。人によっては「楽曲の新鮮さが失われる」って人もいるから。必要とされる事がたまらなく嬉しくて引き受けちゃうけど。
阿部:でも、売れるには必要なことでしょ?
アフロ:うーん……どうでしょうか。
阿部:それが出来ないだろうな、と思って逃げてきた側の人間としては、自分が出来るか?って言われたら分からないけど。売れて高みを目指す人には必要なことだと思います。だって声が認知されるわけだから。MOROHAの中でアフロさんの声って、圧倒的な武器の1つでしょ? だって他にいないから、それを求められるのも分かる。声のインパクトもすごいし、アフロさんが言うだけでワードが強くなるから、そりゃあ企業としては欲しいし、こっちにもメリットがある。全国の認知をこのタイミングで広げるためには、めっちゃ良いことだと思うんですよ。
アフロ:やってこなかった、というのは何か葛藤があったの?
阿部:結構前から売れることが目的じゃない、と思ってたんですよ。デビューした時は面白がってタイアップがついたりして。そうすると心がその状況に負けたりとか、曲を書くことができなくなったり。
アフロ:どういう風に負けるの?
阿部:疲れちゃったとか、本来やりたいと思って飛び込んだことと違うことでのストレス。要は曲を書いて、それをいろんな人に売ってあげるよって言われたからデビューしたのに、全然売ってくれないし「私がやること多くないですか? っていうか、仕事できなさすぎですよね?」みたいな。お客さんに自分の作品が届く前の前の段階で衝突したり、解決しなきゃいけない問題が多すぎたんですよ。私にも悪いところがあったのかもしれないけど、事実としてあって。アフロさんがライヴで「メジャーが駄目かどうか確認してきます」って言った時にカッコイイと思ったし、そういうことだと思ったんですよ。メジャーに行って、誰と仕事をするかでだいぶ変わる。メジャーに行くこと自体は良いことだと思うんですよね。それが薄まりさえしなければ。あとは、自分を見失わなければ。
アフロ:うんうん。
阿部:自分を見失う原因って、近くにいる人たちだと思うんです。だからMOROHAがメジャー契約をした時に「その相手がたまたまメジャーレーベルの人間だっただけ」ってインタビューを読んだんだけど、それが一番良い形だと思うんですよ。結局、誰と仕事をしていくのか、っていう中心がしっかりしてないから揺らいだり潰れる子が多いわけで。だからこそ「MOROHAは羨ましい」と思ったんです。
●怒りを曲にすること●
アフロ:さっき話ししてた「コイツ使えねえな」っていう感情は曲に活きたりしないの?
阿部:数曲だけ。だけど、その曲が誰かを救ったのかと思えば、どうかな?って感じです。
アフロ:支障がなかったらその曲を教えて。
阿部:「19歳の歌」とか『素。』の最初の方はその感情が入ってて。他には『Babe.』ってアルバムがあるんですけど。それの「逝きそうなヒーローと糠に釘男」は離婚した後に出したから、前の旦那のことを歌ってると思われがちなんですけど、実はその前に起きた周りの人とのゴチャゴチャを書いた曲だったりします。
アフロ:それは人を救わないかな?
阿部:どうだろうね、一瞬だと思うよ。それこそ、MOROHAの「バトル鉛筆」が大好きで。ああいう風に網羅してないんだよね。愛とか深さとかあんなにないんですよ。
アフロ:そんなことないよ。
阿部:ううん、私はあの曲って超名曲だと思う。
アフロ:俺は怒りの曲って人を救うと思うんだよね。っていうかさ、怒りって一番素直な気がしない?
阿部:うんうん、怒りもね。
アフロ:怒りを曲にするのは容易い。その容易さゆえに自分が安易なことをしてるんじゃないかな、っと思って、後ろめたさを感じる時があるの。
阿部:でも、みんなはアフロさんのように怒りを出せないから共感するんですよ。「よくそんなに曲をかけますね」とか「よくそんなにさらけ出せますね」って言われません? 私も言われるんだけど。
アフロ:言われる。
阿部:それが苦じゃないじゃないですか。だから才能があるんですよ……私も!
アフロ:そうだね(笑)。
阿部:怒りと強い悲しみが表現しやすいのはわかる。
アフロ:そこに希望を少しまぶしてあげないと、俺の中では言い方が悪いけど「自殺サークル」になっちゃうのが嫌なの。自称・悲劇サークルみたいなさ、そういうところに行かないほうが良いと思う。暗いところにいるんだけど、最後に出口はあそこだよっていう感じにしないと、品がないような気がしちゃう。
阿部:そうじゃないと誰も救えないよね。っていうか、すごいですね! そういうクリエイターな目線もあるんだ。言葉が降りてきながらも、そういう視点も持ってるんでしょ?
アフロ:そうそう。
阿部:ほら、天才じゃん。
アフロ:それはピンポン営業で学んだんだよ。サラリーマンをやってたんだけどさ、お客さんに説明する時、メリット・デメリット・メリットの順で話すっていうやり方があって。最初に「こんな素敵ですよ」と言って、そのあとに「ただ、こういうところがあるんです」って言う。なんで、わざわざデメリットを話すかというと……悪いところも素直に話す正直な男アピールなんだよ。
阿部:おお! なるほど。
アフロ:デメリットを言ってるけど、最後にメリットの話で覆す。それって曲作りに似てるよな、と思って。
阿部:展開として。
アフロ:そうそう。精神的な部分でも、デメリットを話すことで次の言葉が真実として受け取ってもらえるというか。そういう意味で怒りの後に希望をまぶすとか、希望の中でも怒りをまぶすとか。その辺は調整する。
阿部:みんなが営業で、そのメソッドを理解しててもアフロさんみたいに書けないですよ。普通は隠したいことの方が多いでしょ? だって自分のマイナスポイントに見えるかもしれないけど、全体としてはメリットに見えるから書こう、ってならないと思うよ。
●日常の中から曲を作ること●
アフロ:そっかなぁ。一般の人の感覚って我々は失いやすい立場にいるじゃない。でも、阿部ちゃんは一般の方の感覚も持って話してるよね。
阿部:私は一般人ですからね。
アフロ:その感覚はあるんだね。
阿部:ありますよ。
アフロ:それは死守してる?
阿部:死守したいから、さっき話した周囲のゴタゴタが嫌になった。自分の人間らしさとか大事なものを持っていかれそうで。そういうのありません?
アフロ:俗っぽい話だと、メジャーって金をくれるからさ、ちょっと潤うじゃない? 前は自販機でジュースを買ってたまるか、みたいな精神性を持っていたわけよ。絶対にスーパーに行く、みたいな。だけど、お金を持つと気軽に自販機でジュースを買う喜びを覚えちゃう。そういうところから、ちょっとずつズレていっちゃうのかなって。だからこそ例えば、ここに並んでいるメシを食べた分、プレッシャーに感じなきゃなとか。そういう1個1個にメッセージを感じないと、って思う。ありがたく思う気持ちだったり、悔しい気持ちをキャッチするアンテナが鈍くなることが人間性の乖離になるかなって。
阿部:当たり前には思いたくないですよね。
アフロ:このタイミングで過敏にならないとな、って思ったりするの。怒りっぽくならなきゃとか、その分、優しくならなきゃとか。だんだん若い頃より、怒らなくなってこない?
阿部:沸点は違いますね。前は怒らなきゃって思う時期があったんですよ。曲に書きやすいから怒りを探そうとして。だけど、疲れちゃうんだよね。結局、怒ってステージに立っても何も伝わらないんですよ。
アフロ:制圧した気持ちにはなるよね。
阿部:そう! 支配した気持ちにはなる。
アフロ:ライヴ中に聴き入ってるんじゃなくて、みんなビックリして黙ってるだけなんじゃないかと思うことある。
阿部:MOROHAの場合は言葉が宿ってるから大丈夫! だけど、そういう風なステージをしてる人を見て反省はしました。「そう見せたいんだよね。気持ちは分かるけど、やらなくても良いよ」って。怒りを見せて、似合う人と似合わない人がいるので。
アフロ:自分は似合わないと思った?
阿部:私は似合う。
アフロ:似合うよね。
阿部:似合うけど、自分が苦しくなるんです。だけど、MOROHAの場合は似合いもするし、パワーになるからそれもあり。今まで違うところからガソリンを使ってたけど、これからは電気だと思ったらシフトしても良いと思う。
アフロ:うまいこと言うねぇ、今の言葉使おうかな。
阿部:そういう感じかな。MOROHAはちょっと特別だから、その悩みさえも全部が作品になっていくから良いと思う。ファンとしてはそう思ってます。
●二人の出会い〜MOROHAが阿部真央と対バンに誘った理由●
アフロ:初めて会ったのが2月14日にビーバー(SUPER BEAVER)とやった『怒濤』に来てくださって。
阿部: MOROHAさんのことはA&Rから聞いていて。でね「tomorrow」を聴いてカッコイイなと思って。そのあとに対バン(5月17日に開催される『怒濤』)の話をいただいて。「嬉しい! ぜひぜひ」みたいな感じで。
アフロ:じゃあ、知ってくださったのは割と最近なんだね。
阿部:最近でしたね。申し訳ないことに。
アフロ:いえいえ全然! やっぱり阿部真央はパンチ力が凄いと思って。ラップってさ、小さいペンで一生懸命に歌詞を書くから、ジャブで倒してる感じがするのよ。ジャブでポコポコ打つ感じなんだけど、(阿部真央は)マッキーなんだよ。そういうのがラップにはない強さだと思うから、歌の強さを存分に出している方だなと思ってました。
阿部:ありがとうございます。
アフロ:太いんだよね。
阿部:太いかなぁ。
アフロ:今日は人としても図太かったね。
阿部:アハハハハ、『怒濤』はなんで誘ってくださったんですか?
アフロ:自分の家に招く人は深く共感できる人が良いなと思って。仲が良いって理由で呼びたくないな、っていうのはある。第一回はZAZEN BOYSから始まり、eastern youth、ソウルフラワーユニオン等を招いてきたんだけど、「この人たちと向き合った以上、恥ずかしいことはやめよう」そう思った。阿部真央は俺たちがこれまでやってきたことと真逆のところにいたと思うの。デビューが早かったでしょ?
阿部:早かったです。
アフロ:それこそデビューが早かったから、年上だと思ってて。で、そういう世界に早く行きつつ、ちゃんと真に迫るものをやってる人をそんなに知らないから。それをメジャーシーンに居続けながらやるって、どういうことなんだろうなっていう風に思ったりしてたね。
阿部:ありがとうございます。
アフロ:あと、強そうじゃん。
阿部:アハハハハ、強そうでしょ?
アフロ:うん、今日はさらに強いと思った。俺はやっぱり、漫画に出てきそうな強い人が好きなの。ZAZEN BOYSは西遊記だと思ってた。そうやって思うと阿部真央も漫画だもんね。そういうのは惹かれる。
阿部:なるほど、嬉しいなぁ。『怒濤』はよろしくお願いします。
文=真貝聡 撮影=高田梓
取材撮影協力=propeller 東京都渋谷区恵比寿3-28-12 OAKビル 1~2F
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【初回限定盤】(CD+DVD) ¥3,500(税込)/PCCA-04627
【通常盤】(CD only) ¥3,000(税込)/PCCA-04628
特設サイト:https://abemaoroadto10.ponycanyon.co.jp/
◆CD(初回限定盤・通常盤共通)
01:K.I.S.S.I.N.G.
02:the SUN
03:Such a beautiful day
04:蔑ろな夜
05:immorality(Arranged by 岡崎体育)
06:傘
07:その心には残れない
08:喝采
09:Angel
10:朝日が昇る頃に
11:27歳の私と出がらし男
◆初回限定盤DVD
・「K.I.S.S.I.N.G.」Music Video
・「immorality(Arranged by 岡崎体育)」Music Video
・「K.I.S.S.I.N.G.」Music Videoメイキング
・「immorality(Arranged by 岡崎体育)」Music Videoメイキング
・「K.I.S.S.I.N.G.」ジャケットメイキング
・「YOU」ジャケットメイキング
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