東京カランコロンインタビュー 新作「ギブミー」で手に入れたブレることのない絆と感謝はライブバンドが行き着く最高のポップスだった
-
ポスト -
シェア - 送る
2ヵ月連続東名阪対バンツアー『ギブミー!ギブミー!ギブミー!』の後半戦へと突入する東京カランコロン。そこで好評を博している新曲「ギブミ―」を含んだニューシングルが各ライヴ会場限定で発売中だ。どキャッチ―で王道、イヤフレンドリーで超良質なポップソングの同曲。よくよく聴けば、彼らのアティテュードやライヴへの姿勢、ファンへの感謝や自身の今後への信条や決意も多分に伺えるのも興味深い。しかし反面、何故これをライヴ会場限定発売にしたのか?にも疑問は残る。だがそこは、彼らが保持し続けている「ライヴバンド」としての自負に基づいてのことでもあった。それらを含め、いちろー(Vo.&G.)とせんせい(Vo.&Key)が今作を色々と紐解いてくれた。
――今作は両曲共とても素晴らしいこともあり、ライヴ会場限定販売では広がり的にややもったいない気がしています。
いちろー : 分かります。でも、そこにも理由があって。僕個人、よくフィジカル(CD等のパッケージ商品)の持つ意味を考えるんです。音楽を楽しむフォーマットって常に変化しているじゃないですか。ダウンロードからストリーミング、今だとサブスクリプションといった具合に。そんな中、今のフィジカルの存在意義って凄く微妙だなって。曲の聴き方としては今後、よりサブスクや配信が主流になっていくだろうし。ただ、僕らはバンドであり、ライヴを軸とした活動をしている関係上、生で演奏してそれを魅せることを最大の強みとし、それをこれからもやっていくしかないと自覚しているんです。そう考えた時に、ライヴと僕らを紐づけるには、この施策が最も有効だったんですよね。
――では、音を広める手段として動画共有サイトや試聴的な方法論を用い、こと手元に残しておきたい方にはコレクターズアイテム的なものを提供しようと?
いちろー : ですね。物質的なものには、買う側も別の価値を見出すだろうし。逆にそこをどのような方法を用い、お客さんに手に取ってもらえるかになる。そう考えると、もっとライヴと紐づかせることが自分たちの場合はプラスになるし、お客さんとの繋がりを考えると、それらを紐づけた方が有効だろうと。元々シングルの役割って、楽曲を通してリスナーと自分たちをどう繋げるか?じゃないですか。
――そうですね。自分たちの最新のモードやスタンス、方向性等を示すのに有効活用している方も多いです。
いちろー : 僕らもそれと同様で。お客さんに向けて、「自分たちはこんないい曲を出してます」や「今回はこんなモードです」といった都度の名刺代わり。あとは、お客さんが自分たちを忘れない為に繋ぎ留めておく手段だったりもするんです。それを更にライヴと密にする方法と捉えると、やはり店頭よりも、僕らが実際に居るライヴ会場で、「ここでCDを売ってます。その曲を今から演るので、聴いて良かったら買って下さい」との方法論の方が自分たちにとっては理にかなっていたんです。
――まさしくいちろーさんが今おっしゃったことと「ギブミ―」の歌内容とがリンクします。
せんせい : 「とにかくライヴに来て欲しい」、それが一番でした。あとは、やってみたかったんです、そこに集わないと買えない方法を。「ライヴに来る=ライヴを観る」ですから。方法論、曲の内容、どれぐらい受け入れてもらえるのか?等々、自分たちとしても多少実験的ではありましたけど、凄く想いを込めて歌詞を書いたり、カップリングの「放浪カモメはどこまでも」(スピッツのカバー曲)と対にすることで、それぞれの曲で今の自分たちの気持ちや想い、バンドの状況を表すことが出来ました。
身近に居てくれる人やものへの感謝
――先程の歌詞と方法論とのリンクは当初から目指していたことで?
せんせい : おのずとでした。「ギブミ―」は、いちろーさんが書いた歌詞なんですが、常にこういったことを考えていましたからね、いちろーさんは。で、今まではその考えていたことを歌にするにしても、そのままは伝えずに、あえてオブラートに包んで表してたんです。でも今回はあえて、そのまま出してみました。
いちろー : 最初はもっとオブラートに包まれてましたから。
せんせい :周りのみんなで言ったんです。「もっといちろーさん節を出すべきだ」「今のいちろーさんが思ってることを、ありのまま表してみたら」って。歌詞が出来た際には、“待ってました!!”って感じでした。
――確かに「ギブミ―」は従来の歌詞に比べ、歌詞内容がかなりストレートです。
いちろー : それは自覚的でもありました。このTALTO(所属インディーズレーベル。カランコロンはその第一弾)に移籍して、去年1年は「バンドの再起動」をテーマに色々とやってきたんです。で、その後に何曲か歌詞を書いたんですが、それがだいたい同じ内容だったんですよね、この「ギブミ―」も含め。
――ちなみに、その内容というのは?
いちろー : 身近に居てくれる人やものへの感謝の類ですね。
――言葉でこそ示してませんが、そのような気持ちも今作からは、そこはかとなく感じます。
いちろー : それってこれまで感謝してなかった証拠でもあるんです。それに対しての謝罪みたいなものですから、今回の楽曲は(笑)。
せんせい : ホントここ最近のいちろーさんは変わりましたね。これまでは、“こんなにもメンバー4人はいちろーさんのことを思っているのに、どうしてそれが伝わらないの?”とのジレンマがずっとあって。でも、その感謝が感じられるようになってからはメンバー間の仲もさらに良くなり、一丸性も生まれてきたんです。
みんなで演奏すれば、それはもうカランコロンなんだ
――これまでのカランコロンの歌は、色々な意味に捉えられ、聴き手に解釈を委ねるものも多かったですが、「ギブミ―」はそれこそ多くの人に、その額面通りに伝わるでしょうね。それにしてもこの曲は、かなり王道ポップス路線ですね。ウルトラキャッチ―だし。
せんせい : これまで色々なことをやってきたし、通ってきたし。それこそグッチャグッチャになっていた時期もあったり。「ここで辞めよう!」「もう解散しよう!!」って時もあったけど、前回のアルバムを作っている時に、「私たち2人が歌って、みんなで演奏すれば、それはもうカランコロンなんだ」と全員が確信してからは、削ぎ落とす作業も怖くなくなったんです。
――が故のシンプルさへの帰着だったと。
せんせい : ですね。特にこの「ギブミ―」は、どこまでシンプルに、どこまでいちろーさんの持ってきたメロディ、歌詞の素材の良さを引き出せるか?でしたから。なので、その「王道ポップス」の感想は、「よしっ!!」だし、「ほんとその通りです!!」と返したい。
――ホント、凄く良い曲だと思います。
せんせい : その感想は凄く嬉しいです。「こんな曲でもカランコロンの曲として受け入れてもらえている」、そんな気持ちも含め。もちろんそこには実験性もあったけど、狙ってもいたことでもありましたからね。
――このストレートさにはある意味非常に驚きました。「こんなこともできるんじゃん!!」って(笑)。
せんせい : 出来たんです。いや、今だからこそ出来たんでしょう。
いちろー: 逆にミディアムテンポで、こういった明るいポップスを演っているバンドって周りにいなくて。そのままやっても、逆にちょっと珍しく映るだろうと思いつつ、ちゃんとストレートにしながらも、あくまでも二人の歌のツインボーカル性の邪魔をしないところで、各々の楽器のプレイヤビリティや、らしさをギリギリまで入れ込んでみました。なので以前よりもシンプルながら、ここに行き着くまでには凄く時間がかかってます。
誰もがカッコイイと思ってもらえるポップスを作りたい
――一聴シンプルなんだけど、試行錯誤の末、ここに辿り着いた感があります。
いちろー: 練りに練った末に行き着いた感じですね。シンプルとインスタントってまた違うじゃないですか。インスタントとは絶対に思われたくなくて。でも、シンプルにしていくって、思いついたことをどんどん足し算してきた僕らみたいなバンドからすると、何十倍も大変な作業で。料理にしても、「単純な味なんだけど凄く旨いんだよなぁ…」と思わせるものを作るのって凄く大変じゃないですか。
――大変です。
いちろー: 野菜に塩をかけて、「美味い」と言わせたいのなら、まずはキチンと美味い野菜から作らなくちゃならない。それって根本的に時間も手間もかかりますが、結果、それを美味しいと思ってもらえるのなら、それはもう頑張りますよね。
――あとはシンプルなものほど、裏打ちされたテクニックやセンスが無いとキチンと伝わらないですもんね。
いちろー : そうそう。基本ポピュラリティを目指していく場合、みんなの共通項や最大公約数を探さなくちゃならない。となると、どうしても広く浅くになっていっちゃう。そんな中、これまで僕たちがやってきたことは、ある意味変で。ポピュラリティの為にある音楽をあえてマニアックな人にも理解してもらおう、細かいところに気づいてもらって感心してもらおうというあざとさがどこかにあったんです。そこから今は、「誰もがカッコイイと思ってもらえるポップスを作りたい」との願望に移行し出してるんです。
――ある意味、この「ギブミ―」では、その目指していたものも達成できたのでは?
いちろー : 今後そこに向かっていくべくハッキリとした意思表示は出来たかなって。
せんせい : 今ではメンバー全員同じ方向を向いて、ゴールを目指してますからね。それこそ今は、一丸となって、「こういうバンドになりたい!!」と目指している方向性が全員一致していますから。
今の自分たちにとってリアリティがあった
――今作の面白いところは、片やオリジナルで片やカバーなのに、本質や根底、言いたいことが繋がっていたり、同じことを正反対の表現で表している面でした。
いちろー : こと、「放浪カモメはどこまでも」(スピッツのカバー曲)に関しては、今の自分たちの気持ちや状況にピッタリだったんですよね。
せんせい : すぐ出てきましたね。いちろーさんから「これがいい!!」って。満場一致でした。
いちろー : 元々スピッツは大好きで、どの曲も好きなんですが、改めてこの曲の歌詞を見たら、今の自分にむちゃくちゃ刺さって。この時期のスピッツは、ロックバンドとして芯の部分をもう一度見つめ直して、それを乗り越え、『ハヤブサ』というアルバムを出した頃で。その辺りの彼らの状況と今の自分たちの状況とがリンクしたんです。
――そのリンクの発見は最近?
いちろー: それこそカバーした際に改めて感じました。当時はそこまで深く考えなくて、普通に「好きな曲」レベルでしたから。去年、僕らも移籍や今のようにバンドが一枚岩になる前は、それこそバラバラなブロック塀状態でしたからね。それらを乗り越えた今、改めてこの曲の歌詞を見たら昔と全然違って響いたんです。今の自分たちにとってリアリティがあったというか。
――アレンジ的には荒々しさも含め基本原曲に忠実で。
いちろー: 鍵盤の音をせんせいらしくしたり、僕とせんせいのハーモニー性を加えたぐらいで、あとはオリジナルを尊重してます。実はこの曲、2年ぐらい前に大阪での『ロックロックこんにちは』というスピッツさんのイベントに一緒に出させてもらった際に、「この曲ってカランコロンっぽいよね」との理由でカバーしたんです。で、その時にバンドとして凄くいいヴァイヴレーションが生まれて。それもあり今回は、この曲にしたんです。で、当時も感じていたことだったんですが、そのまま演っても不思議と充分カランコロンっぽいんですよね。
――それは私も強く感じました。
いちろー : せんせいが歌って、僕が歌って、みんなの楽器が鳴ってれば、それだけでカランコロンなんだなと。それが一番真ん中の部分や芯にあれば大丈夫。あの曲がキッカケで、そう強く思えるようになったんです。いわゆる、自分たちはどんなことを演ろうがカランコロンになると強い確証を持ったというか。
――「ギブミ―」がわりと受け手側だったとしたら、M-2の「放浪カモメはどこまでも」は会いに行く等、能動的で、その先にはぞれぞれキチンと愛という目的地に繋がっている、その対象的ながらリンクしている箇所も興味深いです。
せんせい :それこそさっきと重複するけど、「ギブミ―」が、いちろーさんの人間性がバーッと出た楽曲だとしたら、こちらはバンドとして今までのことや、これからのこと等の意志が表れている楽曲かなと。いわゆる「ギブミ―」が恥部も曝け出したとしたら、「本当は魅せたくない部分までも見せ、それらを抱えて、<僕らはこう行きます!!>と宣言しているのが、この「放浪カモメはどこまでも」なんです。
――分かります。
せんせい : ♪愛はここにあるんです♪(「ギブミ―」歌詞)とストレートに実直にようやく伝えることの出来たいちろーさんを、メンバーみんなで担いて、一丸となって「次に行くゼ!!」と進んでいく、そんな気概が込もってますからね、この「放浪カモメはどこまでも」の方は。そう考えると今回の2曲って、過去のことを振り返るのではなく、未来に向けての楽曲たちでしかないですよね。
もうブレることはない自信があります
――私も今作からは、これからのカランコロンの意思表示や所信表明、決意表明的なものを強く感じました。いわゆる、今作を経て今後のカランコロンの新しい指針みたいなものがシッカリと確信できたような…。
いちろー : 今回このような「かっこいいポップス」を作れたと実感する一方。しいて言えば、それでも今の自分たちに足りないのは、それを経ての初期衝動性かなって。聴き手から、「これ初期衝動に溢れてるよね」と感じてもらえる。それをバンドで出せたら、更に自分たちも大衆性が持てるんじゃないかなって。
――初期衝動と聴いてパッとイメージするのは、荒々しさや勢い、剥き出し感ですが、カランコロンの場合は、そこではない初期衝動を目指して欲しいです。
いちろー : そうですね。おっしゃる通り、勢いや初心に還るというよりかは、その頃の刹那的なエネルギーや、一瞬の爆発力だったりの方ですね。今回の「ギブミ―」にしても、凄く色々と試行錯誤をして、この良質さや不変さに辿り着けた自負はあるんですが、刹那的な爆発力や一瞬のエネルギーは、正直そこまで入れ込めてない気がしていて。
――難しいですね。ある意味、対照的な2つの要素の同居ですもんね。
いちろー : でも、何かしら方法はあると信じてます。正直、同じ音楽を演り続けていても飽きたり、新鮮さを得つづけることは、ある種、大変なことなので。アーテイストによっては作品毎にスタイルを変えてその初期衝動を保っていくタイプもあれば、逆に一つのスタイルを貫き通し、やり続けても、なお自身に新鮮さを保てるアーティストも居ますからね。僕らはそのどちらでもないし、どちらに偏っても上手くいかないでしょうから。だけど、それ以外にも、きっと初期衝動を感じてもらえるし、それを自分たちでも出来る何らかの方法があるでしょうから。その辺りを次に出すものに入れたいんです。
せんせい : もうブレることはない自信があります。もし、ここからブレたとしたら、それはもう終わる時ですから。それほど今はバンドとして凄く強く固まってるんです。ここまでバンドのことを思っているいちろーさんを尊重しつつも、全員一丸となって進んでいく。今はそんな気概でいっぱいです。
――それは心強い。
せんせい : ここから魅せ方とか伝えたい事とか、ここまで喋ってきたことが変わっていくことはまずないでしょう。私はメンバーいち自分の肌感覚を信じている人間なんです。その信じていることが楽曲に表れたら、きっと自分も凄くそれに感動すると思うんです。今後はその自分が感動することを常に曲に表していきたいですね。それは絶対に聴き手や観る側にも伝わっていくだろうし。それがいわゆる初期衝動みたいなものとして伝わればいいなって。「カランコロンはいつ聴いても、どんな曲を聴いても、なんか分からへんけど感動する」「光を感じる」。そんな楽曲を作っていきたいし、そのようなバンドになりたいんです。
取材・文=池田“スカオ”和宏 撮影=三輪斉史
ライブ&リリース情報
東京カランコロン 会場限定CDリリース2ヶ月連続東名阪ツアー「ギブミー!ギブミー!ギブミー!」
※全公演対バンあり
2018年5月25日(金)東京 shibuya eggman w/Bentham
2018年5月26日(土)名古屋 池下UPSET w/MOSHIMO
2018年5月27日(日)大阪 福島2nd LINE w/Amelie、The Floor
リリース詳細会場限定シングル「ギブミー」
01.ギブミー
02.放浪カモメはどこまでも
発売日:2ヶ月連続東名阪ツアー「ギブミー!ギブミー!ギブミー!」公演会場にて発売。
価格:¥1000円(税込) ※オリジナル缶バッジ付き