TVアニメ『ピアノの森』メインピアニスト連続インタビューvol.1~反田恭平(阿字野壮介の演奏を担当)
-
ポスト -
シェア - 送る
反田恭平
NHK総合テレビにて2018年4月8日より放送中のTVアニメ『ピアノの森』が話題を呼んでいる。一色まことの同名漫画作品をアニメ化した本作は、森に捨てられたピアノをおもちゃ代りにして育った主人公の一ノ瀬海が、かつて天才ピアニストと呼ばれた阿字野壮介や、偉大なピアニストの父を持つ雨宮修平などとの出会いの中でピアノの才能を開花させていき、やがてショパン・コンクールで世界に挑む姿を描く、感動のストーリーである。
TVアニメ「ピアノの森」PV ©一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ
CV(キャラクターボイス)は、主人公・一ノ瀬海(カイ)役を斉藤壮馬、カイの小学校の音楽教師でかつての天才ピアニスト・阿字野壮介役を諏訪部順一、カイの親友・雨宮修平役を花江夏樹、中国出身でショパン・コンクールの有力な優勝候補のひとりであるパン・ウェイ役を中村悠一、同じくショパン・コンクール参加者で偉大なピアニストを祖父に持つレフ・シマノフスキ役をKENN、フランス出身のショパン・コンクール参加者で美貌を武器にモデルもこなすソフィ・オルメッソン役を伊瀬茉莉也、といった面々がそれぞれ担当している。
さらに、このアニメに登場するクラシックピアノ曲は、世界で活躍する気鋭のピアニストたちが各キャラクターの役を担いつつ実際の演奏に参加している。阿字野壮介の演奏には反田恭平、雨宮修平には髙木竜馬、パン・ウェイにはニュウニュウ、レフ・シマノフスキにはシモン・ネーリング、そしてソフィ・オルメッソンにはジュリエット・ジュルノーと、それぞれのキャラクターの出身国と雰囲気に合せながら、高い実力と人気を兼ねた若手ピアニストたちが"メインピアニスト"として起用されている。
TVアニメ「ピアノの森」ピアニスト紹介VTR ©一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ
SPICEでは、この"メインピアニスト"たち5人に焦点をあてたインタビューを連続リレー企画として掲載してゆく。その第一弾として登場するのは、反田恭平。モスクワ音楽院に首席で入学、現在はショパン大学に在学中。デビュー2年目にして全国ツアーでも2万人を動員。今最も勢いのある若きピアニストである。圧倒的なピアニズムで多くのファンを熱狂させている彼が、カイの師であり、かつての天才ピアニスト、阿字野壮介の演奏を担当する。かねてから「ピアノの森」の原作コミックの大ファンだという彼に、本作への意気込みを聞いた。
――はじめて「ピアノの森」のコミックを読んだのはいつ頃ですか?
「中学3年生のとき、ちょうど“ピアニストになりたい”と思いはじめて、音楽高校を受験しようとしていた頃に、母が“読んでみない?”と買ってきたんです。その頃はまだ完結していなかったのですが、ぐいぐい引き込まれて一気に読みました」
――阿字野というキャラクターには、どんな印象をお持ちですか?
「カイや雨宮よりも、阿字野にいちばん親近感を覚えながら読んでいました。というのも、僕は小さな頃から怪我や病気が多くて、ピアノを始めたのも、じつはサッカーで手首を骨折したのがきっかけなんです。それで“痛い思いをしなくて済むピアノをやってみよう”と始めたわけですが、結局はピアノの蓋が手の上に落ちて大怪我しました(笑)。自分の中では、事故が人生のターニングポイントになってきた気がしています。そういった意味で、事故がもとで一変した阿字野の人生は他人事とは思えないですし、その運命に負けない彼の姿に憧れも抱いていましたね」
――そんな阿字野として演奏するにあたり、意識したことは?
「こういう経験は初めてだったので、どんな演奏にすればよいのか色々と考えました。反田恭平というピアニストとして阿字野をイメージした演奏なのか、それとも阿字野になりきって弾く演奏なのか、または僕としての演奏なのか。監督やディレクターとも相談し、阿字野のテイストを入れつつ、自分の解釈で弾いていきました。普段の演奏ではやらないような弾き方や表現をしたり。たとえば事故の影響で指が動きにくいということを考えて、それほど速くないテンポで弾いたり、優しい音色を意識して弾きました」
――反田さんはこれまで多くのコンクールで優勝されてきましたが、過酷を極めるコンクールに挑戦する理由は?
「父がクラシック嫌いの人間で、僕が音楽高校に入るときも大反対でした。そこで、半年ぐらいの間に開催されるコンクールを全部受けて、全部で優勝したんです。すべての賞状を見せたら、ようやく父も入学を許してくれました。今はそうした動機はありませんが、もしこの先、国際的なコンクールを受けるとすれば、その理由は1位や2位を獲ることではなく、やっぱり世界の大舞台で自分を試したいということだと思います。現地の聴衆の前で弾いて、インターネットで世界中にライヴ中継され、どんな反応を得られるのか。そこがいちばん大切であって、運がよければ結果がついてくると考えています」
――現在は、ポーランドのショパン音楽大学(旧ワルシャワ音楽院)で勉強中とのことですが、ワルシャワはこの物語の舞台でもありますよね。
「はじめてワルシャワに着いたときは、「ピアノの森」に描かれている風景と同じだ! と感動しました。街を歩いていると、“カフェ・ショパン”とか“ホテル・ショパン”といったお店がたくさんあって、いかにショパンがポーランドの国民にとって大切な存在かを実感します。ポーランド人の先生は“我々にとってショパンがすべてだ”と言い切るほどの誇りを持っていらっしゃいますし、やはりショパンの音楽を勉強するにあたって、ワルシャワは欠かせない街だと思います」
――反田さんにとって、ピアノとはどんな存在でしょう。
「正直に言ってしまうと、ピアノのすべてが好きというわけではありません。子どもの頃はもっと遊びたかったですし、ピアノをやっていたことで失ったものもあります。けれど悲しいことがあったり、疲れたとき、ひとりでピアノの椅子に座って、なにを弾こうかなと思いながらパッと鍵盤の上に手を置いて、その指の形からはじまる曲を弾いてみたりするうちに、やっぱり元気になるんですよね」
――最後にご覧になるみなさんへメッセージを。
「僕なりに阿字野を表現するために努力しましたので、アニメに合った演奏になっていたらいいなと思います。このアニメを観て、ピアノをやってみたいなと思ってくれる子どもがいたら嬉しいですし、世界的なセンセーションを巻き起こすことも夢ではない作品だと思っています」
反田恭平 Kyohei Sorita (阿字野壮介):
1994年生まれ。2012年 高校在学中に第81回日本音楽コンクール第1位入賞。併せて聴衆賞を受賞。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学。2015年イタリアで行われている「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。年末には「ロシア国際音楽祭」にてコンチェルト及びリサイタルにてマリインスキー劇場デビューを果たす。2016年のデビュー・リサイタルは、サントリーホール2,000席が完売し、圧倒的な演奏で観客を惹きつけた。また夏の3夜連続コンサートをすべて違うプログラムで行い、新人ながら3,000人を超える動員を実現する。2017年春にはオーケストラとのツアーを12公演、夏には初のリサイタルツアーを行い、全公演完売で終了した。現在コンサートのみならず「題名のない音楽会」「情熱大陸」等メディアでも多数取り上げられるなど、今、もっとも勢いのあるピアニストとして注目されている。2017年出光音楽賞受賞。CDショップ大賞 「クラシック賞」受賞。現在はショパン大学に在学中。
http://soritakyohei.com