「尾上右近はヤル気の塊」とG2が称賛~舞台『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』取材会
尾上右近、G2
ピューリッツァー賞戯曲部門賞を受賞した舞台『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~』が、2018年7月6日(金)から紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演される。これに先駆けて6月13日、都内にて取材会が行われ、主演を務める歌舞伎俳優の尾上右近が、翻訳・演出を務めるG2と共に登場、稽古真っ最中の現在の心境などを語った。
子どもの頃に受けたネグレクト(育児放棄)のトラウマを抱えている青年エリオット(右近)は、イラク戦争で負傷したことが原因でモルヒネ中毒になっていた。エリオットの生みの母オデッサ(篠井英介)は自身が運営するサイトで各地から集まったドラッグ中毒者たちと交流を深めている。なぜ人は薬物に救いを求めてしまったのか、彼らが本当に求めていたものは何なのか、立ち直った後、人々はどうやって生きていくのか、彼らの葛藤を描く。
G2
G2は本作の上演について「世の中には、“やらねばならない作品”と、“やっておかねばならない作品”があると思いますが、やらねばならない作品はどんどん目の前に現れるが、やっておかなければならない作品はどうしても後回し、後回しとなりがち。久々にやっておかねばならない作品に出会えた気がしました」と本作から受けた衝撃を語る。「作る側(スタッフ・キャスト)にとってもアウトプットだけではなくインプットもできる作品ですね」。現在絶賛稽古中だが、初翻訳現代劇、初主演となる右近については「和の世界からチャレンジ精神を持ってやってきてくれた。稽古場でもものすごく頑張っています。やる気の塊みたいな人です」と称賛する。その言葉に右近は照れ笑いしながらも嬉しそうにG2の話を聞いていた。
尾上右近
「新人の尾上右近です」と名乗り、笑いを誘う右近。「本作は社会派で難しい作品です。その物語の中心人物を演じることは、僕にとって困難を極める作品だと思っています。共演者の百戦錬磨の方々がこの作品をどう表現しよう、台詞をどう言えばいいだろう、難しいとおっしゃっているくらいなので初めてだらけの僕は途方に暮れているところです(笑)。でもこれは自分にとって乗り越えなければならない試練だと思っています。壁を乗り越えるというより、ぶち当たって砕くつもりで挑んでいきたいです」と力強く語った。
昨年『スーパー歌舞伎II ワンピース』の公演中に負傷した市川猿之助に変わり、主人公ルフィを演じ切った右近。祖父・鶴田浩二の血が騒ぐのか、どこまでも積極的でチャレンジング、そして放っておけない愛くるしさを見せる。「現代劇の稽古は歌舞伎のそれと異なり、分からないことを分からない、と口にすることが大事、むしろそれを(演出家などに)ぶつけていかないといけないんだとつくづく感じています。そういう習慣がなかったのでそれに慣れることが今の課題です。本読みでも戸惑い、立ち稽古はさらに分からない事だらけで恥ずかしい思いをたくさんしています」とコメント。稽古中の「恥ずかしい思い」のエピソードについては「台詞を言うことに追われて、動きがついてこず、気が付けば共演の南沢奈央さんと横に並んで台詞を言っており、『漫才みたいだ』と言われてしまいました(笑)」と話しながら崩れ落ちると、隣でG2も思い出し笑いを見せていた。
G2、尾上右近
他の共演者について右近は一人ずつ名前を挙げていく。南沢については「僕と一緒に稽古をする時間が最も長いので(右近のぎこちない演技の)被害をいちばん被っているんじゃないかな。でも一緒に考え、一緒に悩んで、受け止めてくださる人」、篠井については「本当のお母さんのように愛と抱擁力に溢れている方。話をしているとホッとします」、葛山信吾については「カラオケですごい力を発揮されるそうなので、自分の中で想像が膨らんでいます。とにかく早くカラオケに行きたいです。また、いじられキャラなんですね(笑)」。鈴木壮麻を「すごくハイテンションな方。一番最初に声をかけてくださった方。謙虚かつハイテンションな方でいつも助けていただいています」、陰山泰については「想像力が豊かで、この台詞に行きつくまでにはこんな心情になっているはず、と一つの台詞に対する繋がりを大切にされる方」、そして村川絵梨については「懇親会でいちばん最初に葛山さんをいじりだしたのは村川さんだったと思います」。そう笑いながら語る右近は、初めて共演するメンバーとの交流を喜びとし、そこから得られるものすべてを全身で吸収しているようだった。
クシャクシャになって笑う右近さん
最後にG2は「これは社会派と言われていますが、社会の悪いところを掘り返すような作品ではなく、そこにいる弱者たちがいかに明日に向かって歩き始めるか、ということを伝える、観終わった後にとても勇気をもらえる作品だと思います。とっても楽しい観劇体験になると思います」と述べ、右近も「個性や人種も違う人たちの繋がりがどういうメロディを奏でるかが魅力の作品です。クスリなどの問題はありますが、それ以上に“人の心”のあたたかみやぬくもりが何より伝わる作品だと思います。観る方にはほっこりとした、豊かな気持ちになっていただければ」とアピールしていた。
【おまけ】カラフルでキュートな右近さんのネクタイ。「これ、父から借りてきたんです!」とニッコリ
取材・文・撮影=こむらさき
公演情報
■翻訳・演出:G2
■出演:尾上右近 篠井英介 南沢奈央 葛山信吾 鈴木壮麻 村川絵梨/陰山 泰
■日程:2018年7月6日 (金) ~2018年7月22日 (日)
■会場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
【大阪公演】
■日程:2018年8月4日(土)
■会場:サンケイホールブリーゼ
■入場料金:一般8,000円(全席指定・税込)
U‐254,000円
(観劇時25歳以下対象、当日指定席引換、要身分証明証/ぴあ、パルステ!にて前売販売のみの取扱い)
※未就学児入場不可 ※営利目的の転売禁止
オデッサは、特殊なサイトを運営しているサイト管理人だ。そのサイトは、何千マイルも離れてまったく異なる職業につきながら、ある共通点を持った人々が集まるサイトだった。ヘロイン、コカインといった依存性のあるドラッグ中毒者たちである。無職の者、税務署職員、起業家などなど。管理人のオデッサ自らも元コカイン中毒者であり、かつて幼い娘と息子を依存症のために見殺しにしかけ、娘を失った過去を持っていた。 オデッサの息子エリオットは、イラク戦争に出兵して肉体的にも負傷すると共に、あることで心の傷を負っていた。また足の負傷をきっかけに、心ならずもモルヒネ中毒となった経験を持っている。そして、彼のよき理解者であり従兄弟である大学非常勤講師のヤズミンは、現在離婚調停中で人生に行き詰まっていた。すべての登場人物が、人生の行方を探そうとしてあらがい彷徨う中、エリオットの育ての母であり、伯母でもあったジニーの死をきっかけに、オンラインとオフライン、それぞれの人間関係がリアルな世界の繋がりの中へとくっきりと浮かび上がり、少しずつ変化していく―。