コシミハルが描く“大人可愛い”バレエの世界 フォリー・バレリーヌ『秘密の旅』
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コシミハル
チャコット主催のバレエ公演 フォリー・バレリーヌ『秘密の旅』で、芸術監督・音楽監督・特別出演を務めるコシミハル。その唯一無二の音楽性で独自の世界を切り開いてきた彼女が、今回初めてバレエ公演を手がける。フランス近代音楽、シャンソン、ジャズ、そしてオリジナル曲と、多彩な楽曲と共に描き出される『秘密の旅』とは……。彼女に作品の構想とその想いを聞いた。
ーーバレエ公演を手がけるのは初めての挑戦ということですが、オファーが来た時の心境はいかがでしたか?
とてもうれしかったです。というのも私自身もともと踊ることが大好きで、小さい頃は父がかけるレコードにあわせてリビングでいつも踊っているような子供だったんです。ある時ジジ・ジャンメールが羽根の中から出てくる踊りをテレビで見て、“このキラキラした世界は何だろう!”と強く惹かれて……。
けれど曲を作ったりピアノを習ったりと音楽をすでに始めていたので、大分後になってからバレエを習い、さらにジャズダンスやヒップホップのレッスンにも通うようになりました。今でもよく自宅でYouTubeを見ながらヒップホップを踊ったりしているんですよ(笑)。
音楽とダンスは切り離して考えられないほど大好きだったので、『Musique-hall』というシアトリカルコンサートを始めました。ムーラン・ルージュなど昔のミュージックホールの雰囲気をイメージし、クラシックのピアニストとファゴット奏者、バレエやジャズダンスを取り入れた作品です。そのとき共演していたのが、『秘密の旅』の共同振付・バレエミストレスでもある森本京子さんと林かおりさん。また一緒に舞台を作る機会を得て、ワクワクしています。
——タイトルの“秘密の旅”とは? 作品のテーマ、舞台の構想をお聞かせください。
「可愛い」をテーマにしたバレエを依頼されました。フリルやチュールの付いた洋服など、女の子らしい可愛らしさはもちろんだけど、その一方でちょっとコワいものも可愛かったりする。太陽だけではなく、暗闇もあって、現実にはないけれど、ちょっと覗いてみたくなるようなシュールでフェティッシュな世界。明暗の両方を持ち合わせた「可愛い」を表現してみたいと思っています。
作品は踊りと音楽の15曲ほどの小品で展開していきます。セーラー服を着た3人のバレリーナが「秘密の旅」をして、いくつもの小さな窓を開けたり、遠くから望遠鏡で覗いたり、その中に入り込んだり、つむじ風のように通り過ぎたり……。無邪気でいたずらで勇敢な旅をします。
作品全体に通じるものは夢。どこか不思議な人たちが登場します。それぞれの作品には短い物語があります。登場するバレリーナは特別な感情やメッセージを持たず、音楽を奏でるように踊り、それぞれの作品ごとに衣裳も変えます。そういう意味では、レビューのような部分もありますね。
ーー楽曲はどのようなものを考えていますか?
バレエの古典作品というと、みなさんがよく知っている音楽がありますよね。今回はそうしたものとはまた違った形で、古典的なスタイルの振り付けではなく、新しい時代のリズムとポワントが出会うものを考えています。古いハリウッドのミュージカルにバレエ・リュスのダンサーが出演していた時のようなエスプリを胸に、新しいバレエが現代に蘇るようなものができればいいなと思っているんです。
私のオリジナル作品を中心に、シャンソンやスタンダードジャズも取り入れます。エリック・サティやジェルメーヌ・タイユフェールといったフランス近代作曲家のピアノ曲は私が舞台上で弾く予定です。その他オニール八菜さんが出演した三越伊勢丹の広告「this is japan.」の曲を以前手がけたことがあって、物語のひとつにその楽曲を使用します。ウェブサイト上では一般公開されていますが、劇場でこの曲を聴いていただくのは今回が初めてです。
ーー楽曲提供や選曲、演出的な面だけでなく、自ら振りも手がけているとお聞きしました。コシさんのクリエイション法とは? 作曲と振付に共通するものは何かあるのでしょうか。
舞台を作るにあたり、まず音楽を先に決めています。その上でダンスというもうひとつのメロディを加えていくイメージです。
私の場合、作曲をする時も曲だけでき上がるということはなく、映像や舞台の場面を想像しながらメロディを作ります。場面が思い浮かぶとそれに誘われるように曲ができていくので、舞台でダンスを加えた時に、音楽が完成するという感じです。
振付については、共同振付のおふたりと相談しながら作っています。最初に曲ごとに登場人物と衣裳と小さな物語を伝え、振り付けを始めます。スタジオでインスピレーションを大切にしながら、淡々と進めています。椅子を使ったダンスがいくつか登場しますが、これは音楽の細かいリズムや旋律に合わせた細かい動きを伴うオリジナルのダンスです。椅子は昔から私が好んで使ってきたモチーフで、『Musique-hall』やライブではいつも使っていますが、今回も重要なシーンのひとつになります。バレリーナたちにとっては初めての挑戦になるのではと期待しています。
——バレエ団の枠を超え、若手精鋭ダンサーが出演します。キャスティング選定の際に重視されたことは何でしょう。
この公演のためにオーディションを開催し、バレエダンサーを選んでいます。一番大切にしたのは、クラシック・バレエの基礎的なテクニックを持っているかどうかということ。技術がきちんと備わっていればいろいろな動きに対応できると思うので、オーディションでは基礎的な部分を重点的に見せていただきました。もうひとつが、柔軟性に富んだ適応力があるかどうかです。みなさん若くてとても新鮮なダンサーです。さまざまなバレエ団から集まって来た人たちで、一緒に舞台を作るのは初めてのダンサーばかり。彼女たちにとっても未知だけど、私にとってもそう。みんなにとって初めての経験で、新しい扉がひとつ開けられたらいいなと思っています。
——照明の関根聡氏、ヘア&メイクの森川丈二氏、宣伝画の赤木仁氏をはじめ、豪華クリエイター陣にも注目です。
関根さんは、パリコレなど幅広く活躍されている素晴らしい才能の持ち主。ヘア&メイクの森川さんも、コレクションや広告、雑誌、CDジャケットなど、さまざまな分野で素敵な世界を作っていらっしゃる方です。おふたりとは『Musique-hall』や海外公演など、現在に至るまでずっと一緒に舞台を作ってきました。
セーラー姿の3人が描かれた宣伝画は赤木仁さんの作品です。赤木さんは金子國義さんのお弟子さんだった頃に出会い、金子さんにCDのアートディレクターをしていただいていた頃からのお付き合いです。
今回は衣裳にもセーラー服が登場しますが、これは金子さんが所蔵していた映画『ベニスに死す』の中でビョルン・アンドレセンが実際に着たセーラー服をモチーフにしたもの。以前金子さんが実物を見せてくださったことがあって、私自身ヴィスコンティが大好きだったということもあり、そのセーラー服をお借りして衣裳を作ったことがありました。『秘密の旅』ではそれを再現し、バレリーナが着て踊ります。
出典:「ベニスに死す」映画パンフレットより
出典:「ベニスに死す」映画パンフレットより
出典:「金子國義の世界」平凡社より
——コシさんの世界観とバレエの出会いにより描かれるフォリー・バレリーヌ『秘密の旅』。コシさんが本公演で目指すものとは?
目指すのは大人の方が観ても楽しめるバレエ。バレエ=堅苦しい、というイメージを持っている方って多いのでは? そうではなくて、ポワントを使って可能性を広げたい、という気持ちがあって。ジョセフィン・ベーカーやモーリス・シュバリエなどが出演していた昔のパリのミュージックホールのような、ダンスと音楽の喜びに溢れた舞台を作りたいと思っています。ハリウッドミュージカル映画や音楽、さまざまなパフォーマンスに興味がある人たちにぜひ観ていただきたいです。
——エスプリがパリの気質を表すように、“KAWAII”が日本の空気感や気分をあらわすエッセンスとなり、和的なモチーフによらない日本発の作品として、いつか“KAWAII”が受け入れられているパリでの公演も実現すると面白いですね。本日はありがとうございました。
インタビュー・テキスト=小野寺悦子
『秘密の旅』出演バレリーナ
公演情報
フォリー・バレリーヌ『秘密の旅』
Folies Ballerine - Voyage Secret
芸術監督・音楽監督・特別出演:コシミハル
出演(五十音順):石原朱莉(山本禮子バレエ団)/北川明代(スターダンサーズ・バレエ団ジュニアカンパニー)/木原奏音/澤田夏/樽屋萌(スターダンサーズ・バレエ団ジュニアカンパニー)/中井杏香(スターダンサーズ・バレエ団ジュニアカンパニー)/松本佳織(東京シティ・バレエ団)/渡邉桜子(谷桃子バレエ団附属アカデミー)
スタッフ:照明 関根聡(アートブレーンカンパニー)/ヘア&メイク 森川丈二(gem)/音響 原真人/舞台監督 山田亜由美/宣伝画 赤木仁/ デザイン 岡田崇