東京バレエ団ブルメイステル版『白鳥の湖』/衣裳も新たに刷新!新プリンシパル達が初めて挑む古典バレエの名作

2018.6.28
レポート
クラシック
舞台

撮影:西原朋未

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6月29日(金)~7月1日(日)、東京バレエ団はブルメイステル版『白鳥の湖』を上演する。ブルメイステル版は、1953年、モスクワ音楽劇場のバレエ・マスター(現在の芸術監督)であったウラジーミル・ブルメイステルが改訂演出・振り付けしたもの。チャイコフスキーがこのバレエを作曲した際の、原曲の本来の意図に沿ったドラマティックな物語展開が特徴で、モスクワ音楽劇場の初演では大成功を収めた。

東京バレエ団では2016年、斎藤友佳理芸術監督就任後初の一大プロジェクトとしてこの版を初演。その際セットを一新したが、今年の再演ではさらに衣装を刷新した。「ようやくいつでも上演したいときに白鳥の湖ができるようになった」と斎藤芸術監督が語るように、まさに名実ともに東京バレエ団ならではの『白鳥の湖』がお目見えすることとなる。

主演は上野水香&柄本弾、川島麻美子&秋元康臣、そして今年4月にプリンシパルに昇格した沖香菜子&宮川新大の3組が予定されている。このほど行われた公開リハーサルでは沖&宮川組が登場。熱気あふれるリハーサルのあとに、斎藤芸術監督、沖、宮川両プリンシパルが参加しての記者懇談会が行われた。

撮影:西原朋未

■ドラマティックかつ華やか。見応えのある第3幕

斎藤監督曰く、このブルメイステル版は「全体を通して物語がきちんと伝わるよう、演出そのものが非常によくできている」というとおり、観る者にとってもわかりやすいのが特徴のひとつだ。

今回披露されたのはそのブルメイステル版の醍醐味の一つである、第3幕の舞踏会のシーン。スペインやナポリ、マズルカ、チャルダッシュといったディベルティスマンが、すべてロットバルトとオディールの一味として登場し、王子を騙すという演出になっている。

道化の踊りに続き、花嫁候補が登場するも上の空のジークフリート王子(宮川)。そこへファンファーレとともにオディール(沖)とロットバルト(森川茉央)が仲間を引き連れて登場する。ロットバルトとスペインのソリストを踊る奈良春夏の衣装は今回刷新したという新衣装。いずれも黒を基調としたものだが、ロットバルトの物は金銀の刺繍ともどもなかなかに豪華で美しい。

スペインの男性陣のカポーテ(マント)の向こうにオディールが現れ、しかしロットバルトらに阻まれ追いつけない王子。ナポリ、チャルダッシュ、マズルカの踊りが王子を翻弄するかのように次々繰り広げられるそのスピーディーさ、めまぐるしさは見応え十分だ。

そうしたなか、にやりと小悪魔のような笑みを浮かべる沖のオディール。宮川は「振り付けと振り付けの間にある空白部分を演技でどう表現するか、これが課題」と後に語ったように、その演技に対し斎藤監督もアドバイスをする場面も。新プリンシパルの2人が本番までにどう仕上げてくるか、実に楽しみだ。

■沖&宮川組には初々しさを。三組三様の個性

リハーサル後の懇談会で斎藤監督は今回の3キャストについて「上野&柄本組は前回もこのペアで踊っており変えたくなかった。また川島&秋元組は前回公演ではそれぞれ別のパートナーと主演を踊ったが、今回はその経験がいい形で化学反応を起こしている」。さらに今回リハーサルを披露した沖&宮川組については「初々しさを期待する」と話す。「とくに沖さんは年齢的にも一番若く、オデットは初役。何も色がない初々しさの中から生まれ出てくる、無駄なものが一切ないオデットを望みたい。そして宮川君にはそのオデットを包み込むような大きさを」と期待を述べた。

また「上野さんには彼女がこれまで培ってきたオデット像があり、川島さんには鳥のような軽さがある。柄本さん、秋元さんの女性の引き立て方にも違いがあり、そういう意味では3組とも全く違った舞台になると思う。それぞれ違うペアをすべて見ていただきたい」と斎藤監督は語った。

撮影:西原朋未

■初めての白鳥の湖。それぞれの課題にチャレンジ

初めてこの作品に挑む沖は「『白鳥』は古典中の古典。難しいことがたくさんあるがクリアしていきたい。自分の理想の踊りはまだまだ遠いところにあるが、常に高いところを、ベストを目指して、また『白鳥』に取り組めるという幸せを感じながらリハーサルに取り組んでいきたい」と話す。

撮影:西原朋未

宮川は「王子を踊った経験はバレエ団の中でも少なく、自分の中のゴールがまだ全然見えていない。古典には空白の部分が多く、王子のアクションなどを自分で考えなければならない。僕自身は決められていた方がやりやすいタイプだったので、自分で考え演じるということは越えなければならない壁だが、課題として取り組み、お客様に伝えられればと思う」と意欲的に語る。

また王子役を踊るにあたり、宮川は「今までいろいろ演じた役の中で一番悩んでいる。1幕から4幕までの王子の感情の違いを出していければいいなと思う」とも。一方オデットとオディールの2役を演じ分けねばならない沖は「私の課題の一つに幼く見えがち、ということがある。オデット、オディールそれぞれの大人っぽさや、オディールについては加えて色気といったものを出していければ」とそれぞれが感じる課題を語った。

またこの2人は今年4月、ともにプリンシパルに昇格した。昇格に際し、斎藤監督は「主役だけではなく、いろいろな役を踊ってほしい」と2人に告げた際、両者それぞれから「(仮にそれが乳母役でも)何でも踊りたい」「いろいろな役を踊りたい。できる限りいろいろな役に挑戦したい」という回答をもらったと振り返る。そのうえで「常に課題を持ち、ハングリーに、謙虚であってほしい。それが願いだ」と斎藤監督は期待を述べる。

沖、宮川とも「(プリンシパルの)実感がわかない」というが、「やはりどんな立場であっても一つの舞台、一つの役に対し頑張り、つくっていくという気持ちは変わらない」と沖。「(プリンシパル昇格の話を受け)本当は一日考えようと思った」という宮川は「入団して3年目で昇格させていただき、感謝している。プリンシパルとしてのゼロ地点に立ったと思い、プリンシパルのゼロからまたスタートしていきたいなと思っている」と抱負を述べた。

撮影:西原朋未

■斎藤監督の哲学がこめられた主役の衣装

今回のブルメイステル版『白鳥の湖』でもう一つ注目したいのは、新たに刷新された衣装だ。舞台セットについては2016年初演時に作成、衣装はモスクワ音楽劇場からのレンタルだったが、今年の上演に際してはブルメイステル版初演時のデザインをもとに現代風のテイストも加味したコンセプトで刷新。マイヤ・プリセツカヤのスペイン公演の衣装を手掛けたこともあるロシア人デザイナー、アレクサンドル・シェシュノフに依頼した。衣装の制作は長年ボリショイ劇場の裏舞台に携わってきたスタッフが設立した「ティマート・プロダクション」に発注。日ロ間双方の事情や通関の問題、できあがった衣装のサイズの問題など「こんなに大変だと知っていたらやらなかった」と斎藤監督が思わず語るほどに困難を極めたという。
しかしできあがった衣装は、例えばブーツなどはダンサー一人ひとりの足に合わせてあり沖も「こんなに足の裏までぴったり使えるシューズがあるとは思わなかった」と語るほど、ダンサーに評判はいい。

そこには「主役を踊るものは着たいものを着て、気持ちよく踊ることがいい舞台に繋がる」という斎藤監督の哲学がある。
実際に今回の王子の衣装についても、デザイナーのシェシュノフ氏は柄本、秋元、宮川の三者それぞれにデザインの希望を聞いたのだという。できあがった王子の衣装は基本的なデザインは同じだが、袖や襟周りなどは三人とも微妙に違っているそうで、「ダンサーは作られた衣装をただ着るものだと思っていた。ありがたいと思う」と宮川も感慨深げ。このほかにも「1幕ワルツの男性の衣装もみなデザインも色も違って素晴らしい。ぜひご覧いただきたい」と斎藤監督。総合芸術たるバレエの一面、衣裳の部分でもじっくりと注目し、個々の違いを確かめてみたい。

最後に公演に向けて、沖は「ブルメイステル版は本当にドラマティックで、瞬きする時間もないくらいにストーリーが続く。お客様を引き込む力がある作品だと思うのでぜひ見に来ていただきたい」と話す。また宮川も「初めて『白鳥の湖』って面白い!と思ったのが、ダンチェンコ劇場でのブルメイステル版を見たときで、3幕は本当に見応えがある。僕たちはお互い初めての『白鳥』への挑戦だが、幕の上がる1秒前まで突き詰めて行きたいと思っている。ぜひ劇場に来ていただければ」と語った。

華やかで絢爛豪華な、見応えある舞台を期待したい。

 

 

公演情報

東京バレエ団 ブルメイステル版『白鳥の湖』
日時・キャスト:
6月29日(金)18:30 オデット/オディール:上野水香、ジークフリート王子:柄本弾
6月30日(土)14:00 オデット/オディール:川島麻実子、ジークフリート王子:秋元康臣
7月1日(日)14:00 オデット/オディール:沖香菜子、ジークフリート王子:宮川新大
会場:東京文化会館
指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
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