大衆演劇の入り口から[其之三十二] 橘大五郎座長が走り続ける“原動力”とは? SPICE独占インタビュー!
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橘大五郎座長
揺るぎなく、まっすぐな。
橘劇団3代目座長、橘大五郎(たちばな・だいごろう)。映画出演等で注目された10代も、2018年の関東公演を連日大入り快走中の31歳の今も、そして10年後も、ずっと同時代のトップにいるだろう役者さんだ。
健やかな笑顔に人柄がにじむ。
ファンからの愛称は「大ちゃん」。底抜けに健やかな笑顔には、「みんなの大ちゃん」という、つい声をかけたくなる感じの親しさがある。
「大ちゃんっていつ休んでるんだろうね?」
と健康を心配するファンの声も聞かれるほど、休演日も休むことなく、ゲストやイベントへの出演を続けている。その中でも生み出される新作芝居。ひた走る座長の目はどんな風景を見ているのだろう。その明るさはつまずくことはないのだろうか。一度お話を伺いたかった。6/24、公演中だった篠原演芸場(東京都)でインタビューさせていただいた。
――まず伺おうと思っていたのが…お休みの日ってどれくらいあるんですか?
どうしてまた(笑)。
――おそらく大衆演劇界一忙しい座長のお一人ではないかと。月に1~2日の休演日すら、ほぼ全てゲスト出演されていますよね?
そうですね、6月もあちこちに行かせていただきました。篠原演芸場の休演日が18日・19日だったので、18日は博多新劇座(福岡)のゲストに行って、19日は池田呉服座(大阪)のゲスト。20日に東京に帰ってきて篠原で公演して、終演後に立川に移動しました。翌21日の昼に立川けやき座のゲストに出て、すぐ篠原に戻って夜公演ですね。終演後に今度は浅草へ行って、22日昼は浅草木馬館のゲストに出ました。
――(絶句) あの、大衆演劇ファンの中でも、大五郎さんのお体を心配されている方は多いと思います。倒れないか心配という声も聞きます…。
ほんとですか?(笑) 倒れません、大丈夫です!というか今月思ったんですが、休みの日って逆にダメなのかもしれないです。休みの日は熱中症みたいに具合が悪くなっちゃって。ずっと動いてるから、むしろ休むと生活リズムが狂っちゃうんです。
――その忙しさの中で、落語を聴いたり歌舞伎を観たりしてお芝居作りに生かされていますね。たとえば落語を元にした新作芝居『ウェイターの花道』など。
あの芝居は5月の木馬館で初演したとき、評判良くて嬉しかったですね!落語はけっこう聴きに行ける機会が多いんですよ。なんでかって言うと、月の最終日もやっているところが多いので、公演の移動日に行けるんです。歌舞伎はけっこう大衆演劇の公演とスパンが被っているので、行くのは大変です。でも、最近便利なのはCSとかで映像が見れることですね。
とにかく時間を見つけたら色んな舞台に行くようにしてます。今月も東京で宝塚を観に行ったし、あと河合宥季さんが出演していた『黒蜥蜴』も観ました。すごく良かったですよ!
――色々なジャンルの演劇をご覧になる中で、大衆演劇のジャンルとしての強さも見えてきますか?
大衆演劇って「ノンジャンル」じゃないですか。自由で、何でもできる。現代劇もできれば歌舞伎の芝居もできる。それがやっぱり強さですよね。
――逆に、大衆演劇の縛りや制限を感じることは。
廻り舞台とかが無かったり、セット的なことですね。それからやっぱり、毎日演目が違うということ。
――日替わり公演は大衆演劇の特徴でもありますが、このままずっと日替わりでやっていくべきなんでしょうか?
う~ん、色んな考えがあると思いますが…たとえば前に龍美麗(りゅう・びれい)会長(※)と話してたのは、お互いの劇団が二座合同で芝居をやるとしたら、ガッツリしたお芝居を2日間交代でやって、1日ずつ役替えしたいよねって。そしたら、この人はどう演じるんだろうってお客様は2日とも観たくなると思うんです。
――なるほど!
ね、話聞くだけでめっちゃ面白くないですか?
※「スーパー兄弟」の総座長で「粋心会」会長。大五郎座長とは親友。
女形はどこか、さみしげな魅力がある。
「面白いのは、お客様の反応の速さ」
――お芝居の脚本・演出は大五郎さんが全部されているんですか?
基本はそうです、あとは劇団内だとお父さん(水城新吾さん)と一緒に話し合ったりします。
――二人の意見が合わないこともあるんでしょうか。
全然あります。その場合は、物によって折り合いが良い方に行きますかね。お父さんはこういう演出がやりたい、じゃあ僕はそれに合わせてこういう音楽でやろうとか。それが合体した時が最高に良いものになりますね。『鶴八鶴次郎』(※)もそうでした。
――橘劇団のお芝居の中でも名作と言われる狂言ですね。
※太夫の鶴次郎・三味線弾きの鶴八の芸道と人生を描く。鶴次郎を大五郎座長、鶴八を座長の母である小月きよみさんが演じる。
最後のシーンは緞帳を閉めずに、鶴次郎が鶴八を思い出しながら、そのままカーテンコールに入っていくやり方をしています。これもお父さんが「ここで終わりたいんだ」って言ったことがきっかけなんです。
――カーテンコールの後、鶴次郎が一人で客席の通路を歩き去っていく場面も印象的です。あのやり方はどちらの提案なんですか?
あれは第一回目の本番で勝手にそうなっちゃったんですよ。
――“そうなっちゃった”?
その前の、鶴次郎が鶴八とすれ違うシーンまでしか考えてなかったんです。そしたら本番の流れで、僕が緞帳前に一人残されたので、一人で歩いて去る形になったんです。
――その形が今に至るまで残っているんですね。
そうそう(笑)。本番で、お客様がいて初めて分かることってあるんですよね。だから面白いです。お客様の反応を見て、ここは良かったんだなとか、ここは直したほうがもっと喜んでもらえるかなとか。
――お客様から送り出しなどで「ここが良かった」と言われるんですか?
いや、演じてるときにもう感じます。ああ、大衆演劇の面白いところはそこですね。反応が速い!特に笑いのお芝居なんかは、お客さんにワーッと受けてるんだったらとことんやるし、お客さんがちょっと飽きてきたなと思ったら切り替えます。舞台がお客さんと近いですからね。だから分かることです。
常に客席の反応を感じながら舞台を務めるという。
――今、これをやってみたいと思っている芝居はありますか。
昔、一回だけ誕生日公演でやった坂本龍馬の芝居です。相当前なんでDVDにもなってないと思います。今、平成の終わりでちょうど時代が移り変わるときなので、それと幕末とをかけてやりたいんですけどね。
――面白そうです!そして5月の浅草木馬館・6月の篠原演芸場でも演じられた、『女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)』はすごい芝居でしたね。
ありがとうございます!面白かったですか?
――はい、大五郎さん演じる与兵衛の心象風景が印象的でした。毒のような母親(かつき夢二座長)から逃れたいけれど逃れられないという…。
母親との回想シーンもあったりしますしね。与兵衛の気持ちは色々なものが混ざっていて、やっぱり産みの母だから、周りから「お前、あんな母親で大変やろ」とか言われると「お前に言われとうないわい」って返してしまうんです。母親が与兵衛に「お前に私が殺せるかい」って言う通り、自分の親だから殺せない。そういう複雑な心境ですね。
――しかし大衆演劇の従来のお芝居は、起承転結がはっきりした単純明快なストーリーが多いと思います。お客様全員に複雑さを感じさせず、心の中の風景を描く――とても困難だったんじゃないでしょうか。
それは悩みました。この芝居も元は歌舞伎なんですが、そちらだと見世物小屋みたいな演出があるんです。この世のきれいなところと汚いところを見て行かんか、と誘い込む場面が。
――抽象的ですね。
そう、お客様に分かりにくくなっちゃうので、こういう部分は無しにしました。セリフで説明する部分も、ちょっと余分に増やしてるんですよ。たとえば与兵衛の実のおとっつぁんはもう亡くなっていて、その奉公人だった人がお母さんとくっついたので、義理のおとっつぁんになってる。こういう関係性を全部セリフで説明しておくんです。でも、ただ言うだけじゃ伝わらないんです。
――と、おっしゃいますと…?
「義理の親じゃから」(一本調子)って言うんじゃなくて、「義理の、親じゃから」(「義理の」で切り、「親」を強調する節回し)っていう風にセリフをちょっと立てます。粒立てるというか。これで初めて、お客様の中にセリフの意味を残せる。するとお客さんの反応が絶対変わってくるんです。逆に、流すセリフは「~でございますねぇ」(速く)っていう感じです。落語とかでも、聞いてほしいセリフを立てるという手法があると思います。
「義理の、親じゃ」。インタビュー中に芝居の声づかいになると、一瞬で芝居の空気になった。演者でもあり演出家でもある。
「橘の灯」を継いだからこそ
――16歳で北野武監督の映画『座頭市』に出演されています。当時は女性誌から映画雑誌まで、色々な雑誌にインタビューが載っていたので読ませていただきました。
マジですか…恥ずかしいです(笑)
――すみません、10代の頃のインタビューって今振り返ると恥ずかしいかもとは思ったんですけど…(笑)。読んで驚いたのが、10代で大きな映画に出たりしたら、また映画に出たいとか、商業演劇もやってみたいとか、他の選択肢にも心が揺れて当然だと思うんですが。大五郎さんは当時から大衆演劇以外の選択肢には全然ブレなかったんですね。
映画もすごく面白いなと思いました。でもそれは、映画で僕を知ってくれた人に大衆演劇を観てほしいなっていう感覚でしたから。
――もうそこはブレないんですね。自分は大衆演劇の役者だっていうところは。
そこは、そうですね。
――それはどうしてなんでしょうか。
やっぱり、劇団かな。橘劇団。じいちゃん(初代・橘菊太郎)の代から続いてますからね。やっぱり受け継いで、続けていきたいですよね。じいちゃんの遺言で「橘の灯を消さないでくれ」みたいなことを言われていたので。
――座長の役目に加えて、2年前から九州演劇協会の会長でもあります。プレッシャーもありますでしょうか。
もちろん、大変なプレッシャーです。
――ストレス解消の方法はありますか?
舞台を観に行くことですかね(笑)。
――ええと、それで解消になりますか…?
舞台が好きですからね。やっぱり、舞台が楽しい。大変なときもあるけど原動力はそれですね。演じてるときも楽しいし、演出しているときも楽しいです。
――大衆演劇の役者をしていて良かったという気持ちになるのは、どんなときですか。
お客様が感動してるときです。お客さんが泣きの芝居だったら泣いてる姿、笑いの芝居だったら笑ってる姿。そういうのを感じると本当に嬉しいんです、僕らは。きっと、役者は皆そうじゃないですか?
インタビュー当日。昼夜公演の間、つかの間の休憩時間を割いて快く答えてくれた。
「盛り上がっていきましょう!」
ラストショーで花道に飛び出した大五郎座長が、客席を向いてパッと弾ける笑顔を見せる。親しい誰かに出会うときのように。
舞台が好き。お客さんを喜ばせるのが好き。どこまでもそれを原動力に。
みんなの「大ちゃん」は、せわしない日々を今日も駆け抜ける。
関連記事:大衆演劇の入り口から[其之弐] “清らかさ”にふれたくて 橘大五郎座長(2015年8月)
公演情報
7月 スパ&リゾート九十九里 太陽の里(千葉県)
8月 三吉演芸場(神奈川県)
9月 新開地劇場(兵庫県)
期間:7/1(日)~7/30(月)昼の部まで
※変更は太陽の里 イベントカレンダーをチェック
料金:平日1500円 土日祝1700円
問い合わせ先:0475-32-5550