コンブリ団が、2010年OMS戯曲賞大賞を受賞した、はしぐちしんの代表作『ムイカ』が再再演!

インタビュー
舞台
2018.6.30
 コンブリ団『「ムイカ」再び 西へ東へ』 2018年2月 大阪・八尾公演より 撮影/井上信治

コンブリ団『「ムイカ」再び 西へ東へ』 2018年2月 大阪・八尾公演より 撮影/井上信治

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念願だった広島公演も敢行! 作者の故郷でもある広島への想いと祈りを再び

劇作家・演出家で俳優のはしぐちしん率いるコンブリ団による『「ムイカ」 再び 西へ東へ』が現在、再再演ツアー中だ。今年2月の大阪・八尾公演を皮切りに、5月には東京公演が行われ、まもなく6月30日・7月1日には三重の「津あけぼの座」、さらに7月28日・29日には広島の「広島市東区民文化センター」で上演が予定されている。

コンブリ団『「ムイカ」再び 西へ東へ』チラシ表

コンブリ団『「ムイカ」再び 西へ東へ』チラシ表

2004年に設立されたコンブリ団の第10回公演となる『ムイカ』は、73年前に広島で起きた原爆投下の記録と、自身が幼少期に遭遇した強烈な体験を元にはしぐちが戯曲を書き、2010年にOMS戯曲賞大賞を受賞した作品である。当たり前の日常が次々と展開されながら、やがて原爆投下の朝、ある家族の風景へとたどり着き、ラストには家族の中でただ一人生き残った女性と死者達が対峙する物語で、タイトルは原爆が投下された1945年8月6日(むいか)に由来している。

1967年生まれのはしぐちは、“小学校にあがる1年前の夏から大学に行く直前の春まで”を広島で過ごし、幼少期に見た「広島平和記念資料館」の展示や〈平和教育〉が強烈な体験として記憶され、「いつかこの出来事にちゃんと向き合って、吐き出さなければ」と思い続けてきたという。そして2009年に本作を書き上げ初演、OMS受賞後の2012年には『「ムイカ」再び』として再演、さらに今回の『「ムイカ」再び 西へ東へ』とマイナーチェンジしながら上演を重ねてきた。

コンブリ団として初の東京公演を終え、今やホームグラウンドとも言える「津あけぼの座」公演や念願だった広島公演を目前に控えた今、大阪・東京での成果や、改めてこの作品について思うこと、故郷・広島への想いなどをはしぐちに伺うべく、稽古場へ足を運んだ。


── 戯曲冒頭の口上でも語られていますが、この戯曲を書くにあたって、幼少期を広島で過ごされた経験が大きく関わっていらっしゃるとか。

チラシの裏にも書きましたけど(下記参照)、夏休みが怖くて仕方なくて。本が好きだったので図書館へ本を借りに行くと、その通路に被爆者や焼け野原とかリトルボーイ(アメリカ軍が広島市に投下した原子爆弾のコードネーム)の写真がワーッと展示されているんです。それが怖くて怖くて、図書館に行けなくなったり。一番最初は広島に引っ越してきた頃、たぶん幼稚園の課外学習みたいなもので平和公園へ連れていかれたんです。その時に、本館ではなくて別館に子どもが見ても大丈夫なような映像─例えばベトナムの空爆とかを見させられた記憶があるんですね。それを見たいと親に言い出しまして。というのは、その空爆の様子が僕にとってはウルトラマンが怪獣を攻撃しているとの一緒だったんですよね。あそこに行ったらちょっと派手なウルトラマンが見られると。

それで親に連れられて行ったら本館で、もう撤去されましたけど当時は蝋人形が3体ありまして、全身の皮が全部落ちて手の先にぶら下がっている男性と、ガラスが刺さりまくっている女性、ボロボロになった子どもがその親に連れられて歩いている蝋人形とジオラマみたいなのがあって、それがもう恐怖だった。なんだこれは! というのがファーストインプレッションで、そこからトラウマに。実際、子どもたちのトラウマになるから、というので一回蝋人形の表現が柔らかくなって、結局今は撤去されてますね。

── 幼い子どもの頃に目にしたら、かなりショッキングですよね。

ショックだったんでしょうね。そこからもこの広島にずっと住まなきゃいけないわけで。毎年夏休みに入ると、本当は楽しいはずなんですけど嫌な季節が来たなぁと。8月6日は登校日で、朝から〈平和記念式典〉の中継を見ることもありますし、実際に何人か式典に参列するということもありました。講堂に皆で集まって被爆者の方のお話を聞くこともあって、「こういう体験をしました」とか「こんな風でした」というのを聞くたびに卒倒していましたね。

稽古風景より

稽古風景より

── 同級生の皆さんも同じような感じだったんですか?

その時ね、同級生がどうだったかはあんまり覚えてないんですよね。僕が小学校6年まで過ごした広島の街は、家の裏手に山があったんですけどまだ防空壕が残っていましたし、爆風で曲がった鉄の扉とかが残っている場所でもあったので、遊んでいてもウワッ! と思ったことがよくありましたね。演劇を始めて自分で台本を書くようになった時に、書くことによってその怖れを解消できるんじゃないか、みたいなところはちょっとあって、どのみち向き合わなきゃいけないことだし、僕の作品は取材をたくさんして他者の何かを描くというより自分の経験したことを吐き出すことが多いので、一度はどこかでこれを吐き出さないといけないんじゃないかな、と思って書いたところはあります。

── 2012年に再演された時は『「ムイカ」再び』というタイトルにされていますが、内容としては変えられたんですか?

ほとんど変わってはいないんですけど、多少。初演は僕は出演していなくて、最初の口上だけを自分で言って、後は別の俳優さんにやってもらいました。それを全部自分でやろうとしたのが『「ムイカ」再び』の時です。再演も今回も、細かいところのワンシーンを削ったり、ちょっと付け加えたりっていうのはありますけど、基本骨子は一緒です。

── そうすると、今回の再再演にあたっても意識して変えた点などもないわけですか。

世界情勢が変わったので、その辺は多少情報として入れた部分もありますね。ちょうど再演をやった時に、北朝鮮はまだ前体制で、アメリカからの交渉を引き出すためにミサイルを飛ばした時期だったんです。で、たまたまこのツアーを決めた去年も、代替わりしても同じようなことをやっていた。後付けなんですけど、タイミング的に今上演しておくというのはひとつアリかなと。そういう折々でやる作品なんだな、という感じはしましたね。

稽古風景より

稽古風景より

── 八尾と東京公演は既に終えられましたが、感触としてはいかがでしたか?

八尾も東京も、お客さんのアンケートで「もう一回、家に帰っていろいろ考えてみます」とか、「過去のことじゃなくて、地続きで今があるんですね」みたいな感想を得られたので、そこは嬉しかったなぁと思う部分ですね。いわゆる物語物語したお芝居というより観念的なお芝居なので、「取っつきにくい」という意見もちょこちょこ聞きますけども、「こうしなきゃいけませんよ、とかこうですよ、というのを声を高らかしにして唱えてるわけじゃなくて、これはどうですか? という問いの置き方がとても絶妙だね」みたいなことは言われたので、それは意図しているところでもあるし、良いことなんじゃないかなと。

コンブリ団のお芝居を創っていく時、自分のことを書くというのは、「僕には世界がこんな風に見えてます。さぁ、皆さんはどうですか?」という問いかけだと思うんですね、基本が。演劇って、それがダイレクトに伝わるものだと思うんですよ。目の前にいる俳優を通して、その言葉を受け取って、また日常に戻っていく。そうすると劇場からの帰り道に思うこともあるだろうし、何かの瞬間にフッと思い出すこともあるだろうな、と思うんです。たぶん演劇が出来ることって、そういうことぐらいだろうなと。そういう感想を持っていただいのは嬉しいですし、自分のやっていることがそんなに大きく間違ってるわけでもないんだろうな、と思いました。

── 広島でこの作品を上演されるのは初めてなんですよね?

初めてですね。どうしても広島でやりたかったんです。ツアーのスケジュールも広島を最初に決めました。もちろん、すごく怖いんですけどね。僕も広島を離れて長いので、どういう反応になるのかは行ってみないとわからないんですけど、どうしても広島で一回上演しておきたい、やっておかないとダメだろう、というのが自分の中であって。

稽古風景より

稽古風景より

── 今回、演出面で一番ポイントにされたのはどんな点でしょうか。

美術が大きく変わりましたね。以前は四角いパンチ(カーペット)を張っただけで、大がかりな装置は組まずに初演も再演もやってます。もちろん今回も抽象的な舞台美術ではありますけども、盆を回すので、ダイナミックに動くものを入れたというのは大きいですね。それによってシーンをグッと大きく変えることができるというのは、演劇の面白いところかなと。どうしても、“演劇でしか出来ないこと”をやりたくなるんです。こちら側の想像力とお客さんの想像力が上手くマッチした時に、その人だけにしか見えない風景かもしれませんけど、大きな風景が広がる可能性がきっと演劇にはあるので。それを「こうですよ」と見せるよりは、ちょっとぼやかしてるんだけど、ハッ!と見える瞬間が有るんじゃないかなと。盆という動くものがあることによって位相が変わるというのは、すごく面白い効果じゃないかなと思っています。

── お話の中でスリッパが重要なモチーフになっていますが、それはどういった理由で?

なんかそういうもので演劇的に遊べたら面白いな、というのがまず最初にあったんです。これは後付けなんですけど、広島は元々下駄が有名なところなんですね。僕もあまり知らなかったんですけど。履物産業が盛んだった、というのはちょっと重ね合わせられるかなと思っていろいろ調べたら、広島市内にも当時スリッパ工場があったようで。そういうところで生活している誰かの話になってもいいのかなと。最初はこれを使っていろいろ遊べるんじゃないか、取り合いをしたりすることからちょっとした諍いが生まれて、最終的には「戦争の一番最初ってそんなことじゃない?」みたいな問いかけになるんではないかと。一番最初に思いついたのは、ビニール傘なんですよね。コンビニとか喫茶店とかに置いておいたら、帰る時に「あれ?無い」とか。同じ形のものを取り違えてしまって、ただの間違いとして謝れば済むことなんだけど、それが少しずつズレていってどうにもならなくなるという。で、同じ形状でいろんな人が取り替え可能なものって何かな? と考えた時に、スリッパが思い浮かんだんです。

── 今回のキャスティングについては、どのように決められたんでしょうか。

広田ゆうみさんは『カラカラ』(2016年、大阪・三重で上演)の時に一緒にやらせてもらって良かったので、新たな空気を入れてもらうような感じで。豊島由香さんは再演の時に出てもらっているんですけど、前回とは違う役で。主軸となる女Aというのをやってもらいたいなと。今この作品を立ち上げるなら、一番やってみたいメンバーだった、ということですね。

前列左から・佐藤あい、はしぐちしん 後列左から・豊島由香、香川倫子、広田ゆうみ

前列左から・佐藤あい、はしぐちしん 後列左から・豊島由香、香川倫子、広田ゆうみ

── 今後も広島のことを書きたいという思いはありますか?

この作品である程度自分の中で区切りはついてるんですね、広島に関しては。もっと他のことも気になりますから、やっぱりそっちに興味が向かうかなという気はします。ただ、ここ数年、原爆のことが映画やドラマでピックアップされているというのは悪いことじゃないなと思うので、折に触れて何か、また新しい何かが書きたくなったらその時に、今の僕に見える世界観で書ければいいかなぁと思います。

── 今回の広島公演を機に、それが足がかりとなって今後の上演にも繋がっていくといいですね。

そうですね。繋がっていくような気はするんですけどね、僕たちが動けば。一歩踏み出せばなんとなく繋がってくるし、待っているお客さんもいらっしゃいますし、仲間達との横の繋がりもそうですね。この作品は時期が合えば、折々に触れて出来る作品だなぁとは思っているので。これはどこかでも話しましたけど、本当に世界中が平和になったら必要のない作品だと思うので。なかなかそういう風にはいきませんけど、それは日本が直接的に何か、ということよりも世界のどこかで未だに争いがあるということに僕たちが意識をしなきゃいけない。それを放っておくと、いつの間にか違うところに行ってしまうよ、と。世の中の空気がどうしてもキナ臭くなった時には、やる意義のある作品じゃないかな、という風には思っています。


【チラシ裏の記載文より】
8月が怖かった
夏休みのある日
何処までも何処までも青い空
遠くからプロペラ機の飛ぶ音
空を見上げる
姿は見えない
8月が怖かった
6日の登校日
図書室へ向かう廊下に展示される写真
式典中流れ続ける音楽
繰り返されるのではないかという怖れ
今年も8月6日は巡ってくる
再び、また、再び、
そして怖れに立ち向かうために祈る
再び、また、再び

公演情報

コンブリ団 その10『「ムイカ」再び 西へ東へ』

■作・演出:はしぐちしん
■出演:香川倫子、佐藤あい、はしぐちしん(以上、コンブリ団)、広田ゆうみ(このしたやみ)、豊島由香

<三重公演>
■日時:2018年6月30日(土)14:00・19:00、7月1日(日)14:00 ※30日(土)19:00の回終演後に作家の諏訪哲史を招いてアフタートークを開催
■会場:津あけぼの座(三重県津市上浜町3-51)
■アクセス:近鉄江戸橋駅下車、東へ徒歩3分
■公式サイト:津あけぼの座 http://akebonoza.net

<広島公演>
■日時:2018年7月28日(土)14:00・19:30、29日(日)14:00 ※いずれかの回でアフタートークの予定あり。詳細は公式サイトで要確認
■会場:広島市東区民文化センター スタジオ2(広島県広島市東区東蟹屋町10-31)
■アクセス:JR広島駅新幹線口から東へ徒歩約10分
取り扱い:舞台芸術制作室無色透明 https://musyoku-toumei.jimdo.com/

■料金:一般2,500 22歳以下1,500円 18歳以下800円 ※前売・当日共、22歳以下と18歳以下の方は当日受付で証明書を提示
■問い合わせ:コンブリ団 090-9922-6290
■公式サイト:https://conburidan.blogspot.com
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