特別展『縄文―1万年の美の鼓動』開幕レポート 国宝が放つ圧倒的存在感に、俳優・片桐仁も「縄文酔いしちゃいます!」【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.39 田中未来(ライター)
-
ポスト -
シェア - 送る
《火焔型土器・王冠型土器》新潟県十日町市 野首遺跡出土 新潟・十日町市博物館蔵
美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、ライターの田中未来さんが、東京国立博物館 平成館にて開催中の、特別展『縄文―1万年の美の鼓動』の見どころについて語ってくださっています。
東京国立博物館 平成館にて、特別展『縄文―1万年の美の鼓動』(2018年7月3日〜9月2日)が開幕した。近年、SNSを通して「かわいい」「カッコイイ」と評価される土偶や土器は、考古学的観点とは異なる視点で注目を集めている。そうした人々の関心を受けて企画された本展は、北海道から沖縄まで、全国各地の出土品を集め、壮大なスケールで縄文時代の造形美に迫るもの。
会場エントランス
約1万年間続いた縄文時代は、海や山、川などの自然景観が整い、四季が生まれたことで、基本的には現在の日本と同じ環境が出来上がった。東京国立博物館 考古室長の品川欣也氏は、「狩猟や植物採集など、日々の暮らしを通して作られた道具には、縄文人の知恵や技、そして美意識が宿っている」と話す。
《重要文化財 木製編籠 縄文ポシェット》青森県青森市 三内丸山遺跡出土 青森県教育委員会蔵(縄文時遊保管)
《重要文化財 深鉢形土器》群馬県渋川市 道訓前遺跡出土 群馬・渋川市教育委員会蔵
6つの章で構成される本展は、縄文時代の生活道具や装身具に宿る美を集めた「暮らしの美」(第1章)、土器の造形美の移り変わりを追う「美のうねり」(第2章)、縄文土器と同時代に作られた世界各地の土器を見比べる「美の競演」(第3章)、《火焔型土器》や《縄文の女神》など、国宝6件が集う「縄文美の最たるもの」(第4章)、祈りの姿に注目した「祈りの美、祈りの形」(第5章)、岡本太郎をはじめ、作家や芸術家が愛した縄文を紹介する「新たにつむがれる美」(第6章)からなる。担当研究員の解説も交えつつ、展覧会の見どころを紹介しよう。
《重要文化財 ハート形土偶》群馬県東吾妻町郷原出土 個人蔵
時代ごとに変化する土器の造形美
第2章では、食料の煮炊きや貯蔵のために作られた土器のデザインの変化を「埋めつくす美」「貼り付ける美」「描き出す美」の3つのカテゴリーに分けて紹介している。土器の表面に縄を転がしてつけた文様=縄文が、縄文時代の名称の由来にもなっているが、縄文土器には常に縄目がついているわけではなかった。
《重要文化財 関山式土器》千葉県松戸市 幸田貝塚出土 千葉・松戸市立博物館蔵
東京国立博物館・特別展主任研究員の井出浩正氏は、以下のように解説する。
「《関山式土器》(千葉県松戸市 幸田貝塚出土)に代表される、縄文時代前期に作られた土器には、土器全体に縄目の模様と、それを補うように竹の棒や貝を使った装飾が、敷物のように余すところなく施されています。また、《関山式土器》は、おちょぼ口のような注ぎ口がついているのが特徴です」
《火焔型土器・王冠型土器》新潟県十日町市 野首遺跡出土 新潟・十日町市博物館蔵
「貼り付ける美」では、縄文時代中期に作られた《火焔型土器・王冠型土器》(新潟県十日町市 野首遺跡出土)が、手を伸ばせば届きそうな距離感で露出展示されている。土器の名称について、井手氏は「王冠の名の元になった、土器に張り付いている大きな4つの突起が、鶏のトサカのように見えたので『鶏頭冠突起』と呼ばれています。これがさながら、燃え上がる炎にも見えるため、火焔型土器と呼ばれるようになりました」と話す。自由自在に形を変えられる粘土の特性を活かした、大胆で力強い造形が目を惹きつける。その一方で、井手氏は「貼り付けた粘土の脇に施された指のなぞりや、竹などの道具によって立体感をより際立たせる装飾技法に注目してほしい」と、細部にみえる縄文人の丁寧な心配りにも着目した。
《重要文化財 大洞式土器》青森県八戸市 是川中居遺跡出土 青森・八戸市(八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館保管)
「描き出す美」では、晩期に作られた《大洞式土器》(青森県八戸市 是川中居遺跡出土)にみるような、小さめの土器が増えてくる。火焔型土器と比較すると、サイズの小型化が進んでいるが、無地と縄文を施した部分を分けて、描かれた文様の美しさを際立たせる「磨消(すりけし)縄文」の手法が多用され、工芸的な要素が強まっている。井手氏は「深鉢型土器だけでなく、土瓶のような注口土器、壺、サラダボウルのような鉢形のものなど、器の種類も豊富になる。ぜひ、お気に入りの一品を探してください」と語る。
縄文国宝が放つ圧倒的存在感
《国宝 火焔型土器》新潟県十日町市 笹山遺跡出土 新潟・十日町市蔵(十日町市博物館保管)
縄文時代の国宝6件すべてが集う第4章(※《縄文のビーナス》(長野県茅野市 棚畑遺跡出土)と《仮面の女神》(長野県茅野市 中ッ原遺跡出土)2体の展示期間は2018年7月31日〜)の展示室は、全空間が赤色で統一されている。品川氏は、「縄文人にとって赤は、祭りの道具に使う色。また、火焔型土器の名の通り、火は『赤』を示す。そんな赤色に負けない力を国宝が発揮しています」と話す。
《国宝 土偶 縄文の女神》山形県舟形町 西ノ前遺跡出土 山形県蔵(山形県立博物館保管)
《国宝 土偶 縄文の女神》(背面)山形県舟形町 西ノ前遺跡出土 山形県蔵(山形県立博物館保管)
《火焔型土器》(新潟県十日町市 笹山遺跡出土)や、《縄文の女神》(山形県舟形町 西ノ前遺跡出土)などの国宝土器や土偶の魅力を、品川氏は「どの方向から見ても遜色のない造形美を持っている」と賞賛する。
《国宝 土偶 中空土偶》北海道函館市 著保内遺跡出土 北海道・函館市蔵(函館市縄文文化交流センター保管)
さらに、これらの国宝が縄文時代のガイド役を果たしていることについて、以下のように解説した。
「立体的な装飾が生まれるのは縄文時代中期です。これは、三内丸山遺跡(青森県青森市)に代表されるような、縄文時代でも大きな集落が作られ、長期間にわたって村が営まれる豊かな時代。つまり、縄文時代が成熟した証であり、国宝になるような造形美が生まれるには、縄文人の文化的な成熟が背景にあるということです」
《国宝 土偶 合掌土偶》青森県八戸市 風張1遺跡出土 青森・八戸市蔵(八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館保管)
土偶の歴史をたどり、日々の願いや祈りを思い出す
第5章の展示室では、中央に縄文時代最大の造形物、《石棒》が展示されている。土偶が女性像をかたどった造形物である一方、《石棒》は、男性(男性器)を象徴する儀礼用具としてつくられた。
中央:《石棒》長野県佐久市 月夜平遺跡出土 長野・大宮諏訪社蔵 両脇:《重要文化財 石棒》東京都国立市 緑川東遺跡出土 東京・国立市蔵(くにたち郷土文化館保管)
また、展示室の入り口から時計回りに歩いていくと、日本の最も古い土偶から新しい土偶を順に見ていくことができる。親指大の土偶からはじまり、縄文時代晩期には、《遮光器土偶》(青森県つがる市 木造亀ヶ岡出土)ほどの大きさに変化する。
《重要文化財 遮光器土偶》青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 東京国立博物館蔵
品川氏は、「女性像という形は一貫して変わらないが、大きさを見れば何人で(土偶を)見ていたのか想像がつく。手のひらに収まる大きさなら数人、大きな土偶なら大勢。祈りの基本的な形が変わらなくても、大きさを見比べることで、どういった人々が祈りの道具を取り囲んで見ていたのかがわかる」と説明する。
左:《ポーズ土偶》山梨県笛吹市上黒駒出土 東京国立博物館蔵 右:《重要文化財 ポーズ土偶》山梨県南アルプス市 鋳物師屋遺跡出土 山梨・南アルプス市教育委員会蔵
不思議な顔をした土面から、動物モチーフの土器まで
第5章には、「鼻曲がり土面」の愛称で親しまれる《土面》(岩手県一戸町 蒔前遺跡出土)や、優れた写実表現で造られた動物土製品が見られる。
左:《重要文化財 土面》秋田県能城市 麻生遺跡出土 東京大学総合研究博物館蔵 右:《重要文化財 土面》岩手県一戸町 蒔前遺跡出土 岩手・一戸町教育委員会蔵
左:《重要文化財 鳥形把手付鉢形土器》石川県能登町 真脇遺跡出土 石川・能登町教育委員会蔵 右:《動物装飾付釣手土器》東京都府中市 武蔵台東遺跡出土 東京都教育委員会蔵
第6章では、作家や芸術家が愛した縄文の魅力を紹介。民藝運動の創始者である柳宗悦が大切に保管した《岩偶》(岩手県岩泉町袰綿出土)や、陶芸家の濱田庄司が蒐集した《遮光器土偶》(青森県外ヶ浜町 宇鉄遺跡出土)など、まるで宇宙人のようなユニークな形の所蔵品にも注目したい。
《岩偶》岩手県岩泉町袰綿出土 東京・日本民藝館蔵 ※左の箱は柳宗悦がつくらせた岩偶収納箱
《遮光器土偶》青森県外ヶ浜町 宇鉄遺跡出土 栃木・濱田庄司記念益子参考館蔵
片桐仁「見れば見るほど引き込まれていく」縄文の魅力
内覧会後のフォトセッションでは、無類の縄文好きとして知られる俳優の片桐仁が登壇した。片桐は、2009〜2010年にかけて東京国立博物館で開催された『国宝 土偶展』にて、はじめて本物の土偶を見てから縄文の魅力に目覚め、その後は日本各地の遺跡まで足を運ぶようになったという。
片桐仁
縄文の最大の魅力について問われると、「土偶や土器を見ていると、吸い込まれそうな、そこに一つの宇宙が体現されているようなところです」と回答。本展の展示空間については、「見れば見るほど引き込まれる、縄文酔いします」と、興奮した様子だった。
彫刻家としても活動中の片桐は、この日も縄文愛を詰めこんだ粘土作品を披露。首から下げた土偶ネックレスは、ペットボトル入れになっている《ペットボ土偶》、《ハート形土偶》をかたどり、頭部の部分がおにぎりケースになっている《おにぎり型土偶》や、北海道唯一の国宝である《中空土偶》を、蟹を挟む蟹バサミに変身させた《超カニ食う土偶》など3点を紹介した。
片桐仁
片桐仁
本展の楽しみ方については、「縄文時代のスターがほぼ集合している。夏休みの出会いとして家族で見にくれば、子どものクリエイティブな欲求を満たしてあげられるのではないでしょうか。縄文時代の作品は立体物なので、ぜひナマで見て感動してほしいです」とメッセージを送った。
ユニークな会場限定グッズ
コクヨとコラボレーションした「測量野帳」(全6種類)
土偶や土器をモチーフにした個性的な展覧会グッズも見逃せない『縄文―1万年の美の鼓動』は、2018年9月2日まで。