岩田剛典とのトライ&エラー、原作にはない“賛否両論”シーンに込められた想いとは?『去年の冬、きみと別れ』瀧本智行監督インタビュー 

2018.7.16
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『去年の冬、きみと別れ』瀧本智行監督

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『教団X』で知られる芥川賞作家・中村文則氏の小説を原作とした映画『去年の冬、きみと別れ』がブルーレイ&DVDで7月18日(水)にリリースされる。新進気鋭の記者・耶雲恭介が、盲目の女性が巻き込まれた焼死事件の真相と容疑者・木原坂雄大の真実の姿に迫るにつれ、抜けることのできない深みにはまっていく姿を描く本作。「木原坂は事件の犯人なのか?」「野心にあふれる記者・耶雲は、なぜ執拗に真相に迫ろうとするのか?」といった様々な謎や、予想を裏切る展開、そして映画ならではの表現と人物描写から、劇場公開時には「観た人全てが、ダマされる」とのキャッチコピーで話題となった。

「映像化不可能」と称されてきた小説の映像化に挑んだのは、『脳男』や『グラスホッパー』などで知られる瀧本智行監督だ。これまで、様々な原作を独自の解釈で映像化してきた瀧本監督は、複数の視点で語る巧みな文章と複雑なトリック、独特の純文学的な世界観を持つ『去年の冬、きみと別れ』にどんなアプローチで挑んだのか。また、自らにとって「分岐点となる作品」と語るなど、並々ならぬ熱意で単独初主演に臨んだ岩田剛典(EXILE/三代目J Soul Brothers)に、何を見たのか? インタビューでじっくり語ってもらった。

「小さな嘘をつかない」映像化と原作にないシーンの追加

(C)2018 映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

――原作から映画化されるにあたり、かなりの部分に変更が加えられています。映像化にあたってのコンセプトを教えていただけますでしょうか。

まず、原作は叙述ミステリーなので、文章をそのまま映画にすることが出来ない作品でした。物語の順序として、「この人が主人公だと思ったら、実はこういうことだった」という驚き、仕掛けがある作品なので、そのまま映像化はできない。「じゃあ、どうするのか?」というところから出発すると、必然的にキャラクターの造形は変えざるを得なかったんです。とはいえ、ぼく自身が中村さんの小説をデビュー作から読んでいるいちファンなので、原作のエッセンス、本質のようなものは大切にしたかった。そこからは、本当に試行錯誤ですね。そのままを活かしたいところと、当然文脈の中で落とさざるを得ないところ、映画オリジナルで押していこうというところ、ああでもないこうでもないと、考えながら作っていきました。

――非常にじっとりとした、湿度の高い画づくりが印象的でした。何か意識されたことはありますか?

それが湿度というものなのかはわからないですが、ぼくが中村さんの文体から感じたこと……独特の”ドロッとしたもの”をどう映像にするか、ということは意識をして、最初にスタッフとも話をしていました。

――一つひとつの細かなこだわりみたいなものがすごくハマっていたな、と思います。例えば、木原坂雄大がどんなカメラを使っているか、といったことです。

カメラに関しては、第一線で活躍されているカメラマンの宮原夢画さんに監修していただいています。劇中に登場する蝶の写真も夢画さんに撮っていただいていますし、カメラや機材もお借りしたり、アドバイスをいただいています。木原坂がどんな人で、どんな道具を使うか、どういうこだわりを持っているか、みたいなものを作りあげていくのを助けていただきました。カメラマンにも、カメラや機材にこだわらない方もいれば、一つひとつに強いこだわりを持つ方もいらっしゃるみたいで。木原坂は、こだわるものに対してはすごく執着のある人だろう、と。衣装もほぼ全部黒なんですけど、きれいなシルエットのものよりは、だらーんとしたものを好むだろう、とか。そういう人物造形についてのこだわりは、色々とお話を聞いていく中で作っていきました。

(C)2018 映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

――岩田さん演じる耶雲の取材方法など、記者としての行動が丁寧に描かれていたのも印象的でした。

この映画を作るときに、前半部分が勝負になるだろうと考えていたんです。いかに退屈させずに、この世界観の中にお客さんを巻き込めるか、というのが課題で。それはなぜかというと、どんでん返しのある作品って、実はどんでん返し自体が大事なんじゃなくて、そこに至るまでをいかにきちんと構築出来ているかが重要だと思うからです。その時点で「なんだよ」と思われると、どんでん返しした途端にお客さんに離れられてしまう。客席からスクリーンから遠ざかっていくような感覚になるんですよね。だから、退屈に思われてしまう可能性があっても、極力丁寧に描写を重ねる、ということは意識しました。

――映画に登場する記者は、“裏”をとらないステレオタイプなキャラクターとして描かれることが多い気がしていたので、新鮮に感じました。

記者の方とは付き合いもありますし。記者といっても、そんなにステレオタイプなイメージの記者って、今はいないですけどね(笑)。ただ、耶雲のモデルになった人物がいるわけではないです。

――ビジュアルやキャラクターの細かな部分にこだわる理由があったんですね。

大きな部分を見ると、かなり無理のあるお話ですから。この作品だけではなく、いつも映画では大きな嘘をつくときは、小さな嘘はつかないようにする、ということは心掛けています。

(C)2018 映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

――木原坂雄大の姉・朱里(浅見れいな)が幼少期に性的虐待を受けていたと思わせるカットは、原作にはありませんでしたね。なぜ、あえて加えたのでしょうか?

そのシーンを加えることには、原作者の中村さんも少し心配されていました。小説でも映画でも「化物」という言葉が出てきます。でも、朱里をただのモンスターとして放り出してしまうかたちにしたくなかったんです。人間が、なにかのきっかけで道を踏みはずしてしまった、という風に描きたかった。それと、朱里を本当に嫌なだけの人物にしたくたなかった、というところがあって。このシーンについては、スタッフの間でも賛否両論あったんですが、「何かないと、朱里というキャラクターがぼくの中で見えてこない」ということで押し切ったんです。

――朱里のキャラクターを掘り下げるための表現なんですね。

朱里は、ある瞬間に“跳躍”する役柄ですから。その理由というか、根拠になるシーンを置いたほうがいいんじゃないか、ということです。実は、朱里の”地”の部分は原作でも文章で沢山描かれてはいるんです。でも、映像はそれを一瞬でつかまえないといけないので。結果として、この表現が成功したのか、失敗したのかわからないですが、ぼくとしては必要だった思います。

――原作では、むしろ直接的なセックスシーンのほうを細かく描いていますよね。

映画だと、逆にセックスのほうが表現としてやりにくいですからね。だから、そのかわりになるものを、別のメタファーで描かないといけませんでした。ただ、作り手としては、そのあたりが原作の映画化の醍醐味でもあります。

 

岩田剛典の魅力を引き出すためのトライ&エラー

(C)2018 映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

――岩田さんへの演出について聞かせてください。腕の上げ下げの数センチの違いまで指示することもあったそうですが、なぜそこまで細かく演出されたのでしょう?

1センチ、2センチの腕の上げ下げっていうのは、「カッコいい」「カッコ悪い」とか、「何か意味ありげ」「意味なさげ」とか、その違いになる1センチ2センチだったんです。スクリーンを観るお客さんのつもりでモニターを見たり、現場で見たりという中で、そういう細かいことはたくさん話しました。撮影時、彼は俳優としての技術的な基礎の部分はまだ固まっていませんでしたが、そういう意味では白紙のキャンバスが目の前にあるみたいな気分でした。こうやったらどうなんだろう、ということを、わりと監督が色をつけやすいというか……ポテンシャルがすごくあると思っていたんです。そのポテンシャルをスクリーンの中で全部引き出したいという思いもあったし、彼もこの作品に賭けていたので。

――具体的には、岩田さんのどういった魅力を引き出そうと思われたのでしょうか?

彼は実際に育ちが良いからというのもあるんでしょうけど、人としての“品”があるんです。だから、それを何とか引き出したいと思いました。素の魅力というか、立ち居振る舞いとか、日常のふとした瞬間の美しさというか。男から見ても「美しいな」と思えるところが、役として演技をしていく上でピタッとリンクすることって、なかなかないんですよ。それを引き出すために、今回はああでもないこうでもないとトライ&エラーを繰り返しました。ぼくとしては“何かをしてあげた”つもりは全くなくて、道筋を一緒になって探したというか。岩田剛典の持っているもの、感じているものが、どうすればいい形でスクリーンに映るかを探しながら、今日はこの辺をつついてみようとか。こっちは違ったな、じゃこちらをつついてみようかな、とか。

――技術的な部分では、何かお話はされましたか?

頭ではわかっていても、自分の声を”音”として認識していないところがありました。役者さんはキャリアを重ねていくと、自分の声を楽器のようにコントロールできるようになるんですけど、おそらく彼はまだそういう訓練を積んでいなかった。なので、例えばホン読みとかでも、「ミをファにしよう」みたいなことを言って。言葉にするとわからなくても、「ミをファにする」気分でやってみたり、ちょっとずつ勘というか、気分みたいなものも含めて、徐々に徐々にやっていきました。アフレコも、1時間くらいかけています。

(C)2018 映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

――一度OKが出たシーンを、撮休日にもう一度撮り直すこともあったそうですね。

いくつかリテイク=撮り直ししたシーンはありますよ。ひとつはその場でわかっていたんですが、自分の中で「どうすれば良くなるか」ということがなかなか見い出せないまま撮影していたんです。でも、どこかでOKは出さないといけない。その日はそのまま撮影が終わりましたが、後でつらつらと考えていたら、「こうしておけば良かったんだ!」という糸口が見えたので。(リテイクには)スタッフも、みんなびっくりはしていましたけどね。「そんなこと、今まで言われたことなかったです」って。ただ、それは物理的に撮り直しが可能だったから出来たことなんですけど。正直、未来永劫、「出来ることなら撮り直したい」と考えると思います(笑)。

――岩田さんは瀧本監督の演出について、「ビジョンがはっきりしていて、ブレがない」とおっしゃっていました。いつも作品のイメージを固めて撮影に入られるのでしょうか?

そういうところはあると思います。クランクインする前に、具体的にはなっていないんですけど、2時間の映画を自分の脳内で、自分なりに上映するんです。それで、少しずつ精度を高めていくということは、もちろんあります。なぜそういうことをするかと言うと、ぼくは怖がりなので(笑)。何にも準備せずに勢いでやる才能も度胸もないんです。自分の中で決めておかないと、怖くてとてもじゃないけど現場に入れない。ただ、そこにハメ込まないといけないということは毛頭なくて。常に発見したくて、「何か面白いものはないか?」ということは、スタッフに口癖のように言っています。

――ありがとうございます。最後に、2回目、3回目ご覧になる方におススメのポイントを教えていただけますか?

もともと、2度3度と観たくなるようなものを目指して撮りました。「驚愕の」とか、どんでん返しとかを謳った作品ですから。でも、本当は「人ってこんな風に変化していくものなんだ」ということを描きたかったんです。だから、真相や真実が分かったうえで、もう一度観ると、ある種の深み、人間の業が見える作品だと思っています。映画館でご覧になった方も、色々と発見があるので、是非この機会に改めてご覧いただければと思います。

ブルーレイ&DVD『去年の冬、きみと別れ』は2018年7月18日(水) 発売・レンタル開始/デジタルレンタル配信開始。

インタビュー・文・撮影=藤本洋輔

リリース情報

ブルーレイ&DVD『去年の冬、きみと別れ』
2018 年7月18 日(水) 発売・レンタル開始/デジタルレンタル配信開始

Blu-ray

プレミアムエディション


 
【初回仕様】 ブルーレイ プレミアム・エディション(2 枚組)6,990円+税
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発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
 
【映像特典 収録内容】 <プレミアム・エディション>
・撮り下ろし!今だから語れる、岩田剛典<公開後>単独インタビュー
・メイキング・オブ 『冬きみ』~撮影日誌~
・未公開映像集
・イベント映像集 - 完成披露試写会舞台挨拶 - 公開直前!岩田剛典誕生日サプライズイベント:舞台挨拶&舞台裏映像も! - 初日舞台挨拶 <マスコミ取材回>
・本編をご覧になった皆様へ ~ジャパンプレミア上映後:岩田剛典舞台挨拶~
・劇場予告編・TV スポット集 【封入特典】 <プレミアム・エディション>
・ブックレット(プレス縮刷版/24 ページ)
・特製大判ポストカードセット(3枚組)
・木原坂雄大フォトカード
・蝶ステッカー <通常版>
・蝶ステッカー
 
(C)2018 映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会

作品情報

映画『去年の冬、きみと別れ』

 

原作:中村文則『去年の冬、きみと別れ』(幻冬舎文庫)
監督:瀧本智行 
脚本:大石哲也
音楽:上野耕路
出演:岩田剛典 山本美月 斎藤工 ・ 浅見れいな 土村芳 / 北村一輝
主題歌:m-flo「never」(rhythm zone / LDH MUSIC)  
配給:ワーナー・ブラザース映画
 
【あらすじ】
彼女を奪われた。猟奇殺人事件の容疑者に。 結婚を間近に控える記者、耶雲(岩田剛典)が「最後の冒険」としてスクープを狙うのは、猟奇殺人事件の容疑者である天才カメラマン、木原坂(斎藤 工)。世間を騒がせたその事件は、謎に満ちたまま事故扱いとされ迷宮入りとなっていたのだ。真相を暴くため取材にのめり込む耶雲。そして、木原坂の次なるターゲットは愛する婚約者(山本美月)に! だがそれは、危険な罠の始まりに過ぎなかった。 やがて明らかになる驚愕の真実。 事件の被害者である吉岡亜希子(土村芳)は、耶雲のかつての恋人だった。
 
オフィシャルサイト:http://fuyu-kimi.jp
(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会
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