オカダ・カズチカ「30代のリスタートを切る元・王者」の仕事術~アスリート本から学び倒す社会人超サバイバル術~【コラム】

2018.7.19
コラム
スポーツ

ケニー・オメガvs内藤哲也の黄金カードが話題のG1の夏

 サッカーW杯が終わったと思ったら、今度はプロレス観戦で寝不足の日々だ。

 今年も真夏の祭典『G1 CLIMAX 28』が始まった。Bブロック公式戦で早々に実現したIWGPヘビー級王者のケニー・オメガvs内藤哲也は熱戦で、この二人の試合には数年前のオカダ・カズチカvs棚橋弘至のような激しさと安心感があった。「彼らなら期待以上の戦いを見せてくれる」「一定のレベルはクリアしてくれる」という安心感だ。飯伏幸太vsザック・セイバーJr.にも同じ匂いはしたし、個人的には鈴木みのるや最近のSANADAにもその種の期待感があって会場で見たい選手のひとりだ。

 これが例えば後藤洋央紀やYOSHI-HASHIなら安心とは程遠く、ファンを「これ大丈夫かよ」と心配させてしまう試合も多い。彼らはひと言で書けば、リング上でのパフォーマンスが不安定なのである。毎回作るラーメンの味に大きなバラツキがある売れないラーメン屋のオヤジみたいなものだ。野球で言ったら打率.236の打者みたいなもので、名勝負アベレージが低いし、大一番のチャンスにも弱い。そういう観点でも、いつも標準以上のバトルを提供してくれるケニーや内藤は、今の新日本でまさにトップレスラーだと実感させられるG1序盤である。

元・絶対王者がまさかの連敗スタート

 さて、6月にそのケニーとのIWGP史上初の時間無制限3本勝負で敗れ、防衛記録がV12で途絶えたオカダ・カズチカだが、再スタートを誓ったG1はなんと連敗スタートとなった。しかも、ジェイ・ホワイトやバッドラック・ファレといった外国人レスラーのかませ役とも思える負け方だ。

 でも、負けるオカダに近年忘れかけていた面白さを感じたのも事実だ。何の世界でも勝ち続けることは難しいし、勝ちながらファンを飽きさせないのはもっと難しい。特にプロレスというジャンルは挑戦者の健闘を期待する判官贔屓やサプライズを求められる傾向もある。どれだけ身体を張ってもSNS上ではマンネリとか言われちゃう損な役回り。この時代、絶対的王者というのはリスキーなのである。

 オカダは、いわば新日本プロレスの世界戦略の象徴であり顔。自分が2年前にインタビューした時も「プロレスは今どこの国からでもネットや動画サイトで見れる。新日本にいる状態で凄さ、強さを発信したい。自分がプロレスというジャンルの入口になるというぐらいの気持ちですね」と決意を語ってくれたが、20代の若さでそういう立場になるとしんどい部分もあるだろうなと思ったのも事実だ。

ケニーに敗れことで自由になったオカダ

 それが大阪城でケニーに敗れたことで絶対王者の呪縛から解放され、ある意味オカダは30歳にして自由になった。髪を赤く染め、登場曲を大胆にアレンジ。入場時にはカラフルな風船を振り回し、ノースリーブの黒Tシャツに新コスチュームでフラつきながらリングイン。これでようやく長年の“ヒールなんだけど優等生キャラ”を卒業できる気がする。

 そう、オカダと言えば、リング上では不遜キャラも実は好青年でファンにも知られていた。本日紹介する2014年発売の『人生に金の雨を降らせる黄金律 レインメーカールール』(ベースボール・マガジン社)でも、冒頭のまえがきで「いつものレインメーカーとして大見得を切るのではなく、この本では素直な自分の気持ちを飾ることなく伝えたい」と書いている。色々なことを考えて作り上げたレインメーカースタイル。昔はリング外でも強面キャラで通すレスラーがほとんどだったが、オカダはあっさりとキャラの使い分けをカミングアウトしているのである。

 その内容も「練習は不可能を可能にする」「休日もプロレスの動画を見るくらいプロレスを愛している」「挨拶はしっかりする」と真っ当すぎる言葉の数々。構成も巧みで、プロレスファンには嬉しい棚橋や真壁といった先輩レスラーたちへの賛辞も隠そうとしない。いつもの外道さんだけでなく、本書で展開される昔付き人を務めた永田裕志へのリスペクトの言葉の数々は新鮮ですらある(それがこの本の面白さでもあるわけだが)。15歳でブラジルへ渡ったサッカーのキング・カズと同じく、中学卒業後にレスラーを志しメキシコへ飛んだオカダ・カズのチャレンジ精神は本当に凄い。

レスラーとしての“奥行き”が求められる30代

 だが、4年前に発売された本書はまだ「表オカダ・カズチカ」という気がする。ドロドロした裏の部分がまったくないのだ。アメリカのWWEに移籍した兄貴分・中邑真輔がCHAOS時代に「コメントに素の感情が見えてこない」的な苦言を呈していたのも今となっては印象深い。20代のオカダは完璧に強くて格好いい“レインメーカー”になりきってみせた。だからこそ、30歳になった今、求められるのはオカダ・カズチカというレスラーとしての深みであり“奥行き”だ。中邑的に言えば“滾り”と言ってもいい。

 数年前と違い、もう新しさや若さを売りにできる年齢でもない。会社員もレスラーも30代はそういう時期だ。青春の終わりと人生の始まり。2018年の『G1 CLIMAX 28』はオカダにとって、キャリアのターニングポイントとなる戦いだろう。

 理想のレインメーカーを演じきり、時に背伸びした20代が終わった。泥にまみれる、30代の進化したオカダ・カズチカが楽しみである。

 

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