Mrs. GREEN APPLEインタビュー 新譜「青と夏」を紐解いたら見えてきた、原点と核心
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Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
傑作としか言いようのない3rdアルバム『ENSEMBLE』を今年4月にリリースしたばかりのMrs. GREEN APPLEが、早くもニューシングル「青と夏」をリリースする。収録曲は、映画『青夏 きみに恋した30日』の主題歌である「青と夏」、同映画の挿入歌であり井上苑子をゲストボーカルに迎えた「点描の唄(feat.井上苑子)」、そして「ア・プリオリ」の3曲。こういうタイプのシングルの場合、表題曲で思いっきりポップに振り切れて、カップリングでは全く別のことをやるパターンが多かったが、今回の3曲は曲調自体は違えど地続きになっている。それはなぜかというと、大森元貴(Vo/Gt)が当初から描き続けてきた“物事にはいつか終わりが来る”という真理、“傷つくことがあっても愛することを諦めたくない”という願いが、どの曲にも分かりやすい形で表出しているから。また、5人の音色を基調にしたバンドサウンドで統一されているからでもある。
『ENSEMBLE』を経て第2章へ、ということで今作は“原点回帰”をテーマにしたという。原点に立ち返ることによって、彼らは何と向き合うことになったのだろうか。Mrs. GREEN APPLE、インタビューとしてはSPICE初登場です!
――みなさん髪色落ち着きましたね。一時期カラフルでしたけど。
大森:そうですね~。去年が結構いっちゃってましたけど。
若井滉斗(Gt):僕以外みんな青とかピンクでしたからね。
――あれって作品ごとのカラーに合わせてやっていたんですか?
大森:そうですそうです。方向性が毎度毎度変わるようなここ数年間だったので、そういうアートワークも含めて1個1個こだわるようにして……たんですけどね。
藤澤涼架(Key):え、過去形?
大森:やっぱり(最年長の)髙野がねえ、加入当時22歳だったのがもう27なので。そろそろ僕らも彼に気を遣って落ち着かないと、ひとりだけ浮いちゃうのかなあって……(笑)。
髙野清宗(Ba):ははは! 涼ちゃんももう25で、いつまで金髪を続けられるかっていうところだけどね。
藤澤:……。……今日はよろしくお願いしまーす!
Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
――お願いします(笑)。アー写も爽やかな感じに一新して、今回のシングルは“原点回帰”というテーマを元に制作したそうですが、そのテーマに行き着いた経緯を改めて伺えますか?
大森:『ENSEMBLE』でひとつピリオドが打てたというか、いろいろなジャンルをやってきた数年間の総括になったかなぁというふうに思っていて。ここからまた新しいサイクルに入るのかなってときに、今作はバンドサウンドで、それこそ「StaRt」や「Speaking」を作っていた頃のような気持ちで作ってみようって思ったんですね。それで「初期にやっていた感じで作りましたよ」っていう話を(メンバーに)して。
『ENSEMBLE』はいろいろな意味でたくさん武装しているアルバムで、なぜかっていうと、久々に内面的なものがたくさん出たからそうしなきゃいけなかったんですけど。そういう次元じゃないところでナチュラルにギターを鳴らす、等身大でロックする、っていうのは久々だったなあと感じてます。
――では1曲ずつお話を訊かせてください。まず表題曲の「青と夏」は『青夏』の主題歌です。
大森:(映画の)制作チームの方々との打ち合わせをして。そのなかで、映画の話を他人事だと思わずに「この夏を自分のものにするぞ」っていう気持ちを(観客に)ちゃんと持ち帰ってほしいっていう話を聞いたんですよ。だから「青と夏」はもちろんですけど、今回は3曲とも“自分事”っていうのがとても大事なキーワードになっています。
――だから<映画じゃない>なんですね。
大森:そう。映画の主題歌なのに<映画じゃない>だなんて、かなりぶっこんでいると思うんですけど、修正も一切なく一発で通ったんですよね。こちらの意図を汲んでもらえた感じがあって、すごく嬉しかったです。
――音自体は、インディーズ~メジャー初期の頃を彷彿とさせるようなバンドサウンドになっています。
髙野:『ENSEMBLE』で一人ひとりの表現力が確実に底上げされたから、あの時とは全く違うものが出せたなっていう自覚はあって。当時は熱量や一体感を頼りにしてきた部分も正直あったんですけど、今回は憂いの部分、繊細な部分も表現できているんじゃないかなと思います。
藤澤:それはもちろんすごく意識したことなんですけど、みんなで「ああしよう」「こうしよう」って難しい顔して話し合ったわけではなくて。音を合わせていくなかで自然とイメージ共有できるようになったのは、やっぱり『ENSEMBLE』を経たからこそなのかなって思ってます。
Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
――山中さん、ドラマー目線ではいかがですか?
山中綾華(Dr):メジャーデビューしてからしばらくは、生ドラムと打ち込みの共存っていうのがテーマにあったので、カッチリ合わせていかなきゃいけなかったんですけど、『ENSEMBLE』のときに「一定になっていることが必ずしも正解じゃない」っていうことに気づくことができて。それで今回改めて、各々が作りだすグルーヴを一つにまとめることを意識しました。だからドラムもずーっと一定ではないんですけど、お互いの息遣いを感じながら、お互いが気持ちいいところで演奏できたかなっていうふうに思いますね。
――ギターがここまで前に出ている曲も久々な気がします。
若井:そうですね、本当に久しぶりで。
大森:だって「Coffee」(『ENSEMBLE』収録曲)なんてギター弾いてないもんね。
若井:そうそう(笑)。「よし、きた!」みたいな感じが自分の中ではあったんですけど、今まで培ったものをフルで活かそうと思えたから変な緊張感はなくて。『ENSEMBLE』を経て表現力が身についたから、今回はそこがプラス出たんじゃないかなと思います。逆に『Variety』(2015年7月リリースのミニアルバム)や『Progressive』(2015年2月リリースのミニアルバム)を今聴くと、初期衝動、ワクワク感みたいなものは当時の方があったのかなと思って。そこもちゃんと大事にしたいなと思いながら臨みました。
――一方、歌詞は難産だったとか。
大森:難産でした~、すっごく。『ENSEMBLE』がああいうコンセプトだったから、最近ちょっと作家気質になっていたところがあって、“自分事”っていう言葉に僕も苦しめられたというか。少女漫画が原作のキュンキュンするような映画であっても、開けた曲を提出するのが正解だとは限らないじゃないですか。それで自分事としての夏を思い返してみたりしたんですけど、そのなかで、陰の部分というか、憂いの部分を僕らは描きたいなあっていうふうに思ったんですね。純粋にそういう曲作りが久々だったっていうのもあるし、やっぱり昔はすごく苦しい想いをして曲を作っていたんだなっていう再確認にもなりました。
Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
――それこそ『Progressive』や『Variety』で描いてきた、“すべての物事には終わりがある”という部分を打ち出すことによって、夏特有の儚さを表現していて。
大森:そうですね。でも――僕、歌詞とメロディが一緒に思いつくんですけど、Dメロの<いつか忘れられてしまうんだろうか>のあとに<それでもね>って出てきたとき、自分の成長に感激したんですよ。ここから先の歌詞って絶対当時の自分は言わなかっただろうし言えなかっただろうなって。だから原点回帰と言いつつも、普通に、16、7(歳)の男の子が21、2(歳)になったような感じもあるなあっていうふうに思ってますね。
――2曲目の「点描の唄」は『青夏』の挿入歌で、大森さんと井上苑子さんのデュエット曲ですね。男声と女声のアンサンブルに主人公2人の心情が投影されています。
大森:台本をいただいて、「ここからここまでで流れます」「でも曲の歌詞で(必要なことを)言えていたら、この台詞がなくなっても大丈夫です」っていう、ものすごいオーダーをいただいて。
――全幅の信頼を置かれている感じがしますね。
大森:プレッシャーがすごかった(笑)。そういう普通はないような映画とのやりとりがありました。2番Aメロ後の間奏とか「ここに台詞入れてくれたらいいなあ」と思って作ったんですけど、試写会に行ったらまさにそうなっていたりして。何というか、“僕らも参加できた”っていう気持ちにさせてもらえるような曲の使い方をしてくださっていたので、すごく嬉しかったですね。
――井上さんパートが女性目線、大森さんパートが男性目線の歌詞ですけど、女性目線で書くのは大変でしたか?
大森:それが大変じゃなかったんですよね。キャラクターがどのようなことを意図しているのか、どういうふうな心情なのかっていうのが、台詞にならずとも伝わってくるような台本だったので。これはすんなり書けました。
Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
――でもこういう時にメンバーに女性がいるといいですね。いざとなったら頼れるから。
大森:あ~! いや、でも女性……じゃないんですよ。このまま字にしてもらって構わないんですけど(笑)。
山中:言いたいことは分かるけど、だいぶ語弊がある(笑)。私が少し男っぽい感じがあるので、あんまりこう、女性らしいよねっていうイメージもないんだよね?
大森:そう。今言われて「はっ、そうだった!」ってなるぐらいだから(笑)。
――3曲目の「ア・プリオリ」は、内省的で聴く側の心をも抉ってくるような曲で。こっちサイドの曲が出てくるタイミングは今までにも何回かあったと思います。
大森:そうですね。「パブリック」(2016年1月リリースのアルバム『TWELVE』収録曲)や「アウフヘーベン」(『ENSEMBLE』収録曲)と同居するような曲だと思うんですけど、その2曲って僕が高2のときに書いた曲なんですよ。だから成人してから書いてみたらどういう曲になるのかな?っていう興味もあって。
――実際、こういう曲を書き終えたあとってご自身ではどう思います?
大森:僕、「パブリック」とか(歌詞を)見ると未だに「こいつスゲーこと考えてるな」って他人事として思うんですよ。だからこれも出来たときは「うわあ、またすごいこと言っちゃったなあ」みたいな感じでしたね。
――逆に、メンバーのみなさんはどう思うものなんですか?
髙野:「俺のことかな?」ってなる。
山中:あ~、分かる分かる。
大森:え、今回も? 「VIP」(『Variety』収録曲)のときもそう言っていたよね。「そうじゃないよ」とも言ってあげられなかったけど(笑)。
髙野:むしろ今回の方がそう思った。まず自分と当てはめちゃう。
Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
藤澤:ハッとする曲なのか、それとも救われる曲なのかっていうのは、本当に受け取る側次第で変わってくると思う。そういうのも含めて面白いと思える楽曲でしたね。だからサウンドでもその気持ち悪さみたいなものを出したいっていうふうに話をして。
大森:うん、「何これ(笑)」って言いながら作ってました。
――大森さんにとってはちょっと失礼な言い方になってしまうんですけど――
大森:はははは! 4人が救われるのなら大丈夫です(笑)。
――(笑)。こんなことを考えている人と一緒にバンドをやるの、つらくないんですか? 怖くなっちゃったりしないのかなと思ったんですけど。
髙野:つらいというか、何だろう……「もっと人として成長しなきゃ」みたいなことを自分の中で感じたりはするんですけど、あんまり嫌だなっていう気持ちじゃなくて。
大森:え、そんなことないよね? 普通に嫌だと思うけど。
藤澤:いや、めちゃくちゃへこみますよ(笑)。
大森:あははは! ほら!
藤澤:でも僕は……バンドを組むのが(ミセスが)初めてで。だから音楽面で自分のためになるなって思ったんですけど、歌詞を見て、人としても一から勉強させられることになるんじゃないかな、そういう意味でも(大森と)一緒にいたいな、って思ったんですよ。ちょうど上京したタイミングで大森に誘ってもらったので、自分の母親にもそういうふうに伝えていて。
――藤澤さんって一見明るい人に見えるし、ステージ上でのパフォーマンスもなかなかアグレッシヴですけど、もしかして最初からそうだったわけではないですか?
藤澤:そうですね。自分自身元々オープンな人ではないですし、いろいろな人に対して「羨ましいな~」「自分はできないからな~」っていうふうに思いながら一歩引いちゃう人間で。未だにそういう要素をずっと抱えながらやっているんですけど、でもバンド活動を続けていくなかで、この5人それぞれの人として面白い部分、自分にない素敵な部分に触れながら、だんだんと前に出られるようになりました。ライブって必然的に人の前に立ってやることじゃないですか。もちろん自分がしたくてそれをやっているのに、なぜか毎回すごく緊張して、お腹をくだしちゃうこともあるんですけど――
大森:カウンセリングが始まってるけど(笑)。
藤澤:(笑)。結局、自分がやりたいと思ってやっているんだから、それはやっぱり間違いのないことだよなあって。そういう意味で、大森の楽曲で気持ちを正されたり、「ああ、そうだよなあ」って考えたりすることによって、次のステップに進めているのかなっていうふうに思ってますね。
Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
大森:……「ア・プリオリ」、このタイミングで出せてよかったね。こういう話を必然的にするタイミングだった気もするし。
藤澤:うん、そうだね。
――そもそも大森さんはいつから哲学に興味を持ち始めたんですか?
大森:本を読むのが好きっていうだけなので軽いことは言えないんですけど……でも小4・5ぐらいからは読んでました。兄貴の友達が哲学の勉強をしている人で、本を借りたんですよね。自分の中で「何で?」って疑問に思ってたり、人に対して「何で?」って訊くことの多い子だったんですけど、“問答法”っていう言葉があるっていうふうに知れば、それも間違ってないのかなぁとか思えたりして。それが面白くてずっと読んでました。
――同じ中学に通っていた若井さんから見て、大森さんはどんな人物だったんですか?
若井:当時から一人だけめちゃめちゃオーラ違いましたね。僕はサッカー部でいわゆる――
大森:ウェーイ!みたいなね。
若井:そう。そういう子だったんですけど、そんな僕でも「こいつは何か違うな」っていうふうには思って。そこで僕は面白そうだなって思って大森に話しかけたんですけど、そしたらめちゃめちゃ拒絶されて(笑)。
大森:やっぱり嫌いですよねえ、こういうタイプは(笑)。
若井:でもそれさえも面白いかもっていうふうに思っちゃって。ずっと誘っていたんですよ、毎日大森の家に行ったりして。
大森:すごいよねえ。でも、本当に奇妙なヤツだったよね。だって僕、学校行ってなかったはずなのに自分が不登校生だという自覚がないから、久々に行っても友達と全然仲良くできたわけですよ。
――いただいた紙資料に書いてあった“普通の感覚を羨ましいと思うし、そうなりたいとおもうけど、僕はこうして曲を作らずにはいられない、それがとてつもなく虚しく寂しい”というコメントが気になって。それって例えば、クラスメイトと問題なく話せても、何かしらの隔たりを感じてしまうということじゃないですか。
大森:感じてましたねえ。(クラスメイト)それぞれの価値観、悩んでいることは僕が数年前に味わっていたこと、考えていたことだったりして。奢った意味じゃないですけど、それに合わせちゃうと自分にとってプラスなものが無いのかなあっていうふうに思ったんですよね。だったら、学校行かずに自分の作品に没頭しようっていうことで今の事務所のオーディションに自分で応募して。
――そうやって“集団”からある意味逃避していった人が、普遍的なポップスを作る方向に進んでいったのが興味深いなあと思っていて。
大森:そうだなあ……たくさんの人に理解してほしいっていう気持ちがきっとあるんでしょうね。小学生のときからそういうことを考えるようになって、中学では周りとの隔たりがつらくなって学校に行かなくなったくらいですから。そういう寂しさを埋めるために、間口の広いものを書いているのかもしれない。
Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
――それと関係しているかは分からないですけど、大森さんって夏の曲を書くとき、絶対に<僕は>っていう言い方をしないんですよ。<僕ら>というワードは頻繁に登場しますけど、それも相手の背を押すために便宜上そう言っている感じがするというか。“自分事”と言いつつ、相手との間に線を引いているようにも見える。今回の「青と夏」も、あと「サママ・フェスティバル!」とかも。
大森:へえ! ……でも一貫してそうなら、意識的にそうしているんだと思います。<僕ら>っていう括りにしてもらえた方がちょっと心強く思えるのかな?って思ったから、そこはそういうふうに書いたんですけど、やっぱり<僕の番だ>っていうのは違う気がするし、<君の番だ>って言いきっちゃうのもちょっとおこがましい気がするし。
――なるほど。隔たりというのは、今でもどこかで感じていますか?
大森:全然感じてますね。同い年の子たちって今大学4年生で、ちょうど就活をしているんですよ。やっぱりさ、そういう話とかを聞いても全然分からなかったりするじゃない?
若井:うん、そうだね。
大森:周りの子たちからいろいろな話を聞くのは好きなんですけど、その“分からない”っていう感覚を僕はすごく恥ずかしいって思っているし。そういう人になれなかったから自分は音楽を作って表現するしかない、っていう感覚で活動しています。
――分かりました。最後にライブについて伺いたくて。現在『ENSEMBLE』のツアー中ですが、単純に「あのアルバムの曲、どうやって演奏しているの?というかできるの?」って不思議に思っているんですけど。
大森:本当にあれ、どうなってんですかね?(笑) でもすごく具現化できていると思います。
藤澤:今までのライブは、お客さんと一緒に楽しい空間を作り上げることを心掛けていたんですけど、今回は来てくれた人たちをワクワクさせたりビックリさせたりできるような空間作りを心がけていて。会場に入った瞬間からひとつのテーマパークに来たような気持ちで楽しんでもらえると思いますし、楽曲も音源通りじゃなかったりしていて。楽しんでもらえる要素が終始入っているツアーになっているんじゃないかなと思います。
――ツアー終了後の9月末には沖縄ワンマンもありますね。ちょうど気持ち良さそうな時期で。
大森:これはもうね、沖縄に行くの!
マネージャー:え、ライブやりますからね?
大森:あれ、そうだったの!?(笑) でも、ただただ楽しみですね。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=大橋祐希
Mrs. GREEN APPLE 撮影=大橋祐希
リリース情報
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iTunes:http://po.st/aotonatsu_it