共演者の眼から振り返る、the quiet roomのツアー、地元・水戸公演の表と裏

2018.7.20
レポート
音楽

the quiet room / 空想委員会

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7月6日の名古屋から始まった『the quiet room pre.「色づく日々より愛を込めてRelease Tour 2018」“捨てられないからこのまま全部抱いて走っていくツアー”』。今回は彼らの地元である水戸公演に密着し、ツアー中の彼らの素顔に迫る。

ツアー3本目の水戸。名古屋、高松とライブを重ねてきたthe quiet roomは、入念にリハーサルを行なっていた。地元の水戸であり、何度もステージに立ってきた会場、水戸SONICであるというホーム感はあるものの、まだツアーが始まったばかりということもあり、若干の緊張感が漂っているように感じた。ボーカル・菊池遼は音響スタッフと密に連携を取ってモニター環境をチェックしている。

前回、the quiet roomのライブを観たのは2016年7月に行われた『Jubilee Release Tour 2016』ツアーファイナル・ワンマンライブの渋谷CLUB QUATTROまで遡る。あれから2年。バンドとしてどのような成長を遂げてきたのかを見るのがとても楽しみだった。

リハーサルが終わり挨拶を交わすと、出会った頃と変わらない彼らの暖かさに触れた。相変わらずの腰の低さと人の良さ。菊池と筆者はときどき連絡を取り合う仲である。新しい音源ができると送ってくれたり、食事に誘ってもらったこともある。今回のツアーに対バン相手として呼びたいという想いも、本人から直接聞かされていた。その想いになんとか応えたいと思っていたので、スケジュールが合って本当に良かった。the quiet roomのメンバー4人は口を揃えてオファーを受けてもらえたことの喜びと感謝を伝えてくれた。

そこから本番までは各々のペースでコンディションを作っていく。楽屋でずっとベースを弾いている前田翔平、黙々と弁当を食うギターの斎藤弦、ドラムの木挽祐次はフロアに行ったり楽屋に戻ってきたりとちょこちょこ動き回る。菊池はどこかに行ったまま姿を見せなかった。

その頃、外は激しい雷雨だった。

その日のイベントの先攻を任された空想委員会がもうすぐステージに出ようという時刻になっても、菊池は楽屋に姿を見せなかった。もちろん他のメンバー3人は空想委員会を見送る体制で待つ。スタート5分前になって菊池が楽屋に帰ってきた。それを空想委員会the quiet roomの他のメンバー3人がいじる。時間になっても帰ってこなかったら「薄情な奴」ということにできたのに、と盛り上がる。愛すべきいじられキャラ菊池、健在だ。

空想委員会の出番が始まると、メンバーは客席から食い入るようにライブを見ていた。ツーマンの相手がどんなライブを仕掛けてくるのか、情報収拾は大事だ。それよりも、それぞれのパートが少しでも何か盗んでやろうと前のめりになっている感じがした。

the quiet roomが自分たちの出番の準備のために楽屋に戻ったあと、ライブの流れからドラムの木挽が空想委員会のステージに出てくることになる。それも他のメンバーがステージに彼を押し出した形だった。この仲の良さもthe quiet roomの魅力だ。木挽は全く予定外のドラムソロを披露することになり、場内は大いに湧いた。

空想委員会が出番を終えて楽屋に戻ってくると、木挽は「もうちょっと上手くやりたかった……」と悔しさをにじませた。あんなに観客を沸かせたのに、自分のプレイに納得がいっていない様子だった。まだまだ伸び代だらけの木挽。すぐに自分たちの本番が始まる。

セッティングを終え、SEが鳴り始めると厳かな雰囲気に包まれる会場。菊池以外のメンバーが先に登場し、菊池は自分の順番を待つ。満を辞して菊池の登場に客席が湧いた。しかし何か様子がおかしい。菊池はマイクに向かって一言何かを告げるとステージを去った。

楽屋で待機していた我々が何かトラブルが起こったのかと慌てていると一言。
「カポ(カポタスト)がない」
ギターケースなどを探すも見つからず、仕方なく筆者のカポを貸すことになった。あんなにかっこよく登場したのに、なんてかっこ悪い。そこが菊池の魅力ではあるのだが。

ボーカリストというのは結構繊細な人間が多く、何かトラブルが起こったりしてペースが乱れると、ライブに悪影響を及ぼす者もいる。(筆者がそういうタイプ)少しだけ心配したが、菊池は大丈夫だった。堂々たるライブが始まった。

ライブではどっしりとした演奏を響かせながら、しっかりとステージと客席のコミュニケーションが取れているように感じた。それぞれがそれぞれの役割をしっかりと自覚し、バランスを取りながらも見せ場で前に出る。2年前に見たライブとは全く違う印象を受けた。特にそれを強く感じたのはやはり菊池の立ち振る舞いだった。ボーカルはバンドの顔と呼ばれるだけあって、バンドの印象を左右してしまうその責任は大きく、やはりthe quiet roomの印象には菊池が大きく影響している。今回ライブを見ていて、私は菊池の成長を大いに感じた。

元々、菊池以外の3人はバンドマンとしての立ち振る舞いにブレがなく、自分がやっていることに迷いがないように見えていた。しかし、昔の菊池はなんだか頼りなく見えていたのだ。それはきっと「バンドをやっている自分」とどう対峙するか、ということにおいてのスタンスが定まっていなかったのかなぁと今では感じる。

2年前の渋谷CLUB QUATTROでのライブでは菊池の「おどけ」が気になっていた。それは言い換えるなら「バンドをやっている自分に酔えない」という状態(筆者もそう言われたことが何度もある)。客席から見ていると、音楽をやっている時の一種のトランス状態に陥っているバンドマンこそ最もセクシーで最もかっこよく見え、憧れの対象になるのだが、当時の菊池にはそれが見えなかった。

でも、2年経って彼は変わった。もう彼に「おどけ」は必要ない。彼はきっと音楽をやることに対して「腹を括った」のだろう。

ライブを見ていない2年間も、ときどき連絡を交換しながら彼の迷いや悩みに触れることがあった。音楽をやることの難しさ、バンドをやることの難しさの中で、彼はずっと戦っていたのだ。それを乗り越えたステージ上の菊池に、もう迷いは見えなかった。心から、かっこいいバンドになった、と思った。その姿がとても誇らしかった。

全部の責任を背負って歌う菊池と、それを全面的に支えるメンバーの力が合わさっている今が、一番かっこいいthe quiet roomだと断言できる。案の定、それは客席にも伝わっていて、フロアを埋め尽くしたオーディエンスは安心して全てを委ねているかのように、気持ちよさそうにthe quiet roomの奏でる音楽にのっていた。

「バンドをただ続けているだけでは意味がない」「常に今が一番かっこ良くなければダメだ」(菊池)

その一言を言っても許される存在になった菊池と、バンドメンバー、斎藤、前田、木挽。アルバムのリリースおめでとう、と心から言いたい。そしてまだまだ続くツアーでどんな成長を見せてくれるのか期待は高まった。

ただ続けているだけではないバンド、the quiet room。もっともっとかっこよくなれるポテンシャルしか持っていない彼らを、これからも見守っていきたい。


取材・文=三浦隆一  撮影=祖父江孝人(空想委員会)、中山優司(the quiet room